第123話 ルナール一味
「いやー悪いな、こんなご馳走になって」
目の前に積み上げられた皿の山、その間から覗くルクセリアの表情は若干引いて居た。
「い、いえ……お金の問題は大丈夫ですけどお腹大丈夫ですか?」
尋常ではない食事量にお金よりもミリィの心配をする、だが全く問題無かった。
寧ろ腹八分目と言うところだった。
小柄な少女が大食い選手顔負けの量を食べた事に周りの客も騒然として居る、だがそんな事よりもミリィは素朴な疑問を抱えて居た。
「なぁ、ルクセリアって貴族かどっかの娘なのか?」
「違いますよ」
ミリィの問い掛けに首を振り答える、ならばこの量の金額を到底払えるとも思えなかった。
目の前に積み上げられた皿達であまり気が付かなかったがそこそこ良い内装のお高そうな店だった。
「それなら支払い大丈夫なのか?」
「はい、貴族では無いですが財力で言えば似た様なものなので」
少しドヤ顔で答えるとルクセリアは店員を呼び出し大量の金貨で支払いを済ませる、貴族では無いのに財力がある……よく分からなかった。
何か商売で成功したのだろうか、しかしルクセリアと言う名は聞いた事が無い……だが奢って貰ったのだ、無駄な詮索はしない方が良さそうだった。
「それじゃあ行きますか」
「何処にだ?」
立ち上がり告げるルクセリアに首を傾げる、するとミリィの顔を見て微笑んだ。
「私の家です、見たら驚きますよ」
「驚く?」
余程大きな屋敷なのだろうか……ミリィのよく分からない言動に首を傾げつつも店を後にした。
賑わいを見せる大通りを眺めながら2人歩く、今思えば何故ルクセリアはあんな裏路地に居たのだろうか。
それにタトゥーを見せた男、それでルクセリアが怯えたと言う事は少なくともこの街に何かしらの組織が居るはずだった。
「厄介ごとにならないと良いけどな……」
ルクセリアに聞こえない程度の声音でボヤく、すると辺りはいつの間にか工場地帯になって居た。
鍛冶屋から小物を作る工場まで、様々な物が造られる音が聞こえてくる、するとその中に一つ、怒鳴り声が混じっていた。
「何度も言わせるな!今は造れないんだ!!」
「だから理由を教えろと何度も言ってます!」
見知らぬ男と怒鳴り合う聞き覚えのある声、声がする場所を覗いて見ると其処には今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気のアルラと40代後半くらいのおっさんが立っていた。
「何やってんだよアイツ……」
思わず頭を抱える、アルラがいると言う事は魔法造船技師のおっさんなのだろう。
「小娘に理由を言った所で何の解決にもならん、早く帰れ!」
より一層大きな声でアルラに怒鳴りつけると男はアルラを突き飛ばす、その瞬間彼女の雰囲気が変わった。
表情は依然としてムッとして居るがこの雰囲気はヤバイ、一度殺された時の雰囲気と似て居た。
「アイツまさか……」
咄嗟に駆け出そうとする、すると隣に居たルクセリアが足早に2人の元へと駆け寄って行った。
「何してるのお父さん!!」
「ルクセリアか、今頑固な奴が居てな、小一時間船を造れって五月蝿いんだ」
「貴方が造れない理由を言えば済むことです」
「だから小娘には解決できねーって言ってるだろが!」
ルクセリアを挟み再び険悪になる2人、正直呆れて居た。
全く……一見、無感情に見えてアルラは感情の起伏が激しい、それ故に少しキレっぽかった。
「アルラ、少し落ち着けって」
「ミリィ……何処に行ってた」
「ど、何処って人助けだって、ほら!ルクセリア!」
威圧的で殺気ダダ漏れの問い掛けに焦りながらもルクセリアを指差す、彼女の姿を見てアルラはミリィから目線を再びおっさんへと移す、どうやらお咎めなしの様だった。
「にしてもルクセリアの親が魔法造船技師とはな」
「はい、お金がある理由がこれで分かりました?」
微笑みながら言う、お金持ちの理由はよーく分かった、それと同時に彼女を助けて本当に正解だった。
「なぁおっさん、ルクセリアを助けてやったんだし船造ってくれよ、お金はあるし」
「ルクセリアをお前が?」
頭から爪先までミリィの体を眺め怪しそうに呟く、全く信じてない表情だった。
「本当だよお父さん、ルナール一味から護ってくれたの」
「ルナール達から?!こんな少女が……信じられん」
そう言い再びミリィの事を見た。
まぁこの世界は見た目以上に強い人物はかなり多い、疑うのも無理は無かった。
それよりも一つ、気になることがあった。
「ルナールって誰なんだ?」
その言葉にルクセリアの父は表情を曇らせた。
「うちが船を造れない理由の原因となってる奴らだ、ルナールを筆頭としたクリミナティの残党数十名による少数精鋭の盗賊団……奴らが船の動力となる魔力のコアを占領してるんだ」
「大人しく最初から良いものを、奴らは何処に根城を?」
「セルナルド王国から西に150キロ、ルナール城と言われる城があった跡地を根城にしてる……」
「要するにそいつらを殺せば船を造ってくれるって事か?」
「別に殺さなくても良い……魔力のコアと俺の息子を連れ戻してくれ……そしたら幾らでも船を造ってやる」
息子、その言葉を出した途端ルクセリアの表情が曇った。
面倒くさい、殺しは簡単だが連れ戻すのはまた怠い仕事だった。
「そんな顔してないで早く行きますよ」
「やめ、この服伸びたら着替えねーんだからやめろって!」
すべき事が分かった途端アルラはミリィの服を掴み引きずる、引き摺られながらもルクセリア達に手を振った。
「ミリィさん達……大丈夫でしょうか」
「ルナール自体は大した事無いが……魔力のコアがある今、正直心配だが……信じよう、彼女達を」
心配そうにボヤくルクセリアの頭を撫でると父は工場の奥へと歩いて行った。
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