第1話 ミストレア学園


 突然だが、ローランドの知識を振り返っておこうと思う。

 ローランドという世界は球体とされているらしい。なぜ“らしい”と言うかは文献でしか記載されていないからである。

 どこかの偉い人が、“この世界は魔法と科学で成り立っている”と言っていた。


 だが少年はそうとは思わない。確かに魔法は使えないとこの世界では不便だし、科学を理解していないとこの世界では上に上がれないかもしれない。

 しかし、先に情報を入手していればどうだろうか。

 魔法や科学を使えなくとも奇策に珍策に妙策を重ねに重ねて相手を上手く嵌めることが出来るかもしれない。


 少し話しが脱線したので振り返りはこの辺りで終わって今の少年少女の状況に戻ろう。


「兄さん、本気で言ってるんですか?」


 始まりはこの一言だった。

 物語を始めるというには余りにも唐突で、おかしな気がしたがそれでも始まってしまったものは仕方がない。

 始まりを告げた声は穏やかで気品があるソプラノボイス。


 声の主は襟元に紺のラインが入った白のシャツに薄紫のスカート、上にこれまた薄紫のブレザーを着た学生と思われる女子だった。

 身長は160を越えているだろうか、少し力を入れれば折れてしまうのではと思うほどの細い体躯、そしてその細く薄い背中に流れる漆黒の髪。パッチリとした目、ふっくらとした赤い唇、雪のように白い肌。

 美人と可愛いという言葉が両方似合うこの少女には、先程の声といい見た目といいどこかの貴族のお嬢様を思わせる雰囲気があった。


 そんな彼女の視線は隣を歩く少年に向けられていた。

 少女よりも遥かに高い身長に彼女ほどでは無いが細身の体型、切れ長の目に高い鼻はまるでモデルのようなイメージを誘う。

 こちらは黒のズボンに女子と同じような襟元に紺のラインが入った白シャツと、これまた同じ薄紫のブレザーを着ているが着崩しているために少しだらしない印象を伺わせる。


 兄さんと呼ばれたその少年は顔こそ似てないものの、そよ風に靡く綺麗な長い黒髪は瓜二つだった。


「いや、本気も何も既に決められたことだからさ」


 少年は苦笑を浮かべ少女を見た。


「まぁそれはそうですけど……、それでも学園側に抗議すべきですよ!」


 一旦納得しかけたように見えたが語尾が上がっていくのを聞いていると、彼女は少し怒っているようだ。


「いやいや、既に決められたことに抗議するなんてめんどくさいよね? それに俺は構わないんだから」


 手をヒラヒラと振って言う少年に対し、少女はその白い頬を膨らませた。


「ホラいつまでそんな顔してんのフィル、今日は俺達の晴れ舞台なんだから」


 フィル…そう呼ばれた少女は膨らませた頬を元には戻したのだが、その目は何かを言いたそうに少年を見据えていた。


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