第27話 波乱の幕開け
「ふぅ…」
去っていくスピンロッド達を見てニュート先輩が息を吐いた。
「す、スゲー……」
その様子を見ていたシンがボソッと呟いた。
「ニュート先輩ありがとうございました」
フィルが丁寧に頭を下げる。
「あぁ、フィルちゃんか。2日目でトラブルに巻き込まれるとは大変だったな」
ニュート先輩は笑いながら片手をあげてそう返事を返した。
「リオード……だったな。お前もあからさまに挑発するのは止めておけ」
バレてたか……。
俺はアルバート先輩の言葉にただ苦笑いを浮かべていた。
「まさか、こんなところで伝説の2人に会えるなんて……」
「えぇ、幸運ですね」
テトラとグランの会話が耳に入ってくる。
「伝説って……そんな大袈裟な」
「あぁ、全くだ」
ニュート先輩とアルバート先輩は少し恥ずかしそうな顔を見せた。
「伝説ってこの2人そんなに凄いのか?」
俺だけ何が何なのかわからないので、とりあえずフィルに聞いてみた。
「えぇ、ミストレア学園には学内ランキングがあるのはご存知ですよね?」
いえ、知りません。
俺の表情からそれを感じたのかフフッ……と笑いを漏らした。
「ええっと……ミストレア学園には1位から50位までの生徒達の実力を示したランキングがあるんですよ」
「ほうほう」
「それでその中でも5位以上の生徒達は
マジか。
全くわからんかった。
「そしてこのニュート先輩とアルバート先輩は入学してからの3年間、1位と2位なんです」
「わーお……」
それは流石に予想外でした。
ってことはこの2人は1年生の頃から実力はトップなんですね。
流石ニュート家とアルバート家の跡取りだわ。
「兄さんなら今すぐにでもランキング入りは可能ですよ」
フィルがそう言って満面の笑みを浮かべる。
か、可愛い……じゃなくて、そんなこと言わないでくださいます?
「へぇ……?」
ほらぁぁぁ!
ニュート先輩が楽しそうに笑ってるじゃん!
ついでに言うとアルバート先輩まで興味示しちゃってるよ!
いや、ホント俺なんて雑魚なんで……。
「お、みんなそろそろ午後の授業が始まるよ?」
バンドツールを見たニュート先輩が俺達に告げた。
「え、マジ!?」
「ホントだ! 確かベルド先生がまた第6修練室に集合って言ってた!」
ニュート先輩の言葉を聞いた俺達は慌てて片付けを始める。
「ちょ、俺の飯半分くらい残ってるからちょっと待って!」
「早くしてくださいよ?」
「よし、ご馳走さま」
「はえーなおい!」
順に俺、グラン、俺、ニュート先輩である。
「それじゃ、ニュート先輩にアルバート先輩ありがとうございました。このお礼はいつか」
「あやっした~」
「兄さんしっかりと喋ってください!」
「ありがとうございました」
フィルさんマジこえぇっす。
「おう、気にすんな~」
笑顔で手を振るニュート先輩と無言のままのアルバート先輩を尻目に俺達はそそくさと退散した。
◇
「行っちまったな」
「そうだな」
リオード達が居なくなった後、ファウストとミラは言葉を交わす。
「っつーか俺らが行かなくともお前ら2人で止められたんじゃねえのか?」
ミラが誰もいない方へと声をかける。
すると壁の向こう側から2人の女が姿を見せた。
「えー、いいじゃん! 2人の方が影響力あるし~」
言葉を発したのは弛くウェーブさせた長い茶髪を指でいじる女子生徒。
笑った顔から見える八重歯が印象的だった。
「ええ、こういうのはトップに絞めてもらわないと」
その女子生徒に相槌をうったのは女子にしては長身でスラッとした体格の栗色ロングの女生徒。
「っつーかめんどくさかっただけだろリューネ」
「アハッ、そうとも言う!」
呆れたように言う純平に茶髪ロングの女子生徒……リューネ・ブルグは悪びれずに返した。
「というより女性ににあの場を纏めさせるのは如何なものかと」
「ランキング5位のリューネと4位のお前なら大体の事はカタつけられただろ……エレノア」
無機質な表情の栗色ロングヘアーの女子生徒……エレノア・マシーヌの言葉にファウストはため息をついた。
2人は生徒会、風紀委員にそれぞれ属しており、ファウストとミラの幼馴染みでもあった。
魔術は近代化に伴って発展していった文化だが、それまで存在が無かったわけではない。
遥か昔から文明の発展の影には常に魔術の力が関係していた。
名こそ違えど全て魔術という括りにされているだけである。
そしてその中で特に魔術師としての力を持った集団が存在した。
その集団は東洋の漢字という文字を用いてこう呼ばれていた。
中でも鼠芳家、三虎家、竜恩寺家、の三家は特に力が強く、十二家の中でも高い権力を有している。
竜恩寺がこちらで言うニュート家。
その一角のニュート家には幾つかの分家があり、その中の1つがアルバート家、マシーヌ家、ブルク家である。
この三家はニュート家の使令により数々の任務をこなすため、実力が高いことで知られている。
つまりこの4人は家柄により、幼い頃から深いつながりがあるのだ。
「で? 実際の所はどうだったんだ?」
ミラは壁にもたれかかりながらリューネに尋ねる。
「ま~、私達が出ても出なくてもあの長髪の男の子が終わらせたと思うぜ?」
腰に手を当てながらそう言ったリューネはまるでモデルのように様になっていた。
「そうなのか?」
「はい。スピンロッド家の跡取りが殴りかかっていましたが、あの子の対処は全く無駄がありませんでした。あれだけで相当な使い手だとわかります」
こちらはファウストとエレノアの会話である。
「詳しく教えてくれ」
2人の話を聞いたミラがエレノアの方へ顔を向ける。
「はい、おそらくやろうと思えばスピンロッドだけでなく、その周りの子達も一瞬で気絶させる事は出来たと思います。それほどまでに動きが洗練されていたので……それを確認してもらいたく2人を呼びました」
そういう事……といいたいのかリューネはミラの頬をつつく。
しかしミラは特に反応することはなかった。
「なるほど……んじゃ、フィルちゃんが言ってたランキング入りが可能ってのはあながち間違いじゃ無いのか……」
それを聞いたファウストは小さな声でそう呟くと腕組みをして考え込んでしまう。
「どういうこと?」
ファウストの言動の意味がわからず、リューネはミラに答えを求める。
「さっきランキングの話が出たときにフィル・アンタレスが言ったんだ。『兄さんならすぐにランキング入り出来ますよ』ってな」
その話を聞いた途端、エレノアとリューネの顔が変わった。
にこやかだったのが一転真剣な表情を見せている。
「それホント?」
「あぁ……」
ミラはリューネの問いかけに短くそう返した。
「まあ1年でランキング入りは珍しい事じゃ無いけど……実際にファウストとミラは入学してからずっと1位と2位だしな?」
4人の会話からはそこまでおかしな点は見られないようにも感じる。
しかし、着目する点はそこじゃなかった。
「フィル・アンタレス……入学試験時のペーパーテストで唯一の500点満点、実技もトップクラスの成績……彼女なら今の実力でランキング入りが可能だ」
「あぁ、その彼女が言うって事は……」
ここまで言えばもう答えは出たも同然だった。
「ミラ、兄貴……リオードの方の情報は?」
「あぁ、確かペーパーテストは450点でかなり高い……だが、実技は0だ」
ファウストに促されたミラはリオードの情報を話す。
その内容を聞いたエレノアとリューネは驚いた表情を見せる。
「実技が0点……」
「あれだけの動きが出来るのにか〜?」
「なのに彼女がそこまで言うって事は……只者じゃ無いって事だな」
そう纏めたファウストの顔は新しいオモチャを与えられた子供のようだった。
「ま~た変な事考えてんな〜?」
リューネは呆れ顔でファウストを見る。
「ったくこんなのが生徒会長とは……」
「まあ……仕方ねぇな〜」
ため息をつくミラだが、リューネの方は楽しそうに笑っていた。
「リオード・アンタレス……楽しませてもらうぜ……」
ファウストはリオード達が去っていった方向を見ながらそう呟いた。
◇
「ぬうっふる!」
「兄さん?」
「どうした? 変な声だして。」
突然声をあげた俺をフィルとシンが怪訝そうな目で見てくる。
「…………」
「いや、リリーさんマジでその目は止めてください」
ゴミを見るような目で見られてるんだもん。
「それで、どうかしたんですかリオード?」
グランは俺の異変に気がついたようだ。
「あぁ、嫌な予感がする……。恐らくこれはさっきの生徒会長が何かよからぬことを企んでいる」
「スゴい予感だね……」
俺の見解を聞いたテトラは苦笑いだった。
「ゴミだな」
「リリーさんマジ止めてって……」
しかし、その嫌な予感が当たるとは……。
この時から既に俺の学園ライフは変わってしまったのかもしれない……。
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