第47話
「っ!!」
俺は残像が見えるほどのスピードで体を起こした。
まるで背中に氷を入れられたような、死神に囁かれたような、そんな感覚が俺の身体中を駆け巡ったからだ。
脳に直接響いたその声は間違いなくフィルだ。
これはテレパシーのようなもので、自分の言葉を、声を出さずに相手の脳へと直接語りかける方法だ。
『ふ、フィル?』
恐る恐る俺も同様にフィルの脳へと語りかける。
『兄さん? 何を呑気に寝てらっしゃるのですか? まさか降参するおつもりで?』
『い、いや~まさか……そんなことするわけないじゃないか。ちょっとした休憩ですよ』
脳へと語りかけてくるフィルは傍から見れば無言。
しかし、それが逆にプレッシャーとなり俺を威圧してくる。
『そうですか……ならよろしいです。私はてっきりどうでもよくなって諦めたのかと……』
『そ、そんなことないっすよ~』
『ですよね。私の兄さんがこんな簡単に諦めるわけないですよね。なら、ちゃんと勝ってくださいよ? もし負けたら……ウフフ……』
「い、イエッサァァァァァ!!」
思わず声に出しちまったよ。
それにしてもフィルちゃん怖いのね。
あの笑い方が出るなんて……まぁ、そこは今は置いておくか。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「まだやるのかい?」
呆れたような表情のベルゴール。
「あぁ、負けらんない理由が出来からな」
「理由?」
すぐに聞き返してきたが、俺は何も言わずに履いていた鉄下駄を脱いでコロシアムの隅に放った。
「何の真似だい?」
その様子を見ていたベルゴールは不審そうに尋ねる。
「実はこれ特殊な下駄でさぁ、体重の2,5倍の負荷がかかるんだよね」
そう言いながら俺は懐から新しい鉄下駄を取り出して履く。
ちなみにこれは強度は中々だが、重さは普通っていう。
「ハッハッハッハ!! 勝ち目がないからってまさかそんな嘘をつくとは……、君は本当にバカだねぇ」
「何とでも言えよ。あ、あと言いたいことがあった」
そう言って手をポンと叩く。
「なんだい?」
あくまで自分の優位を信じているんだろう、その顔は自身に満ち溢れていた。
だから俺も自信満々にこう言ってやった。
「お前はもう俺には追いつけねぇ」
「何っ!?」
いきなりキョロキョロと辺りを見るベルゴール。
まーそうだろうな。
いきなり目の前から俺が消えたんだから。
と言っても、俺は本当に消えたわけじゃない。
あいつの背後に回っただけだ。
そして、種明かしをするためにトントンとあいつの肩を叩く。
「なっ! いつの間に!?」
驚いた表情を見せながら振り返るベルゴールに満面の笑みで答えてやる。
「さーて、いつでしょうか」
「くっ!」
投げやり……という感じでベルゴールは剣を振るった。
しかし、至近距離なので奴の背後の剣は俺には当たらない。
よって軽く頭を下げるだけで奴の剣だけをかわす。
「さっきのお返しだ……ぜっ!!」
俺は奴の胸辺りを思い切り蹴る。
「ぐっ……」
鈍い金属音のあと、奴の体はさっきと違い軽く宙に浮き後退した。
っほー!やっぱり体が軽いのはいいね!!
「ば、バカな! さっきまでとは動きが段違いじゃないか!!」
「だから軽くなったって言ってるじゃん」
俺は膝の屈伸運動や、首や肩を回したりして調子を確かめる。
うん、中々だな。
「だ、だからといって僕のゴールデンウォーリアを攻略出来たわけじゃない!!」
明らかに動揺しているくせに強がるんだから。
だがまぁ、そのゴールデンなんちゃらは中々いい。
攻撃力も防御力も申し分ないし、使用者との連動なので本人の実力が高ければかなりの脅威だ。
だが……
「弱点もあるんだよね?」
伊達にやられたわけじゃねえしな。
「僕のゴールデンウォーリアに弱点などない!!」
「おっと……」
奴の一振りをかわしバク宙しながら地面に着地する。
奴の態度を見ていると、さっきまでの余裕がなくなっているのがわかる。
焦ってる焦ってる。
「なら、確かめてやろうか?」
俺は悪どい笑みを浮かべながら構えた。
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