18話

 そして大晦日を迎える。


 加波子の部屋。ふたりは年越しそばを食べた後の布団の中。息がまだ落ち着いていないにもかかわらず加波子は言う。


「亮!テレビつけて!」

「何だよ、急に…。」


 亮は加波子に従い、めんどくさそうにテレビをつける。まだ年は越していなかった。それがわかった加波子は安心する。


「よかった、間に合った…。」

「なに安心してんだよ。その割には…。」

「なに?」


 何もわかっていない加波子。呆れながら亮は笑う。


「何でもねぇよ。」


 そして年が明ける。新しい年になった。


 ふたりは同じ布団の中、一緒に年を越した。


「亮?」

「ん?」

「亮、明けましておめでとう。」

「おめでとう。」

「今年もよろしく…って、言っていいかな…。」


 控え目に言う加波子。そんな加波子がとても愛らしく思った亮。亮は加波子の頭をポンポンとやさしくたたいた。笑顔になる加波子。次の瞬間。


「亮!初詣行こ!」

「は?!」

「近くに小さいけど神社があるの!行こ!」

「明日でいーだろ…。」

「もう明日になった!早く服着て!」


 亮は加波子のなすがままだった。加波子の言う通り、近くに小さな神社があった。人も何人かいる。


 ふたりはお参りをする。加波子は心を静める。そして願う。願い事は決まっていた。亮のことだった。


  『亮が無事で、怖がらせるものが何もなくて、平穏に過ごせますように』


 加波子の願い事が終わり、振り返ると亮は既に待っていた。


「寒いから帰るぞ。」


 お参りからふたり手をつないで帰る帰り道。


「お前、何お願いしてたんだ?随分長かったな。」

「内緒。でも…亮が教えてくれたら教えてあげる。」

「じゃあ俺も内緒。」

「けち!教えてよ!」

「教えねぇよ。それより早く帰ろうぜ。」


 アパートに帰る。部屋は暖かいが、体はすぐには温まらない。


「お前、シャワーは?」

「もう少し体が温まったら浴びる。亮、先いいよ。」


 亮はシャワーを浴びながら、さっき願った自分の願い事を噛みしめていた。


 亮が部屋に戻ると、加波子は床に横になっていた。寝てしまったようだ。亮はしゃがみ、そっと声をかける。


「おい、起きろ。」


 亮は加波子の肩を少し揺する。


「起きろ、風邪ひくぞ。」


 加波子は反応しない。


「はしゃぎすぎだ、バカ…。」


 亮は加波子の前に座る。そして呟く。


「…さっき願ったんだ…お前を守り抜けますようにって。」


 加波子の髪に触れる亮。誓うように囁く。


「守るよ、お前のこと。必ず。だから加波子…。」


 亮は加波子が起きないよう、そっと髪にキスをした。


「今年もよろしく…。」


 加波子はすやすや眠っている。

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