第211話 白騎士の襲来

「100年の時を超えて解放され、手を取り合い2人でシャルティン退治……そう簡単に行くと思いましたか?」



遺跡を出て待って居たのは両手を広げ待ち侘びたと言わんばかりの白騎士姿のシャルティンだった。



「シャルティン……」



レイの表情が憎しみで溢れる、100年以上監禁されて居れば当然の反応だった。



「お前から来るとは予想外だったな」



本当に予想外、まだ彼と戦うには無力過ぎる。



「君には礼を言わないとね隼人、ウルスを弱らせてくれた、全力の彼だったら苦戦して居たからね」



「お前は一体何がしたいんだ、この世界に俺を呼んだのもお前なんだろ?」



「何がしたい……か」



シャルティンは否定しなかった、彼が俺をこの世界へ呼んだのは本当の様だった。



「俺を……殺して欲しいか?」



隼人の言葉に驚いたのか、シャルティンは兜を取り顔を見せた。



「まさかそこまで知ってるとはね、レイから聞いたのかい?」



「私の名を気安く呼ばないで」



指を指すシャルティンにレイは軽蔑の眼差しを向け言った。



「シャルティン……お前は何者なんだ」



「何者……か、自分が何者なのかは忘れてしまったよ」



キザな表情で告げる、それが真実なのかどうかは分からない。



「私も少し忙しくてね、此処に来たのは……レイを殺す為なんだ」



そう言いシャルティンが手をかざす、その瞬間レイの胸を剣が貫いた。



気付いた頃には遅かった、何の魔法を発動したのかすら分からない……ただレイがその場に倒れ込む姿だけが視界に映って居た。



「レイ!!」



「それでは、次会う時は……互いに殺し合う時です隼人」



レイに駆け寄る隼人を見てシャルティンは笑みを浮かべながら姿を消す、血が溢れて止まらなかった。



「レイ、しっかりしろレイ!」



胸に突き刺さった剣はシャルティンが姿を消すと同時に消え去る、傷口を抑えても血は止まらなかった。



治療魔法は使えない……だが幸いにも街にはリリィが居る、転移の杖を使えば……



「杖が……ない」



杖が消えて居た、いつでも素早く取り出せる様に別空間へとしまって居た筈の杖が消え、代わりの紙が一枚出て来た。



『そう簡単には行かないよ』



それだけが記されて居た。



誰が書いたかは容易に想像できた。



「シャルティン……クソ野郎が!!」



レイを抱え最大出力の雷装を脚に纏う、筋肉が壊れても良い……彼女を助けたかった。



彼女とは初対面、だが関係ない……100年以上ずっと彼処に縛られて居た、やっと解放されたのに……ようやく外へ出られたのに、待って居たのが死だなんて残酷だった。



「絶対、絶対助ける!」



街まではそう遠くない……だが貫かれた位置が悪い、素人目でもわかる程の出血量だった。



「待って……ウルスの所に連れて行って」



街へと向かう隼人にそう告げる、助からないと分かっているかの様な発言だった。



「だが……」



「お願い」



その言葉に隼人は断れなかった、幸いにもウルスの遺体は街の直線上、彼女を置いてリリィを呼びに行っても間に合う筈だった。



「わかった……絶対に戻って助けるからな!」



一瞬でウルスの遺体の元へ行くとレイを隣に置いて隼人は街へと向かった。



「ウルス……貴方ってそんな姿だったのね」



人とはとても言い難い姿のウルスを見て言う、傷口から感じる魔力……どう足掻いても治せない傷だった。



「ウルスって不思議な人だったよね、特に目的も告げず気が付けば私について来て居た……最初はストーカーかと思ったよ」



自殺未遂してこの世界に来た、一度は亡くした命と思ってこの世界、世直しの旅をして居たら彼が居た……特に目的を言う訳でも無く、興味が湧いたと私の旅に同行して居た。



一緒に戦争を経験した事もあった、国に処刑されかけた事も……長い時間を彼と共にした。



走馬灯の様に思い出が駆け巡って行く……いや、死ぬ間際なのだから走馬灯であっているか。



結局、彼と会うのは上になりそうだった。



「お互い……果たせなかったか」



シャルティンを討つ、やはり難しかった……だが私は一人で挑み負けた、ウルスも……隼人には仲間が居る、私が集めた守護者と隼人の仲間が……意志は受け継いでくれる筈だった。



「最後が貴方の隣で良かった……ウルス」



『私もですよ佐山礼』



ウルスの声が聞こえた様な気がした。



「後は頼んだよ隼人……」



戻った時には遅かった。



「隼人さん……」



首を横に振るリリィ、レイは既に亡くなって居た。



「助けられなかった……」



絶対に助けると言った……それなのに俺はレイを救えなかった。



ウルスとの修行である程度の力も手に入れた、だが俺は結果的に無力だった。



シャルティンの攻撃は視認する事すら出来なかった、気が付けばレイは倒れて居た……無力、無力しか言葉が出て来なかった。



どうすれば救えたのか、幾ら考えても答えは出なかった。



あるのはレイが死んだと言う事実だけ、どうしようも無い事実だった。



「隼人さん、この方の遺体はどうしますか?」



「アルラ達守護者で弔ってやってくれ……彼女は初代アルセリス、お前らの本当の主人だ」



それだけを告げ岩へと腰掛ける、シャルティンは何故自身を殺して欲しいのに他者を殺すのか……理解不能、イカれた奴だった。



何故そんな身勝手な理由でレイは縛り、殺されたのか……彼への憎しみは増える一方だった。



彼を倒す、その目標は揺るがない……だが倒した後どうするのか、果てしない目標だが達成した後のビジョンが全く思い浮かばなかった。



今から考えても意味は無い……だが母の事がずっと頭にあった。



母には俺しか居ない、父親と妹は早くに交通事故で他界した……ずっと母と二人で支え合って生きて来た、俺まで居なくなったらあの人はどうにかなってしまう筈だった。



だが帰らないと行けないと言う思いとは逆に帰りたく無い自分もいた。



理由は明白、つまらない世界だからだ。



部下に裏切られ会社をクビになり、未来の無い人生を送っている中でこの世界に来た……死と隣り合わせだがこの世界には未来がある……と言ってもシャルティンを倒せばの話だが。



「どっちにしろシャルティンは倒さないと行けない訳か」



レイには悪いが彼女のお陰で決意はより一層堅くなった、とは言えシャルティンの居場所は分からない、また振り出しだった。



広い大陸をまた旅する事になりそうだった。



「隼人さん、終わりました」



アルラが声を掛ける、数分しか経って居ないが木で作られた十字架の墓が二つ出来上がって居た。



「もう良いのか?」 



「はい、皆別れは済ませました」



欠けはあるものの殆ど揃った守護者達、こうしてみると圧巻の光景だった。



「あんたの仲間、頼もしいわね」



「あぁ、お前らを含めてこれ以上ない程にな」



「あんまり期待はしない事ね」



そう言い微笑むシャリエル、久しぶりに彼女の笑顔を見た様な気がした。



「それじゃあ、シャルティン退治の旅に行こうか」



そう言い隼人はゆっくりと立ち上がり、雨がまだ降る森を後にした。

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