255 血統スキル
クリスはぶるりと震えた。
「ゴーレムではない可能性もある。あれほどの密度だ。大魔法士がやったのかもしれん」
「あ、魔女様も土を圧縮してた。硬化の実験だったの。どこまで圧縮したら破裂するか、その時間を計ったりね」
「やれやれ。おぬしの『魔女様』はどうにも危険な人間のようだ」
「だけど、戦争には使わないって断言してた。戦争はクソだって言ってたもん」
「そのように話していたとしても、若い女子が下品な言葉を使うでない」
「はーい」
プルピに注意され、クリスは素直に頷いた。イサが「ピルゥ」と溜息を吐く。
「他にも思い付くスキルがある」
「何?」
「先日、帝国の血統スキルについて話しておったろう? あれで思い出したのだ。確か、同じ血統スキルで『星降ろし』というものがあった。あれなら、近くにおらぬでも岩を落とせる」
「星降ろし……」
イサがピッピと鳴く。その後もピルピル煩いので意識をそちらに向けると、またも明確に言葉として伝わってきた。
「メテオ? 流星ってこと?」
「ピピピピピ!」
「そうなんだ。ゲームにあるんだね」
どうやら有名な技(?)らしい。クリスはイサの説明を聞いて頷いた。
プルピがゴホンと咳払いする。クリスとイサは急いで彼を見た。
「この血統スキルは少し特殊だったはずだ。わたしも昔、世界樹にいた物づくりの得意な精霊に聞いた話でな」
「プルピの仲間だね」
「そうとも言えるか。奴もわたしと同じようにドワーフに加護を与えた経験がある。だから教えてくれたのだろう。奴が大昔に出会った、もう世界樹と一緒になってしまった偉大な精霊の過去について教えてくれたのだ」
精霊は生を終えたい時は世界樹と一緒になるらしい。そちらの方が気になったが、プルピは簡単に説明し終わると話を先に進めてしまった。
プルピの仲間によると「過去の偉大な精霊」が、とあるドワーフにかなり強力な加護を与えたという。たとえばドラゴンが馬を愛して竜馬を作ったように、同じぐらいの愛を込めて加護を与えた。その結果、強力な血統スキルが生まれてしまったという。
「え、待って。じゃあドワーフの、その一族に血統スキルが流れているの?」
「正確には、ドワーフとエルフの血が入った者の中から現れる、だ。その精霊が愛したのが正にそうであったかららしい」
「ひぇ」
「なんだ、変な驚き方をする」
「や、だって、すごい組み合わせだし」
それに何より、その生まれの人をクリスは知っていた。
「魔女様がそうだよ」
「むっ。そうであったのか?」
「うん」
魔女様は珍しい血筋からストレンジと呼ばれていた。名付けたのはニホン組だ。有り得ない組み合わせとして「変わっている」という意味の名で呼んだ。
「ふむ。とはいえ、その魔女様とやらに血統スキルがあるかどうかは不明であろう?」
「あ、そうだよね。そんな話は聞いたことないや。それに、いくらなんでも大魔法士スキルに血統スキルまでって有り得ないよね」
「ピピッ、ピピピ!」
「設定を詰め込みすぎ? そう、それそれ。さすがに数奇な人生すぎる――」
が、彼女はとにかくあちこちに逸話をばら撒いている。クリスが旅してきた間にも「偉大な大魔女」の話を何度も聞いてきた。当初は生きることに必死だったから気付けなかっただけで、もしかしたらどの都市どの町でも逸話はあったかもしれない。それぐらい魔女様の歩んできた道は濃かった。年齢も不詳で、結構長く生きているようなのだ。
ふと、クリスは黙り込んだ。無言のままイサを見る。それからプルピもだ。
「まさか、この遺跡をこうしたのは魔女様じゃないよね?」
プルピは肩を竦めた。イサは鳴かずにシートへ飛んでいってククリの横に着地だ。ククリはお菓子を食べて満足したのか横になっている。蓑虫型だから、ちょっとゴミが落ちているみたいだ。
「うん、違う。だって、いくら長生きでも時期が合わない。それに魔女様は戦争なんてクソだって言ってたんだもん」
「クリス、今のは仕方ないと許すが、次にその汚い言葉を使ったら――」
「はいはい、はーい!」
慌てて作業道具を手にする。シートの片付けはプルピに任せ、クリスは急いで作業の続きに戻った。
そもそも魔女様が波瀾万丈すぎるのだ。だからついつい何でも結びつけてしまう。
それにハチャメチャな人は多い。たとえば転生者がそうだ。きっと大昔にもいたのだろう。岩で都市を潰してしまうような人が。
午後もしっかりマッピングを続けたクリスは、目新しい物がなかったので寄り道せずに帰った。せっかくだから帰りの荷物はイサに収納してもらう。
イサの収納は羽の内側で撫でるか上腹部に触れさせればいいようだ。彼自身がやる際は羽で覆う方が気楽らしい。お腹は「ちょっと嫌」と言うけれど、他人が出し入れするにはお腹の方でやってもらいたいそうだ。なんでも、羽を掴まれて出し入れされる方が気持ち悪いのだとか。それならお腹にぴとっと張り付けられる方がよほどマシという。
「ていうか、他人が出し入れしてもいいの?」
「ピピ、ピピピピ~」
「え、照れるなあ。わたしってそんなに信頼されてるんだ」
「ピピッ!」
クリスだったら使っていい、そう言ってくれたから喜んだのに、その後すぐに「そういうのじゃない」と叱られるのはどうか。クリスは理不尽な目に遭った気がした。
けれど、なんとなく嬉しい。イサにとってクリスは近しい存在だということだ。自然とニヤニヤしてしまう。プルピは呆れた様子だったけれど、イサは「ピルゥ」と溜息を吐きながらもクリスの肩から逃げなかった。
クリスは今日の話をエイフにした。
血統スキルは大抵、王族に受け継がれる。というより「貴重な血統スキルを王族が取り込んできた」というのが正しいだろうか。だから、ドワーフ一族の中に稀に生まれる血統スキルの条件が「エルフの血も引いている」ということに驚いたようだ。元々はただの最上級スキルだと思われていた。滅多に現れないからだ。
「確かに、種族の違う者同士から生まれた子は姿形がどちらかになる。もし人族の血も引いていれば、見た目は人族のままということも有り得る。法則性がないと言われるわけだ」
「わたし自身がそうだもんね。見た目は人族だけど、ドワーフの血をちゃんと引いていて、その特性も残ってる」
誰もドワーフの血を引いているとは思わない。クラフトとイフェも驚いたぐらいだ。
「見た目で分からないって不思議だよね。誕生の儀で分かるのも名前やスキルぐらいで、鑑定しないともっと深い部分は分からない。……でも、それでいいのかもしれない」
父母について調べようとしたクリスだから思える。これ以上、二人の過去をクリスが知る必要はないとナファルで感じた。二人が話さなかった過去を、もしかしたら不幸せだったかもしれない過去を、ほじくり返すのは子供であってもやってはいけない。
他人なら尚更、知られたくない過去を覗いてはいけないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます