第151話 決着?

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死ぬかと思った。



闘技場の壁の瓦礫を崩しながらゆっくりとアルセリスが姿を現わす、攻撃を受けた腹部の鎧は粉々に砕け、若干腹部が火傷していた。



「随分と良い鎧ね」



追撃をする事も無く攻撃した位置から動かないカルザナルド、鎧に助けられた。



念の為闇属性を激減する鎧を装備していたのだが激減してあの威力……他の鎧なら間違い無く風穴が開いていた。



激レアな防具を失ったのは痛いが命に引き替えれば安い……これからどう反撃に出るか、中々侮れない相手だけに難しい。



幸いにもカルザナルドは出方を伺っているのか攻撃して来る様子は無い、今一度作戦を考える時間はあるようだった。



カルザナルドの属性は闇、つまり光が弱点……光の武具は幸いにも揃っている、だが地面に散らばる無数の闇……あれがどんな攻撃をしてくるのか不明だった。



先程は鈍器で殴られたような衝撃を受けた、だが攻撃方法はそれだけとは思えない……飽く迄も暗黒神なのだから。



ーーーーーーーーー暗黒神?



そう言えば暗黒神とはゲーム時代に一戦交えている。



いや、一戦どころでは無い……

何十回、何百回と挑んで攻撃パターンや行動パターンを全て把握している程に、今思えば先程の攻撃から5秒ほど彼女は動いていない……暗黒神にもクールタイムが5秒の技があった。



もし憶測が正しければ……



「そろそろ行こうか」



カルザナルドは大きく伸びをすると再び闇の剣を生成する。



どうやら憶測は正しかったようだ。



先程の技は暗黒神が放つ技の中でも高位の物……あれ以上の技はあるにしてもそう易々と打てるものでは無い……これで少しやり易くなった。



となれば地面に散らばる闇、あれは範囲1mに入ると自動的に攻撃する魔法の筈、掻き消すならば……



「浄化の光だな」



異空間に手を突っ込むと一本の杖を取り出す、そして地面に突き刺すと杖は地面に魔法陣を映し出した。



魔法陣は即座に反応すると辺りを温かい光が包んだ。



「ちっ、面倒くさい魔法を……」



咄嗟にカルザナルドは闇の壁で自身を隠した。



次の瞬間光は闇を次々と浄化させていく、そしてカルザナルドを隠した闇も浄化するが既に彼女は其処に居なかった。



「一体何処に……」



カルザナルドを探そうとしたその時、杖が折れた。



「は……?え?」



いきなりの出来事に困惑する、カルザナルドが攻撃して来た……訳では無い。



ならば何故折れたのか……その時、とある事が脳裏を過る。



取り出す武器を間違えたーーーーーーーーーー



浄化の杖は二本所持している、その内の一本はゲーム時代に存在したクエスト、聖王の護衛で任務クリア後に受けられる一度限りの聖王の施しを受けた特別な浄化の杖……まさかそれを使った可能性が……



いや……折れたと言うことは使ってしまったのだろう。



「くそ……やったな」



ありとあらゆる闇を払う事が出来る最上級浄化魔法をこんな下らない場所で使ってしまうとは……完全に気が抜けていた。



杖が折れた出来事にショックを受けていると地面が盛り上がる、そしてカルザナルドが姿を現した。



「油断したな、アルセリス」



気が付いた時には既に剣は目の前まで迫っていた。



勝利を確信するカルザナルド、だがアルセリスには何の焦りも無かった。



闇で生成された剣、暗黒神が造り出したのも加味すると階位的には第2位階レベルの魔法、だが先程杖と共に換装した鎧は第一位階の闇魔法まで無効化出来る優れ物……避ける理由は何処にも無かった。



迫る剣に臆する事なく異空間に手を突っ込むと光の剣を手に掴む、その瞬間カルザナルドの剣は顔面を捉えるが闇は掻き消された。



「闇が……消えた?」



困惑するカルザナルド、もう勝負は決していた。



「武具に頼った形ですまんな」



光の剣はカルザナルドの身体を切り裂いた。



飛び散る血飛沫が白い鎧に付着する、切り裂かれたカルザナルドはその場に膝をついた。



「少し舐めすぎたね……遠距離魔法とかで様子を見るべきだったかな」



「まぁそうだな、相手の装具にどんな効果があるかを探るのは戦いにおいて基本中の基本だからな」



反省するカルザナルドに剣を突きつけながらそう呟く、勝ったとは言え……少し違和感があった。



何故暗黒神がこんなに弱いのか……仮にも神、強い武具があったとは言えあまりにもあっさりし過ぎている。



不自然だった。



「これだけの力があっても負けるかぁ……申し訳ない」



そう言いカルザナルドは地面に倒れた。



「倒したか……」



剣を消すといつもの黒い鎧に戻る、一応生死を確認するがまだ若干息はあるようだった。



「取り敢えず……アルラ達に連絡を入れるか」



カルザナルドはほっといても死ぬ……一先ず通信魔法でナハブ国跡地に捜索へ行っているアルラ達にコンタクトを試みる、だが通信魔法は繋がらなかった。



少し心配になるが、少し前にカルザナルドが六魔は交戦中と言う言葉を思い出した。



「その内連絡が来るか……」



その場から移動しようと転移の杖を取り出し、地面を突こうとしたその時、カルザナルドが倒れる間際に言った言葉が脳裏を過った。



ーーーーーーー申し訳ないです



彼女は確かそう言っていた。



暗黒神が誰に謝るのか……不自然だった。



連絡のつかないアルラ達、六魔はあの5人で倒せない程強くは無いはず……嫌な考えが頭を過る。



だが今は……いち早くナハブ国に向かうのがやるべき事だった。



「ったく……聞きたい事が山ほどあるから死ぬなよ!」



意識不明のカルザナルドを担ぐとアルセリスは治癒魔法をかけながら転移の門へと向かった。

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