第130話 因縁の相手

重苦しい空気が漂う闘技場、観客席から見下ろした先にはアルラとオーフェンが互いに武器を構え立って居た。



「まさか此処で再会する事になるとはな」



苦い表情で剣先を向け告げるオーフェン、だがアルラは再会と言う言葉にイマイチピンと来ていなかった。



「再会も何も初対面では?」



アルラの言葉にオーフェンはため息を吐いた。



「覚えてないのは辛いな……俺も善戦したと思ったんだがな」



「残念ながら私の記憶には残って居ません」



冷たく言い放つアルラ、オーフェンと彼女の関係性……何か思い出せそうだった。



アルセリスは椅子に座り腕を組むと必死にゲーム時代の記憶を辿る、なにか……何か繋がりがある筈だった。



オーフェンが隠居を始めたのは約15年以上前、つまり敗北を喫したのがその頃……そしてアルラはその間鬼神化の制御が効かず自身に拘束魔法を掛け森に閉じこもっていた……楽しくない戦い、残ってない記憶……全てが繋がった。



オーフェンは何らかの理由で森を訪れアルラと遭遇、そして戦闘に発展し敗北……制御の効かないアルラは本能が赴くままにオーフェンを蹂躙、そしてこの戦いがキッカケで彼は隠居……恐らくこう言う流れだろう。



そう言えばゲーム時代にオーフェンはアルラにコテンパンにやられたと言う記述があった……完全に記憶から飛んでいた。



だが何故急に手合わせを願い出たのか、それが分からなかった。



二度とあの戦いはしたく無いと言っていただけに余計謎は深まる……だが暇つぶしにはちょうど良さそうだった。



「疲れているので早くして下さい」



気怠げな表情で刀を胸の辺りに構えるとアルラは手招きをする、あまりに舐めた行動にオーフェンは苦笑いを浮かべた。



「あの頃から俺は変わった」



背丈サイズの剣を構えアルラ目掛け走り出す、だがアルラはその場から動く様子も無く、完全に余裕の表情だった。



残り数メートル辺りまで距離を詰めるとオーフェンは剣の腹部分で自身の行動を隠すとバレない様にナイフを投げる、アルラはそれを簡単に弾いた。



ナイフは当然囮、弾いて出来た隙に距離を詰め剣を振りかざすと思い切り振り下ろした。



次の瞬間、闘技場の砂が風圧で吹き飛ばされ視界を曇らす、だがアルラはオーフェンの攻撃を片手で受け止めていた。



「ただの人間じゃ私には敵いません……?!」



晴れたアルラの視界にはオーフェンの姿は無かった。



あったのは重力魔法が掛けられた剣のみ、咄嗟に剣を吹き飛ばし辺りを見回そうとするが背後から気配がした。



「まずい……」



反応が遅れた、まさか剣が刀と交わった瞬間に重力の魔法を掛け姿を消すとはやられた……普段なら敵の気配などに気を配り見失わない様気を使うが今回は相手を完全に舐めきって居た。



背後から膝裏を蹴られ態勢を崩すと首元にヒンヤリと冷たいものが当たる、やられた。



「かなり舐めてしまって居たようですね……貴方への評価を変えないといけません」



そう言いオーフェンの手を掴むアルラ、そしてナイフを勢い良く引くとナイフの刃は折れた。



「この程度のナイフで私を殺せるはずがありません」



折れたナイフに気を取られアルラが腕から抜ける事を許してしまう、そして足払いで倒されるとオーフェンは天を仰いだ。



「戦術は良し、ですが魔法が使えないのではこの先話にならないですよ」



拳を眼前で止めると立ち上がり刀を鞘に納めるアルラ、だが二度目の敗北を喫したオーフェンの顔に曇りは無かった。



「随分と爽やかな表情だな」



観客席から一瞬にしてオーフェンの元に移動すると彼の隣に座り込んだ。



「あぁ、俺も意外に弱く無いなって思ってな」



「勝ち筋でも見つけたか?」



アルセリスの言葉にオーフェンは頷いた。



「やっぱ魔法だ、戦闘のセンスは負けてねーから魔法さえ会得すれば勝てる」



勢い良く立ち上がると剣を地面に刺し伸びをするオーフェン、確かに魔法を会得した彼と再び剣を交える事があるのならば少し厳しい戦いになりそうだった。



そう遠く無い未来、彼は魔法を会得する、現に訓練が始まってから1ヶ月と経たないうちに彼は初歩的な属性魔法を会得している……恐ろしいセンスだった。



それに比べ自分はと言うとあまり進歩はよろしく無かった。



まぁこの世界に来て約半年、戦闘した回数は多いもののその全てはパワーや魔法任せ、今じゃ出来ない戦闘スタイルばかり……それに敵が弱かった。



そんな自分が訓練を始めて1ヶ月、天才的なセンスでも無い限りそう簡単に戦闘スキルが身につく筈も無かった。



「はぁ……俺も頑張るか」



アルセリスは呟くようにいい捨てると剣を持ち、訓練へと戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雷鳴が轟き稲光が走る外を眺めながら剣を磨く、ここ数週間ずっとこの天候が続いて居た。



一週間ほど前からは雷だけでは無く雨も降り出し土砂降り状態、とても外を出歩ける天気では無かった。



「このままだと眠り草だけで無く作物も枯れてしまいますね……」



悲しげな表情で無慈悲にも作物に打ち付ける雨を眺めるアミーシャ、この状態が長く続けば私達だけで無く他のオワスの村人も飢えることになりそうだった。



「いつ止むんでしょうねオーゲストさん……」



剣の輝き具合を呑気に確かめるオーゲストにアミーシャは心配そうな表情で問い掛ける、確かにこのままではやばいかも知れなかった。



アルセリス様の部下が経営するレストランに貯蓄があるとは言え50人で約半月持つかどうか、節約しても1ヶ月ちょいが限界……この1ヶ月様子を見て居たが止む様子は無い……そろそろ危機感を持つ時期だった。



だが……何故こんなにも長期間天気が悪いのか謎だった。



場所によっては雨が止まない地域や逆に雨が降らない地域もあるがオワスの村は比較的にバランスが良い地域、こんなにも荒れた天気は初めてだった。



「外に出れないと退屈ですね」



そう言い椅子に座り足をブラブラさせるアミーシャ、彼女の姿をみてふととある事が気になった。



以前オーリエス帝国で一悶着あった時、街を覆う暗雲が立ち込めて居たと聞く、見た感じオワスの村を覆っている暗雲は果てしなく続いているようだがただの悪天候にも思えなかった。



今この大陸に何が起きているのか……少し気になった。



「アミーシャさん、少し出かけて来ますね」



「だ、駄目ですよ!こんな天気何が起こるか分からないですし……」



オーゲストの言葉に焦り気味で引き止めるアミーシャ、だがこのまま村に居てもいずれ食料は尽きる筈だった。



「大丈夫ですよ、これでもセルナルド王国でライノルドと二大英雄と呼ばれてたんですよ」



「そ、そうですけど……」



心配するアミーシャを軽く抱きしめ剣と大きめのカバンを背負う、モンスター退治に行くわけでも無いのだから心配の必要は無かった。



「すぐ戻って来ますよ、その時はシチュー、楽しみにしてますね」



そう言い扉を開けるとアミーシャに手を振りオーゲストは激しく打ち付ける雨の中を歩いて行った。

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