最終話 和歌山編ボス【潮岬灯台納言】登場。高野山で最終決戦へ

みんなは観光客が多くいた、一段滝として日本一の落差を誇る那智大滝から少し離れた人気の少ない所を散策していく。

「いっぱい来たな。みんなおどろおどろしくて強そうだ」

 前方から近寄ってくる新たに見る敵モンスターの姿を多数発見すると、龍平のわくわく気分が高まった。

「和歌山に伝わる妖怪さん達のオンパレードですね。紀伊山地の霊場だけに妖怪さん達もおびき寄せられたのかしら?」

「大昔の妖怪絵巻風なデザインやね。お小遣い、めっちゃ増えそうや」

 聡実と真璃絵は楽しそうに微笑む。

「妖怪○ッチの妖怪さんはかわいいけど、あの妖怪さん達はリアル過ぎて怖ぁい。一つ目入道、特に怖いよう」

 果音は真璃絵にしがみ付いた。

「果音、よく見るとそんなに怖くはないよ。私は戦いたくはないから。龍平くん達で、なんとかしてね」

 遥子はちゃっかり龍平の背後に逃げる。

「あの一つ目入道、ボスっぽい雰囲気だな」

「一つ目入道は体力87あるけど見た目ほど強くないやのし。毒も持ってへんし。右から順に一つ目入道、肉吸い、那智の火、桂男、一本だたら、八咫烏や。今の皆様ならどれもきっと楽勝やのし」

「一本だたらが一番弱そうや。八咫烏もやさぐれた顔してはるね。龍平お兄さん、最強っぽい一つ目入道頼むわ。ワタシは肉吸いと一番戦ってみたい」

「果音さん、那智の火さんは水鉄砲で一蹴出来そうよ」

「あたしは妖怪が怖いから戦わなーい」

 果音は遥子の背後に隠れた。

「あらら」

 聡実、龍平、真璃絵はさっそく立ち向かっていく。

「やはり風も弱点のようね。もう、服溶かして来ないで下さいっ! エッチな火ね。リアルでは神聖視されてるのに」

松明に灯されたゴォゴォと燃え盛る那智の火は、聡実が保田紙うちわで何度か仰ぐと消滅。ブラとショーツが少し露になり一部焦げてしまった服も元に戻った。

「吸い付き攻撃も余裕でよけられたし、思ったより弱かったよ」

 真璃絵は長い黒髪美女姿の肉吸いに手裏剣を三枚投げつけて消滅させた。

 その矢先に、

「もう、一本だたらちゃん、エッチやわ」

 真璃絵は背後からショーツをずるりと脱ぎ下ろされたが、一本だたらをあっさり掴んで地面に叩きつける。これにて一本だたらも消滅した。

「筆攻撃けっこう強いな」

 龍平は背丈一丈ほどの一つ目入道に何発も殴られ、大きなダメージを食らわされるも、攻撃の手をやめず見事勝利。

「きゃぁぁぁっ、あの、助けて下さい」

 聡実は三本足で全長一メートルは超える八咫烏に箒で攻撃を与えている最中、桂男に襲われ体中をぺたぺた触りまくられてしまった。

「この桂男ちゃん、やけに嬉しそうやね」

 真璃絵はバットとカッター、

「エロ妖怪だな」

龍平は竹刀で立ち向かっていく。

「きゃっ、八咫烏が襲って来たっ!」

「ぎゃあああっ、こっちくるぅ! 龍平お兄ちゃん助けてーっ!」

 その間に遥子と果音の方へ羽ばたいて襲いかかろうとする八咫烏。

「真璃絵ちゃん、桂男頼んだ」 

「了解や」

「こら、待てっ!」

 龍平はなんとか追いついて竹刀を思いっ切りすばやく振り、顔にダメージを与える。

 会心の一撃が決まったか、はたまた聡実がすでにかなりダメージを与えていたのかあっさり消滅した。

「ありがとう龍平くん」

「龍平お兄ちゃん、ありがとう」

 遥子と果音は嬉し涙をぽろりと流す。

「二人とも無事でよかったよ」

 龍平はちょっぴり照れくさがった。

「桂男も黒インクとGペン使って退治したよ。攻撃のスピード遅いし楽勝やったわ~」

 真璃絵は嬉しそうに伝えてくる。

「胸、めちゃくちゃ揉まれちゃいました」

 聡実はしょんぼりした気分だ。

 ともあれようやく全滅。

「リアルなやつよりも美味いな」

龍平は妖怪達が残していった、那智黒かりんとを食して体力を全快させた。

「龍平様達、お見事やったで」

 見守っていた梅乃はパチパチ握手する。

「千円札五枚も増えとるし、また妖怪と戦いたいわ~。もっと来んかなぁ」

 真璃絵は周囲をきょろきょろ見渡す。

「妖怪は怖ぁい。早くボスの所へ行こう」

 果音は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「また何か来たぞ。あんな格好の人、この辺りけっこう歩いてるけど、あれは雰囲気的に敵だよな? 俺達狙ってるようだし」

 今度は壷装束に市女笠、虫の垂れ衣、草履を身に纏い、金剛杖を携えた若い女性が三体近づいてくる。

「その通りや。熊野古道大門坂平安衣装少女、体力は50やのし」

 梅乃が説明している最中に、

「ぅをあっ!」

 龍平は一体から金剛杖で腰を叩かれ数メートル吹っ飛ばされた。

「龍平くん、早くこれを」

 遥子はすぐさま潮岬めぐりを与えて回復させる。

「見かけによらず強そうやね」

 真璃絵は遠くからGペンと手裏剣を投げつけて一体を消滅させた。

「ひゃんっ、危ないよ平安衣装のお姉ちゃん、仕返しーっ!」

 もう一体から投げつけられた市女笠を果音はかろうじてかわすと、生クリームをお顔にぶっかけて休まず手裏剣を二枚投げつけて消滅させた。

「きゃんっ! ケホッ」

 聡実は残る一体を箒で背後から攻撃しようと試みたが、気付かれ金剛杖で腹部を突かれてしまった。しゃがみ込んで腹部を苦しそうに押さえつける。

「聡実ちゃん、はいこれ」

 遥子は那智黒を与えて回復させてあげた。

「接近戦はやっぱ危険だな」

 体力全快した龍平は残る一体にマッチ火を投げつけた。

「いゃぁんっ!」

 すると意外なことが。

平安衣装が全て一瞬で溶け、平安衣装少女はすっぽんぽんになってしまったのだ。

「うわっ!」

 龍平はとっさに目を逸らしたが、おっぱいから恥部にかけてばっちり目に映ってしまった。

「エッチッ!」

「うぼわっ」

「八咫烏様に訴えてやるわっ!」

 平安衣装少女は頬を真っ赤に染めて龍平にパチーンッと思いっ切りビンタを食らわし、捨て台詞を吐いてタタタタッと逃走した。

「杖よりビンタのが痛そう。マッチ火で攻撃しなくてよかったです」

 聡実はちょっとホッとしてしまった。

「最後にダメージ食らわされる欠点はあるけど、ゲーム上でも平安衣装少女を火で攻撃したらすっぽんぽんにさせることが出来てあっさり倒せるやのし」

 梅乃はにこにこ顔で楽しげに伝える。

「そんな設定にする必要なかったと思うけどな。首の骨折れるかと思ったぞ」

 龍平は涙目だ。ほっぺたに手形がしっかり付いていた。

「龍平くん、災難だったね」

 遥子がパンダの冒険ミルクパイを与えて回復させてあげると、龍平に付いた手形も瞬く間に消えた。 

「なかなかええもんが見れたわ~。CERO『B』様様やね」

 真璃絵は満足げに微笑む。

「おわぁっ、いっててて」

 その直後に龍平は八咫烏一匹に上空から襲撃された。顔や腕を断続的につつかれる。

「ゲーム上でも平安衣装少女すっぽんぽんにさせたらまもなく八咫烏から復讐される設定になっとるけど、平安衣装少女よりも弱い雑魚やさか特に恐れる必要ないやのし」

 梅乃はにっこり笑顔で説明した。

「平安衣装少女が最後に放った言葉、繋がってたんだな」

 龍平は鬱陶しそうに八咫烏の羽を竹刀でぶっ叩く。

 カァァァッ!

 八咫烏、怯んで龍平から少し遠ざかった。

「龍平くん、これ」

 遥子はすぐに蘆雪もなかで回復させに来てくれる。

「ありがとう遥子ちゃん、そんなにダメージ受けてないけど」

「ありゃ、よけられちゃったわ~」

 真璃絵のバット攻撃、空振り。

「このやさぐれた八咫烏さん、攻撃力は低いけどけっこう素早いですよね。さっき戦った時も何度もよけられました」

 聡実の箒攻撃、ぶんぶん振り回して羽に少しかすった。

「凶暴な八咫烏さん、くらえーっ!」

 カッ、カァァァッ、カアァァ~。

 果音は生クリームで真っ黒な八咫烏を真っ白に染めさせ弱らせ、休まず手裏剣を投げつけて消滅させた。

「果音ちゃん、見事だ。うわっ、今度はクマかよ?」

 またすぐに新たな敵襲来で、龍平の顔はちょっと引き攣った。

「……うっ、嘘でしょ。クマさんまで、出るなんて」

 遥子も姿を見た瞬間、口をあんぐり開けた。

「さすが秘境熊野古道、これはめっちゃ倒しがいがあるわ~」

「見るからに強そうだね」

 真璃絵と果音は嬉しそうに武器を構え、戦闘モードに。

「この敵は、明らかにやばいだろう。俺は戦わない方がいいと思う」

「まだけっこう遠くにいるので、わたしも戦わずに逃げた方がいいと思います。無駄な体力の消費も減らせますし」

「熊野古道中辺路グマ、体力は75。ゲーム上では熊よけの鈴を装備すると対戦避けれるで。98ある和歌山編最強雑魚、高野グマに比べれば弱いやのし」

「そうはいってもなぁ、うわっ、あっちからも熊が来たぞ。挟み撃ちだ」

 龍平は焦る。

「はわわわわわ。どうしよう?」

 遥子の顔は青ざめた。

「遥子ちゃん、落ち着いて。逃げることも出来なそうだし、戦うしかないみたいだな」

クウウウウウウウァ。

クォォォォォ。

 全長1.8メートルくらいの二頭の熊野古道中辺路グマが、低いうなり声を上げながらみんなのいる方にどんどん近づいてくる。

「俺に任せて」

 龍平はそう言うも、

こっ、こっ、こえええええ。俺よりもでかいぞこいつ。リアルツキノワグマはこんなにでかくないよな?

 心の中では恐怖でいっぱい。

それでも龍平は果敢に立ち向かっていった。

攻撃する前に、

 クゥゥゥアッ!

「いってぇぇぇ」

 鋭い爪で腕を引っかかれてしまった。

 けれども龍平はそれほど深い傷を負わされず。

「龍平様、防御力かなり上がっとるみたいやね」

「そうみたいだな。冒険始めたばっかのレベルならさっきので死んでたと思う」

 龍平は休まず竹刀で渾身の力を込めて何度か殴打し、見事倒すことが出来た。

「どうやっ!」

 クゥゥゥァッ。

 真璃絵は黒インクを投げつけ、もう一頭の熊野古道中辺路グマの目をくらませた。

「それっ!」

 果音はそいつの顔を泡立て器で攻撃。

 クーォォォ。

 熊野古道中辺路グマ、けっこうダメージを食らったようだ。

「わたしも協力するわ。次で倒せるかな?」

 聡実は箒で背中に攻撃を加えた。

「またもう一頭来たか」

 龍平は木の上から新たに現れた熊野古道中辺路グマとも格闘し、ダメージをほとんど食らわず勝利。

「龍平お兄さん、こっちも頼むわ。勝てると思ったけどめっちゃダメージ食らってしもうたよ」

 真璃絵は引っ掻かれたようで、腕から血を大量に流していた。

「あたしも突き飛ばされたよ」

「強烈なタックル食らっちゃいましたぁ。尋常でなく痛いですぅ」

 果音と聡実もうつ伏せでうずくまる。

「真璃絵も果音も聡実ちゃんも無茶はダメだよ」

 遥子は聡実に紀三井寺の鐘まんじゅう、真璃絵にうすかわ饅頭、果音に芋いもを与えた。

「よぉし。消滅」

 時同じく龍平、真璃絵達を襲った熊野古道中辺路グマに見事勝利。

 那智山煎餅を残していった。

「龍平くん、ありがとう」

「大変素晴らしかったです」

「龍平お兄ちゃん、強ぉい」

「龍平お兄さん、見直したよ」

「龍平様、さすが主人公や」

 他のみんなから拍手が送られた。

「これくらい余裕だって」

 龍平はちょっぴり照れてしまう。

「でも無理し過ぎはダメだよ。んっ? ひゃぁんっ! きゃあああああっ!」

 遥子は何かに全身を絡み付かれてしまった。

「那智クス衛門だ。名前の通り、クスの樹がモンスター化したやつやのし。てきゃは身動き封じてくるさか厄介やのし。体力は83。弱点は他の植物型の敵同様、炎や」

「見た目通りね。マッチで。きゃっ、きゃぁっ!」

 聡実も全身に絡み付かれてしまう。

「あーん、私のパンツに枝や葉っぱ入れないで」

「ぃやぁん、このクスさん、ぬるっとした樹液出して来たわ。いたくすぐった気持ちいいです」

 高さは四メートルほど。数十本に分かれた枝を自由自在に動かすことが出来ていた。

「こうなったら炎使えないな。俺に任せて」

 龍平は巻き付き攻撃に注意しつつ、那智クス衛門を竹刀でぶっ叩く。

「一撃じゃ無理か。うぉわっ!」

 攻撃し返され、枝でバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血が少し噴き出てくる。

「龍平くぅん、早く回復して」

「これくらいノーダメージと同じだよ」

 龍平は怯まず竹刀でもう一撃。

 まだ倒せず。

「くらえーっ!」

 果音は泡立て器攻撃を食らわせた。

「一八禁同人誌みたいなことしやがったエロクス、これでどうやっ!」

 真璃絵のバット攻撃でもまだ倒せず。

「しぶといな」

 龍平が竹刀でもう一発叩いてようやく退治出来た。

 那智黒を残していく。

「みんな、ありがとう」

「ありがとう、ございます」

 解放された遥子と聡実はかなり疲れ切っていた。

「なかなか倒せんかったんは、遥子様と聡実様の体力吸い取って自身の体力回復させとったさかやのし」

 梅乃は得意げに解説する。

「聡実お姉ちゃん、遥子お姉ちゃん、これで回復させてね」

 果音はじゃばらチーズケーキを一枚ずつ与えて全快させた。

「ここの敵、本当に手強いな」

 あまりダメージのない龍平は那智黒一個で全快させることが出来た。


        ☆


みんなはこのあと事前予約していた観光タクシーを利用して高野山へ。

金剛峯寺付近の人気の少ない所を散策していく。

みんな長袖を羽織って防御力をさらに高めた。

「リアル高野山も神々しい雰囲気やね。ちなみにゲーム内高野山で座禅、滝行、写経などの体験修行、宿坊宿泊をすると経験値が上がるやのし」

「俺はリアルでは体験修行はしたくないけど、ゲーム内の主人公には体験させてやりたいな」

「私が座禅したら絶対開始から十秒経たないうちにバチンされちゃうよ」

「ワタシは速攻あかんやろうな」

「あたしも絶対すぐに叩かれちゃう」

「わたしは三〇分くらいまでなら叩かれない自信ありますよ。あら、あのお坊さん達は、雰囲気的に本物じゃなさそうね。目つきがわたし達を狙ってるようだし、少し中に浮いてるし」

曲がり角から、警策などを手に持った丸刈り山吹色袈裟姿の人物が数体現れた。

「その通りやのし聡実様。高野山坊主くん、容姿は違えどみんな体力は同じ87やのし。一体だと今の皆様なら楽勝だろうけど、集団で襲って来られるとかなり手こずっちゃうと思うやのし」

 梅乃が解説した次の瞬間、

「うわっ、眩しいっ!」

 背丈一八〇センチ近くはある仏顔な一体の側頭部から照らされた激しい光が龍平の目をくらました。

「うっひゃぁっ、眩しいわ~。いくら坊主頭でも普通ここまでは光らんやろ。っていうか今曇っとるのに」

「太陽直接見たみたいだね。攻撃当たらないよう」

「わいの石頭光らせるのに太陽の力なんて必要ないねん。後光が射しとるからな」

 バット攻撃をしようとした真璃絵、泡立て器攻撃をしようとした果音にも光攻撃を食らわす。

「いたぁっ、めっちゃ効いたわ~」

「痛い、痛い」

「わいの石頭は弥勒石より硬いで」

 さらにそいつから頭突き攻撃も受けてしまう。

「きゃっ、やっ、やめてぇぇぇ~」

「ええやんかお姉ちゃん」

「この子、酔っ払ってるよ」

 遥子はぽっちゃり体型の一体にスカートを捲られキスまでされそうになる。

「やめてーな」

「きみ、ええ乳してるやん。うちの寺の尼さんになってくれよ」

 真璃絵は一番背が低い一体にしがみ付かれ、胸を揉まれてしまっていた。

「おれの股間の警策、きみの股間に当ててやるよ」

「やめて下さぁい」

 聡実は穏やかそうな顔つきの一体に馬乗りにされ服を脱がされかけていた。

「おいこら、何やってんだよ」

 龍平が攻撃しようとすると、

「あっちちぃ」

 別の一体に線香の火を手の甲に押し付けられた。

「坊主のお兄ちゃん、暴力はダメだよ」

「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」

「きゃぁんっ」

果音はそいつにヨーヨー攻撃をかわされ、抱きかかえられてしまう。

「坊さん、待てっ!」

 龍平は果音を襲った一体の背中を竹刀で攻撃し消滅させた。

「ありがとう龍平お兄ちゃん」

「どういたしまして。あとはあいつらを片付けないとな」

 龍平が竹刀で立ち向かっていこうとしたら、

「おいっ、盗るなよ」

「これ、めっちゃ美味そうやん。今夜みんなで祈親燈使って焼肉パーティしようぜ」

さらにもう一体にリュックを漁られ、旅館内の土産物屋で買ったリアル熊野牛ロース肉も奪われてしまった。

「真面目に修行してるリアル高野山のお坊さん達に失礼だよな、このゲームの製作者。訴えられかねんぞ」

 龍平は呆れ果てる。

「あのう、もう離れてー」

「ワタシ、筋肉質な男の子は嫌いやねん」

「のいて下さい。これ以上猥褻なことして来たらリアル和尚(わじょう)さんに通報しますよ」

 遥子と真璃絵と聡実は自身に抱き付いて来た高野山坊主くんを引き離そうとするが、力負けしてしまっていた。

「いい加減やめてやれ」

 龍平は竹刀で遥子を襲う高野山坊主くんを攻撃しようとするも、

「きみ、動き遅過ぎ。文化部か帰宅部やろ?」

「ぐわぁっ!」

 熊野牛ロース肉を盗んだ一体から警策で腰を叩かれてしまった。龍平はあまりの痛さにその場に崩れ落ちる。

「きゃんっ!」

 果音もその一体に突き飛ばされ、遥子達を襲う三体にしようとした手裏剣攻撃を阻止されてしまう。

「皆様、苦戦されてるね。お助けするやのし」

 梅乃はこう呟いたのち、

「おんあぼきゃべいろしゃのうまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん」

 お経を唱え出した。

 すると高野山坊主は皆、途端に悟りの表情を浮かべて龍平と果音を襲うのをやめ、遥子達も解放したのだ。

「私も酔っ払いそうになったよ」

 遥子は苦笑いで伝える。

「さっきのお経は、光明真言ね」

 聡実はホッとした気分で推測する。

「その通りやのし。高野山坊主くんはゲーム上でも光明真言を唱えれば途端に戦意喪失して楽に倒せるようになるやのし。ゲーム上では高野山であるイベントをこなせば覚えられるで」

「さっき目くらましした仕返しやっ!」

 真璃絵は黒インクを投げつけ、

「ぬわっ!」「おわっ!」「うおぉぉっ!」「うはっ! 目の前が暗黒に」

高野山坊主くん全員に命中させ目をくらますことが出来た。

「悪い坊主のお兄ちゃん達、お仕置きだよ」

 果音の手裏剣、

「こんな状態のを攻撃するのは悪い気はするけど」

 龍平の竹刀、

「やっぱお坊さんは坊さんの道具で倒すべきやろ」

「その方が本望なんじゃないかしら?」

 真璃絵と聡実は奪い取った警策で何発か叩き付け、消滅させた。

 酒饅頭、かるかや餅を残していく。

 リアル熊野牛ロース肉も無事取り返せた。


 みんなはボスが待つという奥之院へ向かってさらに歩き進んでいく。

「高野山坊主くん、また現れたな」

 一の橋付近でそれらしきのを龍平が発見すると、

「あの坊さんにあるまじき煩悩塗れなお兄さん、ワタシがやっつけるよ」

「あたしもやるぅ」

 真璃絵と果音は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。

「とりゃぁっ!」

 真璃絵はバットで背中を、

「坊主のお兄ちゃん、くらえーっ!」

 果音はヨーヨーで肩を一発攻撃した。

「いたたたぁ。こらこら、お嬢ちゃん、何しはんの?」

「まだ消えへんか。攻撃力足りんかったようやね」

「もう一発叩けば消えそう」

「あのう、このお方は本物の高野山坊主くんみたいやのし。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもあるやのし。リアルのを参考にしてデザインされとるゆえ」

 梅乃が苦笑いして呟くと、

「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ」

「おじちゃんごめんなさーい」

 真璃絵と果音は慌てて謝罪。

「いや、ええんよ。なんか昨日早朝からこの辺りでぼくらと同じ格好して若い女の子に猥褻な行為をするけしからん輩が出てるって聞いたし。お嬢ちゃん達はぼくがその者と思ったんやろ? では、嬢ちゃん達も気をつけて下さいませ」

 リアル高野山坊主くんはハハハッと陽気に笑って快く許してくれ、バス停の方へ足を進める。

「間違いなく敵モンスターの高野山坊主くんのしわざやな」

「きゃぁぁぁ~、このおじさんが、スカート捲って来た」

 遥子はまたすぐに新たな敵に背後から襲われてしまった。

「嬢ちゃん、かわいいのう」

「きゃっ! そんなとこ、筆で撫でないでぇぇぇ~」

「弘法にも筆の誤りがあったらごめんな」

 赤茶色の袈裟を身に纏っていた五〇代くらいの禿げ頭のそいつは尚も遥子の尻を触り、もう片方の手で筆を用いて恥部を撫で続ける。

「空海までモンスター化してるのかよ」

 龍平は思わず笑ってしまう。肖像画そっくりだったのだ。

「あ空海、体力は88やのし」

「敵モンスター名通り悪意に満ちた空海さんですね」

 聡実は箒であ空海の禿げ頭をぶっ叩く。

「お嬢さんもかわええのう」

「きゃぁっ!」

 今度は聡実のお尻を撫でてくる。

「あ空海のおじちゃん、くらえーっ!」

「ハハハッ、滝行慣れしとるわしにはノーダメージや。むしろ涼しくなって気持ちええわい」

 果音は水鉄砲で顔面を、

「ハハハッ。わしが昔滝行で頭に食らった流木よりは痛くないわ」

「タフなおっちゃんやなぁ」

 真璃絵は手裏剣でさらに顔面を攻撃するもまだ倒せず。

「これならどうだ」

 果音は生クリームを顔面にぶっかけた。

「おう、これは美味だ。精進料理に加えちゃおう」

 あ空海は体力回復してしまったようだ。

「やめて、やめてー」

「お嬢ちゃん、逃げんでもええやん」

 ほっぺたなどにまだ生クリーム塗れなあ空海は、元気いっぱいに遥子を追い掛け回す。

「弘法大師のリアル空海に失礼過ぎる行為だな」

 龍平が竹刀で背中を攻撃しようとしたら、

「あ空海奥義、護摩の灰」

「ぐはっ! 目が。口にも入った。ケホッ」

 灰をたっぷり顔面に投げつけられてしまう。

「接近戦は危険ね。あらら、失敗」

 聡実はマッチ火を投げつけたが、空振り。地面に落ちた瞬間、火はマッチ棒と共に消えた。

「よぉし、当たった」

 龍平はマッチ火をあ空海の背中に見事命中させる。

「お嬢ちゃん、わしが明経道の特別講義したるで」

「いいです、いいです。全く興味ありませんからぁ」 

 あ空海は全身ボォボォ燃えながらも尚も遥子を追い掛け回す。

「あ空海のおじちゃん、あまりダメージ受けてないみたいだね。さすが修行僧だね」

 果音は感心しながら両手を用いて手裏剣を二枚同時に投げつけ見事後頭部と尻に命中させた。

「十本まとめて食らわしたるわ~」 

真璃絵がすかさずGペンを投げ尻に命中させると、あ空海はようやく消滅した。

「みんなありがとう。太地捕鯨男や高野山坊主くん以上に恐ろしい敵だったよ。本物の空海さんも嫌いになっちゃいそう」

 遥子はホッと一息つくも、トラウマになってしまったようだ。

「鬱陶しさは今までの敵で最高レベルでしたね」

 みんなでさらに奥之院へ向かって散策していると、

「きゃあっ! この仏像さん、エッチだよぅ」

「ひゃっ! 今度は誰や?」

 遥子と真璃絵は背後から計二本の腕で胸を揉まれてしまった。

「予想通り、仏像もモンスター化してたか。愛染明王っぽいな。製作者、罰当たり過ぎだな。攻撃するのは罰当たりな気がするけど仕方がない」

 龍平はお怒りの表情な仏像型モンスターの背中を竹刀でぶっ叩く。

「ぐはぁっ!」

 次の瞬間、くるっと振り返ったそいつの尖った冠で突進されてしまった。

「高野山の仏像さん、愛染明王型は体力89。なかなか手強いやのし」

「エロ仏ちゃん、これでも食らいやー」

 真璃絵はマッチ火を投げつけた。

「愛染の仏像さん、くらえーっ!」

 果音は生クリームをぶっかけたのちヨーヨーで頭を攻撃。

「あのう、やめて、やめて」

「もう、愛染ちゃんったら」

 愛染明王は表情変わらず六本のうち二本の腕を用いて遥子と真璃絵のスカートを捲って来た。

「串本で見たアオリイカみたいな攻撃方法だな」

 龍平は愛染明王の背中をもう一度竹刀で攻撃しようとしたが、

「ぐはっ!」

 別の腕で突き飛ばされてしまった。

「愛染明王さん、くらいなさい!」

 聡実はマッチ火を投げつけ命中させたが倒せず、

「きゃっ!!」

 彼女も別の腕でショートパンツをショーツごと脱ぎ下ろされてしまった。恥部が露になってしまい慌てて穿き直す。

「きゃぁんっ!」

 果音もまた別の腕で捕まえられ投げ飛ばされてしまった。

「さすが高野山の敵、手強いな。倒せそうにない」

 聡実のぷるんぷるんな生尻を一瞬見てしまった龍平が苦い表情で呟いたその時、

「こらあああっ! 愛染、何やっとるかっ!」

 怒声がこだまする。

続いて現れたのは恐ろしい風貌の不動明王っぽい仏像だった。

「すまねえっ! 不動さん」

愛染明王はびくびくしながら謝罪するや、金剛三昧院方向へピュゥゥゥッと退散した。

 不動明王もすぐにこの場からいなくなった。

 花坂のやきもち、仏手柑、ごま豆腐を残していく。 

「高野山の仏像さん、不動明王型は味方モンスターやのし。仏像型の敵で苦戦すると助けに来てくれるで」

「それは心強いな。不動明王は風貌的には和歌山編のボスっぽいけど」

 龍平は感心していた。

「私もう二度と愛染明王には遭いたくないよ」

「わたしも同じく」

「あたしもそんなに遭いたくない。顔怖いもん」

「ワタシは自力で倒してリベンジ果たしたいけどね」

 みんな再び散策し始めてほどなく、

「ぃやぁんっ、もう、何するんですかっ、恵喜童子さん、そんなとこ、刺さないで下さい。あんっ! 痛いっ!」 

 新たに現れた仏像型モンスターに三叉戟で股間をショートパンツ越しにぐりぐりされた聡実は箒で背中を攻撃。会心の一撃で消滅させた。酒饅頭を残していく。

「聡実お姉さんさっきの仏像みたいにお顔紅潮させてええめっちゃ表情や。聡実お姉さんのこの表情は超レアやね」

「もう、撮らないで下さい真璃絵さん」

「あいてっ! ごめん、ごめん」

 デジカメをかざして来た真璃絵の頭も箒でパシンッと叩いておいた。

 直後に、

「やめてぇ~っ!」

遥子が新たに見る仏像型モンスターに襲われた。三叉戟でスカートを捲ってこようとして来たが遥子は素手で受け止めて回避した。

「遥子様、これに抵抗出来るとは強くなりましたね」

 梅乃は爽やかな笑顔で褒め称える。

「遥子お姉さん、それ奪い取って殴っちゃえっ!」

 真璃絵は楽しそうに眺める。

「これは何の仏像かなぁ?」

 果音はちょっと怯えながら問いかけた。

「恵喜童子と同じく高野山の八大童子の一つ、指徳童子よ。煩悩を打ち砕くために三叉戟を持つとされているのに、煩悩に負けて利用しちゃってますね」

 聡実は背後から箒で叩きつけた。

「ちなみにこの敵の体力は85やのし」

「霊宝館に展示されてるやつがモンスター化したんだな」

 龍平は竹刀で背後から叩きつける。

「黒くて怖い顔のおじちゃん、くらえーっ!」

 果音は指徳童子の顔面に生クリームをぶっかけたのち、手裏剣で攻撃した。

「硬い敵やね」

真璃絵がさらにGペンを投げつけてようやく消滅。

「みんなありがとう。まだ手が痛いよ」

 終始、スカートを捲られないように三叉戟を両手で握り締めて対抗していた遥子はホッと一安心した。

「不動明王が助けにくるまでもなかったか。うわぁっ、おい、やめろっ! いてててっ。松の葉っぱか?」

 今度は龍平が寺院の死角から襲われる。

「龍平くぅん!」

 遥子は深刻そうな面持ちで叫んだ。

「おう、龍平お兄さん拘束プレーされとるぅ。これは萌えるっ!」

 真璃絵は嬉しそうに携帯のカメラに収めた。

「まっ、真璃絵ちゃん、撮るなよ」

全長三〇メートルくらいの巨大な植物型モンスターから伸びて来た無数の葉っぱ付き枝で全身絡み付かれたのだ。

「コウヤマKILL、体力は92。絡み付き攻撃が得意やのし。松ぼっくり攻撃にも注意して」

「龍平お兄ちゃん、今助けるよ」

 果音は遠くから手裏剣と水鉄砲で幹を攻撃。

「これは接近し過ぎたらやばいね。那智クス衛門で学んだよ」

 真璃絵も手裏剣とGペンで幹を攻撃した。

「高野六木の一つ、コウヤマキのモンスターさんね。龍平さん、お任せ下さい」

 聡実は同じ箇所にマッチ火を投げつける。

 これにて消滅。高野豆腐と、焼きまんじゅう菓子【槇の雫】を残していった。

「めっちゃダメージ食らってしまった。まだ絡み付かれてる感覚が……」

 龍平も解放される。全身に切り傷がかなり出来ていた彼は、かるかや餅とごま豆腐を食して全快させた矢先に、

「きゃぁんっ、ヤマドリさんに襲われちゃいましたぁ」

「龍平くん、真璃絵、果音、助けてぇぇぇーっ!」

 聡実と遥子の悲鳴。コココ、コココッと鳴き声を上げつつ羽を激しくバタつかせるヤマドリ型モンスターに追いかけられていた。

「高野山ヤマドリ、体力は82。ここの敵では弱い方やのし」

 梅乃はそいつに完全スルーされていた。

「でかいな」

 龍平はその敵の姿に驚く。体長二メートルくらいはあったのだ。けれども怯まず竹刀を構えて立ち向かっていく。

「お肉美味しそう♪」

 果音も楽しそうに立ち向かっていった。

「ワタシも戦うよ。あっ、ちっ、ちっ。上から汁が垂れて来たわ~」

 髪の毛からお顔にかけてぶっかけられた真璃絵はとっさに木の上を見る。

 そこにいたのは豆腐、白菜、椎茸、春菊などが入った土鍋型のモンスターだった。

 体長は一メートルほど。枝の上に留まっていた。

「肉や魚は一切入ってへん精進鍋くん、体力は88。鍋を高速回転させて熱々な出汁や具の散布攻撃してくるさか接近戦は大変危険やのし」

「木の上からぶっかけ攻撃してくるなんて卑怯過ぎやっ!」

 真璃絵はすばやく手裏剣を投げつけた。

 命中して、精進鍋くんは木の上から落っこちる。

「さっきの仕返しやっ!」

 真璃絵は今度は黒インクを投げつけ、休まずマッチ火も投げつけて消滅させた。

 ぶっかけられた出汁の汚れも同時に消滅する。

「真璃絵お姉ちゃん、パワーアップしたね」

「一人で圧勝してたな」

 高野山ヤマドリを協力して倒した果音と龍平は感心する。

「これはボス戦自信沸いて来たわ~」

真璃絵が自信に満ち溢れた笑顔で呟いた直後、

「おまえら、おいらの存在に気付けないなんて灯台下暗しだな。おいら、おまえらが熊野那智大社で八咫烏とかと戦ってた時からすぐ近くで見てたんだぜ」

こんな声と共に、木の裏側から白い布のような物体が現れた。

長さは十メートルくらいはあった。

正体は一反木綿だった。

「捕獲成功♪ おいらの仲間を退治した仕返しだ」

「みんなぁぁぁ、たーすーけーてー」

「離して! 痛いやのし」

「あの、やめて下さい。離して下さい」

遥子と梅乃と聡実はあっという間に強く巻き付けられてしまった。

「おい、一反木綿、よくも遥子ちゃんと梅乃ちゃんと山東さんを」

「おーい、ワタシ達と戦ってやーっ!」

「遥子お姉ちゃんと梅乃お姉ちゃんと聡実お姉ちゃんを返せーっ!」

 龍平達は急いで駆け寄って行くも、

「返して欲しかったら、ここの町屋まで来いよ。ボスの潮岬灯台納言といっしょに楽しみに待ってるぞよ」 

 一反木綿はそう伝え、地図が描かれた紙を落として遥子達を巻きつけたまま空高く舞い上がってしまった。

「離して下さい。怖いです。わたし、高い所苦手なんです」

「みんなーっ、絶対助けに来てねーっ!」

「あんた、鹿児島編の敵モンスターじゃない。和歌山編に現れるなんて反則やのし」

聡実と遥子と梅乃は懸命に叫ぶ。

「本来主人公一人で攻略すべき和歌山編を、こんな大人数で攻めてくるおまえらの方がよっぽど反則であろう」

 一反木綿はこう主張して、さらに高く舞い上がりスピードを上げた。

「ここから二キロちょっと先か。そんなに遠くはないけどバスを使った方が良さそうだ。敵との接触も最小限に抑えられるだろうし」

「ワタシますます闘志が湧いて来たよ」

「お姫様の救出劇みたいになるね。急ごう!」

 龍平、真璃絵、果音は最寄りのバス停へ向かって走っていく。

 途中、高さ二メートルくらいの黒いお地蔵さん型の敵三体に行く手を阻むように遭遇してしまった。

「水向地蔵のモンスターっぽいな。こんなやつらに時間食ってるわけにはいかない。梅乃ちゃんいないからどのくらいの強さが分からないけど、風貌的に大したことなさそうだ。おっと、危ねっ」

 龍平は杖ぶん回し攻撃をしゃがんでかわすと、すかさず顔面を竹刀でぶっ叩き、一撃で消滅させる。

「お地蔵さん攻撃するんはめっちゃ罰当たりな気がするわ~」

 真璃絵は攻撃される前に手裏剣を顔面に二枚投げつけ消滅させた。

「お水を手向けたらきっと許してくれるよ」

 果音は顔面目掛けて水鉄砲を発射。四発で倒すことが出来た。

龍平達がまた走り出してからすぐに、新たに見る敵三体に行く手を阻まれてしまった。

高さは五メートルくらいあった。

「大門の金剛力士立像型モンスターかよ。阿と吽、両方いるし鬱陶しい。きっと弱点は火だな」

龍平はマッチ火を数本投げつけて二体いた阿形のうち一体を消滅させる。

「龍平お兄さんの読み当たったみたいやな。金剛ちゃん、燃やしたるで。おっと、意外に動き速いね」

 真璃絵は吽形の天衣振り回し攻撃をぎりぎりかわすとマッチ火を投げつけ、休まず手裏剣とGペンを投げつけて消滅させた。

「怖い、怖い」

 果音は怯えつつも手裏剣で残る阿形の一体をしっかり狙いを定めて攻撃。三発で倒すことが出来た。

 その直後、

「うをあっ!」

「ひゃっ、地面が盛り上がっとる、きゃんっ」

「きゃあああっ!」

 三人は下から突き上げられる形で弾き飛ばされ、けっこうダメージを受けてしまう。

なんと地面から金剛力士立像がもう一体現れたのだ。吽形だった。

「こんな登場の仕方までするとはな」

 龍平のマッチ火、

「金剛ちゃん、力自慢したいからって道路破壊したらあかんで」

真璃絵の手裏剣、

「あたし達急いでるのにっ!」

果音の怒りのヨーヨー攻撃三連発で攻撃の隙を与えさせずあっさり消滅させた。

 壊された石畳も元に戻る。

コココ、ココッ、コッコッコ。

 またすぐに高野山ヤマドリが三体、上空から襲い掛かってくる。

「おう、あっさり倒せたぞ」

「二発で消えるとは思わんかったわ」

「すごく弱く感じるね。あたし達またレベルが上がったんだね」

 龍平の竹刀、真璃絵のカッター、果音の泡立て器攻撃で、苦戦することなく倒すことが出来た。

 再び走り出した龍平達、ほどなくまた行く手を阻まれてしまう。

 体長二メートル以上はある、ツキノワグマ型モンスターだった。

「ここに出る熊だと、高野グマなんだろうな。熊野那智大社で見たのより体格良いし。うわっ、あぶねっ。ぐあっ、いってぇぇぇ!」

 鋭い爪を繰り出された。龍平はかわし切れず、頬がスバッと切れてしまう。

「接近すると危ないよね」

「高野グマ、ワタシ達急いどるねん」

 果音と真璃絵は手裏剣で攻撃を加える。

 一撃では倒せなかった。

「一頭は何とか倒せたけど、強過ぎだ」

 龍平はマッチ火と竹刀で頬を切り付けた一体に対抗し勝利を収めるも、足や腕にもけっこうダメージを食らってしまった。すぐに槇の雫などを食して体力を全快させる。

「ほんまに熊野古道中辺路グマよりも強いわ~」

 真璃絵は残った二頭に黒インクを投げつけ、目つぶし攻撃を食らわす。

 クゥゥゥオ!

 クァァァッ!

「真璃絵お姉ちゃん、けっこう効いてるみたいだよ」

「おう、上手くいったか!」

すばやく果音と真璃絵は手裏剣、

「真璃絵ちゃん、ナイスだ。熊怯んでるぞ」

龍平はマッチ火攻撃を、休まず何発か食らわし全滅させた。

「みろく石と笹巻あんぷ落してくれるなんてちょうどよかったわ~」

「太っ腹な熊ちゃんだね。美味しそう♪」

「やっぱ高野グマだったみたいだな。でも圧倒的な強さの差はなくてよかった」

 その後は敵に遭遇することなく、大勢の観光客がいた最寄りのバス停に辿り着くことが出来た。

「次のバス八分後か。待ってる間に走って行った方が速く着けそうだけど、敵に遭ったら足止めされちゃうから待つか」

「その方が良さそうやね。急がば回れや」

「遥子お姉ちゃん達無事かなぁ。早くバス来ないかなぁ。あっ! バス来たよ」

「臨時便が出たみたいだな。運が味方してくれたか。遥子ちゃん達、無事でいてくれよ」

龍平達が高野山駅前行きバスに乗り込んでから数分が経った頃、

「めっちゃ痛いやのしぃ」

「締め付け弱めて、っていうか、離して下さいっ!」

「私、おしっこしたくなっちゃった」

 聡実と梅乃と遥子は高野町内にあるとある町屋の和室隅で、かずらで全身を拘束されていた。

「縛られた女子(おなご)を眺めもて飲む色川茶はじつに美味しいわ」

「そうですね、潮岬灯台納言」

 高さ二メートル近くの潮岬灯台納言と、一反木綿は彼女達のすぐ側で茶を啜っていた。

「きゃっ! パンツ捲って来たよ」

「いやらしいやのし」

「なんともエッチなかずらさんですね。外れないわっ」

 縛られた三人は必死で振り解こうとするも、なすすべなし。

「この子は徳島編に出る祖谷のかずら衛門だからね。那智クス衛門よりも五倍は強いわよ。オホホ、いい肉がとれそう♪」

 潮岬灯台納言はにやりと微笑む。リアルのものとは違い、壁面の開口部分を変形させて表情を自在に作ることが出来るようだ。

「ぼたん鍋といっしょに煮込むとより美味しくなりそうですね」

 一反木綿も微笑む。

「私達、食べられちゃうの? 私、脂肪と贅肉だらけだからすごく不味いよ」

「わたしも同じく大変不味いです。ムダ毛も多いですよ。食べないで下さい」

 遥子と聡実の顔が青ざめる。

「遥子様、聡実様。冗談で言っとるんやと思うで」

 梅乃は笑っていたが、やはり恐怖心を感じていた。

「さてと、そろそろ調理を始めましょっか」

「潮岬灯台納言、出刃包丁持って来ましたぜ。まずは一番美味そうな太ももから裂いていきましょうや」

 一反木綿は自身に巻き付けて運んで来た。

「いやぁぁぁ~、やめてぇぇぇーっ!」

 遥子は恐怖心で目から涙からこぼれ出た。

「本当に、やる気なのですか?」

 聡実の表情も引き攣る。

そんな時、

「みんなーっ、助けに来たよ」

「おっ待たせーっ! ボスバトル、めっちゃ張り切るで。おう、潮岬灯台納言、リアル潮岬灯台にそっくりや。高さは十分の一くらいしかないけど」

「みんな無事か?」

 龍平達、到着。

「龍平くん、果音、真璃絵。来てくれてよかったぁぁぁぁぁ~」

「龍平さん、果音さん、真璃絵さん、わたし達が犠牲になるまでに間に合うと信じていましたよ」

 遥子と聡実は嬉し涙をぽろりと流す。

「龍平様、果音様、真璃絵様。健闘を祈るやのし」

 梅乃はホッとした笑顔で伝えた。

「オホホ、よく来たわね」

「おまえらに勝てるかな?」

「潮岬灯台納言って、やけに可愛らしい声出してるけど女なのかよ? とにかくみんなを早く解放してやれ」

 龍平は険しい表情で訴える。

「吾がらに勝てたら解放してやろう。吾がが出る幕もないと思うがのう。こっちゃおいなあ吾がのしもべ達」

 潮岬灯台納言が紀州弁まじりでそう言うや、

「こんばんはにゃあ」

 こんな声と共に、この和室の天袋が開かれた。

 中から現れたのは、人間の言葉でしゃべる白黒茶の毛並みな三毛猫だった。

 駅長帽を被っていた。

「今は亡き初代たま駅長にそっくりぃ♪」

 果音も、

「本当にそっくりだね。かわいい♪」

「この子も敵なのでしょうか?」

 遥子と聡実も姿に魅入ってしまう。

「素早そうだな」

「強そうに見えんけど強いんやろうね」

 龍平と真璃絵は油断せず武器を構える。

「てきゃはゲーム上でも潮岬灯台納言戦の直前に戦う中ボスの悪たま駅長、体力は80やのし。コウヤマKILLや高野グマよりも弱い雑魚やで。龍平様達なら特に問題ないと思うやのし」

「リアルたま駅長とは違って、わがはいの寿命は数百年だにゃん」

 悪たま駅長は二本足で立ち上がってどや顔で主張する。

「悪たまちゃん、お手♪」

 真璃絵は手をスッと差し出してみた。

「はいにゃ」

 悪たま駅長は快く応じる。

「隙ありやっ!」

「ぎゃにゃあああっ!」

 真璃絵はすかさずバットで悪たま駅長の頭をぶっ叩いた。

「悪いたま駅長さん、くらえーっ!」

「ぷにゃぁっ!」

 果音は生クリームをぶっかける。

「弱そうだな」

「ぎゃんっ!」

 龍平も竹刀で容赦なくぶっ叩く。

「やったにゃ。肉球パーンチッ!」

「ぐぉっ、攻撃力意外と強いな」

 龍平は腹部をポンッと押され、突き飛ばされてしまった。

「わがはいはいい子だから、攻撃はもうやめて欲しいにゃぁ」

 悪たま駅長は招き猫のような手招きポーズをしてお願いしてくる。

「……なんか、攻撃する気にならんな」

「ワタシもーっ」

「あたしもだよ」

 龍平達は武器を床に置いてしまう。

「あらら、龍平様達、憐れみ状態に。これに惑わされちゃうとは経験値不足やったのし」

「にやり」

「いっててててぇぇぇーっ!」

 悪たま駅長はにやけ笑いを浮かべて龍平に飛び掛かり腕を引っ掻いて来た。

 龍平の腕から血が噴き出てくる。

「必殺、駅長帽ブーメラン」

 悪たま駅長は駅長帽を真璃絵と果音に投げつけた。

「いたぁいっ!」

「あいたっ、目に当たったわ」

「みんなーっ、かわいそうだけど、攻撃しちゃって」

「龍平さん、果音さん、真璃絵さん、このたま駅長さんは敵ですよ」

 遥子と聡実からそんな声が飛ぶも、龍平達はまだ戦意喪失したままだった。

「肉球パーンチ」

「いってぇ」

「もう、痛いわ~」

「きゃんっ、でもかわいいしぐさだから許せちゃうね」

 悪たま駅長は引き続き龍平達に攻撃を与えていく。

「龍平様達、このままでは体力0になっちゃうやのし」

 梅乃は気まずい面持ちで危惧する。

「ホホホ、この子達、雑魚過ぎね」

「人間共はかわいいものに弱いからのう」

 潮岬灯台納言と一反木綿は嘲笑う。

「さてと、次はこの眼鏡の子のパンツ脱がせようかにゃ」

 悪たま駅長は、肉球パンチの衝撃で尻餅をついた真璃絵のスカートの中へ潜り込む。

「もう、メスのくせにエッチな猫ちゃんやね。仕返しや悪たま駅長」

 真璃絵は立ち上がった瞬間、ようやく正気に戻ったようだ。Gペンを投げつけようとすると、

「効果切れちゃったにゃか。やめて欲しいにゃ」

 悪たま駅長はまたしても手招きポーズをとった。

「二度も同じ手は効かんわ」

 真璃絵は哀れみ状態にされず、容赦なくGペンを投げつけた。

「ぐにゃんっ、あにゃ? なんでにゃ? 何度でも効くはずにゃのに」

 悪たま駅長、目を大きく見開き唖然。

「真璃絵様、正気に戻ってくれてよかったやのし」

「真璃絵、頑張れーっ!」

「真璃絵さん、容赦なく攻撃しちゃって下さい」

 梅乃達もホッと一安心する。

「俺も正気に戻れたぞ。本当に悪いたま駅長だな」

「ぐにゃっ」

 龍平も竹刀で頭をぶっ叩いた。

「悪たま駅長さん、さっきの仕返しだよ」

 果音も容赦なく生クリーム&水鉄砲で攻撃。

「うにゃん、まいったにゃ」

 悪たま駅長はそう告げて、ポンッと消滅した直後に、後ろの襖が開かれた。

「悪たま駅長ごとき瞬殺出来ないようじゃ、おれっちに勝つのは絶対無理だろうな」

 そして別の敵モンスターが登場する。

「おう、あなたは昨日の男の娘! 今日は服装もかわいいわ~♪」

 真璃絵は満面の笑みを浮かべた。

「根暗っぽい姉ちゃん、昨日はよくもやってくれたな。今日のおれっちは本気モードだぜ。仕返しだぁーっ!」

 花柄チュニックに水玉ミニスカートを穿いた男の娘姿の一つ目狸はそう言うや、真璃絵に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。

「こっ、こら。おっぱい揉まんといて。力抜けちゃうから」

 予想以上のすばやい動きだったため、真璃絵はちょっぴり動揺してしまった。

「それそれそれーっ」

「あぁっん、もうやめて欲しいわ~」

 優しく揉まれるごとに、真璃絵のお顔はだんだん赤みを増していく。

「おいっ、やめろっ!」

 龍平は一つ目狸の後ろ首襟を掴んで引き離そうとした。

「動き遅過ぎ♪」

 しかし余裕でかわされた。

「きゃんっ!」

 弾みで龍平の右手が真璃絵の胸に服越しだがしっかり触れてしまう。

「ごっ、ごめん真璃絵ちゃん」

 龍平は反射的に右手を引っ込めた。

「いや、べつにええよ」

 真璃絵は照れ笑いする。

「みんな頑張れーっ!」

「うち、期待しとるやのし」

「龍平さん達なら絶対勝てると信じてますよ」

 遥子と梅乃と聡実はきつく縛られて苦しそうにしつつも、温かいエールを送ってくれた。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、くらえっ! フラーッシュッ!」

 果音はポケットからデジカメを取り出し、一つ目狸の写真を撮った。

「ぎゃっ、目がくらんだ。卑怯だぞおまえ」

 怯む一つ目狸。

「卑怯じゃないもん」

 果音は続いて水鉄砲を取出し、一つ目狸の顔面目掛けて連射。

「うひゃぁぁぁっ!」

 けっこう効いたようだ。

「一つ目狸、動き鈍ったな」

 龍平はすかさず竹刀で一つ目狸の腹をぶっ叩く。

「いってぇぇぇ。こうなったら……」

 一つ目狸は本来の姿に戻るや、口から糸を吐き出した。

「ん? うわっ!」

 龍平は体中を巻きつけられてしまった。

「どうよ、奥義、一つ目狸の糸車♪」

 一つ目狸は得意げに笑う。

「身動きとれねえ。うわっ」

 龍平、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。

「龍平お兄さん、ワタシがほどくよ」

「あたしも手伝うぅ」

 真璃絵と果音は龍平の側へ駆け寄っていくが、

「おまえら油断し過ぎ。それぇっ!」

「うわっ、引っかかっちゃった!」

「しもた。油断したわ~」

 一つ目狸に龍平と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。

「ホホホ、いい気味ね」

「これで攻撃し放題だな」 

 潮岬灯台納言と一反木綿はにやりと笑う。

「おれっち、真璃絵っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい。おれっちに猥褻なことした仕返ししてやるぅっ!」

 一つ目狸は男の娘姿に戻り、にやにや笑いながら真璃絵の方へ近づいていく。

「くっそ、糸さえほどければ」

「ワタシ達、大ピンチになっちゃったよ」 

「ほどけないよぅーっ」

 龍平、真璃絵、果音。自分で糸をほどこうとするがほどけず。

「龍平くぅん、果音、真璃絵ぇ。助けてあげられなくてごめんねー」

「うち、何も出来ないのが甚だ悔しいやのし」

「わたしも同じく」

 遥子と梅乃と聡実は心配そうに見守る。

「姉ちゃんのお尻の穴無理やり広げて自然薯プスッて突っ込んでやろうか。ちょうど持ってることだし。それから警策で十発くらい叩こうかな?」

 一つ目狸はにやにやしながら真璃絵の側でしゃがみ込む。

「あーん、屈辱やぁ」

 真璃絵は頬を火照らせ照れ笑いする。

「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃないか。ひょっとして姉ちゃん、マゾ?」

「いやぁ、嬉しくはないって」

「本当かよ? 真璃絵って子、おれっちは心優しいからお尻に突っ込む前に痛くないようにガマの油を塗ってあげるからね。そうしないと入らないだろうし。ついでに姉ちゃんのアンダーヘアーも観察してあげる。紀伊山地の原生林かな? それとも白良浜海水浴場の砂浜か? 楽しみ♪ さてと、まず手始めに姉ちゃんのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないじゃないか」

 一つ目狸はそのことにたった今気付いたようだ。

「一つ目狸ちゃんったら、ドジッ娘やね」

 真璃絵はくすっと笑った。

「こうなったら、スカートの周りだけ糸外してやるぅっ!」

 一つ目狸はむきになってスカートポケットから鎌を取り出した。

「きさまの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」

「おーい、俺の尻見たって何も得しないぞ」

 龍平は呆れた表情で主張した。

「ワタシも龍平お兄さんの生尻見たい! 一つ目狸ちゃん、ワタシにも見せてね」

「いいぜ。まずおれっちが拝見してからね」

「よっしゃぁ!」

「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」

 龍平はいらっとした表情を浮かべていた。

「あたしは龍平お兄ちゃんのお尻、昨日見たばっかりだよ。いっしょにお風呂入ったもん」

 果音はにこにこ顔で伝える。

「果音ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」

 龍平は穴があったら入りたい気分だった。

「羨ましい! どんな感じだった?」

 一つ目狸は興奮気味に質問する。

「パパのお尻よりは小さかった」

 果音はにこにこ顔のまま答えた。

「そっか。まだ成長途中だもんな」

「ワタシが最後に龍平お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかな?」

 真璃絵はにやついた表情で呟く。

「おまえら、いい加減にしてくれ」

 龍平、ますます居た堪れない気分に陥る。

「姉ちゃんも見たことあるのかよ。ますます許せなくなったぜ。こちらの果音っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげるよ」

 一つ目狸はそう伝えてパチッとウィンクした。

「ええーっ、それは嫌だなぁ」

 果音は苦笑い。

「真璃絵ってやつ、大人しくしてろっ! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鎌はめっちゃ切れ味良いからね」

 一つ目狸は真璃絵のスカートに接している糸の結び目部分をスパッ、スパッ、スパッと三箇所切る。

「これでスカートずらせる」

 一つ目狸がにやついた表情でそう呟くや、

「スカートずらせるだけやないよ、一つ目狸ちゃん」

 真璃絵はガバッと立ち上がった。

「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」

 唖然とする一つ目狸。

「そうみたいや。一つ目狸ちゃん、やっぱドジッ娘ね」

 真璃絵はにっこり微笑む。

「真璃絵お姉ちゃん、自由になれたね」

「一つ目狸、自滅したな」

 龍平と果音は安堵の表情を浮かべた。

「こうなったら、実力で」

 一つ目狸はまた本来の姿に戻り、真璃絵に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして真璃絵のお腹にパンチを食らわそうとしたが、

「ワタシ、昨晩よりはレベル上がってるからそう上手くはいかんよ」

 真璃絵は余裕で一つ目狸の体にガバッと抱きついた。

「あれ? なんでそんなに動きいいの?」

「さっきのは演技や。よっと」

「わーん、おーろーしーてー」

 そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま果音のもとへ。

「果音、じっとしててね」

「うん」

もう片方の手で地面に落ちた鎌を拾い、果音の体に接している糸の結び目を何箇所か切る。

これで果音の体は自由になった。

真璃絵は同じ要領で龍平の体に絡み付いている糸も、

「この格好のままの龍平お兄さんもなんか萌えるから、そのままに」

「こらこら真璃絵ちゃん。早く切れって」

「真璃絵、龍平くんで遊んじゃダメだよ」

「真璃絵お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」

「冗談、冗談。ごめんね龍平お兄さん」

 一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。

「真璃絵ちゃん、ありがとな」

「どういたしまして」

「さてと、こいつをなんとかしないとな」

 龍平は竹刀を持って、一つ目狸の側へにじり寄る。

「やめて下さい。おれっち、反省します」

 うるうるした瞳で言われるが、

「許さない」

 龍平は容赦なくぽっこりふくれた腹を竹刀でぶっ叩き、消滅させた。

「やったね龍平くん」

 遥子は嬉しそうに微笑んだ。

「やりよるのう」

 潮岬灯台納言はちょっぴり感心しているようだ。

 一つ目狸が消えた後には、柄の違う水玉ショーツが二枚残されていた。

「遥子お姉ちゃん、これ、昨日盗まれたやつでしょ?」

「うん、それだよ。戻って来て良かった♪」

「よかったね遥子お姉さん。なんか、よだれでべっとりしとるよ」

 真璃絵は手で掴もうとしたが、思わず引っ込めた。

「じゃあ、もういらなーい。捨てといて」

 遥子は嬉しそうな笑顔から悲しげな表情へと変わった。

「変態狸だな」

 龍平は呆れ笑いする。

「あいつはゲームの中でも人間の女によくエロいイタズラしてるぞよ。妖怪のくせに妖怪の女には全く興味ないそうだ。さて、おまえら、次はおいらと勝負だっ!」

 一反木綿は龍平達に立ち向かって来た。

「一反木綿なんて所詮布やろ?」

「うわっ、しまった」

 真璃絵はカッターで一反木綿をズバッと切り付けた。一反木綿の体に切れ目が入る。

「べとべとびちょびちょにしたら弱りそうだね」

 果音は生クリームと水鉄砲を命中させた。

「ぬぉぉぉっ」

 一反木綿、ぐっちょり濡れて弱る。

「俺が戦うまでもなく勝てそうだな」

 そんな無様な姿を見て龍平はにこっと笑った。

「こいつ、思ったより弱いやん」

「真璃絵お姉ちゃん、いっしょにとどめ刺そう」

 真璃絵はバット、果音は泡立て器を一反木綿に向けた。

「こうなったら」

 一反木綿は目をきらっと輝かせる。

 するとなんと、

「えっ! 嘘?」

「ありゃ? 足が……」

 深刻な事態へ。

果音と真璃絵はあっという間に石化されてしまったのだ。

「あっ、果音っ! 真璃絵ぇ!」

「果音さん、真璃絵さん!」

 遥子と聡実、予想外の光景に思わず叫んだ。

「魔法は、使えないはずじゃ」

 唖然とする龍平に、

「これは妖力だからね」

 潮岬灯台納言は得意げに言う。

「真璃絵と果音が、石になっちゃったぁぁぁ~」

 遥子は嘆きの声を漏らし、悲し涙をこぼす。

「心配しないで遥子様。石化を解く粉を使えば、つまり一反木綿を倒せば、手に入って元に戻せるで」

「本当?」

「はい。一反木綿、和歌山編の敵では使ってこない妖力使うなんてますます卑怯や」

「だから卑怯なのはおまえらの方だろう」

 一反木綿はフフフッと笑って得意げに反論する。

「なんだ。急に体に異様な疲労感が」

 龍平はハァハァ息を切らす。

「おいらの妖力できみの体力吸い取っちゃった♪」

一反木綿は完全復活してしまった。

「そんな技まで使えるのかよ」

 龍平は那智黒を食して、体力を八割方回復させた。

「おいらじゃ男には石化攻撃は効かんっていう謎設定は納得いかんがのう」

 一反木綿は少しやさぐれた表情で言う。

「ほほほ、吾がとてきゃ、おまはん一人で倒すしかないわよ」

 潮岬灯台納言は勝ち誇ったようにフフフッと微笑む。

「本気で行くぞっ!」

 龍平は怒りに満ちた表情を浮かべ、竹刀を潮岬灯台納言目掛けてすばやく思いっ切り振りかざす。

「きゃんっ、いっ、痛ぁい」

 見事直撃し、潮岬灯台納言は甘い声を漏らした。

「龍平様、ええ振りやのし。乗り気なようで嬉しいわ~」

「みんなを救うために、本気になってくれてるね」

「龍平さん、主人公らしい活躍振りですね」

 梅乃と遥子と聡実は賞賛する。

「大丈夫か?」

 龍平はにっこり笑い、心配してあげた。

「敵に情けをかけるなんて、日本人らしくないわね。これでもくらいなさい坊や」

潮岬灯台納言は上部分をピカッと光らせる。

「うわっ! とてつもない眩しさだ。高野山坊主の比じゃないぞ」

 龍平は目がくらんでしまった。

「ここからは相撲勝負よ。はっけよい、のこった!」

 潮岬灯台納言はその隙に龍平に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。

「しまった。うっ、動けねえ。重いっ。なんてパワーだ」

「どんどん重くなってくるわよ♪」

「ぐあぁっ!」

 龍平は必死に振り解こうとするが、どうにもならず。

「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」

 一反木綿はにこにこ顔で呟いた。

「龍平くーん、頑張ってー」

「龍平様、早くやっつけちゃって下さい。長引くとまずいで」

 遥子と梅乃からそう言われるも、

「それは、ちょっとな……」

 龍平は何も活路を見い出せなかった。

「それっ、縦四方固よ♪」

 潮岬灯台納言は柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。

「いってててぇーっ!」

 苦しがる龍平。

「そろそろ参ったって言った方がいいんじゃないかしら? おまはんのかだら、一反木綿みたいにぺっちゃんこになっちゃうわよ♪」

 潮岬灯台納言は嘲笑う。

「まだ降参はしない。振り解いてやるっ!」

「龍平様ぁ、もう降参して下さい。体力が0になっちゃうやのし」

「龍平さん、もう無理はしないで。これはゲームなんだから」

「そういうわけにはいかない。俺は、主人公、だから」

 龍平は非常に苦しそうな表情で伝える。潮岬灯台納言を自分の体からなんとか引き離そうと懸命に力を込めて続けてみるも、潮岬灯台納言はびくともせず。

「吾がはまだまだ本気で圧し掛かってないのよ。かだらをもっともっと大きく重くすることが出来るからね」

 潮岬灯台納言はにっこり笑っていた。余裕の表情だ。

「関係ない。俺は、全力を、尽くす、だけだ」

「ほほほ、起き上がれるものなら起き上がってみろ」

「ぐぁっ、ダメだ。こいつ強過ぎる。くっそ。もう少し、レベルを、上げて、いれば……」

 龍平の意識は徐々に薄れゆく。

「龍平くぅん、しっかりしてーっ」

「申し訳ないです龍平さん、わたし達は無力でした」

「龍平様、今のレベルじゃ勝ち目はないで。降参して、もっとレベルを上げて再チャレンジしよら」

 遥子、聡実、梅乃の三人は涙をぽろりと流しながら伝えた。

「いや、それは……」

 龍平は朦朧とした意識の中で懸命に呟く。

「吾がの勝利ってことでオーケイ?」

 潮岬灯台納言は満面の笑みで勝利宣言。

「主人公もまだまだレベルが足りんな」

 一反木綿も嘲笑う。

その直後だった。

驚くべきことが起きた。

「あれ? ワタシ、どうなってたんや?」

「あたし、動けるようになってる」

 真璃絵と果音が石化から元の状態へ回復したのだ。

「真璃絵、果音。よかったぁ!」

「二人とも、戻ってくれてよかったです」

「おう、奇跡や。あっ、あれ?」

 さらに遥子、聡実、梅乃も絡み付いたかずらが解かれ自由の身になった。

「なっ、何ゆえ?」

「そんな、バカな。なぜなの?」

 一反木綿と潮岬灯台納言も思わぬ事態にあっと驚く。

「潮岬灯台納言、軽くなったな」

「きゃんっ! しまった。つい力抜いてしもうたわ」

 龍平は潮岬灯台納言を突き飛ばし、すっくと立ち上がった。

「龍平様も完全復活やね」

「龍平くん、よかったぁぁぁっ!」

 遥子は歓喜の叫びを上げ嬉し涙を流した。

「どういうわけか、体力も全快したみたいだ」

 龍平は元気溌剌とした声で伝えた。

「なぜよ? あり得へん」

 潮岬灯台納言が呆気に取られた表情で呟いた。

 その矢先、

「これこれ一反木綿、潮岬灯台納言、何しとんどすか?」

 女性の穏やかそうな声がこだました。

「この声は、舞妓さん様?」

「あら、舞妓さん。なっ、なぜここにあるの?」

一反木綿と潮岬灯台納言はびくりと反応した。

「ゲームの外に飛び出して、こんな所で油売ってたらあかんどすえ」

 声の主はみんなの目の前についに姿を現す。

「舞妓のお姉ちゃんだぁ!」

「ワタシ生舞妓久し振りに見たわ~。めっちゃ美人やけど、一反木綿ちゃんと潮岬灯台納言ちゃんのそのびびり方からすると怒ったらめっちゃ怖いんやろね」

「本物の舞妓さん?」

「このお方も、敵モンスターなのでしょうか?」

三姉妹と聡実は不思議そうにじっと見つめる。

着物姿、イメージ通り顔や首に白粉が塗られていて、濡れ羽色の髪を花簪で留めた、おふくの髪型。背丈は一五〇センチくらいと小柄で穏やかそうな雰囲気を醸し出していた。

「敵モンスターという設定になっとるえ。あんたら、あての女子力で石化を解除して、かずら衛門も瞬殺しておいたえ。あと龍平と申される軟弱そうな男の体力も全回復させておいたえ」

 舞妓さんはおっとりのんびりした京ことばで得意げに伝える。

「そんな能力が使えるとは、相当強い敵モンスターなのでしょうね」

 聡実は感服したようだ。

「モンスター化した舞妓さんは京都編の量産型の雑魚敵で、体力は2000以上あるで」

「雑魚で2000越えって! 和歌山の次に進むべきステージが、京都じゃないってことは確かだな」

 龍平もちょっぴり恐縮してしまう。

「あれー? 痺れて動けないわ。リアル潮岬灯台のごとく」

「おいらもだ」

「あてが女子力全開で痺れをかけたからえ。あんたら、今のうちに倒しとき」

 舞妓さんはほんわかした表情で勧めて来た。

「それじゃ、遠慮なく。潮岬灯台納言、覚悟しろっ!」

「きゃぁんっ! 痛ぁ~い。もっと優しくしてぇ~」

「それは不可だ」

「ひゃぁんっ、そこはダメェ~」

 龍平は潮岬灯台納言を竹刀で何度も攻撃しまくる。悶えた表情で色気ある悲鳴を上げるも容赦せず。

「一反木綿、ワタシを石化したお返しや」

「一反木綿のおじちゃん、覚悟してね」

 真璃絵は黒インク、果音は生クリームと水鉄砲を用いて攻撃する。

「うぎゃぁぁぁっ!」

 インクと生クリーム塗れでふやけて一部破けてしまった一反木綿に、

「ボスの潮岬灯台納言さんは、主人公の龍平さんが一人で倒した方が良さそうですね。わたしが一反木綿さんにとどめを刺すわ」

 聡実はマッチ火を投げつけた。

「ぐげぇぇぇ。あっ、ちっ、ちぃっ」

 一反木綿、苦しそうに跳ね回る。

「なんか、かわいそうになって来た」

 心優しい遥子は同情してあげた。

「もう、やめてくれ。おいら、ゲームの中に戻るから」

「吾がもじゃ。降参じゃ、降参。吾がを痛めつけるのはやめて、お願いじゃ」

 一反木綿と潮岬灯台納言は怯えた様子で懇願してくる。

「ワタシ、もう満足したからええよ」

「あたしも許してあげるよ」

「わたしも、許しますよ」

「皆様心優し過ぎるやのし」

「俺は許したくないけど、これで俺達の勝ちってことでいいな?」

 龍平が確認を取ると、

「うむ、吾がらの負けじゃ」

「おいら達の負けでいいよ」

 潮岬灯台納言と一反木綿はあっさり負けを認めた。

「龍平様、最後は主人公らしく締めましたね」

 梅乃は満面の笑みを浮かべる。

「龍平くん、ありがとう。すごく格好良かったよ」

「龍平さん、無力なわたし達を救って下さり、誠にありがとうございました」

 遥子と聡実は、龍平の手をぎゅっと握り締めた。

「いや、べつに当たり前のことをしただけだから。礼なら真璃絵ちゃんと果音ちゃんと舞妓さんの方に言って」

 龍平はかなり照れてしまう。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、龍平の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。

「龍平お兄さん照れてる照れてる。ともあれワタシ達の勝ち決定やね」

「これでリアルな和歌山編クリアだね」

 真璃絵と果音は満面の笑みを浮かべる。

「あんたら、一反木綿と潮岬灯台納言が多大なご迷惑をおかけして本当にすんまへん。二度とリアル世界に飛び出て悪させんよう、しっかり懲らしめときますので。一反木綿、潮岬灯台納言、みんなに謝りなはれ」

「いっ、て、て、てぇ。ごめん」

「ごめんなさーい」

 舞妓さんはみんなに向かって深々と頭を下げて謝罪。一反木綿と潮岬灯台納言も無理やり下げさせられていた。

「いえいえ。うち全然気にしてへんので」

 梅乃は苦笑いを浮かべる。一反木綿と潮岬灯台納言のことを少しかわいそうに思ったようだ。

「龍平といわはるお方、あてら、ゲーム内に帰るから、今から出すテレビにゲーム機を繋いで例のゲームを起動させてくれへんやろか?」

 舞妓さんはそう頼んで畳にぶぶ漬をばら撒くと、四八インチ液晶テレビが現れた。

「おう、魔法やっ!」

「舞妓のお姉ちゃん、すごーい」

 真璃絵と果音はパチパチ拍手する。

「真璃絵という子、これは魔法ではなく女子力なんどすえ」

 舞妓さんはホホホッと笑った。

「あの、俺の部屋のテレビじゃないと、飛び込めないと思いますけど」

「そこはあての女子力で何とかするえ。潮岬灯台納言をゲーム内に戻せば、残る雑魚敵達も皆二、三日中には現実世界から完全消滅して、ゲーム内に戻るようになっとるえ」

「そうなんですか。じゃあ繋げますね」

 龍平は準備が整うと梅乃が飛び出て来た続きからのデータを選択。梅乃のいない茶店内部の画面が映る。

「ほら一反木綿、潮岬灯台納言、帰るえ」

「嫌じゃぁぁぁ~」

「痛いよ舞妓さん様、頬引っ張るなって」

 潮岬灯台納言と一反木綿は舞妓さんに無理やり引き摺られていく。

「あんたら、もっともっとレベルを上げて、ゲーム上でいつかあてに挑んで来なはれ。京都編で待っとるえ」

舞妓さんはこう言い残し、潮岬灯台納言と一反木綿を掴んだまま画面に入り込んでいく。

「リアル和歌山県巡りもなかなか楽しかったわ。リアル潮岬灯台とも対面出来て嬉しかったよ。ゲームの中に帰りたくないよぅぅぅ」

 潮岬灯台納言は名残惜しそうに、悲しげな表情で捨て台詞を吐いた。

 テレビもその約三秒後に消滅した。畳に付いた黒インクなどの汚れもきれいに消える。

「あの舞妓さん、めっちゃかわいかったわ~♪ 敵モンスターはまだおるってことやね。帰りも倒しながら進んで行こう! まだ三時半やし」

「賛成! あたしもまだまだ敵と戦いたぁーいっ!」

「わたしも同じく」

「俺も、もう少し戦い楽しみたい」

「みんなぁ、タクシーここに呼んでなるべく外出歩かないようにして帰ろう」

「ご安心下さい遥子様。皆様の今の力なら和歌山編の雑魚敵はどれも楽勝やろうさか。あのう、じつは、敵モンスター、うちがわざと飛び出させてん。皆様にリアルRPGを体験してもらおうと思って。和歌山編の敵なら、ごく普通の高校生以下の子ぉでも何とか出来るやろうと見込んでてん。それにうち、リアル和歌山も冒険したかったし」

 梅乃はえへっと笑って唐突に打ち明けた。

「えっ! 本当なの? 梅乃ちゃん」

「そうだったのですかっ!」

「梅乃お姉ちゃんが仕掛けたんだね」

「梅乃ちゃんもなかなかのエンターテイナーやね」

「おいおい、俺のせいじゃなかったわけか」

 他のみんなは当然のように面食らったようだ。

「一昨日の夜に伝えた時は、じつはまだ敵モンスター飛び出してなかってん。龍平様がぐっすり眠っておられた真夜中にこっそり飛び出させてん」

 梅乃はさらにこんな秘密も打ち明け、てへっと笑う。

「電源切ってたのに、出れたのか?」

 龍平は驚き顔。

「テレビの電源切られてても、ゲーム機が繋がれてあのゲームが中に入ったままやったさか」

「そうか」

「それもまた不思議な仕組みですね」

「梅乃お姉ちゃんは、敵モンスターとお友達なの?」

「一部はそうやのし」

「梅乃ちゃん、また新しい敵、どんどん飛び出させてや。今度はのちの敵からの援助なくワタシ達だけの力でボス倒したいわ~」

「真璃絵、私はもう戦いには絶対参加しないよ」

「遥子お姉さんは今回もほとんど戦ってへんかったやん」

「痛い思いしたくなかったんだもん。結果的に何度もしちゃったけど。私、おトイレ行ってくる」

 先ほどから尿意を感じていた遥子は、玄関横のトイレに駆け込んだ。

「……えっ! 和式の、ぼっとん!?」

          ※

結局みんなは帰り、みなべの備長炭、御坊の御坊人形型モンスターなどなど、違うコースを通って新しい敵モンスターとも出遭い、楽しく戦闘をしながらそれぞれのおウチを目指して進んでいったのであった。

          ☆

 みんなが帰宅したのは午後八時半過ぎ。

「リアル和歌山土産、いっぱい買えてよかったやのし。ほな龍平様、おやすみー。また近いうちに出してや」

「おやすみ梅乃ちゃん」

 龍平は玄関を抜けると、母に見つからないよう注意して梅乃を自室へ連れて行き、あのゲームを起動させて梅乃をゲーム内に戻してあげた。

 同じ頃、星畑宅では夕食の団欒中。     

「和歌山県内で多発してる怪奇現象、みんなは遭遇せぇへんかった? 夕方のニュースで特集やってたわよ。今日のお昼過ぎからはだいぶ目撃情報が減ってるみたいだけど」

 母のこんな質問に、

「そんなのがあったの?」

「ワタシ全然知らへんよ」

「あたしもーっ」

 三姉妹は一応知らないふりをしておいた。

「そっか。母さんも遭遇してないけど、空飛ぶシャチを見たとか、潮岬灯台が二つ向かい合ってたって目撃情報もあったみたいよ」

     ※

 翌日の敬老の日、龍平と三姉妹は旅の疲れを癒すため、一日中家でゴロゴロしてしっかり休養を取った。

 聡実はその日、午前中は和歌山市内のゲーム販売店であのゲームを探し回ったが見つからず、午後から母といっしょに大阪市内まで遠征して、

「やっと見つけたぁっ! 家帰ったらやりまくるよっ!」

「そんなにはしゃぎ回る聡実、久し振りに見たわ」

日も暮れて来た頃に、一本だけ投売りされていたのをやっと見つけて購入したのであった。

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