第51話 


 はっきりと……冷静に……残酷に俺はその言葉を突きつけた。


 さっきまでおちょくっていたり、カッコつけたりしていたが、今は喋りたい気分だった。

 饒舌に辛辣に非情に、相手をおとしめた。


「……」


 そして無惨にも現実を突きつけられたベルゴールは無言でその場に立ち尽くしていた。


 これで俺の勝ちは決まったようなものだ。

 最早あいつには魔力も殆どない、気力もそがれた。削いだのは俺だがな。


 だが、俺は敢えてトドメをさそう。


 それがせめてもの礼儀であり、この場を終わらせるのに最も適した行為だからだ。

 だが、その前に俺は最後のチャンスを与えることにした。


「これで、互角だ」

「互角……?」


 俺の言葉に僅かな反応を見せる。


「あぁ、お前の術は全て無効化された。領域内の魔術を全てキャンセルしたからな」


 奴はまだ気付いている様子を見せない。


「108枚の札を必要とするからこそ効果は絶大。そしてその領域内はコロシアムの内側全域……つまり俺らが立っているここだ」

「何を……はっ!!」


 ようやく気づいたか。

 領域内の魔術を全てキャンセルする。


 つまりは……俺の魔術すらも。


「っ!!」


 奴は慌てて自身のMWを構える。

 だがしかし。


「遅いね」


 一歩……ただ一歩踏み出しただけで俺は奴の懐に入った。


「なっ!?」

「ちっとは謙虚になりやがれ、クソナルシストが」


 今までの奴に対する……いや、その他の不満すら俺は右手にこめた。


 そしてそれを奴の鳩尾に叩き込んだ。


「っ……」


 声も出せず、ただ痛みだけをその体に宿して奴は膝から崩れ落ちた。


 その直後、コロシアム内が静まり返った。

 チラッと見回すと、殆どが信じられないものを見たような……そんな顔をしていた。


 まぁ、それもそうか。

 なんせ落ちこぼれクラスが学園の9位を倒したのだから。


 俺は無言で遠くにいた審判の先生に視線を送る。

 彼はすぐに俺の視線に気づき我にかえった。


「しょ、勝負あり! 勝者、リオード・アンタレス!!」


 そう言って高々と右手を挙げた。

 その瞬間、歓声がコロシアムに響いた。


「ふぅ……」


 俺は一息ついて、少し……ほんの少しだけ笑った。



 ◇



『試合終了ーーーーっ!! 結果は何と! 何とリオード選手の勝利だぁぁぁっ!!!』


 司会の方の大声がコロシアムを駆け巡りました。


「勝った……のか?」

「勝ちましたね……」

「勝ったね……」

「あぁ……」


 シンさん、グランさん、テトラ、リリーの順でそれぞれ言葉を発しました

 と、いうよりは自然に口から漏れた……と言った方が正しいですね。


 今、コロシアムは熱狂と絶叫に包まれております。

 大方の予想を裏切って兄さんがベルゴール先輩に勝ったからです。


 信じられない、あり得ない……そんな前提を兄さんは今回も覆してくれました。


「アハ、本当に勝っちゃったな〜」

「これで史上3人目の快挙ですね」


 リューネ先輩とエレノア先輩も嬉しそうな表情で語り合っています。


「リオードが学園9位に勝ったってことは……」

「えぇ、リオードがランクインですね」


 そうです。兄さんはただ勝ったというだけでなく、新入生にして学園9位の実力者という称号も手に入れたのです。


「やったね、リリー」

「ま、まぁ……」


 テトラの言葉に素っ気なく返していますが、嬉しそうなのが丸わかりですよリリー。


「スゲーぞ一年坊!!」

「ベルゴールに勝っちまうなんてな!!」


 どうやら兄さんを褒める方々も出てきたようですね。

 コロシアム中が凄い熱気に包まれています。


「おい、俺らも近くまで行こーぜ!!」


 そんなシンさんの提案により、みんなが壁際まで走って行きます。

 私はゆっくりと歩いて、リューネ先輩とエレノア先輩は行かないようです。


「おーい! リオードーーっ!!」


 シンさんの大きな声に兄さんがこちらを振り向きました。


「おう、勝ったぜー」


 さも当たり前のように兄さんはそう言いながら手を振ります。


「兄さん」


 小さく私はそう言いました。

 それでも兄さんは気づいて笑ってくれました。


 それだけで私は嬉しくなって思わず手を振ってしまいました。

 兄さん……貴方はやはり凄いお方です。

 私は兄さんの妹であることを本当に嬉しく思います。


 おめでとうございます……兄さん。



 ◇



 所変わってこちらは選手控室。

 こちらもコロシアムにいた観客と同じように歓喜、または驚きに沸いていた。


「おい、あの1年ベルゴールに勝っちまったぜ!!」

「マジかよ……」


 選手達は皆食い入るようにモニターを眺めながら口々に話す。


「おーおースゲーなありゃ」


 同じように試合を見ていたファウストは選手達の声を聞きつつ感嘆していた。


「まさかマジで勝っちまうとはな」


 隣にいたミラもそう答えた。

 しかし、その割りには2人の表情には驚きや意外のようなものは見受けられない。


 つまりはリオードが勝つと知っていたのだろうか。


「これであいつも一躍有名人だな。」


 どこか嬉しそうに……いや、楽しそうに笑うファウスト。

 それを見ていたミラはただ苦笑を浮かべていた。


 また何か企んでいるのでは……と。


「それよかミラ、あいつの後半の動き見たか?」


 ファウストは突然真剣な表情を浮かべてたずねる。


「あぁ、格段に良くなっていたな。マジで枷をはめていたみたいだし、それを抜いても相当戦い慣れてる奴の動きだ」


 同じような表情のミラ、腕組みをしている様子から何か考えているようだ。


(そしてベルゴールとの距離を一瞬で詰めた最後の動き……。あれは確か【縮地】と呼ばれる歩法術。あれはかなり昔に使われていたもの)


 それはファウストもまた同じだった。

 顔を俯かせ、何かを思案する。


 そして暫しの沈黙が生まれたところで何かを決めたように顔をあげた。


「なぁミラ、ちょっと仕事しねーか?」


 その言葉を聞いたミラはほんの少し眉を動かす。


「仕事って……ニュート家のか?」

「いや、個人的にだ」


 ミラの問いに首を横に振って答える。


「構わねえけど、初めてだな。お前が個人的に仕事を依頼するってのは」

「まあな」

「で、誰を調べるんだ?」


 そう言ってファウストを見るミラ。

 そのファウストはただ真っ直ぐモニターを眺めていた。


「リオードだ」


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