モンスターハンターに捧げる物語

 ズシャ、ズシャ、ズシャ

 振り下ろすたびに太刀の先から鮮血が迸り、視界が紅く染まる。

 その中で目の前の命を奪ったことを知覚する。

 肉を切る生々しい感触。

 生物を骸に変える感覚。

 死骸は緩やかに倒れ、最後に苦しそうに一声鳴いた。

 一息ついて、倒した怪物から私はその鱗や内臓器官を剥ぎ取っていく。

 ズタズタに引き裂かれた見るに堪えぬそれらから、どれほどの苦しみを私が与えていたのかを理解した。

 心が微かに痛むが、その傷心さえ無礼なもののように思われた。

 私は一つの命を奪ったのだ。

 過失でも事故でもなく、自身の意思をもってして。

 そんな私に同情心は相応しくない。

 この怪物の名は雷狼竜。

 こいつが村に危害を加えていたので、私は村長からの直々の依頼で相対することとなった。

 対立した利害があり、お互いの妥協点がないのなら、後はもう最も単純な自然の掟に従うしかない。

 だから私に死体を悼む資格などない。その必要もない。

 強いものが生き残り、弱者は全てを奪われる。

 その法則に従っただけなのだから。

 空を見ると、迎えの飛空艇が飛んでいた。私は手を振り合図する。相変わらず早い。倒してから一分前後で来るなんて、いい仕事をしている。

 雷狼竜の亡骸を後ろに残し、私は飛空艇へと歩を進める。あとはギルドが適当に処理してくれるだろう。

 慈悲も慈愛も残さない。

 私は勇者でも騎士でも戦士でもない。

 私は「狩人」

 自然の中で命を奪い、命を繋ぐバランサー

 人は私のことを「モンスターハンター」と呼ぶ。

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