第48話


「ハァァァッ!!」


 気合の入った鋭い声と共に黄金の斬撃が飛んでくる。

 俺はそれを軽やかな足取りでかわす。

 ベルゴールも負けじと更に本数を増やしてくるが、直線的な軌道なので簡単によけられる。

 ゆったりとしたペースで俺はそれをかわしていく。


 さて、いっちょ見せてやるか。

 俺はベルゴールへ近づかずに奴の周りを歩いていく。


 ゆっくり、ゆっくりと……。

 するとどうだろうか。


「な、なにっ!?」


 ベルゴールが驚愕の表情を見せる。


 まぁ、そうだろうな。

 だって俺が何人もいるように見えて、更に奴を取り囲んでいるのだから。


 これは流歩りゅうほといって、特殊な歩き方で相手に俺が分身したように見せかける歩法。


 小さい頃、親に教えてもらった技術のひとつだ。

 まぁそういった事情は後ほどとして、俺はその流歩を使って奴を囲んでいるわけだ。


「くっ……なんなんだ!!」


 ベルゴールは周りを取り囲んだ俺(ほぼ残像)をせわしなく見回す。

 ちょっと挑発でもしてみようか。


「何だ、ビビってんのか? なら、こっちから行くぜ?」


 軽く闘気を含めてそう言った。すると、


「ふざけるなぁぁぁ!!」


 驚くほど簡単に挑発にのってきた。

 自分の右斜め後ろにいる俺に斬りかかる。


「残念、ハズレだ」


 奴が剣を振り下ろした瞬間にその俺は煙のように消え去る。


「なら貴様かぁぁぁ!!」

「残念、これもハズレだ」


 次々と斬りかかるベルゴールだが、ことごとく外していく。


「本物はここだ」


 丁度真後ろにいた俺は音もなく奴の懐に飛び込む。


「ふっ!!」


 勢いよく右手の掌底を、下から押し上げるように奴の腰に打ち込む。


 恐らく……というかほぼ確実にダメージは無いだろう。だが。


「な!?」


 奴の体は掌底による衝撃で再度宙に浮かんだ。今度は高く。


 俺は追撃のために地面を蹴る。


 ひとっ飛びで奴より高い位置に来た俺はくるっと体を回転させながら踵落としを叩き込もうとする。


「くっ……」


 ベルゴールは咄嗟に盾を構えるが俺は気にせずそのまま足を振り下ろした。


「ぐぅっ!!」


 ガードの上から叩き込まれたベルゴールは、そのまま超速で地面に叩きつけられた。


「っっっ!!」


 ロクな受け身も取れず、背中から落ちたので声にならないくらいの衝撃が奴を襲っただろう。


 対して俺はゆったりと着地をする。


「いくら甲冑を身につけていてもそれは痛かったんじゃねぇか?」

「ぐ……くそ……」


 俺の問いかけを無視して、剣を杖代わりにゆっくりと立ち上がるベルゴール。

 意外とダメージはあったみたいだな。


「な、何故だ! 何故急に動きが良くなるんだ!!」


 ベルゴールは大声で怒鳴り散らす。

 さっきまでの余裕はどこへやら。無様すぎるぜ。


「だから2.5倍の負荷を無くしたんだって」


 俺はそんなベルゴールを嘲笑うかのように答えてやった。

 これが余裕の態度ってもんだぜ。


「貴様……」


 おーおー、イケメンなベルゴール先輩の顔がみるみる歪んでいくではありませんか。


 つーかあいつキャラが掴めん。

 戦闘好きの気もある感じだし、でもやっぱり主体はナルシストよね。

 あれか、自分の力に自信があるからこそのナルシーなんですね。


 よっ、流石ナルゴール!!


「クソッ!」

「お?」


 俺が心の中で賛辞を送っている間にベルゴールが斬りかかってきた。


「死ねぇぇぇ!!」


 いや、殺すのはルール違反だから。


「ったくせっかちだな」


 真上から振り下ろされた剣を半歩引いてかわす。


「いくら威力があっても、お前の近くにいれば大剣は当たりづらくなる。つまり、内側に入り込めば大剣もお前のMWも簡単にかわせる」


 そう言いながら奴の胸元に掌底を叩き込む。


「くっ!」


 ベルゴールは一瞬よろめくがすぐに体勢を立て直し、今度は横薙ぎにMWの剣を振るう。


「よっ」


 今度は体を深く沈めて剣をかわす。


「横に剣を振るならその下にかわせば、どちらも当たることはない」

「う、うるさいっ!!」


 今度は苦し紛れの盾での殴打。

 俺は地面を軽く蹴って後ろへ跳ぶ。


「あ、後それは置き土産な」


 そう言って奴の腹の付近を指さす。

 そこにはさっき貼っておいた3枚の魔符が煙をあげていた。


「ま、待……」

「爆ぜろ」


 奴の制止をシカトして魔符を起爆させる。

 耳を突き刺すような爆音がコロシアム中に響き渡る中、ベルゴールの体は再度宙を舞った。


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