第111話 裏切り

長い間……寝て居たような感覚、久し振りに目を覚ますと見慣れた、オーエン城の今にも崩れそうな天井が目の前にあった。



「一体何が……」



魔女の風態をした少女は頭を抑えながらゆっくりと起き上がる、覚えているのは黒い騎士に胸を貫かれた所までだった。



確実に死んだ……そう思ったが生きている、胸の傷を確認するが綺麗に消えて居た。



「やっと目を覚ましたか」



隣から聞こえて来た声、聞き覚えがあった。



シャリールはふと隣に視線を移す、其処には黒騎士が立って居た。



「く、黒騎士!?」



一度殺されかけた相手……そして最高傑作の実験台を破壊した相手でもある、咄嗟に構えようと立ち上がるが何故か体に力が入らなかった。



「立て……ない?何をしたの」



「まだ蘇生して時間が間もない、少しすれば動けるようになるだろ」



「蘇生……?」



彼の言葉を聞き気付いたが少し魔力の質や量が違うような気がした。



量は正直前より多いくらいだが質が低い、低俗な魔力からそこそこに高位の貴族が持つような魔力まで様々……意味が分からなかった。



「何があったの?」



「簡単だ、俺がおまえを殺し、聞きたい事があったから蘇生した、それだけの事だ」



蘇生したと簡単に言ったが意味不明だった。



人間では到底成し得ない領域の事……だがあの傷で生きているのもおかしい、恐らく黒騎士の言っている事は本当なのだろう。



「それで……私を蘇生して聞きたい事があるみたいだけど、条件があるわ」



「なんだ」



「命の保証よ、話し終えても殺さない……これが条件」



正直彼を目の前に逃げれる気はしない、最低でも命の保証をして貰わなければ話す気にはならなかった。



「まぁ良いだろう、この紙を持て、適当な場所に転移出来る、あと俺は50m程離れておく……これで良いだろう?」



転移の魔法が込められた魔紙を渡し離れる黒騎士、文句は無かった。



「良いわ、それで聞きたい事って?」



「暗黒神の蘇生理由とお前の研究して居た物についてだ」



「研究してたもの……何故君が知ってるのかは知らないが答えない選択肢は無いよね」



その言葉に頷く黒騎士、あまり気は進まなかった。



「そうね……取り敢えず暗黒神は興味本意よ、暗黒の神が復活したら誰が倒すのか……この世界は脅威があるようでない世界……退屈だったから復活させたのよ」



「脅威の無い世界……」



確かにこの世界はドラゴンやモンスターは居るが魔王の様な存在は居ない……とは言えわざわざそれを復活させるとはイカれた思考回路の持ち主だった。



普通は退屈でもそんな事はしない……だが魔王や封印されし物が復活するのは大抵そんな理由、正直それはどうでも良かった。



「それで、研究の方は?」



「研究も単純と言えば単純さ、量より質……それを求めて研究してた、ただそれだけさ」



「量より質?軍事力の事か?」



黒騎士の言葉に指を鳴らし正解を伝える、今も昔もセルナルド王国は軍事力に優れている国とは言えなかった。



そんなセルナルドが何故他の国に攻められても負けずに存在し続けれるのか、それはシャリール事私の研究のお陰だった。



「過去に作ったオーガとの混合種然り、アダマスト級冒険者、オーフェンの記憶を植え付けた少女然り……その他も合わせ本来ならばセルナルド王国に恩恵をもたらす筈だった……だがある事件が起きた」



「ある事件?」



「そう、ある日を境に研究対象が大多数消えたのよ……忘れもしない、10年前……私の全てが崩れ去った日よ」



10年前に突如として姿を消した研究対象達……その所為で一夜にして私は国に裏切られ、悪魔の研究者として国民から蔑まれた。



彼らが何処へ行ったかなど知らない……私はプライドを捨て、必死に懇願し最後の研究をさせてもらった。



それがアルラとミリィだった、結果的にミリィは命令を聞かず、アルラは不安定要素を含めた失敗作、昔の地位を取り戻す事は出来なかった。



国から追放され、行く宛ての無かった私だったが幸いにも優れた魔力と知力があった。



そしてアラサル率いる盗賊団を丸め込み、クリミナティを作り上げた。



先程脅威の無い世界だから暗黒神を復活させたと言った……だが本当はセルナルド王国に復讐したかったのだ。



「まぁ貴方に殺されてその夢も叶わず終いなんだけどね」



黒騎士への話しを粗方終えるとシャリールは魔紙を破ろうとする、だが黒騎士は一つ、質問を投げかけた。



「何故そこまでの技術力がある、アルラや他の研究対象は俺も知っている、あれは容易く創れる物では無いぞ」



「あぁ……不思議な力を持った男にアイテムを貰ったのよ」



そう言いシャリールは懐から数枚の紙とペンを取り出した。



「このペンで適当な紙に名前とか種族を書くと自動的に研究対象が創られるの、殆ど外ればっかりだけどたまにミリィ見たいな良個体も出てくるの、それを私の技術で更に改良して研究してたのよ」



シャリールの手に持たれていた何の変哲も無い紙とペン、だがアルセリスはそのペンに驚愕して居た。



創造のペン……ゲーム時代に存在した伝説のアイテム。



オークションサイトでは100万を優に超える値段で売りに出されるほどのレアアイテム、かく言う自分も見るのは初めてだった。



「それを何処で手に入れた?」



「確か……シャルティンとか言うちょうどあんたと反対の真っ白な騎士に貰ったよ」



「シャルティン……」



元オーフェン基、レクラから聞いた白騎士……レクラの過去やセルナルド王国で行われていた実験の事を知っていたと言う男、シャリールに創造のペンを渡していたと言う点を踏まえると辻褄が合った。



だが……それと同時に想定した最悪の事態が当たってしまった様だった。



創造のペンはゲーム時代に存在したアイテム、それを持っていると言う事はプレイヤーである可能性が高い、まだ確定した訳では無いがプレイヤーと考えた方が良さそうだった。



だが問題は何故シャリールにそんな貴重なアイテムを渡したのか、創造のペンは石無しで無限に少し確率の低いガチャが引けるチートアイテム、手放す理由が分からなかった。



「もう行ってもいいかしら?」



腕を組み考え込むアルセリスに尋ねる、特に聞く事はない……首を縦に振った。



するとシャリールは魔紙を破り捨て姿を消す、するとアルセリスは異空間から水晶玉を取り出し映像を映し出した。



映し出された映像には何処の街かは分からないが街に行き着いたシャリールが映し出される、彼女を生きて解放したのはシャルティンと接触がある可能性を感じたからだった。



創造のペンを簡単に手放すとも思えない、恐らく何か考えがあっての事……必ず接触がある筈だった。



「とは言え……ずっとこうしてる訳にも行かないしな、どうするか」



暗黒神の軍勢は姿を眩まし動こうにも動けない、とは言えずっとシャリールを見張っているのも正直飽きる……久し振りに王国の様子でも見ておいた方が良さそうだった。



アルセリスは杖を取り出すと地面を二回小突く、そして転移先を告げた。



『アルカド王国、玉座』



転移先を告げた瞬間に光が体を包み玉座へと転移する、だが目の前に広がっていた光景はボロボロになり荒れ果てた玉座の間だった。



「なんだよ……これ!?」



思わずアルセリスのキャラ設定がブレる、ふと玉座の近くを見るとアルラが倒れていた。



「アルラ!しっかりしろ!!」



必死に揺さぶるがアルラは起きない、頭からの出血に複数箇所の骨折……激しく争った形跡があった。



だがアルラがボロボロに成る程の敵……検討もつかなかった。



「お久しぶりですね……アルセリス様」



聞き覚えのある声……ゆっくり立ち上がり振り返ると其処には姿こそ見覚えは無いが唯一無二の魔力を持ったウルスが立っていた。



老人の姿では無く、前髪を全て後ろに流した銀髪の青年が黒いスーツ姿で立っていた。



「ウルス、どう言うつもりだ」



彼から感じたのは殺意、及び敵意だった。



「どうもこうもありませんよ、前々から思っていましたが……アルセリス様には王の器が見えないんですよ」



「王の器?」



「そうです、人を従わせ導く王の器……それがアルセリス様……いや、アルセリスには無い、だからこそこの王国は反乱が起きたのです」



その言葉を聞き始めて気が付いた、ウルスを含めた王国の部下とステータス共有が切れていた。



ステータス共有は互いの信頼があってこそのもの……今のアルセリスにはウルスと対峙できるだけの力があるか怪しいレベルで共有が切れていた。



「アルラさんにも付いて来る様に言ったのですがね、拒否した上で私を殺そうとするものですから……少しやり過ぎましたが」



そう言い不敵な笑みを浮かべるウルス、彼の忠誠心は少し不安定な所があったが……まさか裏切られるとは思っても居なかった。



「ウルス……覚悟は出来てるんだろうな」



「ええ、十二分に……」



冷静では無かった、王国最強と名高いウルスと俺は戦おうとして居た。



誰のステータス共有が残っているかも確認せず……アルラがやられ、そしてまた部下に裏切られた事が耐えられなかった。



ゆっくりとアルセリスは異空間から禍々しい闇のオーラを放つ劔を出現させると構える、闇のオーラは徐々にアルセリスの体を纏っていった。



「行くぞウルス」



「嗚呼……元主君を殺すのは忍びないですね」



嘆かわしく呟くウルス目掛けアルセリスは怒りを胸に走って行った。

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