第131話 蘇る者達

激しく身を打ち付ける雨の中を数時間掛け歩き続けようやくの思いでオーリエス帝国の門に辿り着く、だが衛兵は居らず入国許可も必要ない状態だった。



外に出ている人は当然のように居ない、露店も全て締め切られ人が居ない街はまるでゴーストタウンの様だった。



「困ったな……食料の調達も兼ねてるんだが」



空いている店は見当たらない、暗雲が果てしなく続いているのは分かったがこのまま何も持たず帰る訳にも行かなかった。



村の人はじき飢えに苦しむ事になる……それは避けたかった。



とは言え先程も言った通り店は閉まっている……困ったものだった。



「こんな雨の中どうされたんですか?」



激しく地面を打ち付ける雨の音に紛れ青年の声が背後から聞こえる、ふと振り向くと其処にはいつかの青年、アダムスが立って居た。



「……アダムスか?」



過去にミリアとデラスが襲撃して来た時助けた青年、だがあの頃と雰囲気が違い過ぎてまるで別人の様だった。



「シェルさん!お久しぶりですね!」



自分の事を不審な男と見て居たのか、アダムスはシェルと分かるや否や手に掛けた剣から手を離す、微かに感じた殺気はあの頃からは想像も出来ない冷たいものだった。



「随分と変わったな」



「はい……アルスセンテも変わりましたからね」



悲しげな表情で告げるアダムス、ここ数ヶ月この国で起こった事はあまり耳に入って居ない故にその表情の意味があまり分からなかった。



「一先ず王宮に行きましょう、此処じゃ風邪ひきますし」



そう言い背を向けると王宮へと歩いて行く、彼を此処まで変える出来事……相当辛い経験をしたのだろう。



一方の自分は平和な村でたまに来るモンスターの排除とユーリさんの遊びに付き合う程度……かなり鈍っているかも知れなかった。



この暗雲の正体がもし過去にアルセリス様が言っていた暗黒神関連なのだとしたら……今の自分に何が出来るのか、急に不安感が押し寄せて来た。



だが頬を軽く叩くと気持ちを切り替える、起こっても居ない事を悪い方に考えるのは悪い癖だった。



今は久しくアダムスと再会も出来た、彼なら食料を工面してくれるかも知れなかった。



降りしきる雨の中小走りで王宮へと向かう、すると前方に雨の中一人の男が立っているのが見えた。



「シェルさん、構えて」



突然足を止めるアダムス、ふと男を見るといつの間にか槍を握って居た。



その槍から血が滴っている……誰かを殺した後だった。



「何者ですか」



アダムスは一先ず問いかけて見るが男は何の反応も見せなかった。



「気味悪いな……少し様子見してみるぞ」



そう言い近くの小石を顔面めがけ蹴飛ばす、だが男は避ける事もなくもろに石を受ける、だが何の反応も無かった。



「不気味だな……生きてんのか?」



少し距離を詰めようとした時、アダムスの手から剣が落ちる音が聞こえた。



「どうした?」



ふと横を見る、アダムスの表情はまるで化け物を見たかのようだった。



「な、何で……何でアンタが居るんですか……アルドスさん!!」



男に向かって叫ぶアダムス、いまいち状況が掴めなかった。



「アイツが生きてたら何か問題でもあんのか?」



「はい……あの人は、数ヶ月前、大天使ジャルヌに殺された人……生きてるのは有り得ないんです」



「数ヶ月前に死んだ……?」



アダムスの言葉にもう一度アルドスの姿を見る、確かに何の反応も見せないが五体満足、死んで居るようには見えなかった。



だがアダムスの表情は嘘をついて居るようには見えない……だが死者が生き返るなんて話し有り得なかった。



だが目の前には死んだ筈の男が立って居る……不可思議で仕方無いがやるべき事は一つのようだった。



「戦うのがキツかったら下がってろ」



戦意喪失のアダムスを横目に剣を構える、すると殺意を感じ取ったのかアルドスも槍を構えた。



長モノとの戦いは久しかった。



槍……一先ず懐に飛び込めれば勝機はある、だが相手の間合いで戦われたら厄介だった。



ジリジリと距離をゆっくりと詰めていく、今思い出せばアルスセンテのアルドス、名を聞いた事があった。



槍の使い手で魔法も巧みに操り体術も心得てると聞いた、まさか死んで居たとは思わなかったが生前の技を使えるのであれば厄介極まり無い、早めに決着を付けたかった。



「行くぞ!」



地面に溜まった水を蹴り上げ視界を奪おうとするがアルドスは瞬きすらしない、彼の視界を奪うには目を抉るくらいしないと無理な様だった。



剣を振り上げるオーゲストの空いた腹部めがけアルドスは槍を突き出す、だが軽々と槍を弾くとアルドスを蹴り飛ばした。



単調な攻撃、パワーも無い……少し拍子抜けだった。



吹き飛ばされたアルドスは地面で一度バウンドし転がって行く、だがすぐに立ち上がるとノロノロと近づいて来た。



「成る程、死者故に痛みは無しか」



内臓破裂レベルの蹴りを入れた筈なのだが痛がる素振りもない、やはり彼は死人と言うわけなのだろう、死者の蘇生ではなく、死者の肉体を使った魔法……という事なのだろうか。



近付いて槍を再び突き刺そうとするアルドスの槍を掴むと勢い良く引っ張り懐に入る、そして素早く終わらそうと剣を構えた瞬間、アルドスはオーゲストの首元に噛み付こうとした。



「っんだこいつ!?」



間一髪で距離を取る、噛み付き攻撃なんて思いもつかなかった。



流石に弱いと思って油断し過ぎた。



「さっさと終わらせるか」



剣を構えると近づくアルドスの足を蹴り砕き態勢を崩す、そして首元に剣を当てると勢い良く喉元を掻っ捌いた。



喉元からは血が噴水のように飛び出し辺りに降り注ぐ、不思議な戦いだった。



ノロノロとした動き、痛みのない身体、そして噛み付き攻撃……まるでアンデット族の様だった。



「ん……?アンデット族……」



アンデット族を殺す方法は光属性の攻撃しか無い……まだアルドスは死んで居なかった。



「やべぇ……」



収めていた剣を抜きながら背後を振り向く、だが其処には光を剣に纏いアルドスの首を持ったアダムスの姿があった。



「お前……大丈夫なのか?」



「はい、動揺してしまいましたがアルドスさんは跡形も無く殺された……どうやって肉体を呼び戻したは知らないですが……魂までは戻せないですから」



そう言い頭を投げ捨てるとアルドスの体が光へと消えて行く、浄化……アンデット種で間違いなかった。



「しかし誰がこんな事を……」



死霊術を使える魔導師なんてこの大陸にそうそう残って居ない……そしてこの暗雲、タイミングが良過ぎた。



不可解な襲撃に雨の事も忘れ考え込む、ふとアルドスが来た方向を見ると無数の影が蠢いていた。



「おい、アルドス……あれ」



あまり見たくない光景が広がっていた。



「団体の様ですね……」



落ち着きを取り戻したアダムスが苦い表情で呟く、視界に映るのは無数のアンデット達だった。



「はぁ、こんなつもりで来た訳じゃ無いんだがな……」



オーゲストはボヤくと剣をゆっくりと抜いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



シェルドの襲撃から2ヶ月、街の復興もままならぬまま、セルナルドは再びの脅威に襲われて居た。



「ねぇアイリス……」



「何アーネスト」



「流石に今回は詰んだわね」



貼り付けられた木の板が揺れる様を眺めながら椅子も全てバリケードに使われ何も無くなった教会の真ん中に座り込む、外はアンデットの山……浄化魔法を使えるサレシュは魔力切れで睡眠中……詰んで居た。



「私達も光魔法が使えれば良かったね」



ハルバードを地面に置きアーネストの背中にもたれるアイリス、シャリエルが居ない国を守ろうと頑張ったが流石にこの量はしんどかった。



発生したのは4日前、あまりにも突然の出現に国民を守るどころでは無かった。



外にいるアンデットは通常のアンデットよりも強い、力などはそうでも無いが噛まれたらその部位が腐食する……鎧だろうと御構い無しだ。



「ほんと、シャリエルは何処に行ったのよ……」



剣を杖代わりに立ち上がる、いつまでもマイナスな思考では駄目だった。



私達はグレーウルフ、大陸にも名を馳せる一流冒険者……こんな所で冒険に幕を閉じる訳には行かなかった。



「アイリス……」



「分かってる」



アーネストが喋るよりも先に口を開き立ち上がるアイリス、気持ちは二人とも同じの様だった。



「お二人ともやる気ですね」



立ち上がりやる気の満々のアーネストとアイリスの声にサレシュも眼を覚ます、彼女さえ居れば何とかなりそうだった。



「それじゃあ……シャリエル居ないけど、グレーウルフ、行きますか!」



アーネストの言葉に二人は頷くと各々の武器に光の属性を纏わせる、そしてタイミング良くバリケードが破られるとアンデット目掛け突っ込んで行った。

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