第107話 爆死と魔喰らいの少女と
「あ、あのー……」
虹召石を片手に唸るアルセリスを心配そうにセレスティアは気に掛ける、手に持たれた虹召石とは別に置かれた後ろの石はざっと100個程……つまり残り20連と言う訳だった。
130連ぐらいの石を持って居た筈なのだが気まぐれに引きに来た今日、大量のゴブリンやオークの出現で残り20連まで減ってしまって居たのだった。
「女神……楽しいか?」
「へ?」
アルセリスの言葉にセレスティアはきょとんとした表情で首を傾げる、110連爆死……SRすら2体と言う悲劇、ゲーム時代ではあり得ない結果だった。
ゲーム時代は100連すればゲージが溜まりSSR確定、最低でもSR二体の保証があった……だが今はどうだろうか、ゲージはたまっている筈なのにSSRは出ず、おまけにSRも来ないと来たものだ……この怒りを何処にぶつけるべきか、女神しか居なかった。
「あんたが確率そうさしてんだろ!?なぁ、そう言ってくれよ!!」
アルセリスのキャラクターからは予想できない程に取り乱しセレスティアの肩を揺さぶる、こんな現実認めたくなかった。
「か、確率と言われましても……こればっかりは完全にランダムなので……」
苦笑いをするセレスティア、虹召石が珍しいと言う事を数ヶ月前彼女は言っていた、つまり10連どころか単発も回せるか怪しいレベルに入手は困難……その状況での残り20連、気がおかしくなりそうだった。
まだゲーム時代は仕事もして居たしそれなりに給与も良かったお陰でそこまでガチャに絶望した事は無かった……だが今は補充が効かない、初めてガチャで追い詰められた様な気がした。
いや、気がしたでは無い……現に追い詰められて居るのだから。
「頼む……頼むからSRでも……」
虹召石を50個泉に投げ入れる、青色の光から金へと変わる、その演出に少し安堵するが金から虹になる事は無かった。
一応SRは確定……だが稀にサプライズでSSRが出る事もある、まだ希望はあった。
6体目までRの雑魚キャラが続く中、7体目の時に泉が金色に光った。
「さぁ誰が来る……」
このゲームのSRキャラはかなり尖ったキャラが多い、簡単に言えば一部のステータスがSSRとまでは行かなくともそれなりに高いのだ、ステータス共有される召喚士と言うジョブの今、なるべくそのタイプのSRが出て欲しいところだった。
泉の光が止むと1人のシルエットが映し出される、そしてシルエットだった者は徐々に実体を帯びて行った。
「な、成る程……」
ボディービルダー並みの筋肉を誇る男が現れる、だが解析魔法でステータス化された能力を見る限り……ハズレだった。
防御力、攻撃力、素早さ、魔力、器用さと大まかに分けた時この五つのステータスがこの世界には存在する、ゲーム時代はどれもそこそこに重要だったがゲームでは無い今、確実にいらない能力がある……それが器用さだった。
ゲーム時代はクリティカルの出やすさを表す項目だったのだがクリティカルが無いこの世界ではもはや無意味と言っても良い、裁縫が出来たり料理が出来る程度だ、そして目の前にいるボディービルダーは器用さの値がSSR並みに高い、攻撃力もそれなりだがゴブリンキングの方がまだ高いレベル……完全にハズレだった。
「あー……」
突然召喚され困惑しているボディービルダーの処遇に困る、料理と言っても王国には彼より器用さの値が高い料理長が居る……正直要らなかった。
「あのー、私はどうすれば良いのでしょうか?」
物腰低く尋ねるボディービルダー、SSRのリカを召喚した時は戦闘で手懐けたが彼は必要無い様子だった。
「そうだな……」
本当にやり場がなさ過ぎて困る、だが決めない事には次の召喚に行けなかった。
「そうだな……まず名前は?」
「レフリードです」
中々強そうな名前に少し笑いそうになる、だがぐっと堪えると次の質問を投げかけた。
「何か特技とかあるか?」
「そうですね……料理、ですね」
少し不安そうに答えるレフリード、何を心配しているのかは知らないが質疑応答……まるで面接の様だった。
自分が面接官でレフリードが面接者、採用する方の気持ちがこんなにも複雑とは思わなかった。
ただ向こうはどう思っているか知らないが召喚した以上雇わない他は無い、なんせステータスを共有している、雀の涙でも馬鹿にはならないのだから。
「料理か……田舎は好きか?」
「田舎ですか、嫌いでは無いですね」
アルセリスの質問に戸惑いながらもそう答えるレフリード、彼の役職は決まった。
「よし、レフリード、お前は今日からオワス村でレストランを開け、アウデラスに大方準備させて置くからな」
「レストラン……ですか」
「そうだ、この魔紙を破れば行ける、頑張れよ」
そう言いレフリードの背中を押しとっとと退散させる、ようやくガチャの続きが観れる。
ゴブリン、オーク、ゴブリン、残りは雑魚モンスターばかりだった。
「まじかよ……」
頭を抱えながらもゴブリン達を適当な階層に転移させる、地獄だった。
残り10連、こうなる位なら最初から回さなければ良かった。
残りの石を眺め回すべきかを考える、だがとても回す気にはなれなかった。
もし爆死したら……そんな考えが頭を過って仕方ない、アルセリスはそっと石を異空間倉庫にしまうとため息を吐いた。
「色々と邪魔したなセレスティア」
「い、いえ……後一応女神なので様を……」
「細かい事は気にすんな」
セレスティアの頭を軽く叩き洞窟を後にする、頭がおかしくなったのか、不思議と清々しい気分だった。
「さーてと、魔女探しに行きますか」
洞窟の外に出てグッと伸びをすると眩しい太陽を見上げ呟いた。
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「ねぇ、貴方にとって私はどう見える?」
「や、やめてくれ……殺さないでくれ……誰か!化け物が!魔女の化け物が此処に!!」
薄暗い路地裏で1人の男が悲痛な叫びを上げる、赤い宝石の付いたナイフを片手に男の前で様子を伺う様に短い黒髪の少女は黒いローブを身に纏い立っていた。
「そう……それが貴方の答えなのね」
少女は悲しそうに呟く、ゆっくりと膝をつき男の頬を触ると少女は首元にナイフの刃を突き立てた。
男は蛇に睨まれた蛙の様に動けずに居る、屈強な男が華奢な少女に圧倒されていた。
ナイフを横に倒すと刃を滑らせる、だがナイフは首を切り裂かなかった。
ゆっくりと刃を滑らせた辺りから白い靄の様なものが流れ出る、すると少女は靄に噛み付き出て来る靄を全て食べ尽くした。
「美味しい魔力……ご馳走さま」
ナイフを懐にしまい無垢な笑みを浮かべると少女は立ち上がる、その言葉に男は二度と返事をする事は無かった。
街の外れ、昼間にも関わらず深い霧がかかり薄暗い墓地にポツンと立つ一軒家に少女は入って行くとリビングの椅子に座った。
リエル・サリ・エシャルリル、長ったらしい名前……それが私の名前だった。
通称人喰いの魔女、だが実際に人を食べて居るわけでは無い、魔力を食べて居るのだ。
勿論魔力なんて目に見えない物を食べるのは不可能、だが魔喰らいの短刀と呼ばれるナイフを使えばそれが可能だった。
適当な場所をナイフで切る様な感覚で切る、すると先程のように魔力が目に見えて漏れ出て来るのだ、それを口から体内に取り込めば魔力を文字通り食べる事ができる、味は無味だが我慢すれば大丈夫だった。
さっきの男で6072人、目標まではあと28人だった。
人を殺し、魔力を喰らい続けて79年、気が付けば年齢は100を超えていた。
だが見た目は10代中盤、下手すれば前半に見られてもおかしく無いほどにちんちくりん……成長はあの頃から止まっていた。
魔力喰らいの短刀と出会った80年程前から。
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