254 イサのスキルと遺跡の不思議




 イサの残り二つのスキルは「収納」と「大型化」だった。

 クリスはびっくりして、地面で悶えるイサを拾って手に乗せた。


「すごいスキルじゃない!」

「ピピッ」

「収納も大型化も上級スキルだよね? うわー、すごい!」

「ピピピピ」

「両名とも、落ち着け。収納の方は使えるようになったが大型化の方はまだまだだ。件の精霊が成長させるのに難儀したと零しておったわ。だが、レベルを上げれば、ゆくゆくは人を乗せられるほど大きくなれる」

「えぇーっ、すごい、格好良い!」

「ピルルルル」


 イサから「えへん」という自慢げな気持ちや「嬉しい」という喜びが伝わってくる。クリスは地面に落ちたイサの汚れを払うようにして撫でた。


「収納なら早速使えるのではないか? まずはやってみるがいい。でないと、エイフがクリスに持たせる分を買いに行くと言っていたから――」

「ちょ、そんな話、いつ?」

「昨日だ。ああ、止めておいたからな。ついでにクリスの言いそうなことを代わりに伝えておいた」

「わたしの言いそうなことって何よ」

「『勿体ない、勝手に無駄なものを買わないで!』とな」

「……プルピ、わたしそんな甲高い声で怒らないよね?」

「エイフには似てると好評だったが」


 にまにま笑っているので、からかっているらしい。そんなプルピを見てククリまで喜ぶ。ぶら下がったままだから揺れが大きくなった。

 クリスは唇をむいっと突き出した。分かりやすく膨れっ面になったクリスの目の前に、イサがパタパタ飛んでくる。ホバリングしたままピピピと鳴く。すると、彼の言葉がちゃんと伝わってきた。落ち着け、と。


「はーい。落ち着きます。そろそろ現場に到着するしね」


 返事をしてから、まだ揺れるククリを手で止める。ククリにも落ち着いてもらいたい。そっと掴んで頭の上に移動させた。ここならじっとしていられるだろう。なにしろ毎回ベッドにしている。ククリは「ちゅいた!」と喜ぶだけで、強制移動させられたことには気付かなかったようだ。




 現場に着くと、早速昨日の続きを描き始める。

 プルピたちはクリスの護衛係として来ているけれど、付近一帯には誰もいない。ずっと警戒し続けるのも大変だろうから好きにしてもらう。


 新たに見つかった地下遺跡部分はかなり大きく、調査隊はとにかく先に進むことを第一にしているようだ。ギルドの担当者が言うには「まだ一月は戻ってこないと思います」とのことで、調査隊は十分な備えと万全の態勢で臨んでいる。

 よって、クリスの今いる場所にはほとんど人が来ないのだった。



 この新発見エリアには別の出入り口も見つかっている。そのルートは別の冒険者パーティーがマッピングに入っていた。お互いがこのまま進めばかち合う可能性もあるけれど、まだまだ先の予定だ。もう少ししたら第三の出入り口が作れるらしく、開通したらマッピング作業は更に加速する。


 俯瞰で見るとクリスが一番左端から進んでおり、すでにマッピングを始めている冒険者たちは右側から進んでいた。第三のルートが真ん中になる。これにより、クリスのマッピングは特に左側を確実に正確に仕上げていく必要があった。というのも、中央のルートに入れるのは等級の低い冒険者だからだ。勉強がてら投入する予定らしい。両端のチームと地図が被っても構わず、むしろ「答え合わせ」ができると喜んでいる。

 クリスの責任は重大だ。けれど「期待されている」と思うと嬉しい。クリスはいつにも増して、張り切って仕事を始めた。



 家つくりスキルが発動した時ほどではないが、クリスがのめり込みやすい性格なのはイサが一番分かっている。彼はクリスに休憩が必要になると飛んできて突いてくれた。

 プルピは周囲の警戒をしつつ、遺跡を観察している。


「サンドイッチ、美味しいね。レストランがお昼も用意してくれて助かるな~」

「ピピピ」

「ふむ。この遺跡は面白い気配がする」

「ちゅる!」

「そうなの?」

「ちょう!」

「うんうん、ククリは黙ってようね。で、プルピ、面白いっていうのはどういう意味?」


 デザートとして付いていたマフィンをククリに押しつけるとすぐに抱き着いた。ククリはお菓子が好きなので黙らせたい時に使える手法だ。イサとプルピは呆れたような視線をククリに向けたが、結局何も言わなかった。視線を戻し、プルピが続ける。


「そこかしこに魔法の気配がある。ところどころ断線しているが、細い細い糸のように魔力が遠くから繋がっている」

「んん?」

「魔力素の流れと言えばいいのか。だが、これは流動性のある『流れ』だ。ううむ、そう、探知魔法に似ているかもしれん」

「誰かが魔法を使っているってこと?」

「いや、この遺跡の都市自体にその機能があったと考える方が近い気がする」


 どこかに集中司令室のようなものがあって、そこから都市全体に行き渡る何らかの魔法があったようだ。それが、先だって発見された「圧縮岩」によって分断された。

 その分断される前の名残が、まだ周辺に残っているらしい。


「何の魔法かは分からないの?」

「名残を微かに感じる程度だ。防衛のためか、都市全体に行き渡るとなると、さてな」

「そっか。ところで遺跡を分断した圧縮岩、あれって何だろう? ギルドの人に聞いても分からないって言われたんだけど」

「ふむ。わたしが思うには――」


 プルピが持論を語り始めた。クリスは急いで昼食を掻き込んだ。


 ――敵対組織が落とした「ゴーレム」のなれの果て。


 これがプルピの考えだった。たとえば、人形士という上級スキルがある。ゴーレム使いとも呼ばれるスキルだ。土塊のある場所でなら「自在に動かせる人形」を作れるため、戦場では便利扱いされるという。しかし、使い勝手が良い反面、スキル持ち自身がゴーレムの見える範囲にいないといけない。戦場なら最も危険な場所に投入されるだろう。それを嫌ってスキルを隠す人もいる。

 ところが、帝国では「誕生の儀」や「成人の儀」で出てきたデータは強制的に申告させられる仕組みだ。神官自体も帝国行政に組み込まれているため隠せないという。


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