第26話 仲裁



「この状況でよく飯食えんなお前は!」

「ふふぁん、ほほふぉほふぁんはふまふふぇふひ……(すまん、ここのご飯が旨くてつい……)」

「さっさと飲んでください兄さん!」

「ふぁひ!(はい!)」


 シンとフィルが怖い……。

 俺は慌てて食べていたしょうが焼きを飲み込んだ。


「んぐっ! さて、話は聞かせてもらったよ」

「誰だお前は!」


 目の前に立った俺に怪訝な眼差しを向けるスピンロッド。


「あ、どうも。私こう言うものです」

「何だこれは?」

「ちり紙です」

「いらんわ!!」


 俺が挨拶代わりに渡そうとしたちり紙を地面に叩き落とすスピンロッド。


「おいおい、資源を無駄にするなよスキンヘッドくん」

「誰がスキンヘッドだ! 俺はスピンロッドだっ!!」


 何コイツ、お も し ろ い。


「おいお前! スピンロッドさんに向かって何て口のききかただ!」


 取り巻きAが俺の胸ぐらを掴んできた!


 1、その腕を掴む。

 2、睨み返す。

 3、怯える。


 俺は4の挑発を選んだ!


「いやん、俺にそんな趣味はなくてよ?」

「俺もねぇよっ!!」

「キャー! 誰かー! ここに変質者の集団がいますぅ! 助けて、襲われるぅぅぅ!!」

「貴様ぁぁ……」


 俺の挑発行為にスピンロッド集団は徐々にこめかみをひくつかせていく。

 よし、もうあと一押しだ!


「スマン、悪かったよ。受け入れればいいんだろ?」


 俺はそう言うとネクタイをゆっくりと緩めていく。


「に、兄さん! 緩めたネクタイから白い胸元が……何て色っぽい……」

「フィルちゃん? 顔赤らめるとこじゃないからね?」


 うん、全くだ。


「貴様……もう許さん!」


 我慢の限界を越えたスピンロッドはワナワナと体を震わせる。


「俺に逆らったことを後悔しろ!」


 脇役Aの如く捨て台詞を吐き俺に殴りかかってくる。


「ハァ……」


 俺は短いため息と同時に前髪をかきあげると、殴りかかってきたスピンロッドの腕を掴みそこから腕を捻りあげる。


「暴力はいかんよ?」

「うぐぐ……離せ!」


 痛みに顔をしかめるスピンロッド。

 ったく、実力も無いくせに粋がりやがって。

 これだから親の七光りは……。


「貴様ら! 何を黙って見ている! さっさとコイツをどうにかしろ!」


 情けない姿になりながらも取り巻き共に怒鳴り散らすスピンロッド。


 それを聞いた取り巻き共はハッと顔色を変え、俺に向かってそれぞれ構えた。

 予想通りの展開に俺は再度息を吐き出した。


「そこまでだ」

「「「「「っ!!!!」」」」」


 小さかったが、低く威厳のある声が俺の丁度後ろから聞こえてきた。

 振り向くとそこには柔らかい笑みを浮かべている男と、無表情でこちらを睨む男の姿があった。

 2人ともゆっくりだが、真っ直ぐこちらに向かってきている。


 笑みを浮かべている方は身長は180を越えるくらいで、髪は左わけの黒のミディアム。

 左耳にはピアスを付けていた。


 もう1人は隣の男より少し小さいくらいで、黒髪に茶髪のメッシュの入った男だった。

 こちらは左手の薬指に金色の指輪を嵌めていた。


 声を出したのは恐らく黒に茶メッシュの方……。襟に入っているのが黄色のラインって事は3年生か。


「あ、あなた方はっ!」


 俺に腕を掴まれていたスピンロッドは突然そう叫ぶとあたふたし始める。

 それは奴の取り巻きも同じで……何故か冷や汗までかいていやがる。

 よく見るとそれはウチの奴らも同じだった。


「え、何? お前らあの人達知ってるの?」


 とりあえずスピンロッドの腕を離して聞きに向かう。


「バカ! お前あの人達も知らねえのかよ!!」


 失礼な。俺はシンにバカと言われるほど落ちぶれちゃいないやい。

 というか何でみんな知ってるのかがわからん。


「グラン~あの2人誰?」


 グランに助けを求めると何故かため息をつかれた。ひ、酷い……。


「全くあなたは……。いいですか? 右にいる黒髪に茶髪のメッシュの入った人がミラ・アルバート、ここミストレア学園の風紀委員長です」


 グランは呆れた反応ながらもしっかりと教えてくれた。

 あれま……ただもんじゃ無いとは思っていたけど、そんな肩書きがあるのね。

 そして、今度は隣にいる笑みを浮かべている男を指差す。


「そしてその隣にいる人ですが、彼の名はファウスト・ニュート、あのニュート家の跡取りにしてこのミストレア学園の生徒会長です」

「マジで?」


 あ、どっかで見たことあるなと思ったら入学式に生徒代表で挨拶してた人じゃん。

 ってかその隣の風紀委員長はニュート家と深い繋がりのあるアルバート家の人ですか。


「恐らくこの学校であの2人の事を知らない人はリオードくらいでしょうね」


 やかましいわ!

 知らないもんは知らないの!

 俺は心の中で悪態をつきつつも、現れた2人の有名人から視線を反らすことはなかった。


「食堂で1年生が騒いでると聞いて来たんだが……」


 アルバート先輩はそう言って俺とスピンロッドを見る。


「こ、コイツがいきなり殴りかかってきたんです! それを仲間に止めてもらおうとしてたんですよ!!」


 さっきまでの威勢はどこへやら……スピンロッドは突然態度を180度変え、下手に出始めた。

 しかも嘘までついて。


「なっ! オメーらが先に突っかかってきたんたろ!」

「そうだよ! 私達は被害者です!」


 シンとテトラが慌ててそれを否定する。


「ふむ……」


 お互いの意見を聞いたアルバート先輩は納得したように何かを考え込む。

 すると笑みを浮かべているだけだったニュート先輩が1歩前に出てきた。


「リオードくんだよね? 君の意見はどうなの?」


 おもむろに口を開き俺に直接聞いてきた。


「え、何で俺の名前を?」


 この人と会ったことはないはずだが。


「いや~全校生徒の名前と顔くらい覚えてるさ。生徒会長だからな」


 さも当たり前のように言ってるが、この学校に生徒が一体何人いると思ってんだ。

 ましてや新入生なんて、まだ学校行って2日目ですよ?

 っと……話がそれたか。


「えっとまぁ……俺らがご飯食べてたらいきなりコイツらが席を譲れと……。んで断ったらいきなりスキ……スピンロッドが殴りかかってきたって感じです」

「今さりげなくスキンヘッドって言いそうになりましたね」


 グランよ気にするな。


「だ、そうだが?」


 今まで黙っていたアルバート先輩が口を開く。

 その言葉はスピンロッド達に向けられたものだった。


「で、デタラメです! コイツらが殴りかかってきたんです!!」


 スピンロッドはまだ諦めない。


「その理由は?」

「は?」


 アルバート先輩の言葉の意味がわからなかったのか、スピンロッドは呆けた顔を見せた。


「こっちの言い分は内容もわかるし、筋も通っている。しかしお前の言い分はただ殴られたという結果ばかりで筋が通らない」

「ぐ……」


 的を射ている言葉にスピンロッドは顔をしかめる。


「とりあえず食堂にいる生徒に聞いてみようか。それから処分をくだすのも悪くないよな?」


 今度はニュート先輩が口を開いた。

 その言葉を聞いたスピンロッド達の顔がどんどん青ざめていく。

 どうやっても自分達が不利なのを悟ったのだろう。


「チッ……お前達行くぞ!」


 苦々しくそう吐き捨てると、取り巻き共を引き連れて去っていった。

 俺を睨み付けるというオプションも忘れずに。


 とりあえずまあ……。

 リオードさん完 全 勝 利 !!

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