第221話 復讐

「これで終わりかな」



あまりにも酷すぎる怪我に治癒までかなりの時間、掛かってしまった。



逆によく生きて居たものだ、アウデラスの生命力には感服した。



ただあまりにも大掛かりな治癒故に少しアウデラスの魔力をもらってしまった、その影響か彼はまだ目を覚さなかった。



「はぁ……世話が焼けるね、まぁ背負うのは嫌だし、宴会って柄でも無いから……起きるまで待とうかな」



アウデラスの隣に座り、ポケットから大樹をバックに写るシャナの写真を取り出す、洗脳されて記憶がない期間、シャナはアダマストのとある村にウルスによって預けられていた。



彼女と別れてからかなり時間が経ってしまった……早く会いたかった。



「しかし私にも大切な人が出来るなんてね」



「私の家族を殺して……自分は幸せって?」



不意に聞こえて来た声にリリィは即座に立ち上がり臨戦態勢に入った。



赤い髪の少女……見た事がある様な、ない様な……記憶が曖昧だった。



「ようやく会えた、貴女の顔は片時も忘れた事が無い……だがそれも今日で忘れられる」



「随分と熱心なファンだね、何処かで……」



ふと蘇ってくる、よく考えれば私に復讐する奴なんて一人しか居なかった。



私は必ず拷問をした人間は殺す、私がやったと言う痕跡は残さない……故に残された者は復讐をしようにも誰にすれば良いか分からない、ただ一人を除いては。



「思い出したよ、ミリスティナ……だったかな?」



復讐の相手を前に憎悪の表情を浮かべている、良い顔だった。



隼人さんからは尽きる事がない魔力量が脅威だと聞いている、中距離を保ち戦うスタイルだが自身を爆弾の様に爆発させる技もあると……出会った頃とは比べ物にならない程成長している様だった。



一番警戒しなければならないのは大爆発、アウデラスを彼処まで追い詰めた……私が喰らえばひとたまりも無い。



「私に復讐する為に此処まで強くなるなんて予想外だったよ」



「私はお前を殺す為なら何でもした……」



そう言い急に服を脱ぎ出す、その行為に少し困惑するも彼女の身体を見て驚きに変わった。



「これがその結果よ」



身体に埋め込まれた4つの魔力コア、そして大きな火傷の傷……ひどい状態だった。



「これは……悪い事をしたね」



「思っても居ない事を」



「思ってるさ、この通り右腕も君を思って捧げたんだ」



その言葉と共にコートに隠して居た失った右腕を見せる、その姿に驚きを隠せて居ない様子だった。



言葉で魔力が溜まる時間を稼ぐ、正直元々戦闘向きじゃ無い私が今のミリスティナに勝てるとは思えない、それに治癒したばかりのアウデラスはまだ動く事が出来ない……状況は最悪だった。



こんな事になるなら隼人さん達と行っておけば良かった……後悔している。



拷問好きと言う趣味も弱者を甚振るのが楽しいから、私自身は弱い。



正真正銘の屑なのは認めてる。



「右腕を失ってるなら好都合、父を……母を殺したお前は楽に殺さない」



そう言い拳に炎を纏う、話と違うが……仕方ない。



「近接戦闘か……エレスティーナ以来だね」



片腕で拳を構える、不恰好な姿にミリスティナは笑って居た。



「やる気ある?」



「失礼だね、これでもやる気は満ち溢れているよ」



「もうお喋りはお終いにしよう」



その言葉と共に地面が爆発しミリスティナが凄まじいスピードで距離を詰めて来る、どんな魔法も使いようとはよく言ったものだ。



いつから仕込んで居たのかは分からないが回避は不可能だった。



炎を纏った拳が腹部を捉える、耐え難い熱が腹部を焼く、二撃目は顔面を目掛け飛んでくる……予想通りだった。



拳は空を切り体勢が少しだけ崩れる、その隙に距離を取ると光の矢と弓を出現させた。



「腕が無いのにどうやって矢を射る気?」



「見えている物が全てじゃ無いよ」



そう言い左手で弓を構えると弦が触れずとも引かれていく、そして矢がミリスティナ目掛けて打ち出された。



飛来する一本の矢、一見なんて事の無い攻撃……だがその攻撃にミリスティナは違和感を感じて居た。



様子見の攻撃なのか、そうで無い限りこんな見え見えの攻撃はしない……速度もそれ程早くは無い、違和感だらけの攻撃だった。



炎の壁を張り様子を見る、ある程度の攻撃なら防げる筈だった。



だが矢は炎の壁を最も容易く割る、相当な密度の魔力が矢に込められている様だった。



炎の剣で矢を弾こうと試みるが剣すら掻き消される、予想以上の魔力……喰らったらひとたまりも無かった。



だが矢は一直線に動く、その直線上から避ければ良い、最初からそれだけの話だった。



直線上から少し身体を動かそうとする、すると矢の軌道が少し変わった。



「言っておくけどその矢、追いかけるよ」



そう次の矢を放つ魔力を溜めながら言い放つ、追尾式の矢を交わす術を即座に思いつくほど頭の回転は早く無かった。



矢は心臓を目掛け飛んで来る、矢を破壊するには同じだけの魔力をぶつけなければならない、だがそれに気が付いたのは矢が肩を貫き、再び軌道を変えこっちに向かって来る時だった。



「無駄なダメージを……」



魔力を即座に溜め、矢に向かって解き放つ、炎の矢は光の矢とぶつかり弾けると辺りが一瞬、眩い光に包まれた。



ほんの一瞬視界が奪われる、次に目を開いた頃には既にリリィは眼前に居た。



「力があっても、弱いね」



あっという間に足を掛けミリスティナの体勢を崩すと光の槍を胸に突き立てた。



一本の矢だけで此処まで戦況が悪くなるとは思わなかった、片腕で弱体化した筈の敵に追い詰められているこの現状……圧倒的な経験の差が出て居た。



力を得てもミリスティナは実戦経験が浅い、小さな力でも、少ない手数でも相手を惑わす事が出来ると言う事を彼女は知らなかった。



それも無理は無い、その使い方を教えてくれる父と母は殺されたのだから。



「何で……」



「おっと、少しでも爆発しようとしたら……分かってるね」



槍が少しだけ身体に近づく、何故すぐに殺さないのか理解出来なかった。



理不尽……何故悪に私は負けようとしているのか、何故父を……母を殺した奴が私を殺そうとしているのか、彼女にそんな権利はない筈だった。



私は負けない、正義が悪に敗れる筈が無いのだから。



「死ぬのは……お前の方だ!!」



一瞬にして体温が上昇する、彼女に触れて居ると死ぬ……そう感じる程に彼女の体温は上がって居た。



気が遠くなる様な熱、皮膚が焼けて爛れて来る……傷を負った側から治癒して行かないと呼吸が出来ず肺が焼けて死んでしまう程に温度が高まって居た。



「絶対に……私は負けない」



皮膚が少しずつ剥がれ落ちて行く、とてつもない激痛の筈なのにミリスティナは憎悪の表情を一切歪めず、リリィを真っ直ぐに見ていた。



「根性比べになるのかな?」



「弱者を痛ぶるだけの奴が根性だなんて笑わせる……原型が無いほど粉々にしてあげる」



「ははっ、随分と口が悪くなったね」



予想外の広範囲攻撃の所為でアウデラスを保護するのに魔力を使い過ぎている……正直言って勝てる気がしなかった。



ポケットから取り出すシャナの写真が燃え始めていた。



光の膜に覆われたアウデラスに視線を移し、再びシャナの写真を見る……そしてリリィは少しの魔力を残しアウデラスの保護をより一層強化した。



「おいで、家族の元に送ってあげるから」



「その前にあんたを地獄に落とす」

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