存在しない京都紀行

比良野春太

冴えない速度(春)



 おどれと言われたから、

 違った、

 あれはクソ森のほう、

 おどりゃ、

 誰が、おどれおどれって、おどりゃって、おどろうって、

 でももしかしたら踊れって言われたから両手を挙げる、

 誰、

 時たまの暴力だ、

 いつものやつを、

 煙草の陳列された小さな窓口。

 白いヘルメットの男子中学生たちが大きな声で笑ったはず、

 八百屋のばあはみかんの箱に蹴躓いた、

 アーケードに遮られた橙の陽が温かくて、

 暗い肉屋の肉塊が生ぬるくて、

 絶対に速度が欲しくなるから、

 絶対の速度が欲しくなるから、

 踊らなくちゃいけない気にもなる、

 全力で走れと商店街の音楽が言っているし、

 ポッケの財布も軽いもんだから

 走り始めようと思って、

 すると商店街は終わるからシャツをズボンに仕舞う、

 音楽。

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存在しない京都紀行 比良野春太 @superhypergigaspring

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