第15話 再開、そして別れ
風邪を切るような速さで草原を駆け抜ける、そして街から随分と離れた木製の壁に囲われた村に着くと壁に飛び乗り中を白髪の少女は覗いた。
「アミーシャちゃんそんな所のぼっちゃ危ないよー」
中を覗いて居たその時、隣から声がしミリアは驚き振り向く、するとそこには獣耳の生えた獣人族の少女、ユーリが居た。
「ありゃ、これまた大胆な格好で〜帰ってきたらオーゲストでも誘惑っすかー?」
肩を突きながら可笑しそうに笑い言うユーリ、だがミリアは一歩距離を取った。
全く気配を感じなかった、獣だからとかそう言うのでは無い……何か居る、それすら感じなかったのだ。
何故この村にこれ程強い人物がいるのかは分からない、ただ今はアミーシャと間違われている様子だった。
「ささ、降りましょ」
そう言ってユーリはミリアをお姫様抱っこするとその場から飛び降り村の中に入る、そして綺麗に着地をすると優しくミリアを下ろした。
「それじゃ私はパトのロールに戻るっす」
そう言ってふらふらと歩いて行くユーリ、一先ずバレはしなかった様だった。
その時、一つの視線を感じた。
視線の感じる方向に顔を向ける、すると其処には自分と瓜二つの少女、アミーシャが驚いた表情で立って居た。
「え、え?私が……もう一人?」
混乱して居るアミーシャ、その姿を見てミリアは思わず口を押さえた。
アミーシャ……忘れもしない、彼女はミリア、私の妹だった。
髪色が似てるから、顔が似てるからと言う理由では無い、この世界に白髪の人間は数える程しか居ないのだから。
この世界で白髪の者は白血統と呼ばれる美しい白髪、それは貴重な存在だった。
そして私とアミーシャも同様に大切に育てられた……だがある日ゴブリンに襲われた、その際に私達は散り散りになった……私はクリミナティに拾われ育てられた、暗殺者として。
白血統の者は何かしら特別な力を持って居る……私は人間より身体能力が2倍ほど高かった。
だがそんな事はどうでも良い、妹がこの村で無事に暮らして居た……それだけで十分だった。
「貴女は……誰ですか?」
そう尋ねるアミーシャ、ミリアは無言で近づくと髪を撫でた。
「な、何するんですか」
恥ずかしそうに言いながらも抵抗はしないアミーシャ、髪を撫で頬を触る……嬉しさで泣きそうだった。
ゴブリンに親を殺され、人を殺す様にそれ以降は教育を受けた自分……唯一思い出せる楽しい思い出は妹と遊んで居た日々だけ……それが自身を支えて居た、そして今こうして出会えた……それは奇跡に近かった。
「あ、アミーシャなのよね……?」
「そうですよ?やけに私に似てますけど貴女は?」
首を傾げ不思議そうに尋ねるアミーシャ、その姿を愛おしかった。
「ミリア、サレシュ・ミリアよ」
「サレシュ……ミリア?」
そう言って首を傾げるアミーシャ、その行為にミリアは固まった。
何でそんな反応をするのか、姉なのに……何故覚えて居ないのか……酷く動揺した。
「お姉ちゃんよ?アミーシャのお姉ちゃん、ミリアよ?」
震えた声で肩を掴み揺する、だがアミーシャは依然として疑問符を浮かべて居た。
「いくら呼び掛けても無駄じゃよ」
背後で声がし振り向く、其処には杖を持った老人が立って居た。
「アミーシャちゃんはこの村に辿り着いた、だがその時にゴブリンの事で酷くうなされ見て居れん状況だった……だから眠り草を過剰摂取させ記憶を消した、それ故に5歳以前の記憶が無いのじゃよ」
その言葉にミリアは歯を強く噛み合わせた。
「何故……記憶を消した、ゴブリンにうなされた?そんな物は精神的ケアでどうにかなる筈だ……」
「一刻も早く悪夢から解放させたい、そう思った結果じゃ」
「違う!!お前らは楽をしただけだ!!記憶を消されて……楽しい思い出も消えた、アミーシャには苦痛しか残らない、自分が何者なのか、過去も分からず残ったのはアミーシャと言う名前だけ……そんなの、悲し過ぎる……」
剣を握り締めるがミリアの手の力が抜けて行く、そして剣は地面に落ちた。
「なんで……なんでそんな事をしたのよ……バカぁ……」
ボロボロと大粒の涙を流しミリアは泣く、その様子にアミーシャは戸惑いながらもぎゅっと抱き寄せ頭を撫でた。
その行為にミリアは驚いて居た。
「何をしてるの……?今の貴女にとって私は似てるだけの他人の筈よ?」
「分からないです……でも、貴女が泣くと私も何故か悲しくなります……貴女には泣いて欲しく無い、そう思うんです」
ミリアを抱き締めながら言うアミーシャ、その言葉にミリアの涙は止まらなかった。
記憶は完全に消えては居ない……感覚的な物は少しでも残って居る、それだけでも嬉しかった。
「ありがとう……ありがとうアミーシャ」
震えた手でアミーシャをミリアも抱き締めようとする、だが手を止めた。
今の私に抱き締める価値が果たしてあるのか……この手で殺めた人は数知れない……そんな汚れた存在の私がアミーシャを抱き締めていいのか……不安だった。
だが意を決して抱き締めようとする、その時デラスの声が聞こえた。
「まずい!!作戦は失敗だ、逃げるぞミリア!!」
突然隣に現れるデラス、そう言って抱き締めようとして居たミリアの肩に手を当てるとそのまま転移した。
「あ、あぁ……」
アミーシャを抱き締められなかった……次ちゃんと会える保証は無い、あの獣人族の門番の所為で……だがこれで良いのかも知れなかった。
私は冒険者殺し専門の殺し屋、汚れきった存在の私にアミーシャは眩し過ぎる……そう、これで良かったのだ。
転移した瓦礫ばかりの古城跡でホッとデラスはため息を吐く、それを見てミリアはグッと伸びをした。
「最後の闘い見たいね」
「よく気が付いたな」
ミリアがそう言うと瓦礫の陰からアルセリスが出てきた。
「な、何故追いつける!?ここはオーリエスから100kmも離れた場所だぞ!?」
「驚いてても仕方ない、全力であいつを倒すわよ」
そう言ってミリアは剣を構える、不思議と清々しい気分だった。
『付与/身体能力倍増×2!!』
そう言って魔法陣に手を置き叫ぶデラス、それと同時にミリアは目にも止まらぬ速さでアルセリスの後ろに回った。
この一撃で仕留める……その思いと共に放たれた攻撃、だが剣はアルセリスの腕に阻まれ砕け散った。
「なっ!?」
身体能力が2倍に加えて第3位階の付与魔法まで付けたミリアの攻撃が全く通らなかった事にデラスは衝撃を受ける、だがミリアは全く驚く事無く折れた剣から手を離した。
「まだ……まだ終わらない!!」
すぐ様拳を握り締め硬い鎧の薄い部分を狙い殴る、だがアルセリスは全てそれを簡単に否した。
『同時発動/火炎、雷……雷炎刃!!』
ミリアの攻撃を受け止めて居るアルセリスに背後からデラスが詠唱をし幾つもの雷を纏った炎の剣の様な形を形成した攻撃を放つ、だがアルセリスはそれをいとも簡単に消した。
『無効反射/リフレミラ』
そう唱えデラスの攻撃を消すとミリアの腕を掴み背負い投げの様に地面へと叩きつけた。
『縛り魔法/黒鉄格子』
空いているもう片方の手で詠唱をする、するとデラスの頭上に黒い鉄格子の檻が出現した。
それは一瞬にしてデラスを閉じ込める、そして抵抗するミリアを持ち上げるミリアも格子の中へと入れた。
「まぁ……こんなものか」
そう言ってグッと伸びをするアルセリス、脅威的な強さ……化け物だった。
身体能力が8倍に上がっているミリアの攻撃を簡単に否し魔法に長けているデラスの攻撃を無効化した……勝てる訳が無かった。
「お前らには聞きたい事がある、死にたく無かったら大人しく答えろ」
そう言って砂時計を見せ頭上を指差す、その行為に二人は上を見ると黒い天井がゆっくりと迫って来ていた。
「な、何が聞きたいんだ!」
「簡単な事さ、クリミナティについてだ」
その言葉にデラスは戸惑いを見せた。
クリミナティの事を話せばクリミナティに消される……だが黙っているとこの場で殺される、八方塞がりだった。
「わ、分かった……喋る」
そうミリアの背中を叩きデラスは言った。
「一つだけ教えてくれ、砂時計な何分なんだ?」
「2分だ」
その言葉にデラスはしおらしく頷いた。
「じゃあまず一つ、クリミナティに所属する者は合計で何人だ?大雑把で構わん」
「5000は超える」
「次だ、クリミナティのボスは誰だ?」
「有名盗賊団の頭領が公になっているが本当は貴族達だ……各国の有名な貴族がクリミナティを使って邪魔者を消している」
「最後だ、本拠地は何処だ?」
「それは私も知らない、表の盗賊団頭領でさえ居場所を明かさない……いつも魔法書記で伝えられるからな」
その言葉に頷くアルセリス、粗方聞きたい事を聞き出すと砂時計を割った。
「情報提供感謝する」
その言葉と共にゆっくりと動いて居た天井は一気に降下する、その時デラスは笑顔を見せた。
「意外と良いコンビだったな……俺たち」
そう言うデラス、その笑顔にアルセリスは警戒をした。
だが次の瞬間天井は完全に地面まで下がり辺りに血を撒き散らす、そして魔法を消すと死体を確認した。
「一つしかない?」
アルセリスが確認出来たのはデラスの死体だけだった、その時ミリアの気配が逃げて行くのに気が付いた。
「成る程……何らかの魔法で逃亡させたか」
そう呟くアルセリス、だが一瞬にして逃げた先である森へと移動するとミリアを地面に押さえつけ様とした。
だがミリアは上手く否すとカウンターで顔面に拳を当てた。
だが砕けたのはミリアの拳だった。
「あぁ!!」
痛みで咄嗟に拳を押さえる、だがすぐに攻撃が来る……そう感じ取り顔を上げる、だがその時にはもう斬られた後だった。
「手間を掛けさせるな、面倒くさい」
そう言い捨て剣をしまう、そしてアルセリスは何処かへと転移して行った。
森の中に一人取り残されたミリアは腹部の傷を見て笑った。
恐らくもう助からない、血が滝の様に流れている……せっかく妹に会えたと言うのに。
だが私は汚れた存在……綺麗で眩しいアミーシャには釣り合わない姉……これで良かったのだ。
「アミーシャ……貴女に最後会えて良かった、貴女だけでも幸せに……なって」
そうミリアは空に手を伸ばした。
「あの人……どうなったんでしょうね」
そうボソッと呟くアミーシャ、誰か知らない筈なのに少し懐かしい感じがした。
姉……彼女はそう言って居た、だが記憶のない自分にとっては分からなかった。
「もう一度会ったお話ししたいな……」
そう言いアミーシャは青い空を眺めた。
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