第102話 報酬
合格が告げられた翌日、日も完全に上りきらない演習場に辞退者を除く7名の冒険者が集まった。
緊張で眠れなかったのか眠そうにする者や精神を統一し気持ちを落ち着かせる者、様々な冒険者が居る中、説明係から告げられた任務内容はオーガ族の集落調査だった。
オーガ族の集落、その言葉に疑問を覚えた冒険者は多かった。
オーガ族は知能が低い代わりに桁外れの力を持って居る、そんなオーガ族が群れを成し集落を形成するなど前代未聞だった。
「成る程、通りで金タグへのチケットなんて破格の報酬が用意される訳だ」
何処からともなく最後の冒険者クレイが姿を現わす、だが彼の言う通り豪華な報酬に裏がある事は分かった。
「一つ、質問いいか?」
一人の青年が説明係に問いを投げかけた。
「何でしょうか?」
「オーガ族の生態なんて調査してどうする気だ?」
「国王様からは脅威になるか否かを判別する為だそうです」
「脅威になるかの判別……ね」
あまり納得の行かない表情の青年、確かに彼の気持ちも分からなくは無かった。
セルナルド王国には正直黒い噂が流れている、人体実験や生物実験を行い異種族とのハイブリッドや人造兵器を造っているとの噂……確証は無いがそんな噂が流れるくらいの国、正直信用は出来なかった。
それにオーガ族の集落があると言う場所はオーリエス帝国付近、脅威になる可能性は正直高く無いはずだった。
「あまり詮索はしない方が良いぞ」
肩を叩くクレイ、何かを知っているような口ぶりだった。
「何か知っているのか?」
その言葉に頷きはするがクレイは何も言わなかった。
気が付けばまた演習場にクレイと共に取り残されて居た。
「皆んなは何処へ?」
辺りを見回すが衛兵とクレイ以外は誰も居ない、冒険者と言うのは一つの場所に数分と居れない生き物なのだろうか。
「皆さんなら先に行かれましたよ」
シェルドの言葉に答える衛兵、身勝手な冒険者ばかり……協力する気はない様子だった。
「それじゃあ俺たちも行くかシェルド」
「あ、あぁ……」
クレイに連れられ演習場を後にする、正直先行きが不安で仕方が無かった。
オーガなんて一体倒すのでも苦労するのにそれが群れを成す……銀タグワンパーティーで一体倒せるのを考えると協力無しでは任務達成は不可能だった。
「クレイ、少し急ごうか」
「お、やる気でも出たか?」
やる気……とは少し違う、協力しなければ勝てない、任務遂行は不可能と言う現状況において少し出遅れているこの状況は寧ろやる気が無いと周りから見て取れるだろう、自分はその出遅れている分を取り戻そうとしている……ただそれだけだった。
クレイの言葉に何も言わず先を歩くシェルド、何故だろうか……嫌な胸騒ぎが止まらなかった。
街を出て風が吹き抜ける草原を歩く二人、他の冒険者の姿は既に無かった。
無言で歩き続ける二人、シェルドは少し気まずい雰囲気に耐えられなくなった。
「クレイは何でこの任務を受けたんだ?」
整った防具、金に困っている様にも見えない、それに試験で見せたあの力……金タグに1番近しい冒険者に見えた。
いや、下手をすれば金タグレベルの強さ、この任務を受けた意味が正直シェルドには分からなかった。
「受けた理由か……強いて言えば金だな」
「金?」
少し意外な理由に驚く、金が必要には見えなかった。
「そう、報酬金幾らか知ってるか?」
クレイの言葉に首を振る、今思えば具体的な金額は言って居なかった。
「3500万レクスだ」
「3500万!?」
破格の金額にシェルドの声は草原に響き渡った。
「驚くのも無理はないよな、まぁ山分けになるんだが一人当たり500万レクスは貰える、充分すぎる金額だよ」
一攫千金を夢見てこの国に地方から出て来た、まさかその夢がこんなにも早く叶うとは思いもしなかった。
500万レクス……シェルドの居た集落でその金額を稼ごうとしても到底無理なレベルの値段だった。
だが……疑問もあった。
「だが報酬が良すぎないか?」
オーガの集落を破壊するにしても充分すぎる報酬、だが今回の目的は飽く迄も調査、破壊が目的では無いのにあの報酬は少し怪しかった。
そもそも何の特徴も無いセルナルド王国が裕福と言う点が謎だった。
セルナルド王国は各国の中でも特に貴族の数が多く政治にもかなり関わっている国、その時点からおかしかった。
貴族の金の出所は何処なのか、何の特産品もないこの国がどうやって財源を確保しているのか……馬鹿な地方出身のシェルドでも疑問に思うレベルだった。
「知らない方が良い……って事もあるさ」
クレイはシェルドの言葉にそう言うとシェルドの前に一歩出る、知らない方が良い……その言葉を聞くと恐らく黒いお金なのだろう。
何をして居るのかは分からない、だが自分も別に正義の味方な訳ではない……金の出所などどうでも良かった。
「それにしてもシェルドの大剣はデカイな」
190は超える背丈のシェルドと同じくらい大きい大剣を珍しそうに眺めて居た。
「あぁ……この大剣か」
少し懐かしそうな表情をシェルドはして居た。
「思い入れでもあるのか?」
「妹が鍛冶屋に頼んでな、俺がセルナルド王国に出る直前に用意してくれたんだ」
「良い妹さんだな」
シェルドの言葉に微笑むクレイ、自分には勿体ない……本当によく出来た妹だった。
家事も出来る、勉強も出来る……それに加えて正義感も強く困ってる人は必ず助ける様な性格、本当に自分の妹なのかと怪しくなるくらいの妹だった。
「あいつ……今なにしてんだろうな」
「ははっ、ホームシックか?」
「かも……な」
オーガの集落調査、生きて帰れるかは分からない……そんな時だからこそ家族が何故か心配だった。
自分では無く、家族が。
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