第63話 リリィ編②

男に連れられるがまま昼間にも関わらず日も差さない薄暗い路地へと入っていく、相変わらず背後の二人は逃げた時の為に隠れながら付いて来て居る……記憶を読み取り手口の全てを分かっている自分の前では全ての行動が無意味なのが滑稽だった。



彼がいくら私に喋り掛けて気を引こうともこれから何をするかは分かっている……敢えて少し怖がるそぶりをしてみせた。



「わ、わたし暗い所とか苦手です……」



そう言って手を握る強さを少し強める、美形の見た目なのに暗がりが苦手と言うギャップに男は少し目を輝かせて居た。



「大丈夫!全然怖い所じゃないから!」



そう明るく言ってリリィを励ます、怖い所じゃない……その言葉に笑ってしまいそうだった。



天使と言う種族柄魂と言う物が見えるのだが……彼の魂は殆ど黒ずみ汚れきって居た。



何の悪行もしてこなかった一般人は基本薄い白色、少し犯罪を起こせばその白が黒に染まっていく……その色を見て天使は死んだ魂を天国へ連れて行くか地獄へ連れて行くか……もしくは放置してモンスターへと変化させるかを決める、彼の場合モンスターにするのも面白そうだった。



魂の持ち主が酷い怨念、執念を持ったまま死ぬとモンスターになる場合がある、勿論無理やり天国や地獄に持って行く事も出来るのだが馬鹿みたいに暴れる故殆どの天使は放置する、そうして出来るのがグール種やアンデット種だった。



(ここまで悪行を積んでるとキンググールかアンデットマスカルになるかも……)



キンググール、アンデットマスカルは両方とも上級モンスター、上手く調教すれば王国の戦力になる可能性もあった。



出先で思わぬ収穫……たまの休暇も良いものだった。



「着いたよ、此処が凄く楽しい所!」



具体的な事も言わずに古びた木製の扉の前で止まり自信満々に言う男、怪しさ満点なのだがアホの振りをしておいた。



「凄いですね!どんな所か楽しみです!」



「レディーファーストで」



そう言って扉を開ける男、扉の先は薄暗く地下へと続いて居た。



リリィは言葉に従い先に入ると階段を下って行く、男は後ろからついて来ている様子だった。



それにしても臭い……いくら堕天して居るとは言え仮にも元天使、汚れた場所に居るのは少し耐え難かった。



「気分悪いかな?」



肩に手を回し耳元で囁く男、急な接近に思わず殺しそうになるも何とか理性を保つと手を重ねた。



「大丈夫です」



そう言うとゆっくり男の手を退かせる、そして暫く階段を下がるとまた木製の小汚いドアがあった。



ドアノブを回し鍵を開けようとするも鍵が掛かって開かなかった。



「あれ?鍵なんて掛かってた?」



そう言い男はリリィの前に回りドアノブを回す、勿論鍵なんて掛かって居なかった。



男の予想に反して扉が開く、すると男は笑った。



「なんだ、ちゃんと空いてるじゃーん」



笑いながら階段よりは明るい中へと入って行く、それを見てリリィは笑った。



「確認不足でした」



そう言い中に入るとゆっくりと扉を閉める、そして魔法で施錠すると外部の二人が入ってこれない様にした。



当然男は気が付いて居ない、能天気に鼻歌を歌って居た……これから起こる事も知らずに。



「じゃあ楽しい事……始めようか」



そう言いズボンを脱ごうとする男、それを見てリリィは少しわざとらしく恥じらい目を背けた。



「な、何をするんですか急に!」



「あれー?もしかしてこう言う事初めて?」



背を向け恥ずかしがるリリィの腰に手を回し言う男……虫酸が走る、酷く不愉快だった。



だがグッと堪えるとリリィは静かに頷いた。



「大丈夫……リードしてあげるから」



そう言ってリリィの手を引きベットだけが置いてある殺風景な部屋のベットへとリリィを連れて行く男、まさにやる事やるだけの部屋っと言った感じだった。




男がリリィの胸を触ろうとする、だがリリィは恥じらう振りをして手を払った。



「そう言う反応良いねー、大好きだよ」



男の興奮具合は増して行く……それもそのはず、彼が一番興奮した時の記憶を自分は知って居るのだから。



お淑やかで何も知らない貴族の娘を犯した時が一番興奮した様子……それを今自分は再現して居るのだった。



「もう我慢出来ないよ!」



そう言い男は勢い良くズボンを下ろした。



だが無反応のリリィに男は首を傾げて居た。



「どうした?これを見て何も思わないの?」



そう言い何も履いて居ない下半身を指差す、それを見てリリィは微笑んだ。



「ええ、何も思いませんよ」



その言葉に男は首を傾げる、不自然……そんな表情だった。



それもそのはず、何も知らない……男を知るはずも無いお嬢様である自分が男のイチモツを見て何の反応も見せないのだから。



その時男は突然呻き声を上げた。



「どうされました?」



「い、いや……急に股間があつ……く!?」



股間の異変にようやく気が付いた様子だった。



男は自身の自慢であるイチモツに視線を落とす、其処にはあった筈の物が綺麗さっぱり無くなって居た。



「お、おれの……俺の!!?」



酷く動揺する男、その姿にリリィは恍惚な表情を浮かべて居た。



「お探し物はこれですか?」



そう言いナイフを取り出すリリィ、その先には彼のイチモツが刺さって居た。



「あ、あ、あばばば」



自慢のイチモツを見て錯乱する男、手順を間違えた様だった。



もう壊れてしまった……流石にこれはつまらなかった。



「これで壊れるなんて男は脆い……」



気が狂って居る男の服を掴み近寄らせるとイチモツを噛ませる、そしてそのまま蹴飛ばすと男はベットに倒れた。



「おい、どうした!何が起こってる!!」



扉を叩く音が聞こえる、背後を付けていた二人が異変に気が付いた様子だった。



もう少し楽しみたかったがそろそろ終わらせた方が良さそうだった。



リリィは指を鳴らし施錠を解くと二人の少しガタイが良い男達が転がる様に入ってきた。



「レグレスだいじょ……」



片割れがレグレス、イチモツを加えて居る男の名を呼び安否を確認しようとする、だが目に入って来た光景を見て思わず吐き出した。



「うっ……お前がやったのか!」



吐く相方に釣られて吐きそうになるのを堪え、剣を抜き叫ぶ男、その言葉にリリィは笑顔で答えた。



「こ、この野郎!!」



雑に斬り掛かってくる男、流石に服を汚すのは避けたかった。



リリィは一瞬にして扉の方に回ると男達を風魔法で部屋の隅に吹き飛ばした。



「ぐっ……逃がさねぇぞ!」



そう言い追いかけて来ようとする男、リリィは拘束魔法で男の動きを止めると部屋を出た。



『ダスリ・ヴィーゴ』



部屋の天井に魔法を付与するとリリィは笑顔で扉を閉めた。



「さよなら……ですよ」



そう言い階段を上って行く、部屋を出て数秒後、男達の悲鳴が聞こえて来た。



だがリリィはそれを聞きもせずにその場を後にしてペンダントの家族の元へと向かう、先ほど使った魔法は第二位階の付与魔法。



無機物である壁に魂を一時的に付与して命令を与える事が出来る……と言ってもこの魔法は殆ど天使……と言うか自分専用見たいな物だった。



この世界で魂を観れる種族はエルフと天使族ぐらい、一部の人間も観れる様だが触れられるのは天使のみ、その中でも魂をストック出来るのは自分位だった。



この魔法は先ほども説明した通り魂を無機物に宿し一時的に活動させる魔法、だが無機物に宿った魂は浄化では無く消滅してしまう……それ故に禁忌に最も近いと言われて居る魔法でもあった。



「まぁ……堕天した今なら関係ないか」



リリィはそう呟くと郊外にある家へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「一!二!」



森に囲まれ小さな家の裏で聞こえてくる少女の声、木剣をひたすら振り汗を掻く一人の少女が居た。



「ミリスティナ、そろそろご飯よ」



ミリスティナ、そう呼ばれた少女は一旦剣を振る手を止めると汗をタオルで拭き家の窓から顔を出す似たような赤髪の女性に向かって指を三本立てた。



「お母さん、あと3分待って!」



その言葉に呆れる母、だが仕方無さそうな表情をしながらも少し微笑み娘の鍛錬風景を眺めて居た。



「全く、努力を怠らない所はあの人に似たのかしら」



そう微笑ましそうに言う母、端整な顔立ちに綺麗な赤髪を振り乱しながら一心不乱に鍛錬を行うミリスティナ、汗が落ちるたびに太陽の光が反射して光輝いていた。



「父に……追いつくため!」



そう言いながら一心不乱に剣を振る、そして3分数え終えるとミリスティナは汗を拭き裏口から家の中へと入った。



「頑張ってるわね」



母の言葉に頷くミリスティナ、父に追いつくための努力なら苦では無かった。



「父さんいつ帰ってくるのかな」



机に置かれた写真立て、そこに写る笑顔の父を見て呟くミリスティナ、最後に会ったのは数ヶ月前……早く強くなった所を見て欲しかった。



「心配しなくても大丈夫よ、あの人は強いから」



不安げな表情をして居たミリスティナを抱きしめ言う母、確かにその通りだった。



父はゴールドタグの冒険者、最近ではその功績が認められ最北端の未開の地探索任務を与えられた誇らしく強い父を心配するのは無粋なのかも知れなかった。



「うん、父さんは強いもんね!」



「へー、あの人ゴールドタグだったんですか」



ミリスティナの言葉に母では無い誰かの声が聞こえる……その言葉にミリスティナは咄嗟に近くに置いてあった剣を構えた。



「お母さん下がってて」



そう言いミリスティナは母の前に立つ、目の前には白銀の綺麗な髪をしたカッコいい女性が立っていた。



「ミリスティナにフィザリア……ナグルスもいい家庭を持ちましたね」



見知らぬ女性から自分だけで無く父や母の名が出た事にミリスティナは驚きを隠せて居なかった。



彼女は何者なのか……なぜ父や母、私の名を知って居るのか……急な出来事に頭が回らなかった。



「取り敢えずこれは返すよ」



そう言い見知らぬ女性は血の付いたペンダントを投げ渡す、それを見た瞬間母は嘔吐した。



「お、お母さん!?」



なぜ吐き出したのか……不審に思いミリスティナはペンダントを良く見るとそれは母の持っている物と瓜二つだった。



「これって……」



その瞬間ミリスティナは全てを察した、父や母の名を知る女性、そして血の付いたペンダント……その瞬間ミリスティナは経験した事のない怒りと悲しみに襲われた。



「ふ……ふざけるな!!!」




気がつけば剣を振りかざして居た、女性は軽々とミリスティナの攻撃を躱す、だが一心不乱に振り回して居るとようやく当たった感触がした。



「やった!?」



「ええ、やっちゃいましたね」



背後から女性の声が聞こえる……その声にミリスティナは血の気が引き、そして冷静になった。



「ミリ……スティナ」



目の前には自分の剣で致命的な傷を負った母が倒れて居た。



「あ、あぁあ゛あ゛ぁ゛!!!」



表しようの無い気持ちが声となる、必死に溢れ出す血を搔き集めるも母の体温は下がっていくばかりだった。



「ごめんなさい、私、私……」



瀕死の母に謝り続けて居たその時、身体を動かす力すら残って居ない母が弱々しい手で頬を叩いた。



「生きなさい……生きて、生き続けなさい!」



そう言いミリスティナを押し退け最期の力を振り絞って立ち上がると母は魔紙を破りながら謎の女性に突進して行った。



「これは……転移魔法」



「ええ……あの子に手出しはさせない!」



その言葉を残し母は女性と共に姿を消した。



荒れた家に取り残されたミリスティナは一人呆然と立ち尽くして居た。



何が起きたのか……父が死に母も……?



信じられない、信じたく無かった……だが母に言われた言葉を思い出し頬を叩いた。



「生きて……生きて、生き続ける……」



父の分も、母の分も生き抜く……そしてあの女性に復讐をする、そう心に決めるとミリスティナは扉を開けた。



「また会ったね」



その声にミリスティナは固まった。



「な、なんで……」



母と共に転移した筈の女性がそこには立って居た。



それを見た瞬間ミリスティナは絶望し、膝から崩れ落ちた。



「最高だよ……」



小さな声で呟くリリィ、今まで見た事の無い絶望の表情……これは新しい快楽を知ってしまったかも知れなかった。



どうやって拷問するか……そう考えたその時、ある考えを突然閃いた。



「ふふっ……私の名前はリリィ……それだけ覚えて置いて」



そう言い残すと姿を消すリリィ、あまりに予想外な出来事にミリスティナは呆然として居た。



何故生かされたのか……殺す価値すら無かったのだろうか。



リリィと名乗った彼女の考えは分からない……だが復讐する、それだけは間違えなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ミリスティナが立ち上がる様子をリリィは空から笑って眺めて居た。



彼女を生かした理由、それは至極簡単……復讐を目的に生き続けやがて仲間を作り私を討伐しに来る……その時仲間もろとも殺してしまえばこれ以上の絶望が生まれるはずだった。



「あぁ……考えただけでも濡れそうだよ」



リリィは身を震わせ恍惚な表情でそう呟くとそのままアルカド王国へと飛んで行った。

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