第214話 誓いと覚悟

やっと……帰って来る事が出来た。



祖国アナスティア、4年……思ったよりも時間が掛かってしまった。



「どうしたアルテナ、行くぞ」



「あ、ごめんごめん」



感情に浸っている場合では無い、検問所に怪しまれない様最低限のメンバーで行く必要がある、そのメンバーを決める相談の真っ最中だった。



「それでアルテナ、メンバーは4人で良いのか?」



「そうだね、アウデラスにアルラとシャリエル、そして隼人、改めて……国を救って下さい」



そう言い深々とアルテナは頭を下げる、正直守護者も連れて行きたかったが彼らは目立つ……見た目的にもアルラとアウデラスくらいしか怪しまれない守護者は居なかった。



「おーい、俺も連れてってくれよ」



「遊びじゃ無いんだぞ、それにお前は仮にも英雄だろ」



つまらなそうに言うオーフェンを諭す、万全を記すためには英雄の彼も置いて行くしか無かった。



「ピンチの時は空に向かって火球を放つ、それが突撃の合図だからな」



「なるべく早く頼むぜ」



そう言い隼人の胸に拳を当てた。



「それじゃあ行くか」



隼人の言葉に皆頷く、アナスティア王国……相変わらず内部から溢れ出る禍々しい魔力には吐き気すら覚えた。



これを毎日受ける国民はたまったものじゃ無いだろう。



「少し止まれ」



検問所で衛兵に止められる、だが持ち物を検査する事もなく、目視で確認するだけで簡単に入国する事が出来た。



「なんか呆気ないな」



「裏を返せばそれだけ力に自信があると言う事になりますね」



アルラの言葉に苦笑いを浮かべる、確かにその通りだった。



「それで、これからどうするアルテナ」



「そうだね……」



馬鹿正直にジルガルデスへ挑む訳にも行かない、相手の戦力も居場所も不明……まずは情報収集が定石だがこの国は彼の支配下、下手に聞けば直ぐにバレてしまう可能性もあった。



「難しい……」



「ここは一つ……私に任せて頂け無いでしょうか?」



「アウデラス……か」



アウデラスは自信満々に提案する、正直彼は居ない時間の方が多かった、実力は確かだが隠密行動が出来るのか心配だった。



「隼人さん、この中ではアウデラスが最適かと思います」



「アルラも言うのなら……アウデラス、任せても良いか?」



アルラが俺以外にも認めて居る人物が居るとは驚きだった。



「有り難き幸せ……それでは行かせて頂きます」



そう言い姿を消す、既に気配も感じ無い……これは安心して任せても良さそうだった。



「それで俺達はどうする?」



「少し行きたい場所があるの」 



そう言いアルテナは歩き始める、特にする事もない今、彼女に着いて行くしか無かった。



だがそれにしてもこの街……国の中心であるにも関わらず活気が無かった。



国民の殆どが死んだ様な目をして居る、兵士が路地裏で恐喝なんて当たり前なのだろう、誰も気に留めて居なかった。



「酷い有様ね」



「元々は美しい国だったんだよ」



悲しげな表情でアルテナは言う、その言葉はとても信じられ無い……それ程にこの国は汚れて居た。



ふと視界に映る、まだ幼い子供がゴミを漁り食べている光景……胸が痛かった。



まだ5歳やそこらなのにこんな過酷な状況下で生きて行かなければなら無いと言う現実……助けてあげようにも一時的な救済に過ぎなかった。



「助けたいならジルガルデスを倒すしか無い……か」



それにしても何が目的でこの国を支配して居るのか、この有様を見る限り全く目的が分からなかった。



ただでさえ人が少ないこの国で更に人通りの少ない通りへと足を踏み入れて行く、そして辿り着いたのは朽ち果てた屋敷の跡地だった。



「ここは?」



「私の家……アナスティア家跡地です」



4年前までは家族でこの屋敷に住んでいた……王にも関わらず城に居るのが嫌いだった父がわざわざ立てた屋敷、だがずっと此処で私は育った。



王族の生まれながらも自由に育てられた……何の不自由もなく、楽しい毎日だった。



だが4年前にジルガルデスが現れた、父を母を……兄妹を私の目の前で笑いながら殺した、そして私だけが生かされた。



この家を訪れたのは誓うためだった。



隼人の空間魔法にしまって居た剣二本と刀を取り出す、そして剣の一本を裏庭の墓に突き刺した。



「お父様、お母様、兄上……リズーナ、必ず仇は討ちます」



その言葉を残し立ち上がる、覚悟は決まって居た。



「お待たせしたね……ってその方は?」



正門で待たせて居た隼人達の元へ戻ると一人の兵士と会話をして居た。



「アナスティア様……アナスティアお嬢様ですか!?」



「私の名を知っている……」



突然アルテナの顔を見るや否や駆け寄ってくる兵士、私を見てアナスティアの名を呼ぶ者は少ない……彼は誰なのだろうか。



王女とは言え城には行かず、政治にも関わって居ない、それ故に私を知る者は少なかった。



「ずっとお待ちしておりました……元王護衛隊団長のルーフェウスですお嬢様」



ルーフェウス……懐かしい名だった。



「生きて……居たんだ」



最後まで王を守る為に戦い続けて居た……てっきり死んだのかと思って居た。



「はい、ジルガルデスに対抗する為の戦力を集めずっと待っておりました」



そう言いルーフェウスは膝をついた。



「戦力……ルーフェウス以外にも居るのか?」



「はい、着いて来て居ただけますか?」



そう言い歩き出す、その言葉にアルテナは頷くと隼人達を呼んだ。



また街へ戻って行く、元王護衛隊団長が生きていると言うのが少し隼人は気になって居た。



「目に映る者が正しいとは限らないよ」



すれ違いざま、路地を曲がる瞬間に10歳程度の子供の声が聞こえた。



だが戻っても姿は無かった。



「目に映る者が正しいとは限らない……どう言う事なんだ?」



ルーフェウスを信じるなと言う言葉なのだろうか……ただ、疑問だけが隼人の中に募るばかりだった。

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