第121話 久し振り
「流石に強ぇな……」
剣を地面に刺し膝をつく、体格的には同じだだが片手剣でこうもパワー負けするとは驚きだった。
だが技術が無い……それが幸いだった。
剣を杖代わりに立ち上がると間合いを取る、距離は大体4m程、幾ら彼でも距離を詰めるのに一秒は掛かるだろう。
問題はどう鎧を破壊するか、あの鎧はドラゴンの鱗よりも硬い……俺が斬れ無いのが何よりの証拠、彼の攻撃は防げてもこちらから攻撃する術が無かった。
とは言え防戦一方のこの展開……正直言って勝ち目は無い、何かアクションを起こさない限りは。
「どうした、息が上がってるぞ?」
「すまねぇな、歳だ」
アルセリスの言葉に冗談を返す、空は日が沈み月が出ている……かれこれ8時間は戦っている、正直体力の限界だった。
だが不思議だ。
こんなにも戦いが楽しいのは本当に久し振りだった。
最初はユレーナとリカと言う少女が似ている事に過去の罪を思い出し苛ついていた、だがそれも向こう側からしたら飛んだ八つ当たり……冷静になった今、戦う意味は無かった。
「もう終わりか?」
両手を広げアルセリスは言う、終わりにしても良い……だがこの楽しい時間を終わらせたくは無かった。
「ははっ……まだ終わらせねぇさ!!」
少年のような笑顔で叫ぶオーフェン、薄暗く月夜の光が照らす森の中、ただ剣戟の声だけが響き渡っていた。
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だりぃ
久しぶりに見る賑やかな街並み、洒落たカフェや雑貨屋、見慣れないものばかり……当然心踊る、だが隣にいるムスッとした奴のせいで楽しさ半減だった。
「ったく、アルセリスも何を考えて私らを組ませたんだか」
「アルセリスでは無い、アルセリス様だ、口を慎め痴れ者が」
「おー怖っ」
ですます口調は当然アルセリスの前だけらしい。
私が憎いからなのかアルセリスが居ないからなのか、取り敢えずアルラの口が悪い事はわかった。
「にしても、色んな人種が増えたもんだな、私がいた時も一応他種族は居たけど迫害だらけだったしな」
獣人族、エルフ族、様々な種族とすれ違う、私が居た時代には考えられない光景だった。
他種族共存……随分住み易い世界になったものだった。
「無駄口叩いてないで早く歩け、私達の任務は渡航用の船の調達、アルセリス様達が帰って来る前に入手しないと行けないんだから」
「それ気になってたんだが船って何でも良いんじゃねーのか?わざわざセルナルド王国まで来て、この国って内陸国だろ」
「アルセリス様曰く、大陸を渡る厳しい渡航に耐えられる船は魔法造船技師にしか作れない、その技師がこの国にいるらしい」
「造船技師ねぇ……まぁ私は興味ねーし、完成したら呼んでくれ」
久々の街に来てまで興味も無い仕事などしたくは無かった。
アルラにそれだけを告げるとミリィはその場を後にする、アルラが何かを叫んでいるがどうでも良かった。
「さーてと、何からすっかな」
やりたい事が山積みだった。
洒落たカフェにも行ってみたいし雑貨屋で小物を見るのも良い……ガサツやらなんやら言われるが一応は女性として生まれて来た、可愛いものとかは割と好きだった。
大通りにある様々な店に目移りする、どの店に入ろうか、何を食べようか……色々な思いが頭を駆け巡る、だがふとある事に気が付いた。
「私……金持ってねぇじゃん」
ポケットを幾ら漁ろうが小銭一つ出てこない、完全に忘れて居た、私はこの世界に戻って来たばかり……よく考えれば金なんて持っているわけ無かった。
「んー、どうすっかな」
大通りのど真ん中で仁王立ちし考え込む、金の生み出し方……てんで分からなかった。
「誰か……助けて!!!」
微かだが女性の声が聞こえた。
周りは無反応、恐らく聞こえて居ないのだろう。
もしくは知らんぷり、だが声の遠さ的には前者の様子、助けに行くか迷いどころだった。
別に英雄でもなんでも無い、困ってる奴を助ける義理もない……その時、ある考えが閃いた。
「助けてお礼にお金貰えば良いじゃん」
人助けには謝礼金があるはず、無かったとしても襲ってる側から奪えば良い……そうとなれば善は急げだった。
「さーて、資金調達に行きますか」
ミリィはそう言い残すと空高く跳躍し、声のする方向へと向かって行った。
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