5話

 雨が続く。喫茶室・ジョリン。友江が嘆く。


「雨は嫌ねー。服も濡れるし、髪も濡れるし、靴も濡れるし、バッグも濡れるし、結局全身濡れるじゃなーい。」

「ほんとですねー。」


 加波子はアイスコーヒーに、ミルクとガムシロップを入れていた。


「カナー。」

「なんですか?」

「私、結婚相談所に行ってきた。」

「ほんとですか?どうでした?」

「専任のコーディネーターがついてくるみたいで、ヒアリングして、そのまま入会してきちゃった。」

「それで?」

「入会金と月額費。けっこうしたんだけど、合コン三昧の時と比べたら変わらないかなーって。今度また行ってくる。」


 なぜか少し安心する加波子。


「そうですか…。」


 友江は頬杖をつく。


「前、あんた言ってたじゃない?結婚って何なんだって。私考えたの。どうして結婚したいのか。」

「どうしてだったんですか?」

「単純な理由だったわ。やっぱり独りは寂しいのよ。誰かそばにいて欲しい。そしてその人と支え合って、いずれ家庭を持ちたい。だから結婚したいって気持ちは変わらなかった。それでふと、行ってみたってわけ。」


 加波子も頬杖をついてみる。


「先輩、肩の力、抜けたんじゃないですか?」

「ほんと、それよ。だって合コンは、仕事は何をしてるのか、どこに住んでるのか、趣味は何なのか、どんな人なのか…。とにかく少しでも多くの情報を、早く仕入れて早く行動を起こさなくちゃいけない。その手間が省けるんだもの。今までよくそんなことやってたわー私。」


 加波子はアイスコーヒーのストローをゆっくり回す。それを見ながら加波子はスッと言う。


「先輩、一歩前進したんじゃないですか?先輩にとって、大きい一歩。行ってわかったこともあったみたいだし、よかったじゃないですか。…努力って、報われることもありますから…。」


 きょとんとする友江。


「あんた変わった。絶対変わった。なんか余裕を感じる。どうしたの?どうしたらそうなれるの??」

「私は変わってなんかないし、何もありません!」


 夜。加波子と亮。その日はふたりでスーパーで買い物。人が多い時間帯。子供の泣き声がする。迷子だ。ずっと泣いている。人の流れで加波子たちはその子供にたどり着く。男の子。迷っていたが、やはり放っておけない加波子。とりあえず声を掛けたみた。


「どうしたの?」

「ママがいない…。」

「ママ、いつからいないの?」

「わかんない…。…ママー!ママー!」


 また男の子は泣き出してしまった。困る加波子。


「どうしよう…。」


 加波子が困っていると、亮はその男の子をひょいっと抱き上げる。そして肩車をした。


「うわぁ!たかーい!」


 今まで泣いていたのが嘘のように笑顔になる男の子。加波子も驚く。亮は背が高め。とても目立っていた。


「ママはどこだ。探せ。」

「ママー!ママどこー!」


 男の子は叫ぶ。ママという人が気づく。急いでこっちに向かってくる。


「そらくん!そらくん!どこにいたの!離れないでって言ったでしょ?!」


 亮はその男の子をゆっくり下に降ろす。ママという人は深々と礼をする。


「本当に、ありがとうございました!」

「いえ、気にしないでください。行こう。」


 加波子たちはその場を離れ、買い物をしてスーパーを出る。


 帰り道。加波子は亮の意外な一面が気になって仕方なかった。



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