第152話 潜入
困った事になった。
うーんと唸る様な声を出しながら複雑に入り組んだ通路を歩き続けるリカ、かれこれ30分は似たような景色を見続けていた。
だが似ているからと言っても同じ道と言う訳では無い、横目に映る倒壊したカフェの様な建物、あれは初めて見る建造物……初めて通る道で間違いは無い。
とは言え……いつまで経ってもアルラ達と合流する気配は無い、何らかの魔法で通信も妨害されている、それに……
リカは上を見上げ建物の屋上に飛び移ろうと跳躍するが謎の力によって地面へと弾き返される。
軽く偵察とは言え、何の準備も無しにナハブへと侵入したのが間違いだった。
通信の妨害に迷路の様な通路、仲間とも私の不注意で逸れてしまった……これは完全に孤立、敵からすれば良いカモだった。
「少し良いかなお嬢さん?」
噂をすればなんとやら……早速敵のお出ましだ。
歩みを止め、後ろを振り返る、そこには4本の刀を持った少しガタイの良い短髪の男が立っていた。
「何の用ですか」
冷たい言葉を吐き刀を抜く、表面上では笑みを浮かべる彼だが殺意がダダ漏れだった。
無警戒そうに見えるが長袖の下になんらかの凶器が仕込まれている、膨らみが少し不自然だった。
「いやー、大した用じゃ無いんだけど……」
そう言い男は頭を掻くそぶりを見せる、その瞬間袖の間から案の定、ナイフが飛んできた。
なんとも分かりやすい、刀を抜くまでも無い。
飛んで来たナイフを目で追いながら軽く躱すとナイフは壁に突き刺さる、そして再度前を向くと男は目の前まで迫っていた。
手には炎を纏った一本の刀、少し厄介だった。
咄嗟に刀を抜くと炎の刀を受け止める、だがその瞬間刀は爆発を起こしリカは爆風で吹き飛ばされた。
炎を纏い爆発する刀……妖刀なのか、もしくは魔法技術が施された刀なのか……いや、そんな事はどうでも良い、問題は爆発の条件を解明する事だ。
触れた瞬間なのか若しくは彼が意図的に発動しているのか……触れるにしても一定の衝撃なのかそれとも何かが触れた瞬間なのか……刀一本に対してこれだけの疑問量だと残り三本を調べるには夜が明けそうだった。
勿論そんな事をしてる暇は無い、我が主人は早く仲間を取り戻そうと焦っている……こんな所で時間を喰っている訳には行かなかった。
「さくっと……片付けますよ」
そう言いリカはゆっくりと刀を構えた。
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腐った肉が辺りに散らばる。
酷い腐臭。
斬っても斬っても湧いてくるアンデット達、正直うんざりだ。
「ユーリ、リカの匂いは?」
「うーん……臭すぎてダメっす」
鼻をつまみ腐臭に表情を歪ませながらユーリが答える、彼女の鼻が使えないとなると広いナハブの国で彼女を探すのは骨が折れそうだった。
リカが方向音痴と言う情報は聞いていないのだが……少し目を離したすきに消えていた、正直怪しかった。
彼女は一番の新参者、過去も知らなければ何故アルセリス様に忠誠を誓って居るのかも分からない……はっきり言ってまだ信用出来ていない所がある。
「なんか……急に気温が下がった?」
突然来る寒気にアルラは身体を震わせた。
そして次の瞬間、建物を一個挟んだ左側で凄まじい轟音が鳴り響いた。
突然の出来事に皆足を止める、体が震えそうな程の冷気……氷と言えばリカしか居なかった。
「危ないから皆んな下がって」
ユーリ達を後ろに下げると音がした方向にある建物を破壊する、崩れ落ちる瓦礫の中、一人の少女が微かに見えた。
だが……何処かおかしかった。
「ユーリ、皆んなを待機させておいて」
「え、あ……はいっす」
困惑するユーリを他所にリカと思われる少女へと近づく、ふと横目に彼女が着ていた服が落ちていた。
「リカ……?」
「あぁ……アルラさん」
虚ろな表情でリカはこちらを見る、彼女の右腕が……無くなっていた。
「あなた、腕が……」
「腕……?あぁ、これの事ですか」
アルラから言われて初めて気が付いた様な反応を彼女は見せた。
全裸なのも気になるがそれを凌駕するほどに……腕から血が一滴も流れていないことの方が気になっていた。
人間誰しも血は流れる……いや、人間だけじゃ無い、オーガ族だってアンデット種も……なのに彼女の腕からは血が一滴も流れていなかった。
「腕くらいどうとでもなりますよ」
そう言った瞬間リカの腕がパキパキっと音を立てて再生された。
「ほら、ね?」
そう言い両手を広げる、驚きの連続で気が付かなかったが彼女の前で男が氷によって串刺しになっていた。
「……取り敢えず服着なさい」
落ちていた服を投げ渡すと男の生死を確認する、まだ若干息はある様だった。
「シャリール、回復魔法は使えますか?」
「まぁ……並以上には」
ふわふわと浮いていたシャリールを手招きすると男に回復の魔法を施す、そして喋れる程度まで回復させると両手を縛り建物の壁に凭れさせた。
「色々と吐いてくださいね」
「嫌と言ったら?」
男の言葉にアルラは刀に手を掛ける、だがそれを見て彼は鼻で笑った。
「お嬢さんは脅しが下手な様だ」
脅しは全く聞いていない様だ。
どちらかと言えば私は脅すよりも殺す方が得意、脅しはリリィの専門……だが彼女は今居ない、私がやるしかなかった。
「シャリール、回復用意しといて」
「?別にいいけど……」
アルラの言葉にシャリールは疑問符を浮かべる、それもその筈、今の男はかなり回復した状態、これ以上回復すれば反撃して来る可能性もあるのだから。
だがシャリールの考えは杞憂だった。
次の瞬間、アルラは刀を抜くと男の片腕を切り落とした。
男は悲痛な叫び声をあげる、回復が必要な理由がよく分かった。
「これから楽しい時間になりそうですね」
そうアルラは男に笑顔を見せ言った。
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