第36話 ハネス

初めての戦いから6年、アルラは16歳になって居た。



「こんなものね……」



刀に付いた血を拭き取り鞘に収める、アルラの周りにはオーガの死体が山積みにされその数は優に10体は超えて居た。



「マジかよ……すげぇな」



救援を求めた兵士の一人がアルラの圧倒的な力に思わず口を覆う、6年の間アルラはずっとオーガを殺し続けた。



今となってはセルナルド王国にとってアルラは掛け替えのない戦力となって居た。



「お母さん、ただいま」



アルラの声が小さな家の中に響く、木製のタイルの上に雑に引かれた布団の上には母が横たわって居た。



アルラの声に顔を向けるも声は発さない、もう声帯も潰れて居た。



残っているのは聴覚のみ……オーガの遺伝子が母の身体を確実に蝕んで居た。



6年前、オーガの村にある薬草を取る為に私は戦った……だがあの集落に薬草は無かった……ずっと探し続けて居るがそれらしき物は見当たらない、気持ちは焦るばかりだった。



「アルラ・フィナード、少し良いか?」



コンコンと開いているドアをノックしアナベスがアルラの名を呼ぶ、その声にアルラは振り向くとアルラと同じ黒髪の少女が彼の隣に居た。



「なんですか」



アルラは顔色一つ変えずに立ち上がるとアナベスの方に向かう、するとアナベスは少女の背中を押しアルラの前に押し出した。



「こいつの教育を頼みたい、年齢は13、お前の3個下だ、言わなくとも分かると思うが混合種……お前と同じだ」



それだけを告げるとアナベスは扉を閉めて去って行く、狭い家に二人で取り残されたアルラは少女の顔を見るも直ぐに母の方へと戻って行った。



「あ、アルラさん!私アルラさんに憧れてて……会えて光栄です!」



小さな部屋には似つかわしく無い声量で叫ぶ少女、その言葉にアルラは耳を抑え表情を歪めた。



「憧れ……そんなもの私に抱かないで」



「な、なんでですか?アルラさんはオーガを100体以上殺し続けている国の英雄ですよ?」



その言葉にアルラは拳を握り締める、確かに普通の人なら讃えられる事……だがアルラの場合は違った。



「私はオーガとの混合種よ、私のやっている事は言わば同族殺し……醜い行為よ」



濡れたタオルで母の身体を拭きながら悲しげに語るアルラ、その背中を見て少女は悲しそうな顔をした。



「とは言え……私はお母様を救う為にも殺す事は辞めない、これから直ぐにオーガの集落に向かうから着いて来て」



母の身体を拭き終わるとひと息つく間も無くアルラは立ち上がり家を後にする、その背中を少女は身の丈に合わない剣を両手で持って付いて来た。



「そう言えば貴女名前は?」



広く見通しの良い草原を黙々と歩いて居たアルラが口を開く、その言葉に少女は少しあたふたして居た。



「わ、私ですか!」



「貴女以外居ないでしょ」



その言葉に少女は『えへへ』と無垢な笑顔を浮かべた。



「私はハネスです」



「ハネスね……一つだけ忠告しておくけど、オーガ族は強いわよ、自分の身は自分で守ることね」



アルラはそう言い刀を抜く、少し遠い位置に木製のバリケードに囲まれた人が住むには大きすぎる集落が見えて居た。



「私が突入するわ、ハネスは逃げるオーガを」



「は、はい!」



緊張しながらも剣を構えて叫ぶハネス、彼女を他所にアルラは凄いスピードで駆け出すと集落の門を蹴破った。



『付与/身体能力向上 火炎』



刀に炎を付与するとアルラの身体が身体能力向上魔法によって光る、そして一瞬にしてこちらに気が付き仲間に知らせようとしているオーガを真っ二つにすると刀で家屋に触れ、次々と燃やしていった。



「うー……やっぱり怖いよ」



アルラが突入してから五分、燃え盛る集落を眺めながらハネスは震える手を止めようと必死に力を入れて居た。



オーガとの混合種、アナベスさんからはそう聞いて居た、だがアルラさんは自分と同じ混合種とは思えない程に強かった。



自分もあんな風に強くなれるのか……そんな事を考えて居たその時、オーガが一体、こちらに走って来ているのに気が付いた。



「き、来ちゃった……」



ハネスはグッと剣を握り締めると逃げようとするオーガに向かって斬りかかった。




「こんなもの……か」



オーガの死体を眺め粗方片付いた事を確認すると一箇所だけ燃やさなかった農作物を確認する、だがどれも見たことのある野菜ばかり……此処にも目当ての物が無かった。



「ハズレ……か」



アルラは刀を鞘に収めるとゆっくりとした足取りで集落の外に出る、するとそこにはオーガの猛攻をボロボロになりながらも防ぐハネスの姿があった。



「オーガ一匹に手間取るなんて……先が思いやられる」



アルラは刀を再度抜くとグッと力を込めオーガに向けて投げる、刀はオーガの頭に突き刺さると一瞬の隙が出来た。



その隙にハネスは攻撃をせずアルラの元に走って来た。



「アルラさん!怖かったです!!」



泣きながら抱きつくハネス、ここまで弱虫とは流石のアルラも予想外だった。



「剣……貸して」



泣きじゃくるハネスの手から剣を取ると逃げようとするオーガ目掛け一直線に投げる、すると剣は光だしオーガよりも巨大な剣に変化した。



剣はオーガの身体を真っ二つに切り裂く、そして生き絶えたのを確認するとアルラはため息を吐いた。



「一つ言うわ、混合種と言えど使えない奴は捨てられる……生き残りたければ強くなりなさい」



そう少し落ち着いて来たハネスに言い捨て刀を回収しに行くアルラ、その言葉にハネスは泣きながらも頷いて居た。




ハネスとの共同殲滅から一ヶ月、二人は王室に居た。



「アルラよ、あれからハネスは強くなったか?」



スキンヘッドの国王は相変わらずの風貌だった。



その言葉にアルラは難しい表情をした。



あれから何度も特訓はした……だが彼女アルラと少し違うタイプの混合種だった。



アルラには引き継がれなかったオーガ族特有の超再生を持っている代わりに力が常人レベルと言った感じ……盾に最適な力だが彼女の性格を考慮すると戦いには向かなかった。



だがそれをこんな所で進言すればハネスは捨てられてしまう……一ヶ月だが彼女にはそれなりに愛着もある故言えなかった。



「私程では無いですが上々です」



「そうか!この国も安泰だな!!」



王はアルラの言葉に大喜びする、だが直ぐに表情が変わった。



「アルラ、緊急の任務を頼みたい」



「なんでしょうか?」



王の表情にアルラの中で少し緊張が走る、あの国王は楽観的な性格をしている故に険しい表情は滅多に見せない……それ故に彼の表情が怖かった。



「オーリエス帝国から西に30キロほどの地点にあるマゾヌ森林と言う場所に新種のオーガが現れたらしくてな……その強さは桁違い、お前にしか頼めない依頼だ」



「新しいオーガですか……分かりました」



アルラは迷う事も無く快諾した。



新種が居る集落……母を救う事の出来る薬草がある確率は高かった。



「精鋭を数人出す、明日の明朝に出発しろ」



「了解しました」



アルラはそう言いなんの話か理解できて居ないハネスの頭を掴み下げると王室を後にした。

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