VOL2

 ルイ(正確には「ルイ博士」と呼ぶべきなんだろうが、俺と、にはやっぱりただの少女だからこう呼ぶ)を拉致した一味は、現在群馬県の某所に基地を作って立てこもっているという。


 何でも旧大日本帝国陸軍の要塞があった場所だとか言われており、近隣住民からは、

『一度入ったら二度と戻れない』と、妙な噂がまき散らされていて、誰も近づこうとしないそうだ。

 

 俺は愛用の拳銃、それに予備の弾丸。警戒棒にタクティカルブーツ。それに登山用の防水ジャケットにブッシュパンツ。

 

 用意はしっかり整えた。


 拳銃をぶら下げてゆけば、危険なのは分かり切っている。


 しかし向こうはテロリストだか、ゲリラだか、強盗だか訳の分からん連中だ。


 どうせ一人じゃないだろう。


 となればどうなるか、大体想像はつく。


(捕まる)


(尋問される)


(喋らない俺)


(拷問される)


 と、まあこんな感じだろう。


 多分誰だってこう考えるだろうな。


 ごちゃごちゃ考えても仕方がない。


 俺はいつものジョージに電話をかけ、彼の車で群馬県のK町まで連れて行ってもらうことにした。


 俺とは別口の荷物(内容については干渉しなかった。当たり前だろう?)を運ぶ予定があったので、それに便乗したというわけだ。


『ほんとにあそこに行くのか?』


 俺が車から降りる前、ジョージは珍しく妙に不安そうな声を出した。


『当たり前だ。仕事だからな』


『生きて帰ってこれないかも知れんぜ?』


『帰ったら、大金が手に入るんだ。そうしたら、俺の奢りでパーティーでもやろうや』


『まあ、あてにしないで待ってるぜ』


 俺が手を上げると、彼は車をUターンさせて走り去っていった。


 俺は背中のザックを担ぎなおすと、そのまま歩き出した。


 1時間ほど歩いたろうか?

 

 もう人っ子一人見えない山道になっており、目の前には山の奥に入る道の入り口があったが、そこには太い鎖が渡してあり、真ん中に、


『此レヨリ私有地ニ付キ、立入ヲ厳禁ス』と、真っ赤な字で描かれた札がぶら下げてあった。


俺は気にもせずに鎖を乗り越え、中へと入ってゆく。



 そこからまた、30分は歩いたろうか。


 辺りは完全に暗くなり、すぐ目の前の景色さえ見えなくなった。


 俺は水筒の水を一口含み、ザックからヘッドバンドを取り出し、取り付けてあった 小型の懐中電灯のスイッチを入れる。


 これだけの装備を背負っても、大して応えない。


(若い時の苦労は買ってでもしろ)


 とは、よく言ったものだ。


 空挺にいた時分、凡そ総重量8~90キロ近い装備を身に着け、二昼夜ほぼ不眠不休で富士山の周りを一周したものだ。


 それに比べりゃ、こんなもの屁でもない。


 すると、次の瞬間。


『止まれ!』

 

 鋭い声が闇の中から響き、鈍い銃声と共に、俺の頬を何かが掠めた。


  手袋をした手で触ってみる。


  血だ。


  俺の手は反射的に脇に吊るしたホルスターに伸びていた。


『無駄な抵抗は止せ。ハチの巣になりたいのか?』



 








 

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