第13話 入学2日目


 昨日と変わらず天気は雲1つない晴天。

 入学して2日目の今日からミストレア学園では本格的な授業が始まる。


「今日から授業始まるよ~」

「ホント、最初って何するのかな~」


 学生達にとっては嬉しくなるんだろうな。

 道行く生徒達は今日の授業の話で盛り上がっていた。

 まあその大半は1年生であり、上級生と思われる生徒達からはあまりその話題は出て来ていない。


 そんな中、今日も相変わらず兄妹仲睦まじく登校している俺ことリオードとフィルの2人。


「今日から授業だな」

「はい、とても楽しみです」

「俺らはまだ何もわかんねえけど、そっちはカリキュラム決まってんだろ?」

「ええ、確か私達の最初の授業は基礎魔術学だったかと……」


 フィルは制服の袖を引き、バンドツールを操作して今日の日程を確認する。

 ミストレア学園生徒専用のアプリケーションを見ているのだろう。


 フィルが見ていたのはその一部。


「しっかしまあ眠いな~」


 俺はアクビを噛み殺しながらも目元には大きな隈が出来ていた。


「申し訳ありません兄さん……。夜中まで私に付き合っていただいて……」


 フィルはそう言って悲しそうに目を伏せる。


「気にするな、俺だって少し体を動かしたかったし。それにお前の為なんだから」


 流れるような黒髪から覗いてフィルと目を合わせると、フィルも俺につられて微笑んでいた。


「ありがとうございます。それに昨日の夜はとても激しかったですね兄さん……」

「ハハッ、ちいっとばかり興奮しちまったな~」


 ほんのり赤く染まった頬に両手を当て照れるような表情と仕草を見せるフィル。

 とても兄妹とは思えない発言をしているように見えるかもしれないが、恐らく誰もが想像したものとは違う内容だと否定しておこう。


「まあ大丈夫だとは思うが、まだ物足りないようならまた付き合ってやるよ」

「ハイッ! よろしくお願いします、兄さん」


 否定しておく。


 そろそろ学園前に着く。

 チラホラ見えていた通学路とは違い、ここまで来ると生徒数はかなり多い。


「こうやって見ると学年毎に襟のラインの色が違うから区別がしやすいな」


 俺は通り行く生徒達を見ながらそう呟いた。

 1年生の襟元のラインが紺であり、それぞれ2年生は緑、3年生は黄色となっている。

 それだけでなく1人で登校する生徒と複数で登校する生徒でかなり別れている。

 1人で登校する大半は1年生であり、複数組は2、3年生が殆んど。


 まだ1日経っただけなので、そこまで親しくなれていないという生徒が多いという事なのだろう。

 そんな格差とまではいかないが、ハッキリと分かれた光景の中であることに俺らは気づいた。


「何か……見られていますね?」


 フィルが呟いた通り俺とフィルの事をジロジロと見つめる輩がいるのだ。

 その視線を辿っていくと全てが1年生だった。

 俺はいいがフィルを不快にする目を向けるやつは目ん玉ひん剥いてやろうかな?


 まあ1割の冗談はさておき……。

 実際は興味本意のような……何かを卑下しているようなそんな視線が大半を占めていた。


「一体何なんでしょうか?」


 フィルが訝しげにそう呟く隣で既に気づいている俺は苦笑いというか複雑な表情を浮かべていた。


「兄さん?」

「あ、いや……何でもない」


 直ぐに微笑み何事も無かったかのような顔をする。


(新入生には俺がEクラスだってバレてるってことか。それにしても……国内有数の進学校のくせに……いや、だからこそこんな思考が生まれるのか)


 俺は心の中で誰にも悟れることなく悪態をつく。


 Eクラス=落ちこぼれ集団。

 ミストレア学園という強大な機関で設けられた明らかに差別的な制度。

 いくら俺が承諾してEクラスに在籍しているとしても、流石にこのあからさまな視線には嫌気がさしていた。


 それに加え妹であるフィルの在籍するAクラスは優秀な生徒ばかりを集めた、言わば金の卵の集まり。

 その中でもトップクラスであろうフィルが隣に居ることは、俺への視線を更に悪質なものにさせていた。


「何でこんな制度を作ったんだか……」


 ボソッと不満を口にする。


「何かおっしゃりました?」

「いや、何でもない」


 フィルに顔を覗き込まれ直ぐ様誤魔化し、その不満を顔に出さずに視線の中を歩いていった。


「それではまた」

「おう、またな」


 昨日のようにAクラスの前で俺とフィルは別れた。

 俺はEクラスまでの道のりを進みながら、またしても学園前でのあの視線を浴びていた。


(他にも楽しいことがあるでしょーが)


 内心ため息をつきながらも表情には出さない。鍛え抜かれたポーカーフェイスがそこにはあった。


 とは言っても視線を気にしたのはほんの一瞬。

 自身のクラスに近づくにつれ楽しみの気持ちが湧いてくる。


「おっはりーん!」


 扉を勢いよく開け、適当なポーズを取りながら教室へと入っていく。

 教室内には読書をしているリリーと、同じく読書中のグランの2人がいた。


「まだ会って2日ですが貴方は元気ですね」


 読んでいた本から顔をあげ、挨拶を返してくれるグラン。


「いや~元気も何もグランだって朝は元気でしょ? 主に下の部分が!」

「朝から下ネタは止めて欲しいんですが……」


 馴れ馴れしく接する俺にグランは微妙な面持ちで返事をするが、本気で嫌がっている様子はなく寧ろフレンドリーに話しかけている俺に好感を持っている様子だった。


「リリーもおはよー! 朝から読書とは偉いな〜」


 今度はリリーに対して挨拶をする。

 声をかけられたリリーはチラリとこちらの方を見たものの、特に返事をしたりする様子は無かった。


(本日はシカトプレイですか。まぁ罵倒されるよりはマシ……いや待てよ、罵倒されるのもアリっちゃアリかも……)


 既に思考はカオスルート一直線。フィルの前ではまだ普通だと自負しているんだが、他だと一気におかしくなってしまうらしい。


「まあまあリリーちゃん? もうちょっとフレンドリーにいこうよ」

「変なあだ名で呼ぶな細菌が……」

「細菌っ!? ついに微生物扱いっ!!」

「口を縫い付けられたくなかったら黙れメヘリウム」

「気化しちゃった!? 何これ俺って人間として生きてはいけないのかっ!?」


 怒涛の毒舌に突っ込みが止まらない。


「おは……キャッ!!」

「うおっ!! 朝から何やってんだリオード!?」


 リリーの言葉に悶える俺にタイミングよく入ってきたテトラとシンは立ちすくんでいる。


「やれやれ、朝から騒々しいですね~」


 楽しそうに微笑むグランが示すようにたった5人……いや、5人だからこそEクラスはとても賑やかだった。

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