第204話 ウルスと隼人

とても落ち着いている。



アルセリスだった時程の強さは無い……だが戦い方は学んだ、ウルスが相手でも不思議と恐怖は無い。



一つ気掛かりなのは俺を鍛えてくれたあの少女、どれほどの年月あの空間魔法に居たのか分からない……少なくとも2.3年は居たはずだった。



だがこっちの世界では精々20分程度しか時間が経過していない……イカれた魔力量だった。



空間魔法だけでも化け物なのにあの少女はずっと修行に付き合ってくれて居た……目的は分からなかったが強くなれたのは確かだった。



『一度しか会ってませんが忘れ難い魔力ですね』



「あぁ、何も変わっちゃいない……化け物じみた魔力だよ」



聞こえないリカの声に反応する隼人の言葉に笑みを見せるウルス、魔力を一時期共有して居たお陰で何の魔法を使えるかは把握している……問題はタイミング、ウルスは此処に姿は無いが補佐統括だった王国の頭脳、アウデラスの次に賢かった。



「少し……お強くなられましたね」



「まぁな……それにしても急な訪問だな」



「頃合いかと思いましてね」



そう言い杖を取り出す、あたりの空気が変わった。



『明確な殺意です……話し合いの余地は無いかと』



リカの言葉通り冷たい殺意を感じる……だがこの殺意、何処かで感じた事がある様な気がした。



それも二度……しかも一度は最近の気がした。



「そうですね、まずは此処から私を動かせて下さい」



そう言い杖を突く、魔法の詠唱も無しに各属性魔法が雨の様に降る、地獄の様な光景だった。



だが避けれない程では無い、魔法の発動にもバラつきがある……理不尽だが無理ゲーでは無かった。



『魔法はいつでも発動出来ますよ』



リカの声が聞こえる、武器化してから長い時間が経ち武器に魂が定着して来た事による影響で彼女自身が魔法を使える様になって居た。



「了解、暫く待機で頼む」



そう言い隼人は刀を抜くと雷装を纏う、少し身体に魔法が馴染んでいないのか、微かにピリピリとした。



「なるほど、2位程の雷魔法ですが練度が凄い……相当な修行を重ねましたね」



「あぁ、まぁ殆ど反則に近い様な修行方法だがな」



「そうですか……ですが私には遠く及びませんよアルセリス様」



そう言い杖を突く、その瞬間先程まで降って居た魔法は止まり、地面から無数の蔦が隼人目掛け襲いかかって来た。



斬っても斬っても生えて来る無数の蔦、恐らく幾ら斬っても体力を消耗するだけだった。



「リカ、最大出力で地面を分厚く凍らせてくれ!」



『了解しました!』



隼人の言葉と地面に突き刺した刀を合図に巨大な魔法陣が地面に浮かび上がる、そして伸びる蔦ごと地面を凍らせた。



『また魔法が使えるまで少し時間が掛かります』



「あぁ、ありがとうな」



これで少しはやり易くなった、だがあれ程の魔法を使ってもウルスは余裕の表情、流石と言うべきか……最強の魔導士はやはり違った。



「油断すれば死にますよ」



そう言い視界に微かな光が映る、そして左肩を何かが貫いた。



「隼人さん!!」



アルラの声が響く、目にも止まらぬ雷撃魔法、限界まで圧縮し放つ……だが素早さを重視して尚且つ肩を貫く程の威力……完全に油断した。



「アルラ、大丈夫だ心配するな」



駆け寄ってこようとするアルラを制止する、分かっていた筈なのだが……ウルスの化け物っぷりは想像の遥か上を行っている様だった。



「いけませんね、実戦から離れると鈍ってしまいます」



そう言い手を開閉させる、聞きたく無いことを聞いてしまった。



「だが此方も本気じゃ無いからな」



「それは興味深いですね」



ウルスの言葉を他所に集中を高める、逆立つ髪の毛……雷の色は徐々に黒へと変色して行った。



今の身体能力は計り知れない、恐らくウルスでも目で追えないだろう……だが欠点が一つある。



「俺も制御できねーんだよなぁ」



「黒雷、すばら……」



言葉を言い切る前にウルスの視界が左へとずれた。



そして遅れて衝撃がやって来る、雷のおまけ付きだった。



「これは……凄まじい」



視界に捉えられない、移動した後に残る黒雷が微かに見える程度……これは流石の私でもまずかった。



「一撃も重い……これは余裕がありませんね」



四方から来る衝撃、目で追えないスピード、だが向こうも無傷では済まない筈だった。



やがて長い攻撃はやがて止み、息を切らした隼人が姿を見せた。



「どうだウルス……俺の切り札は」



呼吸が上手くできない、苦しい……10秒が今の限界、だがウルスの方もボロボロだった。



「やはり我が主人……本気を出さねば、失礼ですね」



そう言い杖を突く、ウルスの姿が光に包まれた。



覚悟してなかったら心が折れて居た。



「こっからが本番みたいだな」



地面に突き刺して居た刀を抜き構える、だが此方も切り札をまだ残している……勝算はある。



「懐かしい……久し振りだね、血を流したのは」



光から姿を表したウルスの姿は全くの別人だった。



目に掛かる銀髪をかきあげ口から垂れる血を拭う、見た目は3、40代程のアウデラスに似た様な執事が似合う風貌の男だった。



「それが本来の姿なのか?」



「それが知りたければ……もう少し粘って下さいね」



そう言い笑みを浮かべるウルス、全く悪魔の様な男だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る