第35話 混合種の少女
アルラ・フィナード、オーガの頂点に立つ人と鬼の混合種……これは彼女がアルセリスと出会うまでの話し。
セルナルド王国領土の40人程が暮らす小さな集落でアルラは生まれた。
人工交配、オーガ族の子種を人工的に女性の身体に注入し、子を孕むまでそれを繰り返す実験……アルラが生まれた集落はその実験場だった。
「お母様、見てください!」
自分の背丈の数十倍はある大木を軽々と持ち上げる6歳にも満たないアルラ、それを見て母は微笑んで居た。
「アルラちゃんは凄い力持ちだね!お母さんは病弱だから羨ましいなー」
「えへへ!」
頭を撫でられ嬉しそうに笑うアルラ、この頃は母が他とは違う事など知らなかった。
アルラが10歳になる頃、兵士に連れられセルナルド王国へとアルラは連れて行かれた。
「これが……外の世界」
集落の中で母と二人暮らして居たアルラにとって街は異様な光景だった。
様々な人が物を売り活気のある声が飛び交う大通り、見るもの全てが新鮮だった。
「あまりふらふらするな」
そう言い引率の兵士はアルラの手を強めに引く、アルラは何故彼がこんなにもキツく当たるのか分からなかった。
アルラの顔を見る度に嫌な表情をする、そして城門前で別の兵士に受け渡すと兵士は大きく安堵のため息を吐いた。
そして別の兵士に連れられ城の中へと入って行く、そして一際豪華な扉を潜るとそこには丸坊主に冠を被った異質な王が座っていた。
「おお!待ちわびたぞ!!」
王は両手を広げて嬉しそうに言うとアルラに近づいて来た。
その行為にアルラは困惑して少し後退りをする、だが王は肩を掴むとアルラを引き寄せた。
「どれ、よく見せてみろ!髪は黒……瞳は赤か、髪は親の遺伝子を継いでいるな……これは、ツノか!?本当にオーガとの交配は成功したのだな!」
「はい、その影響で母体に多大なる負荷がかかりましたが実験体は無事です、力も申し分無いかと」
坊主の王と青い髪色をした青年が話す話をアルラは無言で聞き続ける、10歳になったばかりのアルラには難しく分からなかった……だが一つだけ、母の状態があまり良く無いと言うのは分かった。
「念願叶ってだ……アルラと言ったな、これを渡す、アナベスに着いていけ」
そう言い王は一本の刀をアルラに手渡す、そして肩を叩きアナベスと言った青髪の青年を指差した。
「アナベスと申します、以後お見知り置きを」
「は、はい」
深々とお辞儀をするアナベス、そして彼に連れられるがままアルラは国を出ると草原を抜けとある森に着いた。
「こ、ここは?」
「オーガ族が支配する森です、アルラさん、貴女にはここでオーガを殲滅してもらいます」
「オーガを……殲滅?」
表情も変えずそう言ったアナベスの言葉にアルラは首を傾げた。
オーガ……母から聞いた事はあった。
力が強く知性のない野蛮なモンスターだと、そんなモンスターと自分が戦う……怖かった。
「あ、アナベスさんは着いて来てくれないのですか?」
「はい、私は此処で森を抜け出そうとするオーガを始末します」
「で、でも私だけじゃ……」
恐怖で足が進まないアルラ、それを見かねたのかアナベスは森の奥に指を指した。
「君の母親を救う薬草をオーガ族が持っている」
そう言い何処からとも無く椅子を取り出すと座るアナベス、その言葉にアルラは森を見るが暗く深かった。
「お母様の……為」
そう呟き刀を両手で持って森の中に一歩足を踏み入れる、木々が風で揺れる音……獣の唸り声、何でもない全てが恐怖に感じた。
まばらに生えた木々の間を通り抜けアルラは森の奥へと進む、その時不自然に折れて居る木を見つけた。
「これ……は」
無理やり折られた様な大木、斧などの道具では無い……自分が折った経験がある故にすぐに分かった。
その時ふと顔を上げると目の前に木ではなく太い赤色の何かがあった。
「何これ?」
そっと赤色の物体に手を触れる、少し温かかった。
木では無い……そう思った瞬間アルラは前方からの力強い力に吹き飛ばされた。
宙を舞う中姿を確認する、そこには自分よりも十倍はデカイ赤色のオーガが大きな木の斧を片手に立って居た。
「あれが……オーガ」
初めて見るオーガの姿にアルラは恐怖した。
赤く大きな身体、果たして自分が勝てるのか……身体を反転させ木に激突する前に足を曲げクッションにする、そして足を伸ばしバネの様に飛ぶと刀を抜いた。
勿論扱った事はない……だが何故か不思議と身体にどう使うかが染み付いて居た。
オーガは雄叫びを上げ斧を振りかざす、だがアルラは斧ごとオーガを一刀両断した。
そして綺麗に着地すると刀を見る、赤い水滴が刃をなぞる様に垂れて居た。
「やっ……たの?」
後ろを振り向きオーガを確認するが生命活動は停止して居た。
初めて何かを斬った感触……だが嫌いでは無かった。
そっと刀の血を拭くとオーガが通って来た道の痕跡を辿る、そして暫く歩くと5体程のオーガが暮らす小さな集落に辿り着いた。
「ここね」
アルラは刀を構える、そしてまだこちらに気づいて居ないオーガ目掛け走り出すと一瞬にして一匹目の喉を切り裂いた。
喉からは噴水の如く血が流れ出る、その音に気がつき他のオーガは咄嗟に武器を構えた。
だがアルラは怯まずにオーガに突っ込む、そしてオーガの攻撃を受け止めようとするがアルラの身体は軽々と吹き飛ばされた。
アルラはそのまま木に激突すると地面に落ちる、何とか刀で身体を支えながら立ち上がると口の中の血を吐き出した。
「なん……で」
赤の時とは桁違いの力、よく見ると赤いオーガ一匹に黒いオーガが三匹居た。
「成る程、オーガリオスか……オーガ種の亜種的存在、力は通常の二倍から三倍って所か」
アルラからは見えない位置にアナベスは隠れる様に観察する、その声は勿論アルラには届いて居なかった。
「痛い……」
背中を打ち付けた時に何処かの骨が折れる様な音がした……10歳のアルラには耐えられない痛み、だが母の為にグッと涙を堪えると刀を構えた。
「泣かない……負けない!」
アルラは駆け出すとオーガリオスの攻撃を受け止めずに躱す、スピードに関してはこちらの方が数段上だった。
すぐさま背後を取ると足を斬り体勢を崩す、そして膝をついたオーガリオスの膝を使いアルラは身体に登ると喉を切り裂いた。
すぐ様切り替えてもう一体の方を向く、だがいつのまにか囲まれて居た。
「まず……い!?」
三方向から同時に繰り出される攻撃……一発は弾き返すも残りの攻撃に対処が追い付かなかった。
棍棒はアルラの頭を捉える、その瞬間アルラは地面に叩きつけられた。
倒れ血を流すアルラを見てオーガの勝利の雄叫びが辺りに響き渡たった。
意識が朦朧とする……このまま死ぬのだろうか。
「オーガを三体倒したのは上出来だが……まぁ失敗作か、無価値だな」
倒れるアルラを見てアナベスは呟く、その声がアルラにははっきりと聞こえた。
「無価値……」
自分に価値がない、失敗作……その言葉が胸に突き刺さった。
何故だかは分からない……だが悲しかった。
オーガはトドメをさす為に斧を振り上げる、そして斧を地面に叩きつけた。
だが斧は木っ端微塵に砕け散った。
「私は……無価値じゃない!!」
アルラの額にはツノが現れて居た。
オーガは木っ端微塵になった斧に一瞬気をとられる、その瞬間アルラは真っ二つにするとその瞬間辺りの木々を吹き飛ばす程の風圧が巻き起こった。
「これは……なんて力だ!?」
必死に踏ん張るアナベスを他所にアルラは一瞬にしてその場に居たオーガを殲滅した。
この瞬間、アルラの中の何かが吹っ切れた気がした。
何かを斬る恐怖、自身の身に迫る危機の恐怖……そんな物はもう無かった。
そっと刀の血を拭くとアルラは刀を鞘に納め空を見上げた。
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