第106話 再開

オワスの村……数ヶ月来て居ないだけなのだが何故だか、数年ぶりの様な気がした。



「およよ!アルセリス様じゃないっすか!」



まだ村まで数キロある地点に転移したのだが流石獣人族、アルセリスの匂いを感知するや否や光の速さでユーリは現れた。



「久し振り……と言う訳でも無いが元気そうだなユーリ」



「はいっす!元気が有り余りすぎて寧ろ元気ないくらいっすよ!」



何を言って居るのかは分からないがオワスの村を訪れた理由は彼女では無い、別の理由だ。



「取り敢えず、行こうか村に」



「了解っすー」



ユーリを連れ村へと向かう、村の住人は一応貴族から救ってくれた命の恩人であった事を忘れて居なかったのか、アルセリスの事を歓迎して居た。



「アルセリス様!いらっしゃったのですね!」



両手に野菜を持ったアミーシャが嬉しそうにこちらを見る、綺麗な白髪の少女……だが彼女に用は無かった。



村を視察に来た風を装い村を歩き回る、すると住んで居ない空き家を見つけた。



管理されて居ない伸び放題の雑草、扉は固く閉ざされて居る、窓も閉まり入れそうな場所は無かった。



だが中に気配を感じる……村に入った時からずっと、いや……彼女がこの村に入った時からずっと異質な気配が。



「居るのはずっと分かって居る……出て来い」



その言葉に扉から一人の少女が現れた。



アミーシャと瓜二つの綺麗な白髪の少女、ミリアが。



「完全に殺したと思ったんだが運が良かったな」



「嘘よ、殺し損ねた?貴方は技と私を殺さなかった……違う?」



アルセリスの言葉に何故なのか、そう言わんばかりの表情で訴える、何故なのかと言われても本当に殺し損ねただけだった。



だが彼女は誤解して居る様子、それなら少しでも好感度を上げておきたかった。



「約束されたんだよ……」



「何を?」



ミリアの言葉にアルセリスは何も返さない……否、返せなかった。



ミリアの相方である男の名前が全く出て来なかったのだ。



テラス?デクス?全く分からない……それっぽいニュアンスなのは分かって居るのだが。



無言の時が流れる、幾ら時間を使おうとも全く出て来なかった。



印象に無いのだから仕方がない、ミリアは白血統と言う珍しい人間故に覚えて居るが正直その他有象無象は一々覚えてられなかった。



かなりの時間が体感で過ぎたその時、ミリアが口を開いた。



「もしかして……デラス?」



デラス……正直名前を言われてもピンと来ないが多分彼だろう。



「あぁ、彼にクリミナティの秘密をやる、その代わりミリアは助けてやってくれ……とな」



勿論嘘、だがミリアの目には涙が浮かんで居た。



「デラスが、私を……」



少し罪悪感もあるが時には美しい嘘も必要だった。



「まぁお前を生かしておいて正解だったよ結果的にな」



「どう言う事?」



「クリミナティに関しての情報が知りたい」



その言葉にミリアは首を傾げた。



それもそのはず、クリミナティはシャリールが操って居た、その操り主が居なくなればクリミナティの統率も取れなくなる……やがて内部で割れ事実上解散、まだクリミナティの名を使い暴れる者は居るが幹部クラスは殆ど行方を眩ましたのだから。



「何故今頃クリミナティの情報が知りたいの?」



「少しな、取り敢えずそうだな……デラス以上の魔力を持つ奴は居ないのか?」



名は覚えて居ないが魔力は常人にしては大した者だった、彼以上の魔力があればシャリール蘇生の生贄に釣り合うはずだった。



クリミナティには大罪人しか居ない、その点もクリア。



「デラス以上ってなると……ルーリア、彼女くらいしか居ないと思う」



「ルーリア?」



「そう、ルーリア・シャルデルナ、6000人の魔力を食べた帝都フェリス史上最悪の魔法使いよ」



6000人の魔力を食べた……そりゃまた大層な事をしたものだった。



魔法使いを食べれば魔力が上がる……そう言う考えで食べたのだろうが本当に上がるとはこの世界はどんな構造をして居るのか……兎に角、6000人分の魔量を食べたのであればシャリールの生贄に不足は無かった。



6000人殺しの大罪人、死んでも文句無し。



「情報提供感謝する、それと……」



「それと?」



「もう俺は一切お前に干渉しない……精々妹と残りの人生を楽しめ」



その言葉を残しアルセリスは帝都フェリスへと転移して行った。



残りの人生を楽しめ……そうしたいのは山々だが今のアミーシャ、妹には私と居た頃の記憶は無い……私には辛かった。



姉では無く、一人の友人として接されるのが、とんでもなく辛かった。



唯一の家族が自分の事を忘れている……それが辛かった。



だがこれからアミーシャと接すれば何れ記憶を取り戻す、そう言われても私は彼女と接しようとは思わないだろう。



記憶を取り戻せばゴブリンの、あの忌まわしい記憶が蘇る……アミーシャにはそんな辛い思いはして欲しく無かった。



一緒に居ても地獄、居なくても地獄……だが少なくとも、私が側に居ない方が彼女は幸せな筈だった。



アミーシャには村人と言う家族が居る、オーゲストと言う恋人も……彼女は充分今でも幸せな筈だった。



この空き家に居た理由は踏ん切りが付かなかったから……だがアルセリスの一言に後押しされた様な気がした。



「あてもなく……旅でもしようかな」



空き家にしまって居た剣を手に取ると村の塀を飛び越えようとする、その時背後から声が聞こえて来た。



「待って!!」



その声に動揺した、そして塀の淵に着地するも足を滑らせ地面へと落ちてしまった。



「だ、大丈夫?!」



駆け寄ってくる白髪の少女……アミーシャだ。



「アミーシャ……」



咄嗟に目線を外す、何故彼女が此処に居るのか……分からなかった。



「……だいぶ前にお会いしましたよね?」



「会った……一度だけね」



「ずっと忘れられなかったんです、ミリアさんの事が」



その言葉に驚いた、確かに出会いは少し印象に残りやすい出会い方だったがまさか名前を覚えて居るだけでは無く……忘れられなかったと言ってくれた、正直嬉しかった。



「そう……それで私に何の用?」



嬉しさを押し殺し突っぱねる様な態度を取る、アミーシャと私の住む世界は違うのだ、自分から話しかけて置いて酷いとは思うが彼女には嫌われた方が楽だった。



「私は、貴女が泣いた時……胸が痛かったんです、何故か、初めて会ったのに……この人だけには泣いて欲しく無いって思ったんです」



「それがどうしたのよ」



「分かりません……でもミリアさんには行って欲しくない……そんな気持ちになったんです」



「そんな気持ちで引きとめられても困る、私には私のやる事があるのよ」



「そう……ですか」



アミーシャは酷く、凄く悲しそうな表情をした。



やめて欲しい……そんな顔をしないで欲しかった。



アミーシャには笑って居て欲しかった、私の妹だったわがままで笑顔の良く似合うあの頃の様に。



「また……寄るから」



結局……折れてしまった。



ミリアの一言にアミーシャは嬉しそうに笑った。



「うん!待ってるお姉ちゃん!!」



「お姉……ちゃん?」



耳を疑った、アミーシャがお姉ちゃんと……私の事を姉と呼んでくれた、何故か涙が自然と溢れて居た。



「あ……ごめんなさい、なんでだろう、思わずお姉ちゃんって言ったみたいで」



微笑みながら言うアミーシャ、彼女にもう一度お姉ちゃんと呼んでもらえた……それだけで良かった。



「また……会いましょうアミーシャ」



その言葉を残しミリアは村を後にした。

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