第212話 長い1日の終わり

「すげぇ1日だったな……」



雨は止み日は暮れ、長かった1日も終わろうとして居た。



残って居た建物に仲間を置き一人高台で街を眺める、冷静になって今日の出来事、得た情報を整理するがまだ理解が追いつかなかった。



シャルティンが俺と同じ向こうの世界の人間と言う事は正直薄々気づいては居た、だがレイがアルカド王国を作り上げたアルセリスだったと言う事は未だに信じられなかった。



理由はゲーム、アルカド王国とアルセリスは確かに俺が作り上げた架空の存在とキャラクター、SKOの舞台もこの世界……だがこの世界は現実で本物、訳が分からなかった。



「しかしまぁ……星が綺麗なもんだな」



空を見上げると満天の星空、向こうで見て居た物とは比べ物にならない程の夜空だった。



「あんたにも星空を綺麗と思う心があるのね」



「シャリエルか」



いつの間に隣に来て居たのか、考え事をして居た影響もあって全く気配を感じなかった。



「何してんの?」



「特に何もしてないさ、強いて言うなら夜空を見上げてたんだよ」



「ふーん」



そう言い夜空を見上げる、記憶を取り戻してからアルセリスの時よりも距離が縮まったような気がして居た。



その証拠にちょくちょく冗談を言ってくる、気を許してくれるのは正直嬉しかった。



「正直私にはさっぱりだけどあんたこの世界の人間じゃないんでしょ?」



隼人は無言で頷く、シャリエル達にも全てを話して居た。



「あの話しを聞いて思い出したんだけど昔、小さい頃に一度聞いた話があるの」



「聞いた話し?」



「オーリエス、セルナルド、殆どの国はこの二ヵ国に吸収され、近年では戦争もあまり起きて無いんだけど昔は違った、複数の国がひっきりなしに戦争をしてたらしいの」



レイの話でも戦争の事は出てきて居た。



「そこで何処の国かは知らないけど召喚士と呼ばれる者が異界の者を召喚し、戦争に勝利したと言う話しがあるの、まぁただの言い伝え何だけどね」



召喚士……冥王に奪われた力、チートの様な共有能力を持ち、アレのおかげでアルセリスと名乗れて居たと言っても過言では無いほどの力だった。



だが恐らくあの召喚士とは少し違うのだろう、あの力があれば召喚する必要は無いのだから。



「召喚士か……言い伝えって事は居たかどうかも分からない存在だったのか?」



「召喚士と言う存在自体は居たのは確認されてる、けど異界の者を召喚したって言うのが確認されてなくてね、まぁあんたが居るのが何よりの証明だけどね」



そう言えばレイも言っていた、召喚士に召喚されこの世界に来たと……だが今の時代には居ないのを考えると希少な職業だったのだろう。



「元の世界に帰りたいと思うの?」



「少なくとも今は思わないな、シャルティンを放って置けないしな」



「今は……か」



シャリエルはボソッと呟く、だがその声は隼人には聞こえていなかった。



「隼人はアルラの事をどう思ってるの?」



唐突な質問に少し戸惑う、アルラをどう思っているか……彼女はずっと俺について来てくれている、言葉では言い表せない程に感謝して居た。



「最高の相棒だよ」



「相棒ねぇ」



シャリエルはにやにやとして居た。



「なんだよ」



「別に、それより早く戻りましょ、次の行き先決めなくちゃ」



そう言い手を引き皆が集まる家へと向かうシャリエル、何故ここまで上機嫌なのか、女性というのはよく分からない物だった。



アルラとシャリエル、この両者から好意を受けるのは正直嬉しい、ずっとモテず、冴えない人生を送って居た俺には夢の様だ……だがシャルティンの脅威がある限り平和など訪れない。



シャルティンを倒さない限り未来は無かった。



「その為にも次の行き先を会議だな」



扉を開け中へと入る、予想して居たよりも家の中は静かだった。



「少しはあんたら親睦を深めよーとしなさいよ」



特に話す事もなく家の中で散らばる仲間達にそう言うとソファーに腰を下ろす、アルラやマリスはとにかく、他のメンバーは人見知りでは無いのだが……まぁ人が3人も死んでいる、談笑する気分では無いのだろう。



「一先ず次の行き先を決めないとだが……アルテナは何処にいる?」



「アルテナなら上で寝てんじゃねーか?」



そう言いオーフェンが上を指す、その言葉で二階へ上がる階段を探すがこの家にニ階は存在しなかった。



「屋根だよ屋根」



「あぁ、屋根か」



雨が降っているのに屋根で寝るとは変わった奴だった。



再び外へ出て瓦礫が崩れ階段の様になっている所から屋根へと登る、アルテナは雨も気にせず寝転がり、ただ空を見つめて居た。



「何を見てるんだ?」



空には星はおろか、月すら出て居なかった。



「空だよ」



「おかしな奴だな」



「よくそう言われてた」



そう言いアルテナは起き上がる。



今思えばこの大陸に来てからずっと一緒に居るが彼女の事は何も知らなかった。



「なぁ、アルテナは何で俺達について来たんだ?」



「そうだね……そろそろ頃合いかな」



「頃合い?」



隼人は首を傾げる。



「アルテナ・ユーセンシュタイン=アナスティア、アナスティア王国の王女です」



「王……女?」



何か隠しているとは思っていたが王女とは予想外だった。



「力を借りたいとはそう言う事だったんですねアルテナ」



いつの間にかアルラが屋根に登っていた。



「そう、アルラにバレたあの傷もとある人物から受けた傷、名はジルガルデス、そいつに奪われた国を取り戻す協力をして欲しい」



「ちょ、ちょっと待ってくれ、今整理する」



アルテナが王女やら奪われた国がなんやらと情報が多い……だが分かっている事は一つ、アルテナは助けを求めていると言う事だった。



「まぁ……仲間が困ってたら助けるのは当たり前か」



「てことは!?」



「行く当てもないし、行こうぜアナスティア王国とやらに」



ジルガルデス、彼の名が少しだけ気になっていた。



王国を支配できるほどの強さ、シャルティン一味の可能性もあった。



「本当にありがとう……」



アルテナは何度も礼を言っていた。



「次の目的は決まったな、出発はいつにする?」



「明日……でも?」



「んじゃ出発は明日だな、アルラ伝えて来てくれるか?」



隼人の言葉に頷き一瞬にして姿を消す、自ら了承したとは言え、この世界は相変わらず忙しい世界だった。



「んじゃ、国を救いに行くか」



そう言い隼人は立ち上がると皆んなの元へ戻って行った。

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