第199話 見えた希望

流石は守護者、今までの手応えの無い敵とは大違い……それなりに強かった。



だがそれでも私の強さには及ばない……守護者を統括する者として、守護者には圧倒的な強さで勝たねばならない。



ウルスへの敗北……あれが私をより一層強くした。



「リリィ……今ならまだ戻れますよ」



刀を彼女の胸に突き立て最後の通告を行う、以前の私なら問答無用で殺して居ただろう。



だが隼人さんならそんな事はしない……例え裏切ったとしても元は仲間、あの人は何とかして別の、殺さない道を探す筈だった。



「ウ……ウルス様の為に」



またその言葉だった。



「ウルスが何をしたと言うのですか!何故そこまでウルスに!!」



完全に洗脳されて居るかのようだった。



「ん……洗脳?」



今思えば守護者全員がウルスに寝返ると言うのは少し不自然だった。



寝返らなかった者達は全てあの時アルカド王国に居なかった……つまりウルスが洗脳魔法を使用したと仮定する場合、守護者達が裏切ったのも理解できる。



確かめてみる……必要がありそうだった。



『状態透過』



左目が光、魔法を発動させる。



状態異常は先程与えた出血と洗脳……予想通りだった。



裏切った理由は分かった……だがそれと同時にウルスの化け物っぷりを再確認する事となってしまった。



守護者補佐ならまだしも、守護者を洗脳出来るほどの魔力と精神力……しかも洗脳状態は恐らく一年以上続いている、神でも難しい領域の洗脳魔法だった。



だが化け物のウルスと言えど洗脳魔法も完璧では無い様子、いくらリリィより私の方が強いとは言え此処まで圧倒は出来ない、無傷で彼女を抑えられている現状は恐らく洗脳のせいで実力がかなり落ちているから……この分なら解除も出来そうだった。



そっと頭に手を当て解除魔法を発動しようとする、だがその時謎の抵抗力が手を弾き飛ばした。



「そう簡単には……行かないですか」



別の方法を模索しようとしたその時、突然リリィのパワーが跳ね上がった。



「う、ウルス様の為に……ウルス様の」



完全に理性を失っている、全ての能力値も上昇……恐らくリリィ本来の実力に戻ってしまったようだ。



勝てない強さでは無い……ただ、殺さずに捕らえられる保証は無い。



だが不幸中の幸いか、相手は再生魔法と蘇生魔法を使えるリリィ、多少の無茶なら勝手に回復してくれる筈だった。



「それにしても、貴女とやるのは初めてですねリリィ」



不真面目な性格で自己中心的で己の快楽の為の拷問は我慢出来ない……だからいつも戦闘訓練に不参加でしっかりとした実力は知らなかった。



ゆっくりと刀を地面から抜き構える、そしてリリィに敵意を向けるとそれに応じるかの様に光の槍を召喚した。



ただ目の前の敵を倒すだけの人形状態……ただ理性が無い分戦略も何も無い筈だった。



リリィは光の槍を力一杯投げ付けると同時に距離を詰める、最低限の動きで槍の軌道を逸らすと既にリリィは眼前まで迫って居た。



左手に握られて居た光の剣を右手に嵌めた籠手でガードするとリリィを蹴り飛ばし距離を取る、後衛職の動きとは思えない程の身のこなし、流石守護者というべきだった。



本来ならもう少し闘いを楽しみたい所だが今は隼人さんの安全を確保するのが先決……もう遊んでられなかった。



「始めたばかりですが……終わらせましょうかリリィ」



鬼化を発動し刀を鞘に収める、一瞬で蹴りが付く。



アルラの殺気にリリィは無数の光の矢を天に召喚し、雨のように降らせる、他愛もない。



「私も努力しますが……死んだ時は恨まないで下さい」



辺りは光の矢に包まれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



冷たい……雨が降っている。



身体の至る所が痛い、複数箇所折れている様だった。



「貴女の主人は誰ですか?」



アルラの声……何の質問なのか、ふと先程までの戦闘やウルスとの記憶が蘇った。



そして自身がした事を理解した。



「私の主人はいつもアルセリス……今は隼人さんと呼んだ方がいいかな?あのお方だけだよ」



「戻った様ですね」



リリィの言葉にアルラは安堵のため息を吐いた。



「記憶はどうですか?」



「曖昧かな」



ウルスに洗脳された時の記憶とアルラと戦闘した先程の記憶は残っている、だがその他の記憶が途切れ途切れだった。



痛む体をゆっくりと起こすと隣にマールが横たわって居るのが見えた。



「彼も洗脳を?」



「えぇ、私とユーリ、あともう一人を除いて皆んな洗脳されてます」



「守護者として不甲斐ない……シャナは?」



そう言いリリィは少し慌てた様子であたりを見回した。



シャナは確かリリィが面倒を見て居た少女の名前、気に掛けた事もなかったがアルカドに居なかったという事は恐らく彼女も洗脳されているのだろう。



アルラは首を横に振る、するとリリィは少し心配そうな表情を見せた。



「それよりウルスの拠点とか分からないのですか?」



洗脳されて居たとは言え、拠点の記憶くらいは残っている筈だった。



「いや、綺麗さっぱり記憶から消えてる、ウルスの奴も抜かりないな」



拠点は分からずじまい……だが大きな成果はあった。



守護者のリリィと補佐のマールが仲間に戻り、ウルス以外は裏切って居ない事が発覚した……大きな大きな成果だった。



だがいつまでもうかうかしてられない、恐らくシャリエル達も戦っている、それに隼人さんの安否も心配だった。



「リリィ、マールを回復させ次第シャリエル達の応援をお願いします、これが写真です」



姿を知らないリリィにわかる様に皆んなの写真を手渡す。



「私は隼人さんを探して来ます、それと……事が終わったらしっかり謝罪して下さいね」



「分かりましたよ、統括様の仰せのままに」



そう言いリリィは膝をつく、ようやく見えて来た希望……流れはこっちに傾いて居た。



「もうひと頑張りですね」



より一層強くなる雨の中、アルラは微かに感じる隼人の魔力に向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る