第43話



 無言で俺を見るベルゴールが何を思っているかはわからない。

 しかしこちらを警戒してるような感じはしていた。

 というか、あいつ結構強いのな。

 口だけかと思っていたが、やはり9位は伊達じゃないみたいだ。


「さっきのは驚いたよ。それが君のMWかい?」

「いや、ただの小太刀だが?」


 しれっと答えると、ベルゴールがまたしても驚いた表情を見せた。


「ただの武器で僕の攻撃を弾いたというのかい?」


 そーです。ちょこっと触って進路を変えただけです。


「君相手に接近戦は不利みたいだね」


 そう言ってベルゴールは俺に向かって剣を向ける。


「本当はこれを使わずに勝つつもりだったんだけどね」


 その刹那、ベルゴールの剣を纏っていた光が輝きを増す。


(……何だ?)


 俺が眉をひそめる中、ベルゴールは光輝く剣を上に向ける。

 するとその光が更に強くなっていき、宙に十本程の光の剣が出現した。


「魔法剣か!」


 魔法剣とはまあ名の通り魔術で創り出した剣の事だ。

 扱う者が熟練者だと、それは武装集団の兵力を軽く超える程の力がある。


「ご名答……さぁ、せいぜい足掻くといいよ」


 そう言って剣の先を俺に向けると、宙に浮いていた剣が俺へと向かってくる。


「クソッ!」


 俺は横へ飛び退いて初撃をかわした。

 回転しながら体を起こし、さっきまで居たところを見ると何と地面が割れている。


 んなもん当たったら無事じゃすまねえよ!!


「ホラホラ、まだ剣はあるんだよ?」


 余裕の表情で剣を小刻みに振る。

 それに呼応するように残った魔法剣が、不規則な軌道を描いて俺へと向かってきた。


「流石にあれは捌けねえよな……」


 俺の頬を冷や汗が滑り落ちる。


「んにゃもふぅぅぅぅぅぅ!!」


 とりあえず直角で落ちてくる魔法剣を横に飛んでかわす。

 次に左右から挟むように迫ってくる剣を上に飛んでかわす。


「かかったね」


 ベルゴールの勝ち誇った声が聞こえたので、顔を向ける。


「げ……」


 俺へと切っ先を向けた魔法剣が四つ。


「いけ」


 ベルゴールが剣を横薙ぎに払うと同時に、4つの魔法剣が鮮やかな曲線を描きながら俺に突撃してくる。


 これは避け切れねぇ。


「リオードォっ!!」

「リオードくんっ!」


 どこからかシンとテトラの声が聞こえてきた。

 しかしそれを確認する間もなく、魔法剣が俺を捉えた。



 ◇



 今、兄さんが敵の魔法剣をモロに受けてしまいました。

 4本の魔法剣の威力は凄まじく、かなり広範囲に渡って煙が上がっています。


 まさかベルゴール先輩が魔法剣を使えるとは。

 兄さんは遠距離戦が苦手と言っていますので、あの戦い方は有効と言えるでしょう。


「リオードくん……」

「流石にあれは……」


 テトラは手を組んで心配そうに兄さんが居た方を見つめ、普段はクールなグランさんも今度ばかりは顔を歪めています。


「やべぇよやべぇよ! あれ食らったら流石に一溜まりもないだろ!」


 中でもシンさんは一番慌てていますね。

 席から立ち上がりあたふたとする様は周りからすれば浮いてしまいます。


「ワイトハウト君、落ち着きなよ」


 足を組んで座っていたリューネ先輩はまるでモデルのよう。

 そして微塵も動揺していません。

 同じようにエレノア先輩も何事も無いかのように座っています。


「何でエレノア先輩とリューネ先輩はそんなに余裕なんですか!? あの攻撃で無事には済まないッスよ!!」

「シンさん落ち着いてください。」


 見かねた私は座ったままシンさんに声をかけます。


「落ち着いてらんねーよ! フィルはリオードが心配じゃないのか!?」


 見事に興奮してますね。

 おや……リリーも心配しているようですね。顔が物語っています。


「リリーも兄さんが心配ですか?」


 意地悪風な私の問いかけでしたが、リリーはこくんと頷きました。


「逆にお前は心配じゃないのか?」


 あら、今度は逆に質問されてしまいました。

 なら、早く安心させねばなりませんね。


「兄さんなら大丈夫ですよ……ホラ」


 そう言って私はコロシアムを指差します。

 そして私の指先には、晴れた煙の中で悠然と立っている兄さんの姿がありました。


「「「「え……?」」」」


 4人の驚く声が見事に重なりました。

 まぁ、傍目には兄さんが魔法剣を受けたようにしか見えませんでしたからね。


「リューネ先輩は見えましたよね?」

「もちろん」


 呑気に飴を舐めているリューネ先輩でしたが、流石ですね。


「リオードはな、ベルゴールの魔法剣が当たる直前に魔符を自分の前に展開させたんだ」

「お見事です」


 私は小さく笑ってコロシアムに目を向けます。

 さぁ、兄さん……頑張ってくださいね。


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