第112話 敗北
「くそがぁぁあ!!!!」
アルセリスの声がボロボロの玉座に響き渡る……いや、もうアルセリスでは無い、鎧を失い、部下を失い……ウルスに負け地面に突っ伏して居たのは隼人だった。
怖くて見れなかった鎧の下は呆気なくも元の自分……だがそんな事はどうでも良い、ウルスは強過ぎた。
全く歯が立たなかった……ステータス共有に胡座をかいて居た自分が情けなかった。
「アルセリス……様なのですか?」
ギィと扉が開く音と共に入り口に立って居たのはリカだった。
「アルセリスか……今の俺にはアルセリス何て大それた名前なんて名乗れない……今の俺はただの人間だ」
隼人の言っている言葉が理解出来ずリカは首を傾げる、だが国に異変が起こった、それだけは理解して居た。
「アルセリス様……私に出来る事はありませんか?」
リカの言葉は今の隼人には届いて居なかった。
アルラとリカ、そしてオワスの村に派遣したユーリ以外のステータスが綺麗に消えて居た。
残ったメンバーは3人、それ以外はウルス共に消えてしまった……その事実に隼人は放心状態だった。
「申し訳……ございませんアルセリス様、誰一人として……止められませんでした!!」
意識を取り戻したのか、アルラはゆっくりとボロボロの身体を引きずり涙を流しながら謝る、なぜ彼女達がアルセリスの姿では無い自分をアルセリスと認識出来るのかは知らないが……もうどうでも良かった。
ウルスの力を失った今の自分は弱い、それ程にウルスは強力な人物だった。
彼の力を失った今、暗黒神にすら勝てるかどうか怪しい、残った力の共有は3人……絶望的だった。
「あぁ……もうどうでも良いよ」
何もかもがどうでも良かった、もう2度と部下に裏切られない様に……しっかりと部下達のケアをしようと心に決めて居た、だが気がつけばこのざま……どうせ同じ過ちは2度繰り返される、それならばもう適当に隠居してこの異世界をのんびり過ごした方がマシだった。
「待って下さいアルセリス様!」
引き止めようとするアルラの声を聞かず、隼人はその場から姿を消した。
「異世界転移して、前の糞みたいな人生を送るまいと頑張った筈なんだが……情けねぇな」
このゲームか異世界なのかよく分からない世界に初めて来た時に居た大樹の幹を触り呟く、アルセリスの様なチート級の力を持って居ながらこのザマ、やはり失敗する者は失敗するべくして失敗する……よく思い知った。
部下の裏切りでクビになったと思っていたが……今思えば少し見下していた部分があった。
自分より年上なのにまだ低い役職にいる事で優越感に浸っている部分が……だから足元をすくわれ、そしてクビになったのだろう。
正直ウルス達を何処かでNPCと思っていた部分があった、だが彼らは人間と変わらず感情が、喜怒哀楽がある……しっかり気に掛けて置けば良かった。
「まぁ……今更遅いか」
ウルスは国を去った、他のメンバーも……今の自分では到底取り戻せなかった。
「アルセリス様」
「リカか……」
アルラから聞いて来たのか、悲しい表情をしたリカが目の前にいた。
「主君に言うのは忍びないです……ですが今のアルセリス様は情けないです」
「だな、部下に裏切られ、無様に負けた、情けない以外の言葉が見つからないな」
「そう言う意味ではありません」
「え?」
リカの言葉に思わず隼人は聞き返す、意味が違う……その意味が分からなかった。
「なんで一人と思い込むんですか……必死に、アルセリス様の為に戦ったアルラ様に申し訳ないと思わないんですか!!」
突然語気を強め怒るリカ、その言葉にふと我に返った。
「それが情けないと言っているんです!私はアルセリス様の事を何も知らないです、だけどこれだけは言えます、私が主君と認めたアルセリス様はこんな事で諦める人では無いと!」
まだ、自分の事をアルセリスと慕ってくれる人が残っていた……それなのに自分と来たら。
勝手に諦め、投げやりになり残った仲間まで捨てようとして居た。
「確かに……情けない主君だな」
リカの言葉にアルセリスは笑った。
自身で頬を叩き気持ちを切り替える、そして真っ黒な鎧を身に纏うとゆっくり立ち上がった。
「取り敢えずアルラの元に行くか」
そう言いリカの肩を掴むとアルセリスは転移の杖を使いボロボロの玉座へと転移する、すると戻ってきたアルセリスを見てアルラはホッとしたのか、号泣してしまった。
「よ゛がっだでず……アルセリス様が戻って来られて……」
いつもはツンっとした表情のアルラがここまで表情を崩し泣くとは思わなかった……よっぽど忠誠を誓ってくれているのだろう。
「泣くなアルラ、リカ……お前も残ってくれて有難うな」
「いえ、私は一度従った主人は裏切らない性格なので」
少し照れながら言うリカ、後はユーリだけだった。
「この建物もそろそろ崩れそうだな……一先ずオワスの村に移動するぞ」
アルセリスは転移魔法が込められた魔紙を二人に渡すと一足先に転移の杖で転移する、眼前に広がるオワスの村はあいも変わらず平和だった。
「あ、アルセリス様お疲れ様っすー!」
ユーリの元気な声が聞こえる……少し安心した。
ふと目線を移すと手を振りながらユーリが村の入り口にいるアルセリスの元まで一直線に走ってくる、この様子だと国の一大事も知らない様だった。
「今日はどうされたんすっか?あ!もしかして……」
何かに気が付いたのか真剣な表情をするユーリ、流石に能天気な彼女でも国が崩壊した事は知っている様だった。
「レフリードさんのレストランを見に来たんっすね!」
「は?」
「レストランならこっちっす!ビックリするっすよー」
驚く程の勘違いに言葉を失う、だがユーリは御構い無しにアルセリスの手を引いてレストランがある方向へと連れて行った。
今思い出せばレフリード何て言うマッチョを召喚した様な気もする、辺境の地に追いやって居たのが幸いしたのか、彼もユーリの反応からして裏切って居ない様だった。
「此処っす!実は私も建てるの手伝った渾身のレストランっすよ!」
自信満々に見せられた一軒の建物、とてもでは無いが良い出来の建物とは言えなかった。
とは言えそんな事はどうでも良い、レフリードも裏切って居ないとなれば一先ず作戦会議の場は出来た。
立て付けの悪いドアを開け中に入る、中はそこそこに広く、四人がけのテーブルが三つと、6人座れるカウンターが一つある有り触れた内装だった。
「あ、アルセリス様ご無沙汰しております」
厨房にいたレフリードがひょっこり顔を出しお辞儀する、彼はそれ程強く無いが取り敢えず仲間は多い方が良かった。
ユーリに案内された席に座るとリカとアルラの二人が店に到着する、すると途端にレフリードはあたふたし出した。
スキンヘッドの髭面男が厨房であたふたする姿は少しシュールだが何か戸惑っている様だった。
「どうしたレフリード」
席から立ち上がりレフリードに近づくアルセリス、するとレフリードは耳元で囁く様に言った。
「すみません、俺可愛い人にはめっぽう弱くて……」
そう恥ずかしげに告げるレフリード、正直呆れたが分からなくも無かった。
アルラとリカはレベルの高いこの世界でもかなり上位に入るレベルの容姿、だが何故ユーリが平気なのか疑問だった。
彼女も相当可愛いはずなのだが。
「ユーリは平気なのか?」
「ユーリさんは女性にしてはガサツ過ぎますからね」
ふっと鼻で笑い告げるレフリード、ユーリが彼を睨んで居るのは伝えない事にした。
「取り敢えず、大事な事を伝えておく」
手を叩き場をリセットするとアルセリスはレフリードとユーリに王国で起きた出来事を伝えた。
「守護者様達がアルセリス様を裏切った……っすか」
いつにも無く真剣な表情のユーリ、流石にこの事態を楽観的に見る事は出来ない様だった。
「そうだ、残った仲間は恐らく此処にいる四人だけ、だが俺は裏切られたからと言ってあいつらを見捨てたくは無い……そこでだ、どうにかして再び仲間に引き戻す方法は無いか?」
アルセリスの問いに辺りは沈黙で包まれる、そして数秒後、アルラが口を開いた。
「再び仲間に……僭越ながら申し上げさせてもらいます、その考えは甘過ぎです」
「あ、アルラ様……流石にストレート過ぎなのでは……」
真剣な表情でストレートに言うアルラにリカは少し戸惑う、甘い考えなのは分かって居た……だが、彼らを諦める訳には行かなかった。
「ですが……一つ案があります、ウルスは王の器では無いと言っていました……アルセリス様に何か心当たりがあるのでは?王たる器になれば……帰って来るかも知れません」
「心当たり……」
あり過ぎて分からなかった。
そもそも王の器とは何なのか……人の上に立った事が無い自分としては検討も付かなかった。
だがふと、ある人物の名を思い出した。
若くして周りから尊敬され、天才的な頭脳で周りを導く皇帝アルシャルテ……彼から何か得られる物があるかも知れなかった。
「少し……出掛けて来ても良いか」
「はい」
アルセリスの問い掛けにアルラが答える、彼女の表情は相変わらず読み取れなかった。
だが、何処か嬉しそうだった……何故そう思ったのかは分からない、だが……そんな気がしたのだ。
アルセリスは魔紙を破り捨てると姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます