気分はルパン三世

冷門 風之助 

VOL1

 俺は肩で荒い息をしながら、拳銃を構えて気配を伺う。


 幸い、追っ手はまだ近づいてはいないようだ。


 それにしても敵弾雨飛の中を、よくまあ骨董品のリヴォルヴァー一丁で潜り抜けてこられたもんだ。


 俺は、そっと隣を見る。


 隣には、ジーンズにこげ茶色のニットのセーターを着た女の子(25歳以下は、俺にとっちゃまだガキだ)がいた。


 彼女は俺の肩に頭をもたせかけ、さっきまで不安そうに震えていたが、どうにかそれも収まったようである。


『小父様、大丈夫ですか?』彼女は小声で言った。


 女には滅多にでれつかない俺だが、この『小父様』って響きにはしびれるねぇ。




『彼女を救出してきて欲しいの』


『切れ者マリー』こと、五十嵐真理警視が俺の事務所にやってきたのは、三月の始め、まだ肌寒い頃のことだった。


『何度同じことをいわせりゃ気が済むんだ?あんたらの方が組織力も機動力も大きいんだぜ?俺を見ろよ。ランボーでもないし、ましてやベイカー街の天才でもない。ただのちんけな個人営業の私立探偵だ。出来ることとできないことがある』


 そっけなくいって、俺はカップの中のコーヒーの、最後の一口を飲み干した。


『他に頼む人がいないのよ。』彼女はそう言って鼻にかかった声を出す。


 こんなので俺を釣ろうたって、そうはいかない。


『とにかく、話だけは聞いて頂戴。それで引き受けるか引き受けないか。それは貴方次第よ』


 彼女は足を組み、スリットの隙間から見事な脚線美を覗かせる。


 そうしていつものように、こっちがいいという前に、シガリロを取り出してジッポを鳴らした。


『・・・・話を聞くだけだ。それで気に入らなきゃ断る。本当にそれでいいんだな?』


 俺の言葉に、彼女は煙を吐き出しながら、意味ありげな視線を投げかける。


  真理は写真を見せながら『彼女』について話し始めた。

 

 彼女、名前を『ルイ』という。


 肩の中ほどまである黒髪、白磁の陶器の様な艶やかな肌。切れ長の目に、ちょっととび色の入った瞳・・・・・一見すると日本人とそう変わらなく見えるが、彼女は日本人ではない。


 東南アジアにある小国の出身なのだが、彼女はただの少女ではない。


 若年ながら米国に留学し、物理学と化学の学位を持っている天才なのである。


 ある学会が京都で開催されたのだが、それに出席するために来日していたところを、何者かの手によって拉致されたのである。


 今のところ誘拐した犯人についてはまったく判明していない。ただ、彼女がある特殊技術の開発のカギを握る発明を発表する矢先だったこともあって、それを利用して国内で革命を起こそうとしている一派か、若しくはそれとはまったく無関係のテログループだろうと目されている。


『彼女の発明っていうのはね。それだけで地球がひっくり返るほどの特殊なものらしいの。で、本国としては何とか秘密の内に救い出して欲しい・・・・と、内々に政府のお偉方に要請してきた訳』


『日本政府→警察庁→桜田門→で、俺ってわけか・・・・・何だか気が乗らねぇな』


『彼女を救い出せば、日本政府だけじゃなく、某国からの多額の報奨金が出るのは間違いないんだけどな・・・・』


 真理はふっと、シガリロの煙を吐き出した。


 ますますもって狡い女だな。


 他人の懐具合を見透かしていやがる。


『分かったよ・・・・引き受けよう。』


『流石ね。名探偵さん』














 

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