第71話 任務

「光魔法を発動し続けろ!重騎兵は魔導師のサポート、戦況はこちらが優勢だ!!」



ライノルドの声が戦場に響き渡る、スケルトンが光に弱いと言う弱点を生かし数的不利を何とか戦い抜いて居た。



ライノルドのは気持ちの面で途切れぬ為の虚勢、ある程度実力のある者なら劣勢と言うことをわかって居た。



シャリエルもその一人、雷を拳に纏いどれだけのスケルトンやアンデットを倒そうとも終わりが見えて来なかった。



「こうも終わりが見えないと気持ちがダレるわね」



「同意、全く終わりが見えない」



アイリスはハルバードを振り回し辺りを一掃する、だが直ぐに次の群れが辺りを囲んだ。



いつしかグレーウルフのメンバーとも逸れアイリスと二人きりに、周りにも味方の影も無し……ライノルドの声が聞こえたのは拡声魔法のお陰、孤立して居た。



「まぁ……孤立なんて慣れっこよね」



「そうだね」



拳を構えるシャリエル、彼女の言葉に頷きハルバードを振り下ろすアイリス……二人の周りには骸の軍勢が津波の様に押し寄せて居た。



「暗黒神軍が優勢、王国軍劣勢か……」



必死に戦う人々を上から見下ろし呟く、暗黒神の軍勢は何らかの召喚術で常にアンデット種やスケルトン種を召喚し続けて居た。



ただでさえ数的不利なのにこれ以上出て来たら王国軍の負け色は濃厚になる……そろそろ姉妹を投入しても良さそうだった。



「あらあら、こんな所で何をされてまして?」



背後から聞こえてきた声にアルセリスは驚くそぶりも見せず振り向く、其処にはラルドーシャが立って居た。



感知されない位置まで上がって居た筈なのだが……やはりゲーム時代より六魔も強くなって居る様子だった。



「ただ空で戦況を見つめて居るだけさ」



「ふーん、貴方はどっち側なのかしら、気配的には……此方側の気がするけど」



「今回で言えば人間側……だが俺自体はどちらの仲間でも無い、面白そうな方に靡くだけさ」



「人間側に付くなら……此処で殺しちゃおうかしら」



そう言い不気味な亡者の魂を周りに纏わせるラルドーシャ、だがアルセリスが剣を抜いた瞬間殺気が収まった。



「一つ聞かせて……貴方自体はこの戦い、邪魔しないのかしら?」



周りに纏わせて居た亡者もいつの間にか姿を消し尋ねるラルドーシャ、アルセリスの強さを一瞬で感じ取った様子だった。



自分では敵わない……その判断の末の問い掛けだった。



「俺自体は干渉しない、戦うのは俺の仲間だ……精々頑張ってくれ」



「ふふっ……ふざけた人ね」



その言葉を残し姿を消すラルドーシャ、少しあの姉妹では分が悪いかも知れなかった。



死を司る魔法を使うと言う設定はそのまま……むしろ強力になって居る気もする、武闘派のアストロフ姉妹だと死者が出る可能性があった。



王国の王アルセリスとしてもゲームプレイヤーの隼人としてもあの二人が死ぬのは何としても避けたかった。



アルセリスとしての理由はこれ以上部下を死なせれば王国で確実に大規模なクーデターが起きる、武で制するのも悪くは無いがなるべく面倒ごとは避けたかった、そして隼人としてはあの姉妹に数十万掛けた記憶がある……それを失うのはコレクターとして避けたかった。



ふと下を見ると王国軍が明らかに押されて居た。



「そろそろ二人を投入しないとヤバイな」



アルセリスは通信魔法を発動すると指を耳元に当てた。



『ユーリ、シュリル……出番だ』



『やっとだよお姉ちゃん!』



『そ、そうっすね』



妙に元気の無いユーリと逆に元気いっぱいのシュリル、キャラが逆転して居た。



恐らくその理由は先程の喧嘩にあるのだろうが戦闘には引きずらないで欲しかった。



今回はあの二人でも少し骨の折れる戦場……気を引き締めないと死ぬ危険性もあった。



『二人ともよく聞け、今回の大将はラルドーシャと言う六魔の一人だ、だが見かけても絶対に戦うな……戦闘を行う場合も勝つ為じゃ無い、逃げる為に戦え』



『わ、わかりました……』



アルセリスの言葉に二人は少し戸惑いながらも了承する、アルセリスとしての威厳が少し落ちるのは痛いが二人が死ぬよりかはマシだった。



それにラルドーシャに打ってつけの者が王国には居た。



「光を持って闇を制す……か」



そう呟くとアルセリスは再び通信魔法を発動した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さーてと……お姉ちゃん、いつまでも拗ねて無いで行くよ!」



「先行っててっす……」



妹から受けた心の傷が癒えず体育座りで蹲るユーリ、そんな姉を他所にシュリルはため息を吐いた。



「それじゃあ手柄は独り占めするからねー、お姉ちゃん後で文句言っても駄目だからね」



そう言いその場から一瞬にして姿を消し戦場の方へと向かって行くシュリル、彼女の気配が消えた途端ユーリは立ち上がった。



「さてと……そろそろ出て来たらどうっすか、妹と違って私は気配感知得意なんっすよ」



ユーリの言葉に2メートルを超えるゴツい鎧に身を包んだスケルトンの上位種、スカルマスターが木々をなぎ倒し姿を現した。



『良くぞ気が付いたな』



「聞こえなかったっすか?気配感知が得意なんっすよ」



スカルマスターが言葉を発した事に驚く事も無く鎖に繋がれたモーニングスターを構える、そして少し足を後ろにズラすとそれに反応してスカルマスターも剣に手を掛けた。



『一見敗走した兵ではなさそうだが何故此処に?』



尋ねるスカルマスターの言葉を無視してモーニングスターを振り回すとユーリはスカルマスター目掛け投げ捨てた。



『愚策、この程度死角にすらならんぞ』



そう言い剣でモーニングスターを弾き返そうとするスカルマスター、だが剣に当たった瞬間、モーニングスターの速度が上がり剣を砕いた。



『な……!?』



スカルマスターは避けようとするが目の前まで迫ったモーニングスターはもう既に避けられる速度では無かった。



そしてモーニングスターはスカルマスターの頭蓋骨を兜ごと粉砕した。



「二撃波、予め任意の部位に衝撃を蓄え自身のタイミングで発動する事が出来る魔法っすよ」



粉々になったスカルマスターにそう言いモーニングスターを拾い上げ異空間にしまうユーリ、大した敵ではなかった。



「今回も簡単な任務になりそうっすね」



そう呟くとユーリは戦場へと歩いて向かった。

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