第17話 滝裏の泉

鬱蒼とした草が生い茂る森の中を一際目立つ白い制服の様な服を着て歩くリリィ、その二歩後ろを顔を覆い隠す様にフードを被ったフェンディルが着いて行くように歩いていた。



「鬱陶しい草木だね、全く……アルセリス様の命じゃ無かったらこんな所一生来ないよ」



「まぁそう言うな、アルセリス様から直々の命だ、光栄だろ?」



ぶつくさと文句を言いながらも草木を掻き分け先頭を歩くリリィをなだめる様に言うフェンディル、その言葉にリリィは不服そうにしながらも頷いた。



二人は無言で草木を掻き分け進む、するとその音を上回る滝の音が聞こえて来たを



「そろそろ近いな」



フェンディルはそう言うと背中に背負っていた斧を手に取る、そして前方に広がっていた木々に向かって斧を振りかざすと木々は一瞬にして消え去り、視界には大きな轟音を立てて流れる滝が入って来た。



「これは……でかいね」



ポケットに手を突っ込みながらリリィは滝が見える崖まで歩く、そして滝を見上げると感心していた。



100mはゆうに超えているかもしれない程に滝は大きな物だった。



「アルセリス様によるとこの裏に女神の泉があるらしい」



「泉か……女神って言えば私も一応天使の身、繋がりあるからあまり会いたく無いんだけど……仕方ないね」



そう仕方なさそうに呟くリリィ、女神には正直あまり良い思い出は無かった。



リリィの背に天使特有の翼が無いのには訳があった。



天使は女神が使役する部下として存在していた。



だが天界で戦争など滅多に起こらない、それ故に天使の存在意義は女神の力を維持する為の道具だった。



天使の力は殆ど翼に宿っている、それ故に人間が天界から落ちて来た翼の一部を拾おう物なら絶大な力を得る事が出来る、女神はその翼を千切り天使を地上へと捨てて居た。



基本女神の力は目に見えての減少はしない、数十年に天使の翼を一つ取り込めば良いレベル……だが強欲なリリィの主人である女神はリリィの翼を全て引きちぎり、その全てを取り込んだ……それ故にリリィの翼はもう無かったのだ。



世界に女神が今何人居るのかは定かでは無い、昔は四人、そして天使の数は5人だった……天使の翼は一枚ずつ献上してればその内再生してプラマイは0……だが全てを失えば二度と生えては来ない、地上へと追いやられるしか無かった。



その事実を知る人はアルセリス以外には居ない……だがリリィ本人も教える気は無かった。



「あの滝をどう抜けるかだな……」



滝を眺め黄昏て居るリリィに腕を組み難しそうな声色で告げるフェンディル、見たところ滝の周りは断崖絶壁、数センチ程度の突起はあるだろうが直ぐ崩れ去ってしまう……侵入は困難だった。



ふとリリィは翼があれば……そう脳裏によぎるが叶わぬ願い、別の案を考えた。



側にあったフェンディルが先程切り倒した木を軽々とリリィは持ち上げると滝に向かって放り投げる、するとリリィの2倍は太い木は滝に当たった瞬間木っ端微塵に消え去った。



「あー、私は流石にあれを耐える自信ない」



木っ端微塵に消えた木を見て少し引き気味にリリィは言う、肉弾背に特化して居てもあの滝を超えるのは困難に見えた。



「リリィ、俺に硬質化魔法を掛けてくれ」



「流石……フェンディルは勇敢だ、特別に最上級のを掛けてあげよう」



斧を背負い言うフェンディルの言葉にリリィは手を叩き賞賛を送る、そして指を鳴らすとフェンディルの足元に魔法陣が出現した。



魔法陣はフェンディルの身体を光で包む、すると服から少し見えて居る部分の皮膚が黒く染まっていくのが見えた。



「少し行ってくる、この水晶が割れたらアルセリス様に連絡してくれ」



そう言い共鳴水晶をリリィに手渡すとフェンディルはグッと伸びをして準備運動をする、そしてグッと脚に力を入れると滝目掛けて跳躍した。



「ナイスジャンプ」



滝の中へと消えて行くフェンディルにそう呟くリリィ、フェンディルの視界は水しぶきで何も見えない状態だった。



実時間数秒程なのだが体感が数分にも感じられる滝の中を抜ける、すると脚に地面の感覚があった。



ふと目を開き辺りを見る、すると滝に陽の光を遮られ少し薄暗い洞窟が辺りには広がって居た。



「やはりアルセリス様の言った通り……リリィは来れそうに無いか」



滝はより一層激しさを増した、そんな気がした。



リリィと共に進む事を諦め一人で薄暗い洞窟の中を歩いて行く、どれだけ奥へ行こうとも滝の音は絶えず静かな洞窟の中に鳴り響いて居た。



その時、薄暗い視界の中に大きな扉があるのに気が付いた。



「これは……なんだ?」



滝の裏には不釣り合いな錆びつつもかつての神々しさを漂わせる金の装飾が色褪せない大きな扉、アルセリス様の言っていた泉の入り口なのだろうか。



フェンディルは扉に手を掛けようとするがその手を止めた。



「指示を仰ぐか……いや、俺とリリィに任された任務……一人でこなすべきか」



アルセリスへ連絡しようと発動した魔法を消し扉に再び手を掛ける、そして扉を開けると中から吐き気がする様な禍々しい気配とオーラが漏れ出て来た。



「うっ、これは……魔神族か!?」



咄嗟に扉から離れフェンディルは斧を構える、すると半開きの扉が勢い良く開き、自身の倍はあるであろう影が蠢いて居るのが見えた。



「我の眠りを妨げるのは何者だ」



一歩歩く度に地面が揺れる、低く地を鳴らす様な声はフェンディルの耳の奥まで響き渡った。



「魔神族が女神の守護とは驚いたな」



魔神と女神は相反する存在……それ故に魔神族の存在は完全にノーマークだった。



「誰に従おうと我の勝手だ、それよりも……眠りを妨げた罪は重いぞ」



そう言い一歩また前に踏み出す、すると壁に掛けられていた松明に順に火が灯され、そして洞窟を明るく照らした。



魔神の見た目はまさしく化け物の名が似合う風貌だった。



首は無く大きな目が一つ、そして胴体に腕と足が生えた異形の姿……見た事も無い魔神だった。



魔神はそっと構えると拳を前に突き出す、すると衝撃は空気を伝いフェンディルの身体を吹き飛ばした。



突然の攻撃に少し体勢が崩れるも何とか立て直すと着地を決めフェンディルは斧を構えた。



無言で身体能力を魔法で向上させる、そして斧を放り投げるとフェンディルは走り出した。



魔神は斧を叩き落とすと僅かだが隙が出来る、その隙を突いてボディーに一撃を入れると拳はめり込んだ。



「グッ……」



魔神は苦しげな声を上げる、だが殴る手を止めずにフェンディルは追撃を入れようとした、だが拳は謎のバリアに阻まれ弾き飛ばされた。



「お前は何故主人に忠誠を誓う?」



「何故?忠誠に理由など必要ない……俺はやるべき事をやる、ただそれだけだ」



「やるべき事をやる……良く口にしていたな、二つめのサイクロプス君」



その言葉にフェンディルの足が止まった、その瞬間魔神の拳がフェンディルの顔面を捉える、顔を覆っていたフードの下からはサイクロプスと言うにはあまりにも人間らしい見た目をした男の姿が現れた。



二つめのサイクロプス……それはサイクロプスの中では異形の存在だったーーーーーーー

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