第62話 リリィ編①

「休暇……と言われてもね」



薄暗い松明の灯りだけが頼りの部屋で壁に向かって考え込むリリィ、王国が出来て以来初めての事で少し困惑して居た。



休暇を欲しいと思った事は無い、この王国内でも不自由のない様にアルセリス様は奴隷を定期的に与えて下さる……そのお陰で趣味である拷問はこうして出来るのだから。



リリィが後ろを振り向くとそこには細長い机に両手両足を縛られた男冒険者が必死に逃げようと踠いて居た。



「何か言いたげだね」



リリィは男の口に押し込んであった布を取る、すると男は少し咳き込むも凄い勢いで喋り始めた。



「俺が何をした!あんたは誰なんだよ!?頼むから返してくれ!!」



怒り半分、恐怖半分と言った所か……多少声は震えて居るが面白い反応をしてくれそうな人間だった。



「君は何もしていないさ、ただ私は拷問が趣味でね……少し付き合ってもらうよ?」



そう言い拷問器具を手に取るリリィ、その姿に男は泣き喚いた。



「た、頼む!か……家族が居るんだ!!助けてくれ!!」



必死に逃げようと踠き懇願する男、だがリリィは首を振り笑った。



「私を楽しませてくれ」



そう告げ男の身体に鋭利な拷問器具を突き刺す、少し狭い部屋には男の悲痛な叫びとリリィに笑い声だけが響き渡っていた。



「ふぅ……久し振りに良い個体に当たったね」



男の死体を目の前に一息つくとリリィは扉を開け部屋を出る、彼女の身体は男の血に染まり白い服は赤に変わって居た。



長い廊下を歩きながら物思いにふける、家族……死に際に彼が口にして居た言葉、そう言えば父である彼を失った家族はどんな表情をするのだろうか。



今までは守護や任務で見る事が出来なかったが今は休暇……たまには殺した後も楽しんでみたかった。



リリィは歩いて来た廊下を引き返すと再びドアを開け部屋に入る、そして死体を片付けようとして居る低級天使に静止を掛けると胸元からペンダントを引きちぎった。



そして明るい廊下へ出てペンダントを開く、中には赤い髪色をした女性と恐らく子供である少女、そして殺した彼の3人が微笑ましい笑顔で写って居た。



その写真を見たリリィの表情が曇る、幸せ……自分が最も嫌う物だった。



「彼が死んだと言うのが分かれば彼女達はどんな表情をするか……楽しみだ」



リリィは笑みを浮かべると各階層に設置されて居る転移の門へと向かう、久し振りに気分が高揚して居た。



アルセリス様とジャルヌ教のジャルヌと言う立場で戦った時も楽しかったがやはり自分は人が苦痛や絶望と言った表情をする瞬間が一番見ていて楽しい……つくづくイかれた性格だった。



転移の門がある部屋を守って居る大きな鉄製の扉に手をかざすと扉が上に上がって行く、そして二個目の扉が出てくるとリリィは片手で押し人一人が通れる隙間を作ると中に入った。



リリィが中に入った瞬間扉は大きな音を立てて閉まる、二重構造……冒険者が来た用に対策して居るらしいが流石に用心し過ぎな気もした。



「取り敢えず……服だけ着替えますか」



リリィは赤く染まった服に手を触れると一瞬にして白いワンピースに着替える、そして薄く下に水が張られた転移の門へと歩くと自身の指を軽く噛み血を垂らした。



すると一滴の血液で水は赤く染まる、そして向かい側の壁しか見えなかった門に謎の黒い空間が開いた。



「行き先はオーリエス帝国」



リリィがそう呟くと黒い空間にオーリエス帝国の街並みが映し出された。



人目の付かない路地裏に目的地を合わせるとリリィは門を潜る、辺りを見回すともうそこはオーリエス帝国の街中だった。



「相変わらず便利な魔法だね」



人目に付かない路地裏の暗い隅の方で渦巻いて居る転移空間を眺めながらリリィは呟く、そして視線をペンダントに移すとまたペンダントを開いた。



写真に指を触れるとリリィの指先が光る、そして5.6秒目を閉じると写真の情報が……記憶が頭の中に流れ込んで来た。



天使族……と言うか天使族の中でもリリィだけ何故か使える物の記憶を辿ると言う力、それを使い家族の居場所を見つけるとリリィはため息を吐いた。



「街の郊外ですか……」



街に来る前事前に記憶を辿れば良かった……そんな軽い後悔を抱きながらも裏路地を迷わずに進んで行く、それにしても酷い匂いだった。



ジャルヌ教の時に一度来て居るがあの時は戦闘やらなんやらで匂いなんて気にならなかった……だが改めて路地裏で深呼吸をすると少し吐きそうだった。



「あれあれー、こんな所に美女発見!」



リリィが上品に鼻を押さえながら歩いて居ると前方から声が聞こえて来る、あまりの異臭に全く気配に気を配って居なかった故、少し驚きリリィは立ち止まった。



「そこのお姉さん、こんな路地で何してるのかなー?もしかして売女?」



そう言いながらクスクスと笑う男、売女……その言葉に少し苛立ちを見せるも冷静になると背後に二人ほど気配を感じた。



「ごめんなさい、私この辺には詳しくなくて迷ってしまったの」



背後の二人には気付いて居ない振りをしてリリィは微笑みそうお淑やかに言うと前に立って居た金髪の男は突然手を叩いた。



「そうか!それなら仕方ない、僕が案内しますよ!」



そう言いリリィの前まで来ると膝をつき手を差し出す、差し出された手をリリィは握ると笑みを浮かべた。



「これは……お誘いに乗ったと言う解釈で?」



「ええ……」



「それでは最高の場所に案内しますよ!!」



そう言い喜ぶ男、彼が背を向けた瞬間リリィは満面の笑みを浮かべた。



手を握った瞬間にはめて居た手袋の記憶を読み取った……彼は今まで数十……いや、数百人の女性を強姦して殺して来た様だった。



男の目線からしか記憶は読み取れなかったが背後の二人らしき人物も居た……皆泣き喚いて居たのを見ると強姦で間違い無かった。



アルセリス様に対してはドMの自分だが……他の男に抱かれる気はさらさら無かった。



なら何故付いて行ったのか……それは他人を不幸にして幸せを得て来たものの苦痛に……絶望に歪む顔が世界で一番好きだったからだった。



「楽しみです……本当に」



当初と目的が変わりつつもこれから起こるであろう事にリリィは期待に胸を膨らませ笑い、男に手を引かれ背後を付いて行った。

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