第9話 歩くだけでも疲れます





---祭壇から少し離れた場所---




「上城君、大丈夫?」

「はぁー、、、三日月!俺もう頭の中ぐちゃぐちゃだよ」

「無理もないわよ。私だってゲームは慣れている状況でも現実となれば、手探りなことばかりよ」

「経験に差がありすぎてついていけてない。。。自信ないよ俺」

「その取り乱した姿、ロミちゃんには見せられないわね。目覚めた時、上城君が凄く頼りになった。ってロミちゃん言ってたわよ」

「いや、魔法とかゲームとかが絡んで無かったら、もう少し落ち着いて入れたかもしれないけど。。。ごめん、そうだね弱音を吐くのはいったん、これで終わりにするよ」

「私達がロミちゃんを支えてあげないと!」

「支える。。。あぁ、そうだな」


「今回のクエストのトドメをさしたのは上城君って事になってるわね。レベルもアップしたし特別報酬まで貰ってるし無事だった事が何よりだわ」

「何人亡くなったんだろう。。。」

「そうね、でも前に進まなくちゃ一歩間違えてたら私達も死んでたかもしれない!気を引き締めていきましょう」

「あぁ、頑張らないと」



現在のPTのLevel


AKIRA Lv52

月光桜 Lv90

Rommie Lv MAX





---------------





「(天眼のスキル)まだ使いこなせないのか。。。」

「自分と向き合う必要があるからな」

「自分と?」

「トレーニングしたら、ちゃんと見えるようになるから、その目隠し(ネックウォーマー)外せるぞ」

「う〜ん!いいねぇその肉球でペチペチするのもっとやってぇ」

「うっさい!」


私とバニラは上城さん達の元に向かおうとしたけど、でも目があまり見えないし道が崩れているせいで思うように進めない



「まだやっぱりボンヤリとしか見えてないから難しいなぁ。いたっ!うぅ、またスネぶつけた。。。。」

「ったく、世話の焼けるやつだな」


そういうと私の身体をヒョイっと肉球で押し上げ、大きな姿になり背中に乗せてくれた


「うわっ!びっくりしたぁ!あ!もしかして、バニラの背中!?ふっかふかぁ♡スリスリ」


ひょいっひょいっ!っと岩と岩の上をジャンプしながら進んでいく


「あれ?空飛ばないの?」

「これくらいの距離、歩いた方が早い」


なんかちょっとショック。



私達が祭壇から離れた途端、崩れ落ちた


「ロミちゃん!無事?」

「あ、桜子さん?うん!大丈夫!」

「世話の焼ける主人だよ。このバカ」

「ちょ、今バカって言った?バニラ!」

「バカな主人にバカと言って何が悪い」


バニラに抱っこされながら降ろしてもらいされるがままの私。

でも大きな肉球もまたたまらん


シュルルルルルー、、、


バニラが猫の姿に戻り、毛繕いを始めた


「バニラって名前にしたの?」

「はい!"バームクーヘン"と"バニラ"と"アルパカ"で悩んだんですけど、バニラにしました」

「ぷっ、なにそれ、全部ロミちゃんの好きなものね。さすがね」

「アルパカだとさすがに容姿が違いすぎたし、バームクーヘンだと呼んでてお腹空きそうだったから、あははは」

「俺は、そんな、浅はかな考えで名前をつけられたのか」

「違うよ!愛のレベルが違うんだからね!"バニラ"と言う名前には最高のリスペクトと"可愛い"と言う想いが含まれてるんだからねっ!!!」



先ほどまで命をかけて死闘を繰り広げていたとは思えないほど、私達は、ワイワイしていた。


崩れた崖を上から覗くと祭壇のあった場所から下へ続く階段が姿を現していた


生き残ってた冒険者達の何人かは私達の周りに集まっていて、ついて行けば何か良いことがあるのでは?と勝手に色めきだっている。


ついてくるのはかまわないけど、正直自分の命は自分で守ってください。って感じ

助けてもらうこと前提で、ついてくるならそれなりの覚悟をしてもらわないと。

見捨てられたと言われても困るし。

冷たいかもしれないけど、面倒はごめんだからね。

ゲーム経験者ならそれくらいわかると思う。

信頼できる人としかパーティは組みたくないのは私の本音


フッ。と鼻で笑い私の肩に乗るバニラが、頭をポンポンと撫でてくれた。


「わかるの?心の声」

「まぁな」

「マジかじゃー、変なこと考えてると全部バニラに分かっちゃうね。。。。むふふ」

「おい!何俺に変な格好させる妄想してんだ!!!」



「ロミちゃん、上城君、バニ子、」

「バニ子だと!?」


私の肩の上で変なあだ名を付けられバニラが怒ってる


「今後の方針もちゃんと話したいし、どこか、ちゃんとした、できれば宿屋のある村か、町を探さないと」

「そうだねー。今この装備で野宿するのは避けたいよねー」

「僕も賛成」


「バニラ、この辺に人の住む場所はない?」

「あるぞ、ここから一番近いので、この崖降りて、川沿いに2〜3時間くらい歩いたとこに。そこそこ大きな町がな」


「よかった!そこに向かおう!」

「ただ、急がないと日が暮れるぞ」


周りにいた冒険者達にも町の事を教え、私達は階段のある崖の方へと歩き出す



地形がぐちゃぐちゃになっているため、階段のあるところまで行くのに、ちょっと苦労したけど、先へ先へと進んだ。





昨日からゆっくりこの状況について話す事も出来なかったし、これから先私達はどうして行くのか、身の振り方も考えたいし、

ずっとこのままってわけにもいかない気がするし、頭の中ぐるぐる考えちゃってもいけないし、

とにかく、宿屋でゆっくりしたい!


階段を下り出して30分くらい経った頃、遠くの方に大きな城のようなものがずーーーーーーっとずーーーーーーっと川を下った先の方にある。

距離にしたらどれくらいかかるのだろうか


そこから少し左に目をやると雪山が見える。


広大な土地に広がる自然。

天眼の能力では、なんとなく、輪郭だけ見える。






「バニ子、あのお城のある街は?」

「あれは、王都だ」

「あっちの雪山は?」

「雪が降る山だ」

「そうなの。。。ん?」

「ヒソヒソ(ロミちゃんロミちゃん、今のって、ボケたのかな?)」

「じゃ、じゃーバニラがいたあの丘の名前は?」

「見晴らしのいい丘だ」


とっさに桜子さんと作戦会議に入る。


「これガチじゃない?」

「バニ子ちゃんの目!純粋な目をしているわ!」

「バニラ、君はどうしてあの丘で鎖に繋がれていたの???」


上城さんの質問でバニラの耳がピクンと反応した。


「あの丘に、俺はいつから居たのかもう忘れてしまったが、あの黒い魔力を纏ったクリスタル、あれに取り憑かれると自我を失い、ただ凶暴に成り果ててひたすら、破壊と殺戮を繰り返す存在になっちまうんだ。

クリスタルから無限の魔力を供給され続ける。もともとあの祭壇のクリスタルはあんなんじゃなかった。いつからか突然黒い魔力を帯びてあの辺は人が住める環境じゃなくなった。俺は眠っていたんだ。気がつけばお前たちがぞろぞろとやってきて、攻撃されて、睡眠の邪魔をされたから、腹が立って暴れたってとこだ」




他にも

あの祭壇にあったような大型のクリスタルほど、汚染されやすい。とか

満月の夜は月の光で浄化される。とか

バニラは元からこの辺に住んでいたー。とか

家族と幸せに暮らしていた。とか

いろいろ聞いた。




いつしか階段から、崖沿いのちょっとした緩やかな下り坂に変わっていた。

バニラが誘導してくれるから、なんとか歩けてるけど、

本当に見えないって怖い


遠くの方に日が沈みかけている。



「喉がかわいた。。。」

「あとどれくらいであるくんだぁ?」

「歩けない」

「お腹すいたぁ」


まぁたしかに今朝から休む事なくずっと動いてるし、疲れるのも当然だよね

私だって夕飯の買い出し中にこっちの世界に飛ばされて、ほぼ2日何も食べてない。。。



「ねぇねぇ、ここら辺で少し休憩しませんか、私も疲れたよぉ」

「そうね、じゃー休憩しましょう」


腕をあげ、大きく身体をのばし、その辺の岩の上に腰を下ろす。


「ふぅーーっやっと座れたぁ」


私の目は、今、モノクロみたいな感じで、見えているのは、輪郭みたいなのだけ。

だからちょっとした段差とかは、まだ見分けられなくてさっきから何度も躓いている。

階段の方がはるかに楽だ。

人も何となくの姿が見て取れるだけ。




桜子さんと私が、持っていたアメ玉を出し合って近くにいる人達と分けた。


「アメ玉一つでこんなにもおいしいと感じる時がくるとわ。。。」

「みかんの味だ、落ち着く」

「1日ぶりの食事が飴。。。肉食べたい。。。」



みんな疲労困憊。


「ロミー、このままのペースだと、確実に日が暮れるぞ。」

「バニラが背中に乗せてくれるなら遅れをとらずに進めるけどね」

「甘えるな!天眼を使いこなせ」



上城さんが道の先をずーーーっと目で辿り、今立っているずーっと下の方にゴールがあることに気がつき、

その先にある岩場の間に人がいるのを見つけた。


「みなさん!この道を降りていった先に人が確認できます!」


みんなで道のギリギリのところまで顔をのぞかせ崖の下をみる

私はどうせ識別出来ないだろう。と思いそのまま座って待ってた



「ほんとだ!何人か居るぞ!?!」

「食料わけてくれないかな!?」

「早く降りよう!」


期待に胸を膨らませ、他の冒険者達はさっきまで動けない。と言っていたのが嘘のように足取りが軽くなっていた。


「やったね!ロミちゃん、上城君!私たちも早く行こう!」



「人間は騒がしいな、アレがほんとうに食料を分けてくれるようないい奴らだとは限らないぞ」

「悪い人じゃないわよきっと!」

「うん、たしかに、そうだね。彼等に油断しないように声をかけたほうがいいかもしれないね。三日月もその気みたいで、先にいっちゃったね」



「ちょっと不安だけど、私もお腹すいた。。だから、バニラ、とりあえず悪い人じゃない事を祈る!」

「しょうがない奴らだな、俺が先に行って様子を見てきてやる!安心して後からこい。悪い奴らだったら荷物をいただいといてやるよ」

「こら!盗賊みたいなことはしないの!だれも殺しちゃダメだよ?」

「ふっ。わかった、だが、気が変わる前にさっさとこいよ!!おい、ガンナーのお前、ロミーを頼んだぞ」


私肩の上からそのまま崖の下にピョーーンっと飛びおりていった




「どうせなら背中に乗せたまま連れてってくれたらいいのに」

「クスっ、僕も同じこと考えてたよ」

「部長もそう思いますよねー」

「こら、ロミーさん部長じゃないよ」

「あ!さーせん、まだ慣れてなくってぇ てへぺろ?」

「あっはは、でも言葉使いはその方がいいよ」

「そうですか???やっといてなんですが、あまり、他の人の前で、する態度では無いと思ってますが。。。」

「僕には、三日月と同じように接して欲しいんだ。心おきなく話せる友人の1人というか、僕がそうなりたいと言うか。。。なんていうか、えーっと。。。」


上城さんもきっと不安なんだ。

もし桜子さんがこっちに来ていなかったら、私も上城さんと同じで不安で仕方なかっただろうし、心を許せる友達が側にいるってきっと、安心する。


私は上城さんを安心させてあげたくて、にっこり笑った


「あ、変な事言ってごめんね」

「全然!バッチコイです!むしろそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいです。さすがイケメンですね」

「い、イケメン?」

「あ、」

「え?」


間をおいて私達は笑い出す


「ははは、、ぎゃ、あっぶなかったぁ」


道が少しデコボコした為、また躓いてしまった。


「ごめんね、腕、触るよ」


上城さんが優しく私の腕を掴みエスコートしてくれた


「あ、ありがとうございます」

「いや、もっと早く手を取らなきゃいけなかったのに、気が利かなくてごめん」

「あ、いや、全然」








みんなからだいぶ遅れをとりこと2時間


「おーーーーい」


遠くから声が聞こえた


「?」

「先に行った人達かな?迎えに来てくれたみたい呼んでるみたいだよ」




すっかり辺りは暗くなっていた

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