第73話 オーガグラン

オーガから振り下ろされる一撃を軽々と受け止めるアクトール、身体はシャリエルのままにも関わらず軽々と弾き返すと雷を頭部に落とし頭を吹き飛ばした。



その光景を見てオーガ達は少し距離を取る、だが距離が離れてもアクトールの雷撃はオーガ達を軽々と殺して行った。



『この程度で死んでくれるな、戦いは始まったばかりだぞ』



あまりにも呆気ないアンデットオーガ達に呆れながら言うアクトール、知能がそれなりにある故向こうから近づく事は無かった。



『そう来るなら……こうだ』



距離を取り様子を見るオーガ達を見兼ねてアクトールは足に雷を激しく纏うと一瞬にしてオーガ達の中心に移動する、そして片腕を上げるとドス黒い雷雲が頭上に出現した。



雷雲はバチバチと激しい音を立てて雷を纏う、オーガ達は本能で危険を感じ取り、散り散りに逃げ惑って居た。



『もう遅い』



腕をゆっくりと下ろす、雷雲から放たれた雷は数百を超えるオーガ達を焼き払った。



戦場に雷鳴が轟く、地を焦がし草木を焼く……上級雷魔法を使っても尚、アクトールは涼しげな顔をして居た。



『こんなものか』



オーガ達の戦意を粗方削ぎグッと伸びをする、召喚者の依頼に応えたのを確認し帰ろうとしたその時、声が聞こえて来た。



『これはまた派手にやられたな』



地を揺らす程の巨体、響く程に低い声……ふとアクトールは視線を背後に向けると其処には身体の中心を縦に縫い付けられた灰色のオーガが立って居た。



『誰だ貴様は?』



何処からとも無く出してきたタバコに火を付け加える、だが身体がタバコに慣れて居らず、思わず噎せ返った。



『オーガグラン、オーガ族の長にして頂点だった者だ』



『オーガグラン……知らないな』



そう言いタバコを投げ捨てる、ただのオーガじゃ無いのは一目見て感じ取った。



宙を舞うタバコの火を拳で殴り消すと一瞬にして背後に回る、そして片足を吹き飛ばす程の威力で殴り態勢を崩そうとするが消しとばした側から再生した。



『尋常じゃない再生能力だな』



『ただのオーガじゃないと言っただろ』



その言葉と共に拳が振り下ろされる、アクトールは咄嗟にガードしようとするが腕を折られている事に気が付き咄嗟に下がる、すると拳は地形を変えた。



まるで隕石が落ちかの様なクレーターを作り出す、流石に術者の身体ではあの攻撃は耐えられなかった。



仮にも召喚され憑依してる身、元の身体があれば問題ないが術者のか細い身体では使える魔法も限界があった。



『雷鳴 地走り』



地面に手を付け雷を通さない筈の地面に雷撃を走らせる、辺りの地面は雷を帯び、踏み入れる者を感電死させるレベルの雷を放ち続けた。



『何の意味がある?』



地面を歩きラクトールの方に近づき尋ねるオーガグラン、足を破壊してもすぐ様再生され一見効果は無いように見えた。



だがラクトールは不敵な笑みを浮かべた。



『我は雷神、雷があれば強くなる……それに再生するとは言え……動きは鈍るだろ?』



『な!?』



ラクトールの言葉に驚いた表情を見せるオーガグラン、次の瞬間にはラクトールはもう視界に居なかった。



『こっちだ』



ラクトールの声にオーガグランは後ろを振り向く、だがそこにも彼は居なかった。



更に後ろへと回り込んだラクトールは低い態勢になると地面スレスレから拳を振り上げる、地面から発せられる雷を纏い天に向かって放たれた雷撃はオーガグランの身体前半分を消しとばした。



『こんなものか』



雷魔法を解きため息を吐く、シャリエルの鼻からは無理な魔法の影響なのか、血が垂れて居た。



『無茶し過ぎたか』



アクトールは解除の魔法陣を地面に描き血を垂らす、すると辺りが一瞬眩い光に包まれシャリエルの意識が戻った。



「なんとか……なったみたいね」



辺りに転がるオーガ達の死体を見て安堵の溜息を吐く、神を取り憑かせる魔法はやはり無理がある様子だった。



身体の至る所が痺れている、頭も少しクラクラして居た。



「早く皆んなの所行かないと」



ある程度倒したとは言え数体は見逃した筈だった。



魔紙を破ろうとしたその時、何かが起き上がる音が聞こえた。



『まさか二度目の死を体験し掛けるとはな……危なかったぞ』



低い声を響かせ立ち上がるオーガ達の中でも一際大きい灰色のオーガ、意識がぼんやりとしか無かったとは言え彼は身体の半分を消し飛ばされた筈……1分と掛らず再生は幾らなんでも早過ぎた。



「ま、まずい……」



魔紙を使おうとするが両腕を折られ身体も麻痺状態……動けなかった。



『さてと……お返しをやろう』



そう言い両手を握りしめて高々と振りかぶるオーガグラン、片腕であの威力だった……両腕だと確実に辺り一帯は吹き飛ぶ、逃げようが無かった。



(諦めたく無い……けど)



出来る事は無かった。



迫り来る拳に目を閉じる、死を覚悟し仲間に感謝を伝える、だが次の瞬間身体の真横に何かが落ちる音が聞こえた。



『なに……者だ』



オーガグランの声が聞こえ咄嗟に目を開く、そこには赤髪の耳が生えた少女と青髪の耳の生えた少女がオーガグランの頭部があった場所に立って居た。



「アルカド王国階層守護者補佐、ユーリ・アストロフっす!」



「同じく守護者補佐、シュリル・アストロフです」



そう互いに名を名乗る姉妹、するとユーリは自身の背丈より二倍も高い大剣を取り出しオーガの前に飛んで移動した。



「再生能力高いっすね、頭部を落としたのにもう肩あたりまで再生してるっす」



そう言い剣を振り上げる、突然の出来事に状況が把握出来なかったが恐らく彼女があの雷神でさえ倒しきれなかったオーガを軽々と倒したのだろう。



「それじゃ、さよならっす」



そう言いユーリは剣を振り上げる、そして地面に叩きつけると地面と共にオーガは真っ二つに割られ息絶えた。



セリスレベルも有り得る……並外れた力を目の前にシャリエルは混乱して居た。



セリスやアルラ、ユーリなど何故名も聞いたことが無い筈の人物が此処まで強いのか……理解が出来なかった。



自分の強さとは一体何なのか……ダイヤモンド級はこの世界で数える程しかいない筈、対して彼女達はアダマスト級も有り得る程に強い……もしかすると自分はそれ程強く無いのでは無いのだろうか。



セリスの出現時も悩んだ……だがあの時は彼が特別だと納得し自分を言い聞かせた……だが今回はそうは行かない、自分は雷神を召喚できる数少ない強者、神は認める者にしか取り憑か無いのだから。



神に認められた自分が弱い筈は無い……だが彼女達を見ていると自分がちっぽけな存在に感じた。



「分からない……私は一体……」



頭を抱え悩むシャリエル、その様子を見てユーリはシュリルと目を合わせ首を傾げた。



「取り敢えず戦場行くっすか」



「そうだね」



互いに頷きあうと二人はその場から姿を消し、未だに声が響き渡る戦場へと向かった。

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