第14話 光の巨人

アダムスの心臓へと突き立てられた剣、それが高々と振り上げられると心臓に向けて一直線に振り下ろされる、アダムスは目を瞑り死を待つだけだった。



だが次の瞬間辺りに金属音が響き渡る、そして上に跨っていたミリアの重さが消えた。



ふと目を開けると一人の黒髪の鎧を着た青年がアダムスを守る様に立って居た。



「大丈夫か?」



ミリア達の方を気にしながらも言葉を掛ける青年、アダムスはその声、そして黒い髪色に見覚えがあった。



「貴方は……セルナルド王国の……鬼神シェル?」



其処には一年前に失踪したと言われて居たセルナルド王国の英雄が立って居た。



何故オーリエスに彼が居るのかは分からない……ただ助かったのは確かだった。



「アミーシャさんのお使いでこの街に来たは良いが爆発音が聞こえて駆けつけたらこれだ、酷い有様……お前達がやったのか?」



「いかに……」



「あんたアミーシャって言った!?」



ローブの男が喋ろうとしたその瞬間、男の言葉を遮る様にミリアは叫ぶ、その言葉にオーゲストは戸惑いながらも頷いた。



「あんた確かオワスの村に居た……デラス、此処は頼んだわ、私はオワスに向かう」



「ふむ、何があったか知らないが任された」



そうデラスと呼ばれた男が頷くとそれを確認したミリアは一瞬にしてその場から消えた。



「相方、追わなくても良いのか?」



デラスにそう告げるオーゲスト、その言葉にデラスは首を傾げた。



「何故そう思う?アミーシャと言うのはお前の友か何かなのだろ?心配するのはそっちじゃ無いのか?」



「前迄ならな、だが今はユーリさんって言う化け物じみた傭兵が居るんでな」



「ふむ、それが本当だとしてもミリアは負けない、分かったら……背後に気を付けろ」



その言葉に後ろを振り向く、すると其処にはいつ現れたのかスケルトンが迫って居た。



「召喚魔法……?」



突然現れたスケルトンを簡単に一蹴すると頭蓋骨を割り砕く、そして寝転がって居たアダムスをゆっくりと起こすと建物の側にもたれさせ座らせた。



「大丈夫か?」



「は、はい……」



普通ならば対立する敵国の兵士に助けられた事に悔しさで涙を流すアダムスを他所にオーゲストは剣を構えデラスと対峙する、すると辺りにいくつもの魔法陣が出現し、そしてその魔法陣から夥しい程のスケルトン達が現れた。



「大した魔力だな」



魔法にはあまり詳しくないオーゲストだが50は優に超えるスケルトンの数に感心する、恐らく早々真似出来ぬ芸当なのだろう。



だがオーゲストは依然として余裕のままだった。



「その余裕、いつまで続くかな?」



そうデラスは言い捨てるとスケルトン軍団の後ろから高みの見物をする、スケルトンはその言葉を合図の様に近づいて来た。



「以前ならキツかっただろうが生憎ユーリさんに魔法のコツを教わってな」



そう言うとオーゲストは右手を開いた。



『付与/身体能力向上、属性光』



そう唱えると剣に光が纏われオーゲストの身体が一瞬光った。



「同時付与か、戦士にしては中々だな」



少し驚いた表情をするデラス、まだユーリに教わって数時間、使用出来る時間は10分が良いところ……その間に決着させる算段だった。



「行くぞ!!」



近くスケルトンの攻撃を躱しながら光を纏った剣で骨を断つ、するとスケルトン達は粉々になって行った。



スケルトンは光耐性が異常に無い、それ故に光の属性さえ付いていれば復活もせず恐る程の敵でも無かった。



スケルトンが剣で攻撃を防ごうとする、だが強化魔法で身体能力が上がって居るオーゲストの攻撃は剣を砕いた。



「ふむ、スケルトンじゃ体力を消耗させる事も無理そうだな」



後ろから眺めて居たデラスはそう言って頷く、すると黒い球体の様な闇を全体に纏い姿を消した。



「何をして居るんだ?」



姿は消えて居るが黒い球体が見えて居るせいで居場所は分かる、理解が出来なかった。



その間にも迫り来るスケルトンを倒し続ける、昔の自分よりも確実に強くなって居る……アルセルス様とユーリさんには感謝しか無かった。



村を救い、そして自分に魔法を伝授してくれた……負ける気がしなかった。



スケルトンの数は一匹、また一匹と減って行く、そして等々最後の一体を粉々にした。



「いつまで籠っている?」



剣を闇に向ける、すると笑い声が聞こえて来た。



「はっはっ!スケルトンを倒して良い気になったか?」



「何だと?」



闇から姿を現わすデラス、そして杖で頭上を指した。



「見ろ、お前が余裕でスケルトンを倒して居る間に詠唱した魔法陣だ!この街は終わる……ハハッ!余裕が仇となったな!!」



盛大な笑い声を上げるデラス、頭上に出現して居た大きな魔法陣……嫌な予感しかしなかった。



「くそっ!!」



魔法陣にの消し方が分からない……術者を殺せば消えるのか、確証は無いがオーゲストはデラスの方へと走り出す、だが次の瞬間辺りが光った。



「出でよ第二位階、上位召喚魔法……ホーリージャイアント、光の巨人よ!!」



その言葉と共に頭上の魔法陣から光が現れ足の形を形成する、そしてそれは徐々に形へと変わり25メートルは優に超える光で出来た目だけリアルな一つ目の巨人が現れた。



「な、なんだこれは……」



大き過ぎる、一方動くだけで家屋を倒壊させて居た。



まさに動く災害……こんな物を召喚出来るとは思いもしなかった。



「終わりだ、この街は……この国は終わる!!」



「くっ……そ!!」



笑い声を上げるデラスに向かってオーゲストは突っ込んで行く、そして剣を喉元に当てた。



「どうやって消すんだ!!」



「消すことなど出来んさ、この魔法は一方的に光の巨人を呼び出すだけ、そこがデメリットだが今回はそれで良い、この国を滅ぼすのが俺の任務だからな!」



「この……クソ野郎が!」



喉元に当てた剣を引く、だがデラスは煙となって消えた。



「なっ!?」



突然消えたデラスの姿を探す、するとデラスは一つだけ倒壊せずに残って居た屋根の上に立って居た。



「魔法使いと戦った事が無いのか?魔法使いは基本的に実体を隠す……まぁ本体は私なんだがな」



そう告げるデラス、こうして居る間にも光の巨人は街を破壊して行った。



「し、城に向かって……皇帝……様!」



ボロボロのアダムスが立ち上がろうとする、それを見たオーゲストは咄嗟に座らせるがアダムスは抵抗した。



「行かせて下さい!このままでは皇帝様が!!」



「そんな身体で何をする!この国にはアルスセンテのメンバーが居るんだろ!?」



「居ないから俺が行くんです!!アルスセンテの中でも精鋭の人達は隊長と共にドラゴンを討伐しに行きました……この街には俺以外居ないんです!!」



そう叫ぶアダムス、ふとデラスの方を見ると笑って居た。



「居ない時を狙った……って事か」



「そうだ、情報を掴むのは容易いことだった、アダムスが居たのは少し想定外だったが次からは大々的に討伐に出掛けるなど言わない事だな……ま、次があればだがな」



そう言って大爆笑をするデラス、恐らく実体とあいつは言ったが嘘……本体は少なくとも近くにもう居ないはずだった。



闇に姿を隠し魔法陣を完成させる、そして自分は何らかの魔法で逃走、実体の無い姿を残して自分は巨人の被害が及ばない場所で高みの見物……完全にしてやられた。



「くそっ……また俺は守れないのか!!」



オーゲストは地面を思い切り殴る、村を守れなかった時に次はどんな形であれ困っている人を助けると誓った……だが目の前で進撃する光の巨人を俺は倒せない、ただ見ている事しか出来なかった。



街の至る所から炎が上がり燃え上がる、人々の悲鳴、倒壊する家屋……地獄絵図だった。



やがて巨人は城門を破壊して城を掴もうとする、この国は母国で無い、寧ろ敵国……だが悔しかった。



「こ、皇帝陛下!!!」



城を掴もうとする巨人、アダムスがそう叫んだ瞬間巨人は城から弾き飛ばされた。



「ホーリージャイアントが弾き飛ばされた!?あり得ん、何が起こった!?」



街の被害が及ばない草原の方まで吹き飛んで行った巨人を見てデラスは驚愕する、反射の魔法陣も何も発動している様子は無かった……つまり力のみで光の巨人を飛ばしたという事、そんな事出来る人間は居るはず無かった。



「全く……落ち着いて本も読めんな」



聞き覚えのある声が近くで聞こえる、ふと声の方に視線を移すと恐らく先程まで城に居たアルセリスが近くに居た。



「オーゲストか、こんな所で何してる?」



「あ、貴方は……アル」



アルセルス、そう言おうとした瞬間口を塞がれた。



「今はその名を隠して冒険者をして居る、セリスと呼んでくれ」



そう耳打ちする、オーゲストはそれに頷くとアルセリスは手を離した。



「セリスさん、何でここに?」



何故この国にアルセリスが居るのか……こんな偶然が起こるとは思っても居なかった。



「クエストついでにな、それよりあの巨人はなんだ?」



そう言って草原に吹き飛ばされた巨人を指差した。



「あそこに居るデラスと言う男が召喚した化け物です、すみません……俺の力ではどうにも」



「そうか」



オーゲストの言葉に頷くとアルセリスはデラスの居る家屋に飛び移った。



「あれはお前が召喚したのか?」



「そうだが?」



アルセリスの言葉に不思議そうに首を傾げるデラス、興味深かった。



ゲーム時代に召喚魔法自体はあったが光の巨人の召喚魔法は無かった……魔法もいくつか種類が増えて居ると言う事だった。



「触媒はなんだ?無条件召喚って訳にはいかないだろ?」



「ほう、よく分かりましたね、触媒は巨人族、サイクロプス10体の心臓ですよ、その証拠にほら」



そう言って光の巨人の方を指差す、よく目を凝らすと確かに心臓のような物が透けて見えて居た。



「だが……それが分かった所であの巨人は倒せない!残念だな!」



吹き飛ばされた事に多少驚きはしたが依然としてデラスは余裕だった。



「ふむ……光の巨人か、図体がデカイだけで素早も無ければ魔法も使えない……ただの木偶の坊だ」



「は?」



その言葉を告げてアルセリスは走り出す、そして吹き飛ばした南の城壁に立つと剣を二本出現させた。



「人の目があるしな……魔法じゃなく冒険者らしく剣で殺すか」



光の巨人を一瞬で消す方法はある、だがそれをすると戦士としてのイメージが崩れる、使うとしても強化魔法ぐらいに留めて置かなければならなかった。



『付与/身体能力5倍、属性闇×2』



第二位階の強化魔法を唱える、魔法使いジョブもカンストさせて置いて良かった。



「しかし1日にこれ程戦うとはな」



そう呟くとアルセリスは巨人に向かって走って行った。



「ば、馬鹿めが……いくら強さに自信があるとは言えあの大きさ、倒せるとすれば今居ないアルスセンテの奴かセルナルド王国の騎士団長くらい……」



震えた声でそう言うデラス、何故か焦って居た。



倒せるはずは無い……分かって居るのに何故か不安しか無かった。



「アダムス、安心して良いぞ……この国は助かる」



「い、いくらセリスでもそれは……」



あの巨人は倒せない……そう言おうとした瞬間辺りが光に包まれた。



「な、なんだこの光は……」



あまりの眩しさにオーゲストとアダムスは目を閉じる、そして開くとそこにはアルセリスが立って居た。



「1日に2回戦闘すると流石に疲れるな」



そう言って伸びをするアルセリス、巨人の居た方を見るとそこにはもう何も居なかった。



「ば、馬鹿な!?光の巨人が死んだ……何をした!?」



光の巨人とリンクさせて居た魔力が消えるのを感じたデラスは声を荒げる、余裕などもう無かった。



「ほらよ」



そう言って何かを投げるアルセリス、デラスの前に投げられた物は10個の心臓だった。



「な……く、くそっ!!」



心臓を見るや否やデラスの身代わりはその場から姿を消した。



「早く本の続きを読みたいのだが……もう一仕事するか」



そう言ってアダムスに片手を当て光で包むと杖を取り出し何処かへと転移するアルセリス、光に包まれたアダムスの傷は見る見ると消え、左腕は再生しないものの他の傷は綺麗さっぱり消え動ける様になって居た。



「大丈夫か?」



「は、はい……しかしセリス、あの人は一体」



「化け物みたいな強さだよな……だが今はそれより街の人々を助けに向かうぞ」



そう言いアダムスを立ち上がらせるオーゲスト、そして二人は街の方に体を向けると一人でも多くの人を助ける為に走り出した。

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