第二話 龍平達、リアル和歌山編敵キャラ退治の旅スタート

翌朝、六時頃。

「もう朝かぁ」

 龍平は目覚まし時計の鳴り響く音で目を覚ますと、すぐに普段着に着替えてあのゲームの電源を入れた。雅楽の音色で奏でられた和風BGMと共にスタート画面が表示されると、龍平は続きからを選ぶ。

南方堂内部に梅乃の姿が映った瞬間、

「おはよー龍平様。体力は全快しましたか?」

 梅乃はゲーム画面から飛び出て来た。

「おはよう梅乃ちゃん、出て来れてホッとしたよ。俺、リセットしたらもう出て来れなくなるんじゃないか心配だった」

「うちも飛び出せるかちょっと不安やったよ」

「今日は着物じゃないんだな」

「動きやすい格好で行きたいさか」

「そうか。あの件、今朝のニュースではやるかな?」

 龍平は地上波受信モードに切り替え、ローカルニュースが流れるチャンネルに合わせる。

『この時間は、和歌山のスタジオからニュースをお伝えします。今日未明から、和歌山県内各地で怪奇現象が起きているとの報告が多数ありました。路上で見知らぬ生物が蠢いていた、巨大な鹿や妖怪のようなものを見かけたなど……』

 トップでこんな報道が。

「目撃情報はあるけど、人的被害は出てないようだな」

 龍平はとりあえず安心する。

「ゲーム内にあるべき敵キャラが、現実世界に長期滞在すると一般人に被害を与える可能性も無きにしも非ずやさか、遅くとも明日までにはボスも退治しちゃおら。雑魚敵は無限増殖するさか全滅は不可能やけど、ボスさえ倒せば残る雑魚敵は自動的にゲーム内に戻ってくれると思うやのし」

     ☆

 午前六時五五分頃。龍平の自室に龍平、三姉妹、聡実、梅乃が集った。

梅乃がゲーム内から用意した竹刀などの装備品やジョインジュース、和歌山みかんクリーム大福、みかんクッキー、芦辺もなかなどの回復アイテムが床やベッドの上に並べられる。

「武器と回復アイテムはおもちゃ屋やスポーツ用品店、うちのお店などから用意して来ました。回復アイテムはリアル和歌山でも売られとるもんばかりやけど体力回復効果は桁違いやのし。このゲームでは回復魔法がないゆえ体力回復手段は食べ物か宿泊、入浴するくらいしかないさか種類豊富に揃えられてるやのし。ただ、回復アイテムは賞味期限がありまして、ゲーム内時間の期限を過ぎて使用すると体力下がっちゃう。最悪の場合0になっちゃうで。まあ今回は一泊二日の短期決戦やさか、ほとんど関係はないけど」

「そこも従来のRPGとは違いますね。あのう、このみかんの葉っぱのような形のは、薬草かしら?」

 聡実は十本くらいで束ねられたそれを手に掴んで質問する。

「はい、毒消しの薬草やのし。海辺や山間部は猛毒持っとる敵もあるさか」

「これはリアルでは見かけないな」

 龍平も興味深そうにそのアイテムを観察する。

「猛毒持ってる敵もいるのかぁ。怖いなぁ」

 遥子は不安そうに呟く。

「遥子お姉さん、ワタシはますます闘争心が沸いて来たよ」

「あたしもだよ」

「鎧とか盾とか、防具は用意してないんだな」

「ゲーム上と同じく、和歌山編では防具は普段着で特に問題ないと思うやのし。いきなりボスの巣食う高野山へ向かうことも可能やけど、皆様の今の力では確実に瞬殺されちゃうやろうさか、まずは最弱雑魚揃いの和歌山市、白浜、串本、太地、その後は熊野那智大社周辺で多くの敵キャラ達と対戦して経験値を稼ぎ、レベルを上げていこら。日本全国、各庁所在地の敵が一番弱く、田舎、特に山間部ほど強くなる傾向にあるやのし」


 龍平  身長 168 体重 51

防具 Tシャツ ジーパン 

     武器 竹刀 マッチ


 遥子  身長 159 体重 ?

防具 チュニック プリーツスカート 麦藁帽子

     武器 ヴァイオリン 和傘 


 真璃絵 身長 161 体重 ?

防具 カーディガン プリーツスカート 眼鏡

     武器 プラスチックバット 手裏剣 マッチ Gペン 黒インク カッター

 

果音  身長 131 体重 30

防具 サロペット ダブルリボン 

     武器 泡立て器 フルメタルヨーヨー 生クリーム絞り器 水鉄砲 手裏剣   


 聡実  身長 155 体重 ?

防具 ショートパンツ ブラウス 眼鏡 

     武器 紀美野町伝統工芸棕櫚箒 保田紙うちわ マッチ


 梅乃  身長 153 体重 ?

     防具 ワンピース


 こんな装備に整えた龍平達六人は、回復アイテムなどが詰まったリュックを背負い楠山宅から外へ出て、いよいよ敵キャラ退治の旅へ。

第一目標の和歌山市中心部を目指し、住宅街をまとまって歩き進む。

「怖いなぁ。敵、一匹も出て来ないで欲しいなぁ」

 恐怖心いっぱいの遥子は最後尾、龍平のすぐ後ろを歩いていた。

「遥子さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、心構えていますよ」

「あたしも戦闘準備万端だよ。敵キャラ達、早く現れないかなぁ」

「ワタシもはよ戦いたいわ~」

「真璃絵様、お気持ちは分かるけど戦闘になるまでバットは龍平様の竹刀のようにケースに入れて運んだ方がええやのし。お巡りさんに注意される可能性もあるさか」

「それもそうやね」

 真璃絵は素直に従って専用ケースにしまう。

「きゃぁっ!」

 遥子は突然悲鳴を上げた。そして顔をぶんぶん激しく横に振る。

「もう敵が出たのか?」

 龍平はとっさに振り返る。

「あーん、飛んで行ってくれなーい。誰か早くとってぇ。頭の上」

 街路樹の葉っぱから落ちた虫が止まったようだ。

「なぁんだただの虫かぁ」

 龍平はにっこり微笑む。

「なぁんだただの虫かぁじゃないよ龍平くん、背筋が凍り付いたよぅぅぅ。まだ飛んでくれなーい」

 遥子は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

「カナブンが乗っかってるね。この場所がお気に入りなんだね」

 果音は楽しそうに眺める。

「遥子お姉さん、カナブンくらいで怖がっとったらあかんで。ここは龍平お兄さんが取ってあげて」

「分かった」

 龍平は遥子の後頭部を軽くぺちっと叩いた。

「あいてっ」

すると前髪に潜り込むようにとまっていたカナブンは、弾みでようやくどこかへ飛んで行ってくれた。

「龍平くん、痛かったよ」

「ごめん遥子ちゃん」

「龍平お兄さん、なんで直接掴まなかったん?」

「虫を直接手で触るのは、ちょっと抵抗が」

「龍平お兄さんも情けないよ。二人とも、高校生なんやから昆虫嫌いは克服しなきゃ」

「虫の類は大人になるに連れて嫌いになっていくものだと思うけど俺は」

「私もそう思う」

「わたしは今も大好きですけど」

 聡実は微笑み顔できっぱりと打ち明けた。

「遥子様にとっては、身近な生き物も敵キャラ扱いのようやね」

 梅乃はくすっと微笑む。

「紀州雛とかみかんの形した敵は現れたら明らかに敵だって分かるだろうけど、リスとかの生物型の場合、本物との見分け付くのかな?」

 龍平はちょっと気がかりになった。

「敵キャラの形状は現実世界でもCGやアニメ絵っぽく見えるやろうし、壁すり抜けるとかあり得ない挙動をしたり、生物型なら異様に大きかったりもするさか、見分けは簡単に付くやのし」

     ☆

 JR和歌山駅前に到着後は、みんな和歌山城へ通じるけやき大通りを散策していく。

「リアルJR和歌山駅周辺も休日のこの時間ならまだ人通り少なくて最高やね。敵キャラ出没率も高くなるし」

「さっそく有田みかんちゃんが現れたぞ」

 龍平は少し嬉しそうに伝えた。

みんなの前方に計八体現れ、浮遊しながらどんどん近づいてくる。直径は三〇センチくらいでリアルな有田みかんより巨大だ。

「有田みかんちゃんはリアル世界の男子高校生でも平手打ち一発で退治出来ると思うやのし」 

「すっごくかわいい♪ 攻撃なんてかわいそうで出来ないよぅ」

 遥子はうっとり眺める。

「遥子様、油断してたら危険やのし」

 梅乃が注意を促した。その矢先、

「いたっ、指噛まれちゃった」

 遥子はさっそくダメージを食らわされてしまった。

「こいつめ、遥子ちゃん、大丈夫?」

 龍平は遥子の指を噛んだ有田みかんちゃんを平手一撃であっさり退治した。

「ちょっと血が出てる。痛い」

「遥子様に1のダメージやね。ジョインジュースで回復出来るで」

「本当?」

 遥子は梅乃から差し出されたジョインジュースを飲んでみる。

すると指の傷が一瞬で元通りに。

「すごいっ!」

 この効能に遥子自身も驚く。

「おう、これはファンタジーっぽいわ~」

 真璃絵は別の有田みかんちゃんをバットで楽しそうに攻撃しながら感心していた。

「有田みかんちゃんさん、眼鏡で防御してるわたしには果汁攻撃は効きませんよ」

 聡実は箒で攻撃していく。

「くらえーっ!」

 果音も泡立て器一撃で有田みかんちゃんを退治した。

「倒したら姿が消滅するのもファンタジーやね。全滅させたら何か落としていったよ。ドライみかんか」

 真璃絵は拾ってアイテムに加えた。

「これは体力が5回復するのし。皆様、財布の中を見て下さい」

「おう、小銭が増えとるやん」

「本当だぁ。あたしのお小遣い増えてるぅ」

「有田みかんちゃん八体倒して二百円増か。ゲーム上の設定と同じだな」

「これもファンタジーですね」

「ワタシますます戦闘モチベーションが沸いたわ~。敵キャラ倒しまくってお小遣い増やしてアニメグッズ買いまくるよ。もっと出て来ぉい!」

「あたしもお小遣いもっと増やしたいから、敵キャラさん、どんどん出て来て」

「お小遣いが増えるのは嬉しいけど、私はもう出て来て欲しくないよ」

「わたしは戦ってお小遣いいっぱい増やしたいです」

「俺も。こんな方法で金が入るって、最高過ぎるだろ」

 遥子以外のみんなの願いが叶ったのか、ほどなくくるくる回転したりぴょんぴょん跳ねたりしながら近づいてくる数体の大きな雛人形の姿が。丸っこい体型で一メートルくらいの高さはあった。

「紀州雛女雛の体力は9。竹刀なら一撃と思うで。ちなみにこれよりちょっと強い男雛は11や」

「なんか、かわいらしいけど、敵だしな」

「まさに和歌山らしい敵ですね」

「お小遣い稼ぎのためには戦わなきゃ損だね♪」

 龍平と聡実と果音が戦闘中、

「ぐはぁっ!」

 真璃絵が別の一体に弾き飛ばされていた。

「大丈夫? 真璃絵」

 遥子は心配そうに側に駆け寄る。

「この敵、攻撃力どのくらいあるんかわざと当たって確かめてみたけど、予想以上にダメージ受けちゃったよ。あばらにひび入っちゃったかも。めっちゃ痛ぁい」

 真璃絵は脇腹を押さえながら、苦しそうな表情を浮かべていた。

「じゃあ早く、病院行かなきゃ。一人で立てる?」

 遥子は優しく手を差し伸べてあげる。

「真璃絵様、これを食して下さい」

 梅乃はリュックから取り出した芦辺もなかを真璃絵の口にあてがった。

「おう、痛みがすっかり消えたよ。すごいわこれ」

 真璃絵、瞬時に完全復活。自力で立ち上がる。

「あらまっ!」

 遥子は効能に驚く。

「リアルな芦辺もなかじゃ絶対起こりえないよな」

 龍平は感心気味に呟いて、真璃絵を襲った一体を竹刀二発で退治した。

「このようにリアルなら入院、絶対安静レベルの大怪我でも瞬時に治るので、皆様、怪我を恐れずに戦ってや」

「想像以上の治癒効果ですね。これは心強いわ」

「あたし、思いっ切り暴れまくるよ」

「すぐに治るって分かってても、私、痛い思いはしたくないよ」

「遥子ちゃん、俺が敵の攻撃から守ってあげるから安心して」

「大丈夫かな? 龍平くん力弱いでしょ?」

 逆にちょっと心配され、

「俺を頼りにして欲しいな」

 龍平は苦笑いする。

「また新たな敵キャラが近づいとるから、龍平お兄さんが一人で倒していいとこ見せてあげなよ」

「分かった、市松人形か。ゲームと同じで防御力は少し高そうだな」

「淡嶋神社呪いの市松人形、体力は12やのし」

「二発くらいか」

 龍平は黒髪で着物を身に纏った可愛らしいお顔の少女型市松人形に立ち向かっていき、竹刀を振り下ろそうとしたら、

「うぉわっ、びびった。こんな技も使えたのか」

 思わず仰け反ってしまった。

 今しがた、美しい市松人形の口が動き、髪の毛が伸び、目から血を流して恐ろしく変貌したのだ。

「まさに呪いの人形やね」

 真璃絵はくすくす笑い、ちゃっかり携帯のカメラで写真撮影した。

「供養し切れんかったお人形ってキャラ設定やのし」

 梅乃は微笑み顔で伝える。

 時同じく、

「なかなか素早いわね」

「あたしも泡立て器攻撃かわされちゃった」

 聡実と果音は近くに現れた華麗に舞う紀州雛男雛一体と対戦中。

「ワタシも協力するで」

 真璃絵は背後からバットで攻撃して見事命中させた。

「真璃絵お姉ちゃん、すごい! 一撃で倒しちゃった」

「バットはやはり攻撃力高いわね」

「ワタシも一撃で行けるとは思わんかった。会心の一撃が出たみたいや。龍平お兄さんはまだ頑張ってるね」

「危ねっ。首絞められかけた」 

 龍平はその攻撃をかろうじてよけると、市松人形の恐ろしい顔面を竹刀で二発思いっ切り叩いた。

 これにて消滅。

「龍平くん、強いね。これは本当に頼りになってくれそう」

「これくらい楽勝だったよ」

 遥子に満面の笑みで褒められて、龍平はちょっと照れてしまう。

ツレモッテコイコイ、ソリャモッテコイコイ♪

 ほどなくこんな威勢のいい掛け声を出して踊りながら近づいてくる、浴衣を身に纏った数体の女性の姿が。

「ぶんだら節姉さんの体力は11。竹刀なら一撃と思うのし。紀州雛以上に攻撃力高いさか真璃絵様、わざと当たらん方が良いのし」

「確かにそのようやね」

 真璃絵は容赦なくバッドで腹部をぶっ叩いて一撃で消滅させた。

「見事な踊り方だな」

龍平はちょっとときめいてしまいつつも、容赦なくぶんだら節姉さんの肩を竹刀でぶっ叩いて一撃で消滅させた。

「これも和歌山らしい敵ですね」

 聡実は箒で背中を二発叩いて消滅させる。

「このおばちゃん達は倒したらいくら貰えるのかなぁ?」

 果音はヨーヨーを振り回して残り二体をまとめて消滅させた。

またすぐに、新たな敵キャラが三体浮遊して近づいて来た。

 巨大な梅干しの形をしていた。直径五〇センチほどはあった。

「あの敵キャラは紀州南高梅吉、体力は8や。種があるさか防御力意外と高いで。一撃じゃ厳しいかも」

「こいつ、ゲーム上では噛みつき連続攻撃がかなりきつかったな」

 龍平は攻撃される前に一体を竹刀ですばやく二発叩いて退治。

「いやぁん、この梅干しさん、エッチだよぅ」

 別の一体が遥子のスカートに食い付いて捲って来た。

「紀州南高梅吉は女の子にはこんな猥褻な攻撃もしてくるさか、CEROがBになっとるんよ。ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見れるやのし」

 梅乃はにこにこ笑いながら伝える。 

「煩悩まみれな梅干しだな」

 いちご柄のショーツを見てしまった龍平は、とっさに目を背ける。

「紀州南高梅吉さん、ダメですよ。きゃんっ! 酸っぱい」 

 聡実は顔に一発突進されるも、怯まずこの一体を箒二発で退治。

「あーん、ワタシのスカートまで捲って来たでこいつ。龍平お兄さん、助けてやー」

「俺じゃなくても余裕で倒せると思う」

 残る一体から襲われた真璃絵の純白ショーツをばっちり見てしまい、龍平はまたも目を背けた。

「真璃絵お姉ちゃん、あたしがやるぅ。くらえーっ!」

 果音は楽しそうに生クリームをぶっかけたのち、泡立て器で二発叩いて退治した。

 これにて全滅。

その直後、

「ヘイ、そこのかわいいセニョリータ。ボクといっしょにリアルポルトヨーロッパでフラメンコを踊ろうよ」

「きゃあっ! いっ、いいです。お金ありませんから」

「お金なんていらないさ」

「きゃあっ、お尻触られた」

 遥子は赤と黒の衣装を身に纏ったスペイン人男性風の新たな敵にグイッと手を引かれて体をぺたぺた触られてしまう。

「ポルトヨーロッパフラメンコダンサー男、体力は14。ぶんだら節姉さん以上に強力な華麗な舞い攻撃に注意してや。ゲーム上ではポルトヨーロッパ内に現れて和歌山市の町中では出ないやのし」

「こんなのも敵なってるとはな」

 龍平は思わず笑ってしまう。竹刀でこの敵の頭を攻撃しようとしたら、

「きみもいっしょに踊ろうよ」

 グイッと手を引かれて振り回されてしまった。

「目が回った」

「私も今すごく回ってる。気分悪くなって来た」

 龍平と遥子は解放されたものの、ふらふらしてよろけそうになっていた。

「おもしゃい敵やな」

真璃絵がバットで、

「フラメンコの上手なおじちゃん、くらえーっ!」

「オ~レ」

 果音が泡立て器で背後から攻撃して消滅させた。

息つく間もなく、

 ワン、ワォン、ワワンッ、ワゥッ!

 今度は白い毛並みの犬が四匹、吠えながら襲い掛かってくる。

「紀州犬のモンスターか。これもけっこう手強かったな。レベル1では出遭いたくない敵だと思った。躾のなされてない紀州犬はモンスター化しなくても脅威だよな。いててて。こいつめっ!」

 龍平は足を噛まれてしまったが、幸いジーパンのおかげであまり大きなダメージにならずに済み、竹刀で紀州犬の頭をぶっ叩いて消滅させた。

「リアル紀州犬よりも強そう。接近戦は危険そうや」

「この犬、怖い」

「遥子さん、任せて」

 真璃絵と聡実はそれぞれ一匹ずつにマッチ火を投げつけた。

 ワウワウ、ワワンッ!

 紀州犬は共にボワァっと燃えて瞬く間に消滅する。

「凶暴なワンちゃんくらえっ!」

 ワォンッ!

 果音は自身に襲い掛かって来た残る一体を水鉄砲で攻撃する。紀州犬が怯んだところをもう一発命中させると消滅した。

 これにて全滅。龍平以外はダメージを食らわされずに済んだ。

和歌山の地酒、清酒特撰本醸造熊楠を残していく。

「紀州犬が稀に落としていくこれも回復アイテムやけど、未成年の皆様が使うと体力減っちゃうやのし。ゲーム上では町中でアルコール飲料使ったら即効お巡りさんに説教されるで」  

「せっかくのアイテムやから貰っとくわ~。そういや、マッチ棒使ったのに減ってへんね」

「あら、本当ですね。マッチ箱に十本入ってて一本使ったのに、十本のままだわ」

「よく見たらあたしの水鉄砲の中の水も全然減ってないよ」

真璃絵、聡実、果音はその武器を確認して不思議がる。

「ゲーム内の武器やさか無限に使えるやのし。黒インクやGペンとか手裏剣とか生クリームとかもね」

「それはええこと聞いたわ~。これから使いまくろっと」

「あたしもそうしようっと」

「ちなみにマッチ火、外して草木とかに投げちゃっても火事の心配はないやのし」

 梅乃がシステムを説明した直後、

「ん? うわっ、なんだこれ?」

 龍平は背後からいちご、キウイ、パイナップル、梅の甘露煮、みかん、生クリームなどがまじったシロップのようなものをぶっかけられた。

「きゃっ!」

 遥子、

「何やこれ?」

 真璃絵、

「体中べとべとだぁー」

 果音、

「これはひょっとして、わかやまポンチのかしら?」

 聡実も巻き添えを食らった。

「その通りやのし。てきゃは体力13のわかやまポンチ衛門やのし」

 梅乃だけは食らわされず。

高さ二メートルを超す、中にフルーツポンチの入ったグラス型モンスターが接近していたのだ。

「迷惑なわかやまポンチだな」

 龍平は竹刀でグラス部分をぶっ叩く。

「なかなか硬いガラスですね」

 聡実が箒でもう一発叩いて消滅させた。

「べたべた感もなくなったぞ」

「わたしもすっきりしたわ」

「汚される系のダメージは、戦闘が終わると自然に消えるようになってるやのし。服の破れもね」

「それは便利だね」

 由利奈はホッとした表情を浮かべる。

「ワタシもう少し食べたかってんけど」

「あたしもーっ。すごく美味しかったのに」

 真璃絵と果音がちょっぴり残念そうにしていると、ピンクや白の花型モンスターが十数本束になって飛び跳ねながら近づいて来た。

「和歌山市の花に制定されてる、ツツジのモンスターさんね」

 聡実は推測。

「その通りやのし。和歌山ツツジ。どの種類も体力は15、縛り付け攻撃に気を付けてや」

「切り裂いたるで」

真璃絵は楽しそうにカッターで茎をズバッと切り付けた。

ツツジの花びらが何本か地面に落ちる。

「いたたたぁっ」

 落とされた四本のツツジは一斉にジャンプして、花びら部分で真璃絵の頬を両サイドから思いっ切りビンタした。真璃絵の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。

「真璃絵、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」

「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったわ~」

 遥子から受け取ったみかんクッキーを食して、真璃絵の頬の傷は瞬く間に消える。 

「お花潰しちゃえ」

 花びら部分を果音がヨーヨーで、

「きゃっ! 茎だけでも動けるのね。足に絡みついて来たわ。いたぃっ! 離れて下さい」

 茎部分を聡実が箒、

「なかなかしぶといな」

 龍平が竹刀で叩いて消滅させた。

「それにしても、梅乃ちゃん敵から全然攻撃されへんね」

「そりゃぁうち、案内役やさか。RPGでも村人は攻撃されんやろ?」

「確かにそうやね。梅乃ちゃんも勇者としてワタシ達といっしょに戦ったらいいのに。スカッとするよ。あっ、あっつぅぅぅ! 誰のしわざや?」

 真璃絵は突然、背後から全身に熱々のスープをぶっかけられた。

 振り返るとそこには、高さ七〇センチ、直径一メール以上はあると思われる巨大な丼に入ったラーメンが。チャーシュー入りで湯気も立っていた。

「めっちゃ痛いよぅ」

 涙目になり苦しがる真璃絵。

「真璃絵、早く冷やさなきゃ」

 遥子は心配そうに近寄る。

「真璃絵様、これを。他の皆様も熱々スープのぶっかけに気をつけて下さい」

 梅乃は和歌山みかんクリーム大福を真璃絵に与えてあげた。

「和歌山ラーメンがモンスター化したものね。こんなのもいたのね」

「俺はあれからも少し遊んだらこの敵にも遭遇した。ゲーム上でも熱々スープ攻撃は脅威だったな。チャーシュー飛ばし攻撃も」

「真璃絵お姉ちゃんを火傷させるなんてひどいラーメンだね」

 果音はヨーヨーで丼部分を攻撃。

「飛び跳ねたっ! あつぅぅぅーい」

 しかしかわされ、腕に少し熱々スープをかけられてしまう。

「ワタシがとどめさすよ。仕返しや」

 全快した真璃絵はバットで同じ箇所をぶっ叩こうとしたが、

「うひゃっ! 緊縛プレーまでしてくるなんてこのラーメンもエッチやね」

 飛び出した麺に全身絡み付かれて身動きを封じられてしまった。

「おい、和歌山ラーメン、麺の使い方間違ってるぞ」

 龍平が竹刀ですばやく丼部分を二発叩いて退治したのを見計らったかのように、

「ぃやぁーん、柿の葉寿司さんが、服に中に潜り入って来たぁ。あぁん、おっぱい吸い付かないで。この子、すごくぬるぬる」

 数体の寿司型モンスターが遥子に襲いかかった。

「和歌山柿の葉寿司太郎、体力は9。てきゃも最弱雑魚やのし。奈良編の柿の葉寿司太郎はかなり強いけどね。ゲーム上では和歌山市から紀の川市にかけて出没するのし」

「やっぱあれもモンスターになっとるんやね」

 真璃絵はバットで、

「俺はゲームではすでに何回も戦ったよ。女の子相手だとこんな攻撃もしてくるんだな」

龍平は竹刀で柿の葉寿司太郎を次々と倒していく。

時同じく、

「これ当てられたらドッジボールより痛そうだね」

「そうですね。大きい分」

「紀州てまりん、どの種類も体力は11やのし。体当たりに気をつけて」

果音は泡立て器で、聡実は箒で近くに現れた直径五〇センチくらいのてまり型モンスター数体と戦闘を繰り広げていた。 

「龍平くーん、助けてー。巨大な八朔が、私のスカートに噛み付いて来たぁ」

 その最中に遥子はまた新たな直径五〇センチくらいの敵に襲われてしまった。

「あの八朔、遥子お姉さんにエッチなことして幸せそうな笑顔してはるね」

 真璃絵は残る柿の葉寿司太郎をバットで攻撃しながら楽しそうに眺める。

「和歌山八朔、体力は14。有田みかんちゃん以上に強烈な果汁ぶっかけ攻撃に注意すれば雑魚やのし」

「確かに雑魚だったな。真璃絵ちゃん、あとは頼んだ」

 ゲーム上ですでに対戦経験ありな龍平が竹刀で攻撃するとあっさり消滅した。

 残りの柿の葉寿司太郎、紀州てまりん、共に全滅させて、みんなまた歩き始めてほどなく、

「おう、アニヲタっぽい男の子も前から来てはるやん」

 新たな敵らしきものが視野に入り、真璃絵は嬉しそうに呟く。

「あれも敵なのかしら?」

「俺も一昨日から計四時間以上はプレーしたけど見たことないぞ。でも、CGっぽいし、本物の人間には見えんから敵だろう」

「一応そうやのし。和歌山のアニヲタ君、体力は8。レアな敵やのし。オタク系の敵は各都道府県主に庁所在地やアニメの聖地に現れるよ」

ぶらくり丁商店街付近で遭遇したそいつは、逆三角顔、七三分け、四角い眼鏡。青白い顔、まさに絵に描いたような気弱そうな風貌で、萌え美少女アニメ絵柄のTシャツを着てリュックを背負い、両手に萌え美少女アニメキャライラストの紙袋を持っていた。

「見るからに弱そうだな。素手でも勝てそうだ」

 龍平は得意げになる。

「攻撃するのはかわいそう」

 遥子は憐れんであげた。

「あの紙袋と服、ゲーム上のとは違ってこっちの世界のアニメのになっとるやのし。護身用のナイフ攻撃をしてくる可能性もあるさか気を付けてや」

 梅乃は注意を促すも、

「面白そうなお兄ちゃんだね」

「ワタシもこのアニメ大好きよ。きみ、京○ニのアニメ好きそうやね」

 果音と真璃絵は躊躇いなく和歌山のアニヲタ君のもとへぴょこぴょこ歩み寄っていく。

「……ボク、今忙しいんよぉ」

 すると和歌山のアニヲタ君は慌てて徳島へ向かう南海フェリー乗り場のある方角へピュゥゥゥッと逃走してしまった。

 これによりみんな、お金と経験値は得られず。

「ありゃりゃ、逃げんでもええのに。お話出来なくて残念やわ」

「あのお兄ちゃん、百メートル十秒切りそうな速さだったね。壁もすり抜けてたね」

「全国どこのアニヲタ君も弱点は三次元の女の子やのし。体力と攻撃力は有田みかんちゃんより上やけど、すぐに逃げられてまうさかこのゲームで本当の意味での最弱敵キャラやのし。倒した時に貰える金額は二万円。和歌山市に出る敵キャラでは破格やのし」

「それはぜひとも倒したいわ~。さすがアニヲタは金持っとるね」

 真璃絵が感心気味に呟いていると、

「うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! ゆーかりんっ、ゆーかりんっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ!」

 こんな掛け声を上げながら時折ジャンプしつつ、ピンクのサイリウムを両手でブンブン激しく振り回していた、背丈は一六〇センチくらい、体重は百キロを超えてそうなぽっちゃり体型ピンクの法被を身に纏った三十代くらいの男の姿が。みんなの方へどんどん近づいてくる。

「龍平くん、あの人怖いよ」

 遥子は龍平の背後に隠れる。

「俺もそう思う」

「わたしも同じく」

 龍平と聡実は動きを見て思わず笑ってしまう。

「梅乃ちゃん、あれはCGっぽいから敵やろう?」

「その通り。あれもレア敵、和歌山の声ヲタ君や」

「声ヲタ君かぁ。ねえねえ、そっちの世界ではどんな声優さんが人気あるん?」

「お相撲さんみたいだね」

 真璃絵と果音はそいつにぴょこぴょこ近寄っていく。

「ぐはぁっ、いきなりサイリウム投げつけられたよ。もう逃げられてるし」

 真璃絵は腹部にその攻撃を受け、弾き飛ばされてしまった。

「あたし、手裏剣投げたんだけどすごい勢いで逃げたから当たらなかったよ」

 果音は唇を尖らせて残念がる。

 和歌山の声ヲタ君、逃走によりお金と経験値得られず。

「和歌山の声ヲタ君は勇者達に出遭った瞬間、サイリウムで攻撃してすぐに逃げるんが特徴やのし。倒すんはアニヲタ君以上に難しいで。貰える金額はアニヲタ君より少ない一万五千やけど。ちなみに東京、大阪、名古屋、福岡ではさらに激しい動きして雄叫びを上げるアイドルオタクのモンスター、ドルヲタ君って敵も出るやのし」

 梅乃が楽しげに伝えてほどなく、

「アタシ、お兄ちゃんといっしょに遊びたいにゃん♪ お兄ちゃん、アタシのお写真撮ってぇ。お願ぁい♪」

 背丈一五〇センチちょっとくらい、ゴスロリファッションでネコ耳&紫髪ポニーテールな若い女の子にとろけるような甘い声で誘われ、龍平は腕を引っ張られた。

「あの、今忙しいから。って、こいつも、敵キャラみたいだな。中にちょっと浮いてるし、アニメ絵っぽいし」

龍平はちょっと躊躇いつつも竹刀で腹部を叩き付けると、

「痛いにゃぁんっ!」

猫なで声を出してあっさり消滅した。

「龍平様、惑わされんかったのはえらいで。ゲーム上ではマリーナシティや白浜のコスプレイベント開催中にしか出んレア敵の、ワカヤマッドレイヤーちゃん、容姿違いはあるけどどれも体力は10でレベル1でも竹刀一撃で倒せる雑魚だけど、あの敵についていったらええ体験は出来るけどお触り料とか撮影料とか請求されて全財産奪われるのし。製作者によるとアニヲタ君、声ヲタ君から貰える金額が多いんはそうなっちゃった場合の救済的な意味合いもあるみたいやのし。でもそいつら倒すんさっき実感した通り容易やないさか、ゲーム上でも遭遇したら即攻撃するか逃げた方がええやのし」

「敵キャラ名通り、関わると危なさそうなレイヤーだったな」

 龍平は顔をやや顰めた。

「友ヶ島は和歌山のレイヤーの聖地らしいね。おう、レイヤーちゃんまた登場や。壁から突然出て来たよ」

 真璃絵は笑みを浮かべて喜ぶ。

さっきのとは容姿違いが計七体、みんなの前に行く手を塞ぐように現れた。

「きさまぁ、さっきはよくもウチの百合友を消してくれたなっ。許さんっ!」

 チャイナドレスコスプレの子が怒りに満ちた表情でいきなり龍平に飛び蹴りを食らわして来た。

「危ねっ! おう、消えた。武道派っぽい風貌だったけど、たいしたこと無かったな」」

 龍平はひらりとかわしてこの一体の背中を竹刀で叩くとあっさり消滅。ちょっと拍子抜けしてしまう。

「お嬢様、どうぞこちらへ」

「いえ、いいです。興味ありませんから」

 遥子は青髪ショートヘアな黒スーツ執事コスプレの子に手首を掴まれ引っ張られてしまう。

「客引き禁止!」

聡実がすぐに背後から箒で頭をぶっ叩いて消滅させた。

「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えきゅんっ♪」

「うひゃっ、ケチャップぶっかけて来たかぁ。ワタシの顔はオムライスやないよ」

 真璃絵はパティシエメイド服姿栗色髪ツインテールなそいつのお顔に黒インクをぶっかけ、休まずバットで攻撃し消滅させた。

「ぶはっ、ミートスパゲッティまで」

 その矢先に真璃絵はまた顔にたっぷりぶっかけられてしまう。

「ごめんなさぁい、お嬢様。きゃぁんっ」

 巫女服姿で黒髪にカチューシャをつけ、眼鏡をかけた子がすぐ横にいた。とろけるような甘い声で謝罪するや、すてんっと転げて前のめりに。

「ドシッ娘ちゃんタイプかぁ。でも敵やから容赦はせんで」

「きゃぅっ!」

 真璃絵はその一体にもバットでお尻を叩き消滅させた。

「このダッハトルテ、べつにあんたのために作ったわけじゃないんやからねっ! たまたま作り過ぎちゃって、それで、捨てるのは勿体ないかなぁって、思ったんよぉ。れいどうこに入れとけば、あいたまで持つけど、なるべくすぐに食べてね。その方が美味しいから」

 果音は背丈一五五センチくらい、セーラー服姿黒髪ロングの子に不機嫌そうな表情ながらも照れくさそうに、ザッハトルテをプレゼントされる。

「ありがとうコスプレのおばちゃん、すごく美味しそう♪」

「おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんやろ。あたくしまだ十七歳なんだから」

「えっ、どう見ても二十五歳くらいに見えるよ」

「そっ、そんなこと、あるわけないでしょ」

「おう、学園モノのツンデレタイプや。年齢は自称やけど」

 真璃絵は嬉しそうに微笑む。

「果音様、そのケーキ睡眠薬入りやさか食べたらあかんで。ワカヤマッドレイヤーちゃんはこんなあざとい攻撃もしてくるやのし」

「そうなの。やっぱり敵なんだね」

「ちょっとそこの三つ編みのあんた、営業妨害でうっ、ぶほっ、きゃんっ!」

 梅乃から警告されると果音はすぐに生クリームをこのメイドのお顔にぶっかけて、休まず腹部をヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。

 その直後、

「この子かわいい。妖精さんみたい。お尻にお注射したいな。えへへっ」

「あーん、助けてー。あたしお注射嫌ぁい」

 果音はナース服姿で緑髪ミディアムウェーブ、虚ろな目つきの一体にお姫様だっこされ、そのまま持ち運ばれてしまう。

「誘拐はダメですよ」 

 聡実はすぐに追いかけて箒で背中を叩き消滅させた。

「あれはヤンデレタイプっぽかったね」

 真璃絵はにっこり微笑む。

「お兄ちゃん、アタシのお店『ICECANDY☆POP』へ遊びに来て♪ お願ぁい。五百円から遊べるよ。萌え萌え萌え♪」

「考えとくよ」

 龍平は呆れ顔で、背丈一四〇センチ台パジャマ姿ピンク髪ロングボブ、パンダのぬいぐるみを抱えていた一体にマッチ火を投げつけて消滅させた。

 ワカヤマッドレイヤーちゃん、これにて全滅。

「さっきの戦いはめっちゃ楽しかったわ~♪」

 お顔の汚れもきれいに消えた真璃絵は大満足だったようだ。

みんなは続いて和歌山公園へ。

 和歌山城天守閣へ向かって園内を歩き進んでいると、

「ミツバチや。街中の敵より強そうやね」

 体長二十センチくらいはありそうなミツバチ型モンスター計四匹に遭遇した。ブォォォン、ブォォォンと不気味な大きい羽音を立てて迫ってくる。

「実際強いで。和歌山公園ミツバチは体力は蜂の通りたったの8しかないけど、攻撃力と素早さが高いで。毒状態に侵されるほどの強い毒はないことは安心出来るけどね」

「龍平くん、早く何とかして」

 遥子は慌てて龍平の背後に回り込む。

「いたたた。痛いよ。やめて下さい」

 聡実はミツバチ二匹から腕と足に針攻撃されてしまった。

「山東さん、今助けるよ」

 龍平は竹刀をブンブン振り回すも、全て空振り。

「素早過ぎる。ゲーム上の主人公のようにはいかないか。うわっ、やばっ。いってぇぇぇっ! 攻撃力やば過ぎ」

 ミツバチのうち一匹から針攻撃を腕にグサッと食らってしまう。

「龍平お兄さんの動きが遅いんやない?」

 真璃絵はバットを直撃させ、あっさり消滅させた。

「大きいから簡単に当たるよ」

 果音も泡立て器攻撃であっさり一蹴。

「攻撃力は、俺の方が絶対高いと思う」

 龍平はちょっぴり落ち込む。

「あっ、リスだ。かわいい♪」

 姿を見つけると、周囲を警戒し硬い表情をしていた遥子の表情が綻んだ。

「遥子様、これもモンスターやのし。近づくと噛まれるで」

「リアルな野生リスは和歌山城の林でよく見かけるよな」

 本物のリスと姿形はよく似ていたが、龍平は一目で敵キャラだと気付くことが出来たようだ。

「おう、コサックダンスしてはる。リアルリスはこんなことせんよね。写真撮っとこ」

「いい動きだね。面白ぉい」

 真璃絵と果音はくすくす笑いながら、リズミカルにダンスする一頭のリス型モンスターの姿を眺めた。

「なんか数がさっきより増えていますよ」

 みかんクッキーを自ら食してミツバチ戦のダメージから回復した聡実が指摘する。周囲に十頭以上は集まっていた。

「体力15の和歌山のリスさんのダンスは仲間を呼ぶ合図やのし」

「昨日俺もゲーム上でひどい目に遭ったな。あの電話さえなけりゃ楽勝だっただろうけど」

 龍平は竹刀攻撃で容赦なく次々と退治していく。

「やはり火が弱点みたいね」

「そりゃぁっ!」

 聡実、真璃絵はマッチ火を投げて一蹴した。

「あたしはこれで攻撃するよ」

 果音も手裏剣で一蹴する。

 ゲーム上と同じく全滅後、本ノ字饅頭を残してくれた。

「龍平くーん、助けてー」

 直後に遥子の悲鳴が。

 クルッポゥ、クルッポゥ、クルッポゥ!

 体長一メートルくらいあるドバト型モンスターに追いかけられていたのだ。

「こいつにも酷い目に遭わされたな」

 龍平はすぐさま駆け寄り、竹刀で頭を攻撃。

 クルッポゥゥゥゥゥゥゥーッ!

 ドバトは怒ったようだ。羽を激しくばたつかせ、龍平に襲い掛かって来た。

「いってててぇ」

 龍平は断続的につつかれ、攻撃する隙を与えてくれなくなってしまった。

「ごめんね龍平くん、倒した後回復させに行くから」

 遥子は申し訳なさそうにドバト型モンスターからさらに遠ざかっていく。

「龍平お兄さん、ワタシが倒すよ。必殺! Gペンミサイル」

 真璃絵はGペンを五本束ねて投げつけた。

 クルッポッポゥゥゥ!

 見事命中。ドバトは甲高い鳴き声を上げるとすぐに消滅した。

 真璃絵は抹茶アイス『グリーンソフト』を手に入れる。

「ワカヤマッドバトが三分の一の確率で落としていくこれは体力25回復。溶けるさか数分以内に召し上がった方がええやのし」

「傷だらけの龍平お兄さん、どうぞ」

「どうも。これもリアルのより美味いな」

 龍平、それを食して完全回復。

 さらに園内を散策してると、

「やぁん、もう、この子もエッチやね」

 真璃絵は全長一メートルくらいの青銅色の鯱型の敵に背後からスカートを捲られる。

「かっ、噛まないで下さぁい。皆さん、助けて下さぁい」

 聡実も新たに現れたもう一体に襲われた。お尻を狙われる。

「和歌山城の鯱くん、体力は20。鯱型の敵では愛知編名古屋城のが最強やのし」

「このゲームの敵、なんでエロ攻撃ばっかりしてくるんだよ?」

 龍平は呆れ気味に竹刀で聡実を襲っていた方の尻尾をぶっ叩いた。

「ぶはっ」

 一撃で倒せず、尻尾振り回し攻撃を食らってしまうも怯まずもう一発叩いて消滅させる。

「黒の鯱にしたるわ~」

 真璃絵は自分を襲った残る一体に黒インクをぶっかけた。和歌山城の鯱くんは全体が真っ黒になる。

「真璃絵お姉ちゃん、楽しんでるみたいだね」

 果音はそいつに手裏剣を投げつけて消滅させた。

 手芒餡入り焼き菓子の『大納言』を残していく。

 ほどなく、

「ひゃっ、あんもう、誰や。なんか冷たいわ~」

 真璃絵は背後から何者かに尻を触られた。

 振り返るとそこには、動く騎乗像が。

「ほほほ。このボサボサ髪のお嬢さんはこの中では一番不細工じゃ」

 徳川吉宗騎乗像だった。人間の言葉をしゃべっていた。

「おっちゃん、不細工とは失礼やで」

 真璃絵はGペンを顔面に投げつける。

「ぐほっ、男勝りなお嬢さんじゃ。ますます気に入ったぞ。大奥に来なさい」

「徳川吉宗の銅像もモンスター化してたか」

 龍平は竹刀で立ち向かっていくも、

「ほほほ、振りが遅いのう。修行が足らんわ」

「ぐぉっ! 銅だけに攻撃力半端ないな。本物の馬よりはマシだろうけど」

 馬の頭部分で弾き飛ばされてしまう。

「よけ切れるかな?」

 さらに吉宗像からさつまいもを何個か投げつけられた。

「いっててて。どこから取出したんだよ。しかも俺に当たった瞬間に消えたし。リアル徳川吉宗は飢饉対策に栽培を奨励したはずなんだがな」

 龍平はかなりダメージを食らわされたようだ。

「龍平くん、これを」

 遥子はすぐさま駆け寄って回復させにいく。大納言を与えた。

「徳川吉宗騎乗像、体力は23。攻撃力はミツバチにも劣るけど防御力は和歌山城の敵で一番高いで」

「水攻めにしちゃえーっ!」

「ぐわあああっ!」

 果音は水鉄砲で顔面を攻撃。けっこう効いたようだ。

「わたしは火攻めにするわ。リアル徳川吉宗さんは大奥の女性を五〇人ほど解雇するさい、美女だけを解雇したらしいですね」

 聡実はマッチ火で攻撃。

これにて消滅。和生菓子『五十五万石』を残していく。

「皆様、見事な戦いぶりやのし。そろそろさらに手強い敵がいっぱい散らばっとる白浜を攻略していこら」

和歌山公園から出て、みんなでJR和歌山駅へ戻っていく途中、

「全然痛く無いよ」

 真璃絵は和歌山ラーメンのモンスターからまた熱々スープをぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼部分にバット一撃で消滅させた。

「皆様、レベルが上がってるさかやのし」

「確かにめっちゃ弱く感じる」

「武器がいらないね」

 龍平と果音は紀州雛女雛をそれぞれ平手打ち一発で倒した。

「有田みかんちゃんは指でつついただけで倒せますね」

 聡実は五体で襲って来た有田みかんちゃんをあっという間に撃退。

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 遥子は紀州南高梅吉を手でポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「やったぁ! 和歌山のアニヲタ君倒せたよ。お小遣いいっぱいゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげやな」

 真璃絵はその敵の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

JR和歌山駅構内へ辿り着くと、

「白浜行くの、小学校の時以来だな」

 龍平が代表して、六人分の白浜までの乗車券特急券を購入。

 みんなは特急くろしおに乗り込んだ。

       ☆

終点の白浜駅で降りたみんなは、アドベンチャーワールド付近の人通りの少ない所を散策し始める。ほどなく、ここならではの敵キャラとご対面した。

「ペンギンから登場か。リアルのよりでかいな」

 龍平は感心気味に呟く。

 みんなの前方に計三体現れた。

「ゲーム上ではアドベンチャーワールドの敵は園内に現れるやのし。その他水族館、動物園、美術館、科学館などもね。あの敵はアドベンチャーペンギン。体力は26。攻撃力、防御力共に高いで」

「すごく、かわいい」

 遥子はまたも見惚れてしまう。

「遥子ちゃん、危ないっ!」

 龍平は遥子の顔面目掛けてアジを投げつけて来た一体を竹刀を撃破。

「愛くるしい顔して凶悪なペンギンね。とりゃぁっ!」

 真璃絵は体長1.4メートルくらいあったそいつの顔にバットでさっそく攻撃。

「いったぁ。アジ投げつけて来たし」

 ピィー、ピィー、ピィー。

 と怒ったような甲高い鳴き声を上げ、仕返しされてしまった。

「ペンギンさんはお水で攻撃したら逆に回復しそうだからこれで倒そうっと」

 果音はそいつともう一体を手裏剣で消滅させた。

「真璃絵、龍平くん、果音。ペンギンさんいじめちゃダメだよ。かわいそう」

「遥子さん、そんな気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」

「遥子様、アドベンチャーペンギンのタックル攻撃はかなり痛いで」

「遥子お姉さん、冒険始めてからまだ一回も敵攻撃してへんやん。ここは心を鬼にして退治しなきゃ」

「それは、かわいそう」

「遥子様、敵キャラは触感はあるけどグラフィックで出来てて命は宿ってないさか、容赦なく攻撃したらいいんやのし」

「グラフィックでも、やっぱり無理だよ」

「遥子様、そんな甘いこと言ってるうちに背後に敵が来ちゃったで」

 梅乃はやや表情を引き攣らせ、慌てて伝える。

「えっ!」

 遥子はくるっと振り向くや、

「ぎゃあああっ!」

 甲高い悲鳴を上げて、そこにいた敵を和傘で殴りつけた。

 一撃で消滅。

 体長一メートル以上はある巨大な節足動物型モンスターがいたのだ。

「さっきのは白浜のフナムシくん、体力は25やのし。吉宗像以上に防御力高いけど遥子様、会心の一撃が出たね」

「遥子お姉ちゃん、すごぉい!」

「やるやん遥子お姉さん」

「お見事でしたね。遥子さんに節足動物や爬虫類、昆虫型の敵と戦わせると、常に会心の一撃を出せそうですね」

 果音と真璃絵と聡実はパチパチ拍手する。

「怖かったよぅ」

 遥子は涙目を浮かばせ、龍平にぎゅっと抱き付いた。

「確かにあんなでかいフナムシは怖いよな。あの、遥子ちゃん、わざわざ抱き付かなくても」

 龍平は気まずそうに微笑む。

「ごめんね龍平くん。あっ、あそこ、イルカさんだ。すごくかわいい♪」

遥子は離れてあげた直後に姿を発見した。

体長六メートルくらい。背中にボールを乗せていて、地面を這ってみんなのいる方へどんどん近づいてくる。

「遥子様、あれも敵キャラやのし。アドベンチャーイルカ。体力は33。ジャンプ突進攻撃は大ダメージ食らうで」

「遥子お姉さん、心を鬼にせなあかんで」

真璃絵はバットで容赦なく頭を攻撃。

 キュゥゥゥィン、キュゥゥゥィン、キュゥゥゥゥゥィン♪

 するとこんな愛らしい鳴き声を上げた。

「なんか、ワタシもかわいそうに思えて来たわ~」

「わたしも、攻撃する気無くしちゃいました」

「俺も」

「あたしも戦う気無くしちゃったぁ」

「私は元からこの子を傷付ける気なんてないよ」

 真璃絵達は武器をリュックに片付けてしまう。

「ありゃりゃ。皆様、戦意喪失される憐みの状態にされちゃいましたね」

 梅乃が苦笑いで呟いた直後、

「いったぁい!」

「ぅぼぁっ!」

「ぎゃんっ。痛いです」

「あいたぁ! このイルカ、卑怯過ぎや。微妙に笑ってはるし」

 遥子と梅乃以外のみんな、アドベンチャーイルカが尻尾で蹴り上げたボールで攻撃を食らわされてしまったと同時に元の精神状態へ。

「皆様、この敵は一撃で倒さんとさっきみたいになってまうやのし。皆様一斉に攻撃してや。炎はあかんで。さっき以上に悲しげな鳴き声上げちゃうさか」

「あくどいイルカ、さっきの仕返しやっ!」

 真璃絵はバット、

「イルカさん、かわいそうだけど倒しちゃうね」

果音は手裏剣、

「こいつの顔は見ちゃいかんな。同情してしまう」

 龍平は竹刀、

「イルカさん、申し訳ないです」

 聡実は箒で。

四人ほぼ同時に攻撃して消滅させた。

「やっぱり、かわいそう」

 遥子はぽろりと流した。

「遥子様、こちらの世界に出た敵キャラが消滅したということは、死んだわけではなくゲーム内に戻されたということやさか、悲しまんといてや」

 梅乃はにっこり笑顔で優しく慰める。

「おーい、アシカも来たぞ」

 龍平は楽しげな気分で接近を伝えた。

「ほんまや。アシカが空飛んではる」

「アシカさんだぁ。あたしこの動物大好き♪」

「私も大好きだな」

「この敵はどんな攻撃をしかけてくるのかしら?」

「アドベンチャーアシカの体力は34やのし」

 梅乃が伝えた直後、

 ア~オ、アォアォアォアォアォアォアォォォォォォォーッ!。

 全長二メートルくらいのアドベンチャーアシカは大きな鳴き声を上げた。

「不気味過ぎるでこの鳴き声、精神がおかしくなりそうや」

「これはやばいな」

「あたしも変になっちゃいそう」

「私もだよ」

「わたしもです。リアルなアシカさんの鳴き声と違い、かなり不気味ですね」

 龍平達は動きが鈍ってしまう。

「皆様、耳を塞いで聞かないようにして下さい。混乱状態になっちゃうで。てきゃの弱点は音やのし。遥子様。早くヴァイオリンを」

 梅乃は注意を促した。彼女には効果がなかったようだ。

「分かった」

 遥子は急いでリュックからヴァイオリンを取り出し、メリーさんの羊を演奏し始めた。

 するとアドベンチャーアシカは叫ぶのをやめてくれたのだ。

「遥子ちゃん良くやった。叫びさえなければ弱そうだ」

龍平が竹刀二連打で頭を叩いて退治完了。あべこべだんごと川添茶ロールを残していく。

「遥子様、上手くいきましたね。不気味な声には耳障りな音で対抗するのが一番いいんやのし」

「私のヴァイオリン、やっぱり耳障りなんだね」

 遥子はしょんぼりしてしまう。

「遥子お姉さん、今回は楽器の下手さが武器になったから喜びなよ。おう、ハマユウのお花も登場か。ええ匂いもして来たわ~」

 真璃絵は嬉しそうに呟く。高さ一メートルくらいはある花型モンスターが這いながら近づいて来たのだ。

「白浜町の花にも制定されてるリアルハマユウよりもいい香りかもですね」

「私、この香り好きになりそう」 

「あたしもー。気分が安らぐね」

 聡実、遥子、果音は姿を見かけるや、恍惚の表情を浮かべた。

「龍平様は、この匂い嗅いだらあかんで。あっ、遅かったかぁ」

「あんぅ、龍平くん、やめて」

「ごめん、なんか俺、遥子ちゃんのパンツ見たくてしょうがないんだ」

 龍平はとろんとした目つきで遥子のスカートを捲ってしまう。

「龍平お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」

 果音は楽しそうに笑う。

「龍平さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」

「体力30の白浜ハマユウの男の人によく効く魅惑の香りで、龍平様はムラムラ状態に侵されちゃったのし」

「遥子お姉さぁん、大好きや♪」

「まっ、真璃絵ぇ。やめて。龍平くんも真璃絵も変だよぅ」

 真璃絵からはほっぺたにディープキスをされてしまった。

「真璃絵様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」

 梅乃は楽しそうににっこり微笑む。

「遥子ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」

「遥子お姉さぁん、舌入れさせてー」

「んもう、龍平くんも真璃絵も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」

 遥子は中腰の龍平にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、真璃絵に口づけを迫られる。

「すみやかに倒しちゃいましょう」

「ハマユウのお花さん、くらえーっ!」

 聡実の箒、果音の泡立て器の連続攻撃によりあっさり消滅。かげろう、柚もなかを残していった。

「あれ? 俺。うわっ、なんで遥子ちゃんの尻が俺の目の前に!?」

「ありゃ、ワタシさっきまで何を」

 龍平と真璃絵は途端に平常状態へ戻る。

「龍平お兄ちゃんと真璃絵お姉ちゃん、遥子お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」

 果音は楽しそうに伝えた。

「ごっ、ごめん遥子ちゃん!」

龍平はすみやかに遥子から離れてあげ深々と頭を下げた。

「遥子お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」

真璃絵は遥子のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。

「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。ん? あっ、パンダちゃんだ。ついに登場したね。リアルのよりかわいい♪」

「本当だね。でもこれも敵なんだよね?」

 遥子と果音は愛らしい姿に見惚れてしまう。

「その通りやのし果音様、アドベンチャーパンダ、体力は33やのし。タックルと笹攻撃に注意して」

 梅乃が説明した矢先に、

「いてててっ」

 龍平は笹で殴りつけられてしまう。

「きゃんっ!」

 聡実は回し蹴りを食らわされてしまった。

「これ、中に人入ってるんやないの? 全身真っ黒にしたるで」

 真璃絵は黒インクを投げつけた。

 アドベンチャーパンダ、白い部分も真っ黒に。

「黒パンダだぁ」

 果音はくすくす笑いながら水鉄砲で攻撃する。

 パンダの白い部分が再び露になった。

「ぐはっ!」

「きゃんっ」

 真璃絵と果音、怒ったアドベンチャーパンダから笹を投げつけられてしまう。

 アドベンチャーパンダは続いて手元に残る笹を食い始めた。

「皆様、アドベンチャーパンダは攻撃されるたびに笹食って体力回復しちゃうさか、一斉に攻撃した方がいいやのし」

「面倒な敵だな」

 龍平がマッチ火を投げつけ、

「パンダらしい性質やね」

「パンダさん、笹の仕返しだよ」

すかさず真璃絵と果音が手裏剣で攻撃。

これにて消滅。気になるパンダみかんラングドシャ、パンダの冒険ミルクパイ、パンダクッキー計三つの回復アイテムを残していった。

 みんなは付近をさらに歩き回っていると、

「いたたたぁ。貝殻当てられたぁ」

 果音は死角になっている所から顔に先攻された。

「これは絶対ラッコのしわざだろ。どこだ?」

 龍平の推測通り、体長一メートルくらいのラッコ型モンスターがまもなくみんなの前に姿を現した。

「アドベンチャーラッコ、体力は29やのし」

「よくもやったなぁ。仕返しーっ!」

 果音は泡立て器を頭に叩き付けた。

 ヒィ~ン、ヒヒィーン!

 アドベンチャーラッコは痛がっているような鳴き声を上げる。

「なんかかわいそうだよ」

 遥子は同情してしまった。

「あたしも悪いことしちゃった気がするけど、敵なんだよ」

 果音は警告しておく。

「ラッコちゃん、貝は酒蒸しにしたらより美味くなるで」

真璃絵は熊楠をぶっかけた。

 すると、アドベンチャーラッコは頬を赤らめて笑い出し、ふらふらしながら貝を自分にぶつけて自滅したのだ。

「ありゃまっ」

 真璃絵は拍子抜けしたようだ。

「酩酊状態になっちゃうと、自分で自分を攻撃したり仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるやのし」

 梅乃は微笑み顔で伝える。

「そうなんか。このアイテム一回限りで消滅するんは勿体ないよなぁ」

「みんなーっ、シャチのモンスターが出たよーっ!」

 果音は嬉しそうに叫んで伝える。

 体長十メートル以上はあると思われる、シャチ型モンスターの登場である。優雅に空を飛んでいた。

「シャチって、海の殺し屋の名の通りリアルじゃホオジロザメより強いんだよな。遠くからマッチ火で攻撃した方がよさそうだ」

「龍平様、他の皆様もアドベンチャーシャチちゃんには絶対攻撃したらあかんで。こちらから何もせんかったら攻撃してくることはないさか、攻撃与えて怒らせてもうたら皆様を一撃で全滅させる攻撃してくるやのし。体力は860。戦闘になったら和歌山編のボスよりも強いで。ゲーム上で遭遇したらレベル25くらいになるまでは逃げるか見送るを選択するんがベストやのし」

 梅乃は慌て気味に早口で伝える。

「そんなトラップがあったのか。危うく攻撃するとこだった」

「どんなアイテム落としていくんかワタシ気になるけど、それならしゃあないね」

「あたしレベルいっぱい上げてから戦ってみたいな」

「わたしも同じく」

「私はあんなかわいいシャチさん、攻撃するなんて考えられないよ」

 アドベンチャーシャチは、みんなに見送られどこかへ消えていった。

 このあとみんなは千畳敷へ。

散策し始めてすぐに、ザバァァァンと波飛沫が上がり、海から新たな敵が襲撃して来た。

「恐竜かよ」

 龍平はあっと驚く。

 全長七メートルくらいの首長竜型モンスターだった。

 口を大きく開け、鋭い歯を剥き出しにしていた。

 ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 獣却類型恐竜っぽい鳴き声も龍平達のいる場所にこだまする。

「こっちはティラノサウルスさんが。これはかなり強そうです」

「食べられちゃうぅぅぅぅぅぅぅ」

 大きく口を開けた五メートルくらいの大きさのに追われ、聡実と遥子は必死で逃げ惑う。

「ジュ○シックパーク気分だね」

「リアルエネルギーランドのに負けんくらいすごい迫力や」

 真璃絵と果音もいっしょに逃げ惑うも、この状況をとても楽しんでいた。

「どっちもボスっぽい風格だな」

 龍平もわりと楽しそうにしていた。

「敵キャラ名の頭にエネルギーランドが付くリオプレウロドンもティラノサウルスも所詮バーチャルやさか物理的ダメージは受けんで。脅かし系モンスターやのし」

 梅乃が説明した矢先にその二体は消滅した。

「本当に見掛け倒しだったな」

 龍平は微笑む。

「わたし本物かと思いました」

「私もだよ。めちゃくちゃ恐ろしかった」

「ワタシはめっちゃ楽しかったわ~」

「俺もけっこう楽しめた。ん? 果音ちゃん、体調悪いのか?」

「あたし、急に頭がくらくらして来たの」

 果音はそう伝え、地面に座り込んでしまった。

「果音、大丈夫?」

「果音さん、熱中症になっちゃったみたいね」

 遥子と聡実は心配そうに話しかけた。

「そうみたい」

 果音は俯き加減で伝える。

「炎天下で長時間戦い続けとったもんね。果音、日陰に移動させたるよ」

 真璃絵がおんぶしてあげようとしたら、

「果音様、これ飲んでね」

 梅乃は梅ジュースを差し出す。これもゲーム内にあったものだ。

「ありがとう」

 果音は一気に飲み干すと、

「気分、すごく良くなったよ」

 瞬時に完全回復。

「よかったね果音様。皆様、ここの敵もさほど苦戦せずに倒せとるさか、そろそろ串本に移動しよら」

「そこ行く前にお昼ご飯食べようや。もうお昼過ぎとるし。ワタシ、回復アイテムけっこう使ったけど普通にお腹すいて来たわ~」

「回復アイテムは食糧代わりになるほどカロリーないさか、よほど大量に摂取せんと満腹感は得られんやのし」

「リアルのものと同じか凌駕するくらいの美味しさなのに、そんな仕組みになっているのは素晴らしいですね」

「ちなみにゲーム上では日中、ゲーム内時間で七時間くらい食事させずに冒険させ続けとったら空腹の表示が出て敵からダメージ受けんでも体力減ってくるのし」

「そこも面倒なリアル感だな」

 このあとみんなは近くのファミレスへ。六人掛けテーブル席に龍平と遥子、真璃絵と果音、聡実と梅乃が向かい合って座る。

「わたし、近大マグロの鉄火丼にしようっと」

 聡実がメニュー表を取ってテーブル上に並べた。

「うちもそれにするわ。あと、デザートに餡蜜も。リアル世界のファミレス食、楽しみや」

「俺は天ぷらうどんにするか」

「あたしはミートパイとフルーツパフェにするぅ」

「果音、お子様ランチやなくてええの? シャボン玉付いてくるみたいよ」

「真璃絵お姉ちゃん、あたしもうそんなの頼むほど子どもじゃないよ」

「そうか、そうか。果音も大人になったんやね。ワタシは明太子スパゲティーと抹茶ソフトにするわ~」

「私は熊野牛カレーにしよう。あとパイン味のソフトクリームも」

みんなの分のメニューが運ばれて来て、ランチタイムが始まる。

「龍平くん、私のカレー少し分けてあげるよ。はい、あーん」

 遥子はカレーの中にあった牛肉の一片をさじで掬い、龍平の口元へ近づける。

「いや、いいって」

 龍平は困惑顔を浮かべ、左手を振りかざして拒否する。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。

「あーん、やっぱりダメかぁ」

 遥子は嘆く。でも微笑み顔で嬉しそうだった。

「龍平様、お顔は赤くなってないけど、きっと照れてるね」

「龍平お兄さん、一回くらいやってあげなよ」

 梅乃と真璃絵はにこにこ笑いながらそんな彼を見つめた。

「出来るわけないだろ」

 龍平は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。

「赤ちゃんみたいで、恥ずかしいもんね」

 果音はフルーツパフェを美味しそうに頬張りながら言う。龍平の気持ちがよく分かったようだ。

「パインソフトすごく美味しいよ。龍平くん、少しあげるよ」

「いらねー。そんな酸っぱいの」

「酸っぱくないよ」

「それでもいらねー」

「もう、全部食べちゃうよ」

 遥子はにっこり笑顔でそう伝え、最後の一口を味わう。

「龍平様は、フルーツあまり好きじゃないみたいやね」

「ああ。いちご、柑橘系は特に苦手だ。辛い物や味の濃いのが好きだな」

「ワタシといっしょやね」

「龍平様、味の好みは男らしいやのし」

          ☆

 ファミレスをあとにしたみんなは、最寄りのバス停へ。

JR白浜駅行きの路線バスを待っている間、

「和歌山市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいよ。アニメイトも被害に遭ったみたいやけど、それはきっと和歌山のアニヲタ君、声ヲタ君のしわざやろうね」 

真璃絵は携帯をネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認した。

「ついに一般人の及ぶ範囲にも被害が出たわけか」

「泥棒もやってる敵キャラさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」

「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」

「敵キャラさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にももう襲い掛からないで欲しいよ」

      ☆

 みんなはJR白浜駅から特急くろしお利用で串本へ。串本駅からは路線バスで訪れた串本海中公園付近を散策し始めてほどなく、ここならではの敵に遭遇した。

「ここではウミガメから登場か」

「あの敵は串本ウミガメ。体力は44。攻撃力、防御力共に高いで」

「あまり強そうな感じはせんけどね。とりゃぁっ!」

 真璃絵は甲長二メールくらいあったそいつの甲羅にバットでさっそく攻撃し始める。

「五発で消えたよ。一発叩いたら体引っ込めて何もして来なくなったよ。楽勝過ぎや」

 ダメージを一度も食らわされず簡単に倒して、自慢げに伝えた。

「確かに体はリアルアカウミガメよりでかくて硬いけど弱過ぎだな。俺は四発だ」

「あたしは五発ぅ。最初はお口開けて襲ってくるけど動き遅いし、一発食らわせたら勝ったも同然だね」

 近くに現れたもう二頭を龍平は竹刀、果音は泡立て器を用いて手分けして倒した。芋いもを落としていく。 

「真璃絵、龍平くん、果音。亀さんいじめちゃダメだよ。かわいそう」

「遥子さん、そんな気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」

「遥子様、串本ウミガメの噛み付き攻撃は指が千切れてもおかしくないくらいの強さやのし」

「おーい、今度はナポレオンフィッシュが来たぞ」

 龍平が空中を漂う体長三メートルくらいの魚型モンスターの接近に最初に気付く。

「なんか私、眠くなって来ちゃった」

「あたしもー」

「ワタシもや」

「俺も、急に睡魔が」

「わたしも眠いですぅ」

「皆様、串本海中公園ナポレオンフィッシュちゃんは催眠術を使ってくるやのし。眠ったところを追突してくるのがてきゃの攻撃方法や。てきゃの顔を見ないように」

「ナポレオンは睡眠時間が短かったらしいけどな。さっさと片付けないと」

 龍平が寝惚け眼を擦りながら竹刀二発で退治。

 すると途端にみんな眠気が冴えた。


 みんなこのあとはバス利用で潮岬へ。

「リアル潮岬灯台、見れてよかった。ゲーム内ではモンスター化して、潮岬灯台納言って敵キャラ名で和歌山編のボスになっとるんやのし」

「潮岬灯台がボスなのか。そこもユニークだな。鯨とか八咫烏辺りが風貌的に和歌山のボスになりそうだけど……ボスのいる場所は潮岬じゃないんだな」

 龍平は少し不思議がる。

「ゲーム内では潮岬灯台、モンスター化したことで伸縮自在で自由に動けれるようになって和歌山県内各地を旅行中って状況になっとるんよ。ようするにあの場所に無くて行方不明やのし。リアルと同様、潮岬に留まらせるんはかわいそうやさかって製作者の意図でこんな設定にしたらしいのし」

「そういうわけか」

「ゲーム内では主人公ら勇者に倒されることで普通の潮岬灯台に戻って、リアルと同様あの場所に聳え立つことになっとるよ」

「うぉわっ! 海からクエが飛び出て来たぞ。いかにも強そうだ」

 龍平のすぐ目の前に新たな敵が現れた。

 体長は一メートルくらいあった。本物のクエと同じくらいの大きさだ。

「こっ、怖ぁい。食べられちゃう!」

 遥子はまたも慌てて逃げ出す。

「噛まれたら大ダメージ食らいそうですね」

「紀伊クエくん、体力は38。噛み付き攻撃に注意してや」

 梅乃は笑顔で警告。

「龍平お兄さんも逃げてはるし。まあ確かに打撃はやめた方がよさそうや。これは、こいつで倒すよ」

 真璃絵は接近戦は危険だと感じ、紀伊クエくんに手裏剣を投げつけた。

「必殺、クエ攻め!」

 果音は水鉄砲で攻撃。

 まだ倒せなかった。

紀伊クエくんは地面をビチビチ跳ね回る。

「果音さん、クエに水攻撃はあまり効かないと思うわ」

 聡実はこう助言し、マッチ火を投げつけた。

 紀伊クエくん、一瞬で黒焦げになったがまだ少し動く。

「みんなありがとう。とどめは俺がさすよ」

 龍平がすっかり弱ったそいつを竹刀で叩きつけ、ようやく消滅。

せんべい菓子の【潮岬めぐり】を残していった。

「あの、離して下さい。吸盤で痛いです」

「龍平くーん、真璃絵、果音、イカさんがぁ~」

 全長三メートルくらいの巨大イカが十本のうち二本の足を使って聡実と遥子の全身に絡み付いて来た。

「紀伊アオリイカ、体力は36。絡み付きと墨ぶっかけに注意してや」

 梅乃は遥子のすぐ隣にいたにも拘わらず狙われず。

「このイカ、女の子にはやっぱこんな攻撃しやがるんだな」

 龍平が攻撃するよりも先に、

「ワタシがこの触手プレー好きそうなエロイカ倒したぁい。とりゃぁっ!」

 真璃絵がこの敵の真正面に近づき、バットで顔の部分を一発ぶっ叩いた。

「うっひゃっ、よけれんかったわ」

次の瞬間、顔と服に墨をぶっかけられてしまう。

「ひゃぅっ! もう、やっぱエロイカやな。お仕置きや♪」

 さらに触腕の吸盤で胸に絡み付かれたがすぐにバットで攻撃して引き離した。

「後ろに回れば安全だね」

 果音は背後からヨーヨーでダメージを一発与えた。

「巨大イカ、仕返ししたるで」

 真璃絵は黒インクを投げつけ、紀伊アオリイカを墨まみれにすると休まずバットで攻撃して退治。墨の汚れもきれいに消える。

「俺が戦うまでもなかったな」

「ゃーん、この太刀魚ちゃんもエッチやね。器用に服だけ噛み千切られたわ~」

 真璃絵は太刀魚型モンスターにカーディガンを破かれ、ブラが丸見えに。

「呆れた太刀魚だな。塩焼きにしたいものだ」

龍平はマッチ火で攻撃。ボワァッと燃えたがまだ倒せず。

「きゃあっ、巻き付かれたぁ」

 遥子が襲われてしまう。

「遥子お姉ちゃん、任せて」

 果音が泡立て器でもう一発叩いて退治したと思ったら、またすぐに新たな敵キャラに遭遇した。

 体長五〇センチくらいのミノカサゴ型モンスターが襲ってくる。

「串本ミノカサゴ、体力は39。背びれで刺されたら毒に侵されるさか気をつけてや」

「こいつも一応食えるみたいだな」

龍平はマッチ火を投げつけてあっさり消滅させた。じゃばら羊羹を残していく。

「ひゃんっ、何か吸い付いて来たぁ~」

 遥子は顔を青ざめさせてカタカタ震える。うなじを狙われたのだ。

「タコか? いや違う。タツノオトシゴか」

 龍平はすぐに確認した。

「紀伊タツノオトシゴ、体力は30しかない串本では最弱級の雑魚だけど、体力吸い取ってくるやのし」

「頭がくらくらして来たよ。離れて、離れてーっ!」

 遥子は慌ててヴァイオリンの弦を引いた。

 相変わらずの耳障りな音が流れ、紀伊タツノオトシゴは途端に遥子のうなじから離れてくれた。

「遥子ちゃん、上手くいったな」

 龍平が空を飛んで逃げていくそいつを竹刀で叩きつけるとあっさり消滅。

「よかったけど、なんか喜べないよ」

 遥子は困惑顔だ。

「こっちもタツノオトシゴモンスター出たで。遥子お姉さん、もう一回弦引いて蹴散らしてや」

「遥子お姉ちゃん、お願ぁい」

 真璃絵と果音はにこにこ顔で頼んでみる。

「それはちょっと。真璃絵達なら普通に戦って倒せるでしょ」

「あの、遥子さん、お願いします。わたしの足に吸い付かれちゃいました」

「遥子様、今まで他の皆様に戦ってもらってばかりやさか、ここは協力してあげよら」

 梅乃は肩をポンッと叩いて説得する。

「それじゃ、仕方なくやるよ」

 膝に吸い付かれ不快そうにしている聡実の姿を見ると、遥子はしぶしぶ弦を引いて耳障りな音を出してあげた。紀伊タツノオトシゴはやはり聡実の体から離れる。

「遥子さん、ありがとうございます。わたしの足、百メートルリレー全力で走り切ったあとみたいな感覚だわ」

 聡実は海へ逃げようとしたそいつを箒でぶっ叩いて消滅させた。

「白浜でのアシカ戦といい、遥子ちゃんも立派な戦力になってるね。ぐわっ! 海から何か飛び出て来たぞ」

 龍平は突如何者かにわき腹を直撃された。 

「トビウオさんみたいね」

「その通りやで聡実様。敵キャラ名としては頭に紀伊が付くけど。体力は41。リアルなんよりも自由に空飛べるで」

「陸に上がった生きてるお魚は、ビチビチ跳ね回るから怖い」

 遥子は龍平の背後に隠れる。

「遥子お姉ちゃん、お魚で怖がっちゃダメだよ」

 果音は楽しそうにヨーヨーで体長五〇センチくらいの紀伊トビウオを攻撃し、見事一撃で消滅させた。

「魚拓にしたろうかな?」

 真璃絵は残った紀伊トビウオに黒インクを投げつけて真っ黒にした。

「ぐはっ、仕返しされたよ」

 紀伊トビウオはダメージはほとんど食らってないようで、真璃絵の顔面に体当たりを食らわした。

 真璃絵の顔も真っ黒になってしまう。

「竜田揚げにして味わいたいですね」

 聡実がマッチ火を投げつけて消滅させた。蘆雪もなかを残していく。

「串本の敵キャラも、なかなか戦いがいがあるわ~」

真璃絵に付いたインクの汚れもきれいに消えた。

「きゃっ、きゃあっ!」

 直後に遥子の悲鳴。

 体長一メートルくらいの伊勢えび型モンスターが遥子の背後に現れたのだ。

「私、えび、苦手。あのもじゃもじゃした足が」

 遥子は慌ててその敵から逃げていく。

「てきゃの名は紀伊伊勢えび。体力は35。てきゃも殻で覆われとるさか防御力高いで」

「めっちゃ美味そうや。とりゃぁっ!」

 真璃絵が甲羅に向けて攻撃すると、伊勢えびはビチビチ激しく跳ねる。

「ぎゃぁっ、こっち来たぁーっ!」

 逃げ惑う遥子。

「俺に任せて」

 龍平は竹刀を構え、バットでボールを打つかのように伊勢えびの歩脚部分に叩き付ける。

 紀伊伊勢えび、裏返しになって自由に身動き不能に。脚をバタつかせる。

「伊勢えびのお刺身落としていかないかなぁ」

「リアルでもこの辺りから伊勢湾にかけて伊勢えびの収穫量多いものね」

 果音と聡実がさらにヨーヨー、箒で容赦なく攻撃を与えて消滅した。果音の期待したアイテムは残さず。

「なかなかしぶとかったな。また新しい敵が来たし。今度はマグロか」

 今度襲い掛かって来た敵の体長は五メートルくらいだった。

「空飛ぶマグロだぁ。美味しそう。あたし刺身で食べたいな」

「ワタシも刺身派や」

「わたしは炙りがいいです。あの大きさなら、かなりの人数分ありそうですね。リアル近大マグロよりも美味しいのかしら?」

「美味しそうだけど顔が怖い」

 遥子は龍平の背後に隠れてしまう。

「てきゃは紀伊クロマグロ。体力は40。青森編大間のクロマグロに比べればかなり弱いで」

「的がでかい分、楽に勝てそうだ」

 龍平が果敢に立ち向かっていったら、

「うぉわっ!」

 急に向きを変えた紀伊クロマグロに体当たりされてしまった。

 龍平は吹っ飛ばされてしまう。

「体当たり食らったらかなりダメージ貰うやのし。他の皆様も気をつけて」

 梅乃は注意を促しながら、龍平にかげろうを与えた。

「サンキュー梅乃ちゃん、俺たぶん腕折れてたと思う」

 龍平、完全復活。

「あんな機敏に動けるなんて、やばそうや。逃げるって選択肢もありやんね?」

「ここは逃げましょう」

「その方がいいよ。龍平くんみたいに大怪我しちゃう」

「あたしは戦いたいけどなぁ」

「うわっ! 私の方襲って来たぁぁぁ~。助けてーっ!」

 遥子はとっさにその場から逃げ出す。

「俺に任せて。今度は上手くやるから」

 龍平はマッチ火を紀伊クロマグロに向かって投げつけた。

 紀伊クロマグロ、一瞬で炎に包まれて瞬く間に消滅した。

「龍平お兄ちゃんすごーいっ! マグロの炙りにしちゃったね」

「龍平様、弱点を上手く利用しましたね」

「やっぱ龍平お兄さんは主人公やわ」

「ありがとうございます龍平さん」

「ありがとう龍平くん、勇気あるね」

「いや、そんなことないと思う」

「さっきの敵に関しては、姿残しといて欲しかったわ~。ぎゃんっ、いたぁい」

 真璃絵の体にビリッと痛みが走る。

「いってぇ! 俺も食らった。くらげの攻撃だな。動け、ない」

 龍平の予想通り、すぐそばに傘の直径三〇センチくらいのアカクラゲ型モンスターが空中を漂っていた。

「真璃絵様、龍平様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。てきゃの針は毒針やけど、この場合毒状態やないさか毒消しでは回復出来んやのし。倒すかしばらくすれば自然に治るやのし。紀伊あかくらげ、毒針は脅威やけど体力はたったの21で防御力も低いで」

「くらげさん、くらえーっ!」

 果音の手裏剣一撃で消滅。うすかわ饅頭を残していく。

「体が動かんかったけど、マッサージされとるみたいでけっこう気持ちよかったわ~」

「俺は不快に感じたけどな」

 真璃絵と龍平は痺れ状態から回復した。

 直後に、

「うわっ!」

 龍平、

「きゃっ!」

 遥子、

「つめたぁ! これ海水やん」

 真璃絵、

「しょっぱぁい」

 果音、

「誰のしわざなのかしら?」

 聡実、

「冷たいわ~。これは間違いなく橋杭岩くんのしわざやのし」

 梅乃、

全員背後から海水をぶっかけられた。

「どうだおまえら」

みんなの目の前に、橋の杭のような形の岩型モンスターが。直径は三メートルくらい。少し中に浮いていたそいつは人間の言葉でしゃべった。

「岩がしゃべってるぅっ!」

「あれまでモンスターになってたのか」

「しゃべる岩が出るんはRPGの王道らしさがあるわ~。これはリアルなんよりちっちゃいね」

 果音と龍平と真璃絵はなかなかワイルドな声に思わず笑ってしまう。

「おまはん、リアル橋杭岩はもう少し離れた場所やのし」

 梅乃は迷惑そうに指摘した。

「橋杭岩くんさん、これくらいでわたし達が怯むと思った?」

「冷たいけど、物理的ダメージはないぞ」

 聡実と龍平は怒りの表情だ。

「おれの必殺技はこれだけじゃないんだぜ。くらえっ! 潮岬の風」

 橋杭岩くんはそう言うと体を超高速回転させた。

 周囲一体にブオォォォォォォォッと突風が起きる。

「きゃぁっ!」

「いやぁん、こいつ岩の癖にエッチや」

 遥子と真璃絵のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えに。

「うわっ!」

 龍平はとっさに視線を逸らす。

「よそ見するなよ少年。せっかく見せてやったのに」

「ぐわっ!」

 橋杭岩くんに突進を食らわされてしまった。

「いってててっ、岩だけに攻撃力高いな。背骨折れたかも。起き上がれねえ」

 龍平は弾き飛ばされ地面に叩き付けられてしまう。

「龍平くぅん、大丈夫?」

 遥子は心配そうに駆け寄っていく。

「遥子お姉ちゃん、危なぁいっ!」

 果音は遥子の背後に迫っていた紀伊クエを泡立て器で攻撃。

 会心の一撃で消滅させ、うすかわ饅頭を手に入れた。

「ありがとう果音」

「どういたしまして」

「遥子様、戦闘中に他の仲間の心配をし過ぎると、自分もやられちゃうやのし。龍平様ならわたしが回復させるで。龍平様、これを」

 梅乃はすぐさま和歌浦せんべいを龍平に口に放り込んだ。

「おう、痛み消えた」

 龍平、完全回復だ。

「龍平さん、わたしは問題なしですよ。あれ?」

 聡実の穿いていたショートパンツもビリッと破れて、熊ちゃん柄のショーツがまる見えに。

「俺、何も見てないから」

 龍平はとっさに顔を背けた。

「聡実お姉さんのパンツもかえらしぃわ~」

 真璃絵はにやける。

「あの、龍平さん、なるべく早く忘れて下さいね」

 聡実は頬をカァッと赤らめる。

「分かった」

「油断したな」

 橋杭岩くんは表情は分からないが、嘲笑っているように思えた。

「橋杭岩くんの体力は45やのし。岩だけに防御力かなり高いで」

「岩のくせに生意気やっ!」

 真璃絵が龍平にまた突進しようとした橋杭岩くんに黒インクを投げつけたのち、

「橋杭岩くん、雪積もったようにしてあげる。串本では雪滅多に降らないでしょ」

果音は生クリームをぶっかけた。

「うぉっ、天然記念物を汚すなよ」

 橋杭岩くん、真っ白に変色して怯む。

「橋杭岩くんさん、風攻撃の仕返しよ。もっと風化させてあげるわ」

 聡実はふくれっ面で保田紙うちわで仰いだ。

「寒っ!」

 橋杭岩くん、ブルルッと震える。

「これってどっちが前なのかな?」

「ろっくっ!」

「まだ消えないか」

「あちあちあちっ、俺様は天然記念物だぞ。環境破壊反対」

龍平が竹刀&マッチ火攻撃を加えてようやく消滅。

「よかった」

 ショートパンツの破れも元に戻って聡実はホッと一安心した。

その矢先、

「きゃっあん! 真っ暗です」

 何かに上空から襲われてしまった。

「聡実ちゃんが閉じ込められちゃったぁ」

 遥子は慌てて呟く。

「息苦しいです。蒸し暑いです。甚だ磯臭いです。出して下さい」

 聡実は高さ二メートくらいの貝殻型の敵に全身すっぽり覆い被されてしまったのだ。

「串本貝殻ちゃん。どのタイプも体力は43やのし。防御力は串本の敵で一番高いで。弱点は無し。火にも強いで」

「貝殻のモンスターかよ。これはヒメルリガイっぽいな。山東さん、すぐに助けるからな」

 龍平はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。

「とりゃぁっ!」

 真璃絵もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。

「すごく硬いね」

 果音のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。

 龍平達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、串本貝殻ちゃんは消滅した。

「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」

 代わりに現れた聡実はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中から箒で攻撃していたようである。

「聡実ちゃん、これ食べて」

 遥子は柚もなかを与える。

「ありがとうございます。美味しい♪ んっ、もががが、なんか珊瑚らしきものがまとわりついて来ました。前が見えません」

 聡実は全快した瞬間にまたも何者かに先攻される。

「珊瑚のモンスターか。串本沖は珊瑚の世界最北に近い生息地だもんな。山東さん、大丈夫か?」

「息苦しいですぅ」

「絡み付いて取りにくいな」

 龍平は聡実の頭に付いた珊瑚を手掴みして引き離してあげた。

「ありがとうございます龍平さん。疲れました」

 聡実は体力をかなり消耗してしまったようだ。

「聡実ちゃん、これ食べて」

 遥子はパンダクッキーを与えて全快させてあげた。

「串本サンゴちゃんは体力37やのし。弱点は炎。皆様、身動き封じに注意してや」

「うわっ、動き早っ!」

 龍平も串本サンゴちゃんに包み込まれてしまう。

「鬱陶しい」

 けれどもすぐに自力で引き離した。

「こうすれば弱るかも」

 果音は生クリーム、

「これも食らわせたらより弱りそうや」

 真璃絵は黒インクを直撃させた。

「動き鈍ったな」

 龍平はすっかり弱ったと思われる串本サンゴちゃんをすばやくバットで攻撃すると、あっさり消滅した。こし餡を求肥で包み、白い薄干皮で挟んだ串本銘菓【浜そだち】を残していく。

「わたし、串本では酷い目に遭ってばかりだったな」

 聡実はしょんぼりした気分で呟いた。

「聡実様、元気出してや。聡実様の本領を発揮出来るイベントも道中であるさか。聡実様がいないと十中八九突破出来へんと思うのし」

「どんなイベントなのかしら?」 

「それは現地に着いてからのお楽しみということで。それでは皆様、鯨の町、太地に移動しよら」

みんなは潮岬灯台からタクシー利用で太地くじら浜公園へ。

園内の人気の少ないところを歩き進んでいくと、優雅に中を漂う全長五メートルくらいはあるゴンドウクジラ型モンスターがみんなの前に姿を現した。

「太地ゴンドウクジラ、体力は51。倒すことも出来るけど、味方モンスターやのし」

「これ乗ったら楽しそう♪」

 果音は太地のゴンドウクジラの頭上に胸びれを足場にして乗っかった。

「ワタシも乗ろうっと。潮吹くんかな?」

真璃絵もすぐにあとに続き、果音の後ろに腰掛ける。

「すごく乗り心地いいよ。みんなも乗ったら?」

「長いから遥子お姉さん達も余裕で乗れるで」

太地ゴンドウクジラは二人を乗せたまま地上から五〇センチくらい高さの所をゆっくり浮遊する。

「太地ゴンドウクジラ、こんなことも出来るなんて、うちも知らんかったのし」

 梅乃もわくわく気分で同じようにして乗っかり、真璃絵の後ろに腰掛ける。

「俺はいいや。子どもじゃないし」

「わたしは乗りたいです。んっしょ」

 聡実も慎重に胸ひれを足場に使って乗っかった。

「私も乗ろうっと♪」

 遥子がわくわく気分で呟いた矢先、太地ゴンドウクジラはぐらついて地面に落ち、たちまち消滅してしまった。

「定員オーバーしちゃったね」

 果音はえへっと笑う。

「なんかショックです」

 聡実はしょんぼりしてしまったようだ。

「聡実お姉さんの体重そのものが原因やないと思うから、気にせんときや」

「聡実様、うちが乗ったあときっとあと数グラムでダメやったと思うやのし」

 真璃絵と梅乃は苦笑いして慰めてあげた。

「私、先に乗らなくてよかったよ。この辺、ゴンドウクジラよりもっと大きいマッコウクジラやザトウクジラのモンスターは出ないのかなぁ? それなら何十人も乗れそうだけど。ゴンドウクジラは小さ過ぎて鯨らしくないよ」

 遥子は周囲をきょろきょろ見渡す。

「ゲーム上では太地周辺に同じく味方モンスターとして出るけど、あまりに大き過ぎて現実世界には飛び出て来れてないと思うやのし」

「そうなんだ。それは残念。ひゃっ、きゃあっ!」

「姉ちゃんいいかだらやのう。わいが潮吹かせたるわ」

「やめて、ひゃっ、あっん」

 遥子は江戸時代からタイムスリップして来たかのような、赤いふんどし一枚姿の筋骨隆々な青年男に背後から襲われショーツの中に手を突っ込まれまさぐられた。

「やめてーな」

「お嬢ちゃん、わえといっしょに鯨捕りに行こら」

 真璃絵も直後に同じくふんどし姿で角刈りの一体に抱き付かれ胸を揉まれてしまう。抵抗するものの力負けしてしまっていた。

「おい、おっさん達、やめろ」

 龍平はすぐさま竹刀を構えて遥子を襲う一体に立ち向かっていくが、

「うるせえっ!」

「ぐおっ! がはっ」

 腹部にパンチを食らわされてしまった。龍平はその場にうずくまる。

「鯨捕りのおじちゃん、くらえーっ!」

 果音は遥子と真璃絵を襲う二体の背中目掛けて手裏剣を投げつけた。

 直撃はしたものの、あまり食らってない様子だった。

「太地捕鯨男、容姿は違えどみんな体力は同じ48やのし」

「やめなさい。リアルな成人男性だったらわいせつ罪になるわよ」

 聡実は恐る恐るマッチ火を二本投げつけて二体を攻撃しようとしたが、

「おまんも潮吹かせてやるよ」

「きゃっ! やめて下さぁい」

 新たに現れたやはりふんどし姿な厳つい顔つきの一体に馬乗りにされ、服を脱がされかける。

「鯨捕りのおじちゃんお兄ちゃん、暴力はダメだよ」

 果音はさらに手裏剣で攻撃を加えていくが、その最中に、

「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」

「きゃぁんっ」

また新たに現れたふんどし丸刈りあごひげの目立つ一体に肩車されてしまう。

「くじらの博物館の展示人形がモンスター化したようだな」

 浜そだちなどを食して体力全快した龍平は、竹刀で遥子達を襲う四体の太地捕鯨男達を背後から狙おうとするも、

「坊や、おれは後ろにも目があるんだぜ。海の男を舐めるなよ」

「ぐわぁっ!」

 一体から銛で腰をグサッと刺されてしまった。龍平はあまりの痛みでその場に崩れ落ちる。

 その直後、ヴァイオリンの雑音が周囲に鳴り響いた。

「離れて、離れて」

 遥子が尚もショーツの中をまさぐってくる太地捕鯨男を蹴散らそうと弦を引いたのだ。

「ええ音色や。鯨の鳴き声みたいやな」

 けれどもまさぐりをやめてくれなかった。逆に気に入られてしまったようだ。

「効いてないよぅ」

「残念ながら、雑音で倒せる敵って、かなり少数派やのし」

 梅乃は苦笑いを浮かべて伝えた。

「おっちゃん、これでもくらいやっ!」

「ぐほっ」

真璃絵は自身に襲って来た一体に一本背負い&黒インクで目潰し&バット攻撃連打で消滅させたのち、

「遥子お姉さんのショーツをぐちょぐちょにしたおっちゃん、許さんで」

遥子を襲う一体に駆け寄り、手裏剣とGペンをくらわし消滅させた。

「ありがとう真璃絵、私、パンツはぐちょぐちょになってないよ」

 遥子は頬を赤らめ照れくさそうに否定する。

「あたしもひげのおじちゃん倒して来たよ。意外と弱かったぁー」

 果音も肩車されている時に背中をヨーヨーで何発か攻撃して消滅させて来た。

「わたしも倒して来ました」

 聡実は急所を蹴りつけ怯ませた後、箒で何度か叩き付けて消滅させた。

 これにて全滅。

てつめん餅を残していく。

「俺、あんなに苦戦して情けないな」

 真璃絵達の戦い振りに、龍平はちょっぴりショックを受けたようだ。

「龍平様、気になさらずに。太地捕鯨男は女の子相手には殴る蹴る銛を投げるといった体力値を下げる攻撃はして来んさか楽に勝てたんやのし」

「そういうわけか。俺あの敵とはリアルでは二度と戦いたくねえ。ぅおわっ、いってぇぇぇ! 今度は鳥か? 鯨関連以外の敵も出るんだな」

「いったぁい。鳥さんやめてぇーっ! 早く離れてぇ~」

「あん、耳噛まないで下さい」

「もう、痛いよぅ。凶暴な鳥だね。鯨捕りのおじちゃんお兄ちゃん達よりは弱そうだけど」

「ぎゃっ、腕引っかかれたわ~。この鳥の爪の威力けっこう強烈や」

 ピィィィーピッピィィィチョチョピィィィ!

龍平達は体長五〇センチくらいの青と赤茶色まじりの鳥型モンスター数匹に上空から襲い掛かられた。

「太地イソヒヨドリは体力45。太地捕鯨男に比べれば攻撃力も防御力も瞬発力も低い雑魚やのし。皆様ならさほど苦戦せずに倒せると思うで」

 梅乃だけは襲われず。

「確かに太地捕鯨男よりは戦いやすいな」

 龍平は竹刀、

「くらえーっ!」

 果音は水鉄砲、

「リアル火の鳥にしたるわ~」

真璃絵はマッチ火、

「太地町の鳥さんがモンスター化したのね」

 聡実は箒で攻撃して全滅させた。

「フォフォフォ、皆の者、敵キャラ退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」

 突如、白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの前に現れた。

「あれー、思わぬ場所に現れたね。ゲーム上ではこの敵、高野山麓の学文路天満宮にあるやのし」

「エロそうな爺ちゃんやね」

 真璃絵はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りやね」

「あたしが好きなの?」

 果音がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「果音、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 遥子に背後から掴まえられた。

「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るけど、戦った方が後々の冒険で有利になるかもやのし」

「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、和歌山編で早くも遭遇するんだな」

 龍平は興味深そうに学問仙人のお姿を眺めた。

「敵キャラやけど、倒せば味方になってくれるで。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方やのし。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きやのし」

「ホホホッ。わしはゲーム上では学文路天満宮におるのは学問の神様、菅原道真公が祀られておるからじゃよ。わし、午前中はリアル学文路天満宮におったのじゃが、早く勇者達に会いたくてタクシーを利用してここまでやって来たのじゃ。じつに遠かった。四時間以上はかかったぞ。リアル和歌山県も交通の便が悪いのう」

「タクシー利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」

 龍平はにっこり笑ってしまう。

「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ。そこの果音と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「果音、危ないからダメだよ」

「小学生の果音様では、まだ倒すん無理やと思うで」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 聡実が率先して学問仙人の前に歩み寄った。

「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」

 学問仙人がにこにこ顔で問いかける。

「いや、わたしは京大第一志望よ」

 聡実はきりっとした表情で答えた。

「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」

 学問仙人はいきなり杖を振りかざしてくる。

「ひゃっ!」

 聡実は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまった。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 龍平はとっさに聡実から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学問仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。体中が痛い」

 仰向けで苦しそうに呟く聡実のもとへ、

「大丈夫? 聡実ちゃん、これ食べて」

 遥子はすぐさま駆け寄って、かげろうを与えて回復させた。けれども服は戻らず。

「学問仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するで」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 真璃絵はバット、果音は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、本当にエッチやわ」

「いやーん、すごい風ぇ」

聡実と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「真璃絵も果音も大丈夫?」

「平気よ、遥子お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

遥子は心配そうに駆け寄り、じゃばら羊羹などで全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 真璃絵と果音のあられもない姿も一瞬見てしまった龍平も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学問仙人はにっこり微笑んだ。

「龍平さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、山東さん」

 明日用の替えの服を着た聡実はじゃばら羊羹で龍平を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学問仙人に微笑み顔で誘われた遥子は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、とんでもない強さや。これは倒しがいがあるわ~」

「中ボスの力じゃないよね?」

 真璃絵と果音は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 聡実は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」

 龍平は真璃絵と果音のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を龍平に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出す筆記試験の正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるやのし。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるのし」

 梅乃は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ二割も取れんと思うがのう。二割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学問仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 龍平は苦笑いした。

 世界で四番目に大きい島は? 『剣の舞』で知られる民族的要素を取り入れた社会主義リアリズムの代表的作曲家は? 和歌山県内にある次の地名の読み仮名を記せ【樮川】などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもや」

「真璃絵ちゃん、果音ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、龍平はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ龍平お兄さん、すぐに着てくるわ~」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 真璃絵と果音は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。二割も取れないと思う」

 遥子もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 聡実はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答をし始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

聡実は三〇分ほどで解答を終え、学問仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ!」

 学問仙人は驚き顔で呟く。

「聡実様、さすが賢者。大変素晴らしいやのし。どこにでもあるごく普通の高校生なら二割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で淡嶋神社呪いの市松人形並に弱くなったと思うで」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 龍平は少しにやけた。

「いや、強さは全く変わっておらんぞよ」

 学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますけど。学問仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」

 聡実は箒で学問仙人の頬を引っ叩いた。

「ぐええっ! まいった」

 学問仙人は数メートル吹っ飛ばれてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 龍平は思わず笑ってしまう。

「服も戻ったわ」

「ほんまや」

「勝ったんだね」

 聡実、真璃絵、果音の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きなされ」

 学問仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするわ~」

「俺も」

「私も」

「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」

「わたしもですよ。本当に本領が発揮出来て嬉しいです♪」

 聡実は満面の笑みを浮かべる。

「聡実様に喜んでもらえてうちも嬉しいやのし。皆様、もう夕方やさか、このあと那智勝浦へ移動したら宿を決めよら」

「超有名観光地の那智勝浦で六人も泊まるとこあるのかな? 連休中だしどこも埋まってそう」

 龍平は少し心配になった。

「紀伊勝浦駅からちょっと遠いけど、勝浦凪桜(なぎざくら)旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万六千円だって。六名以上だと団体割引で一万三千円よ」

「それでも高めやけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。聡実お姉さん、ここにしよう!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「ええ場所にあるね。うちもここがいいわ~」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」

 聡実は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるやのし」

「そこもリアルさがあるな」

 龍平はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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