第83話 妖刀血染め

「この場から動かずにお前を倒す」



そう言いアルセリスは自身の前に何の変哲も無い剣を刺した。



「一歩も……動かず?」



その言葉に刀を持つ手が震えた、恐怖では無い……怒りで震えて居るのだった。



刀からリナの時とは比にならない程の炎がゆらゆらと揺らめいて居る、洞窟内はまるでサウナの様に暑くなっていた。



「かかって来い」



手招きをして挑発するアルセリス、キョウシロウの怒りは頂点に達している、だが冷静さは失って居なかった。



「動かないのなら、遠距離から攻撃すれば良いだけだ!」



刀を振り下ろしアルセリスを炎に包む、灼炎に包まれたアルセリスの姿を見てキョウシロウは不敵な笑みを浮かべるが次の瞬間、炎が一瞬にして消え去った。



「なにが……起こった?」



魔法が発動された気配は無い、ふと右手を見ると僅かだが剣を構えて居る位置が変わって居た。



剣圧で灼炎を飛ばした……?あり得ない、名のある剣豪でもそんな人間離れの所業は魔法を併用し無いと出来ない……キョウシロウは混乱して居た。



「まだ俺は立ってるぞ」



アルセリスの言葉にキョウシロウの冷静さはいとも簡単に消え去ってしまった。



「ふ、ふざけるな!!」



白雷を纏い振り下ろした刀、だがアルセリスは指二本で受け止めると刀を持つ腕をへし折りキョウシロウを地面に叩きつける、そして刀を手が届かない場所へと放り投げた。



「なぜ……何故なんだ」



魔法も使わず……意図も簡単に倒された、その現実を受け入れられなかった。



キョウシロウはフィルディア大陸のナムラと言う村に生を受けた、ナムラの村は人口50名の小さな村だが村人全てが傭兵業で生計を立てる一国の中隊の様な村だった。



そんな村で戦場を生き残る為の英才教育を受けた、類稀な身体能力も相まって戦場では敵無し、最強の傭兵の名を欲しいがままにした。



そんな自分がこうも簡単に……六魔の一員としてこの世界を観察するつもりだったが……やはりまだまだ世界は広いと言う事だった。



「しょうがない……これで最後だ、血染め……来い」



キョウシロウはゆっくりと立ち上がり刀の名を呼ぶ、すると刀は折れていない左腕に瞬間移動した。



「血染め……?魔剣か?」



「妖刀血染め……それが刀の名前だ」



妖刀血染め……ある日キョウシロウはとある国から依頼を受けた、他国に雇われるのが厄介だからとナムラの村を滅ぼす様に。



ナムラの掟は単純、依頼を受けたら最後、必ず遂行する事……そして依頼に拒否権はない。



キョウシロウは当時名も無き刀で村人を、仲間を殺した……斬って、斬って……斬りまくった。



やがてその刀の刀身は赤く染まり、仲間の魔力を吸い妖刀と化した。



血に染まった刀、故に血染めだった。



「血染め……興味深いな」



アルセリスは興味深そうに呟き頷くと剣を抜く、気が付けば刀からは尋常ではない魔力が放たれていた。



「血染めは斬った者の魔力を吸い蓄える……故に私が使える魔法の数は数千、だが一つだけ難点がある」



「難点?」



「使える回数は一度きり……故にこの魔法は強敵に出会う時まで封印していた、だが貴方なら心置きなく使える……」



『神取り憑き……武神 レフ』



刀から放たれた光がキョウシロウを包み込む、明らかに雰囲気が先程とは変わって居た。



武神レフ……聞いた事の無い名前の神、魔法はシャリエルが使っていた憑依魔法で間違いない筈だった。



『久々の地上……目の前には黒い騎士、呼び出された目的は戦いで間違いねぇな!!』



キョウシロウの言葉で叫ぶレフ、見た目がキョウシロウなだけに違和感があった。



だが直ぐに彼を殺さなくて良かった……お陰で暗黒神とやる前に他の神と戦えるのだから。



『砕け散れ!!』



アルセリスが剣を構えるよりも早くレフは拳をアルセリスの鎧に叩き込む、鎧は少し傷が付いていた。



『なんちゅー強度だよ……ったく』



赤くなった手をさするレフ、パワー、スピード共に高い……守護者レベルかも知れなかった。



だが所詮その程度、6人の守護者、4人の守護者補佐……そして数万を超える雑兵のステータスを得ているアルセリスと言うアバターの敵では無かった。



「実に……つまらん」



『な……!?』



一瞬にして背後に回るアルセリス、即座に反応して反撃をしようとレフは拳を構えるが拳を前に突き出すよりも早くアルセリスは足を払い地面に押さえつけた。



『武神の俺が……負けた?』



その言葉を最後にアルセリスは一定以上のダメージを与える、するとレフは消え、キョウシロウの雰囲気が戻った。



「憑依でも勝てない……何故そこまで強い」



「仲間の数だけ強くなれる……からだな」



倒れ込むキョウシロウ、処置をすれば助かる……だが彼は六魔、水晶越しに見ている部下達に示しを付けるためにも殺さなければ行けなかった。



彼自体悪い奴では無い、軍も持たず誰も殺さない……だがマールとリカを傷付けられた、殺す理由はそれだけで十分だった。



「じゃあな」



そう言いアルセリスはキョウシロウの頭を触ると彼はそっと目を閉じた。



生き絶えたキョウシロウの身体に白い布を掛けると血染めを拾い上げウルスの元へ転送する、暇潰しにも……ならなかった。



洞窟内の仕事をリカに任せアルセリスは外に出る、青く澄んだ空が……心地良かった。



強過ぎる力……良くラノベなどで見ていたが心地良いものでも無かった。



死を感じる時が無い……どんな敵と対峙しても勝ってしまう、どれだけ善戦を演出しても負けることは無い……退屈だった。



グッと伸びをして転移の杖を取り出し転移しようとしたその時、通信魔法に反応があった。



『誰だ?』



『あ、アルセリス様……オーフェン様がセルナルド王国付近で暴走中との事です!!』



『オーフェンが暴走?』



アウデラスの焦り混じりの言葉に首を傾げる、姿を眩ませたと思えば何をしているのやら……だが守護者が暴れてしまっては国だけで無く大陸が危ない……それに、何故彼女が暴れ出したのか理由も気になった。



『座標を送ってくれ、今から向かう』



『お気を付けて』



その言葉を残しアウデラスとの通信を切る、オーフェンが暴走……少し、嫌な予感がした。

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