第11話 感情の高ぶり

「よーっし……んじゃ今日はこれで終わりだ。明日から授業始まるから遅れないようにな、お疲れさーん」


 ベルド先生はその言葉をシメに手をヒラヒラと振りながら教室を出ていった。


「んぁ~っんはぁ~!! 終わった~」


 何とも表現しがたい声をあげながら伸びをして立ち上がり鞄を持って帰ろうとすると、扉からこちらを覗くフィルの姿が見えた。


「お~フィル、もう終わったのか?」

「はい、ついさっき終わりました」


 フィルは俺が声を掛けると嬉しそうに微笑んで教室の中へと入ってきた。


「え、確か君は今日新入生代表の挨拶をしていた……?」


 フィルの事に気がついたシンが少し驚いたような声をあげた。


「兄さん、こちらの方は?」


 フィルはシンの方を見ながら不思議そうに首を傾げる。


「コイツはクラスメートのシン……ワイルドシャウトだ」

「いや、ワイトハウトな!?」

「ワイルドシャウト? 珍しいお名前ですね」

「信じちゃった!?」

(やべ、すんごい面白い。)


 フィルまで混ざってのシン弄りに満足。

 てかあながちワイルドシャウトも間違っていないと思うんだけどな。ガタイが良いしすぐ叫ぶし。まあすぐに改めて紹介はされていたが。


「んで、リオちゃんとこの子は……」

「そんなふざけた名前で呼ぶな殴るぞ」

「テメーがそう呼べって言ってたよな!?」


 やだこの子、すぐ叫ぶ。

 本当に血糖値とか大丈夫なのか。


「リオードでいいよ。俺とフィルは双子の兄妹だ」

「はい、フィル・アンタレスです。よろしくお願いいたします」


 俺の紹介の後にフィルがにこやかに笑いお辞儀をした。

 その笑顔に顔を赤らめたシンを見て俺は肩をがっちりと組んだ。


「シンクン?」

「は、はい!?」


 いきなり組まれた肩に豪は恐る恐るこちらを向く。

 恐怖政治はよろしくないからな。笑顔を浮かべてフィルに聞こえないような声で囁く。


「フィルに手出したらコロスカラ……」

「ハ、ハイ……」


 この世のモノとは思えない威圧感を与えたことで、シンは縮み上がりながらも何とか声を出した。


「仲良しなのですね」


 フィルが俺とシンの顔を天使の微笑みで覗き込む。


「そ〜なんだよね〜、息が合ってさ」

「そそそそそうだぜ!」

「シ、ン、くん?」

「ヒイィィィィッ!!」

「…………?」


 フィルは俺とシンの間にあったことなど知るはずもなく、震えている声を発するシンを不思議に思っていた。


 そして俺は組んだ肩を外してふと思い出す。

 そういやEクラスのグループがあるんだっけか。


「なあなあ、3人はもうグループ入ったか?」


 会話のきっかけ作りの為に俺はシン以外の3人のクラスメイトに呼びかける。


「まだです」

「私もまだだよ」

「……」


 上からグラン、テトラ、リリーである。

 リリーは本名リリネットと言っていたが長いのでリリー。


「じゃあ個人の連絡先もついでに登録し合おうぜ?」

「うん、いいよ〜」

「そうですね」

「……」


 俺がバンドツールを振り、こっちに来るように手招きをする。

 寄ってきたグランとテトラとバンドツールを触れ合わせることで、連絡先を交換した。

 だがしかし、ここで問題が起きる。

 2人は普通に年頃の子のようにあっさり交換してくれたんだが、リリーが頑なに交換してくれない。

 俺がバンドツールを向けると、バンドツールを巻いてある手を後ろに隠すのだ。


「リリーさん、交換してくれないかい?」

「だまれ、喋るな小僧」

「同い年っ!!」


 俺が一体何をしたというのだろうか。

 普通に挨拶して友達になろうとしただけのはず……。一体どこで間違えたんだ?


「じゃあ私たちとも交換しない?」

「……お前たちは別に問題ない」

「僕たちもいいのですか?」


 男の俺が拒絶されたため、同じ男であるグランとシンが確認を入れる。そして無言で頷くリリー。つまり男であるなし関係なく、俺がアウトなのだと理解した。


「私もよろしいですか?」

「……ん」


 フィルがバンドツールを向けると、リリーもそれに自分のを触れさせる。

 別クラスのフィルが良くて俺がアウトなの? そろそろ泣ける用意出来てるよ?


「リリネットさん。申し訳ないのですが、兄さんも登録だけしておいてくれませんか? 悪い人じゃないのは私が保証いたします」


 教室の隅で立ちながら泣いている俺が見るに堪えなかったのか、フィルが助け舟を出してくれた。

 それに乗っかる形ではあったのだが、俺はついにリリーとの登録を完了させた。


「っしゃあい! ピチピチ女の子の連絡先ふたつゲットだぜ!!」

「兄さん……?」


 あれ……もう春を迎えて少し経つのに身体が信じられないほど寒くて震えが止まらないんですけど。


「ちょっ!?」

「さ、寒いよ!!」

「なんですかこれは!?」

「……っ」


 俺以外のメンバーも被害を受けている。

 俺の足も氷かけてるし、そろそろ止めないとな。


「フィル」

「はっ……、す、すみません! ついうっかり……」

「うっかりでこうなんの!?」


 俺の声を聞いてフィルが冷静を取り戻す。

 教室は何事も無かったかのように戻っていた。


「フィルは感情の高ぶりで魔力が体外へ流れることがあるんだ、みんな気をつけろ?」

「兄さんのせいなのですが……」


 熱くなって凍らせるなんてフィルったら矛盾してるのね。



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