第8話 裏ギルドの存在

様々な露店が立ち並び、露店商の威勢が良い声が飛び交う、通りを歩く人々は誰しもが剣を携え、防具を身につけて居る冒険者ばかりだった。



帝都オーリエス、大陸西南部に位置する人口約150万人のオーリエス皇帝が建国した大陸屈指の大国だった。



現在はオーリエス・アルシャルテ第12代皇帝が国を治め、頻発する戦争を勝ち抜くその天才的な頭脳は神童とも呼ばれている程に若くして都を築いた男だった。



貴族が覇権を握る制度を廃止し、冒険者が功績を上げれば良い役職に着ける制度を作り、冒険者になる利点を増やし大陸有数の冒険者ネットワークを作ったのもこの国が最初だった。



ここまでがSKOの中での設定……恐らく歴史に変化は無いが付け加えられている点もいくつかはありそうだった。



「此処が都なんですね、私王国外に出るの初めてなんです」



珍しそうに辺りを見回すマール、黒に白いフリルが付いたワンピース姿は美少女としか言えない風貌だった。



辺りの人々もすれ違いざまにマールの事を見ようと振り返って居る、これがまた男だと言うのだから凄いものだった。



「アルセリス様、アルセンテで何を?」



上機嫌なマールが不思議そうな表情で尋ねてくる、そう言えば彼女に伝えていない様な気がした。



「セリスで良い、今から俺とお前で冒険者となり情報収集するんだ、あの白髪の女の事を重点的にな」



「アルラ様が言っていた人間ですよね」



「そうだ、まぁ脅威では無いだろうが向こうが何か仕掛けてくる前に叩いて起きたいからな」



マールにそう言うと辺りを見回す、その時ふと視界にカフェが入って来た。



裏路地にひっそりと佇むカフェ、人通りの多い表通りとは違い裏路地は別世界の様に人影が無かった。



「腹も減ったし飯でも食べるかマール」



「え!良いんですか?!」



嬉しさと驚きで声が大きくなるマール、守護者や補佐はずっとあの王国に縛られているのを考えるとたまには休暇も与えないと行けないのかも知れなかった。



どんな会社も休みが無ければ続かない……地下王国も同様の筈だった。



「帰ったら相談するか」



ボソッと呟くとアルセリスは裏路地へと入って行く、表通りの喧騒とは打って変わり、裏路地は静寂に包まれていた。



よほど街の管理が行き届いているのかゴミもなく綺麗だった。



後ろにマールが居るのを確認するとカフェの扉に手を掛ける、そして扉を手前に引くとカランと鈴の音が静かなカフェの中に響き渡った。



「いらっしゃい」



穏やかな老人の声がアルセリス達を出迎える、ふと視線を移すとカウンターの向こうにウェイターの服を着た紳士的な白髪の老人がコーヒーの様な物を挽いて居た。



4人掛けの机が二つに4人が座れるほどのカウンター席があるだけの小さなカフェ、人は自分達以外には誰も居なかった。



「取り敢えず、何か頼むか」



ゆっくりと端っこのテーブル席に腰を下ろしメニューを手に取る、ゲームの時は味がしない形だけの食事だった……ここで味がすればゲームでは無い事が確定付けられる、そんな記念になる食べ物を何にするかアルセリスは悩んだ。



「アルセリス様、私このさんどうぃっち?ってやつが食べたいです!」



「セリスだ、サンドウィッチか、それじゃあ俺も同じやつを頼もうか」



アルセリスはメニューを置くとマスターにサンドウィッチを頼んだ。



「白髪の少女に魔術師か……」



オワスの村で出会った2人……果たして冒険者なのだろうか。



強さはプラチナ、ダイヤモンドレベル……だがタグは見える場所に無かった、あれで冒険者じゃ無いと言うのもおかしいものだった。



冒険者になれば何かしら分かるのか……腕を組み考え込んで居ると机にカタッとサンドウィッチが置かれた。



「お待たせ致しました、お客様冒険者ですかね?」



サンドウィッチを置きそう尋ねてくるマスター、アルセリスはそれに頷いた。



「良い装備してますね、貴族出身でしょうか?」



「そう見えるのか?」



「はい」



そう頷くマスター、真っ黒の鎧は魔法、状態異常無効耐性が付いているワールドウェポン……だが見た目は質素ゆえそれ程高く見えない、だがこの鎧を良い装備と言った彼は恐らく元冒険者の筈だった。



「マスターも冒険者だったのか?」



「恥ずかしながら昔に」



そう言うマスター、意識してみれば確かに肉体は衰えて居なかった。



「だが何故引退を?肉体を見る限りまだまだ戦えそうだが」



そう尋ねるアルセリス、その言葉に少しマスターの表情が曇った。



「貴族が権利を持つ制度が撤廃され、冒険者でも功績を挙げれば側近となれる……そんな夢の制度が出来たのはご存知ですか?」



「そう言えば何処かで聞いたな」



「それのお陰で冒険者の基準はグッと上がりました、昔は誰でも冒険者になれました……ですが今は審査があり試験がある……冒険者になっても年に一度、任務の達成状況などに応じて降格や昇級……最悪冒険者と言う職業を剥奪される可能性もある……変わりましたよ、この国は」



「マスターも権利剥奪を?」



「まぁ……そうですね、それと権利剥奪が生んだ弊害をご存知で?」



その言葉に首を傾げる、これまでの話しはゲーム時代には無かったもの故、全く見当が付かなかった。



「冒険者ギルドから逸れた者達が所属する裏ギルドの存在です名をクリミナティと言います」



「クリ……ミナティ?」



アルセリスのサンドウィッチにまで手を付けているマールを横目にまた首を傾げる、クリミナティ……あまり良い響きでは無かった。



「表は国が運営してる冒険者ギルド、裏はその道に通じる各国の大きい盗賊団などの頭領が運営してるんです、任務は主に人間の暗殺や汚い仕事全般って所です」



そう告げるマスター、オワスの村で出会ったあの2人組みも裏ギルドのメンバー……その可能性もあり得た。



だが何故マスターがその話を自分にするのか、分からなかった。



「でもなんで俺にそんな話を?」



「分かりません……ただ、冒険者さんには不思議とこの国を変えてくださる……そんな気がしたんです」



「国を変えるか……」



街を見る限り街の人に不満は見受けられなかった……だがこうして目の前に不満を抱えた人も居る、何が不満かは分からない……ただ、皆んなが満足するなど不可能なのは分かった。



そっと残って居たサンドウィッチに手を掛け兜から口だけを出しサンドウィッチを頬張る、その時口の中に衝撃が走った。



ふわっとしたパンの食感、滑らかなしつこくないマヨネーズにハム、そして新鮮な野菜……味がした。



冷静を装いながらも心の中では興奮して居た。



仮想現実では無い……これは現実だった。



「マスター、お代はここに置いておく、情報提供感謝する!」



その言葉を残すとマール共に店を後にする、不安要素は消え去った。



いつ向こうの体が死ぬのか……そんな恐怖に怯える必要は無くなったのだ。



仮想現実では味覚再現までは不可能……故にこれは現実、アルセリスはそっと空を見上げると安堵のため息を漏らした。



そして隣に居たマールの頭を撫でるとアルセリスはギルドへと向かい歩いた。

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