045 誘拐犯を一網打尽?




 ダリルは他にも謝ることがあると言って、ベッドに手を付いた。


「前に話していたチンピラ、ようやく見付けたのに逃げられてしまった。すまん!」

「見付かったんだ……」

「ああ。スラムの奴だ。スラムの半分をオリーっていうヤクザ者が仕切っているんだが、その手下だった。オリーは冒険者崩れでな。北地区出身じゃないから、長老たちの説教なんざ聞くわけもない」

「そんな相手、大丈夫なの?」

「逃がしたのは失態だ。捕まえて維持隊に突き出したかったんだが」


 そんな話をしていたところにエイフが戻った。彼は誘拐犯の一味を治安維持隊と一緒になって捜査していたのだ。


 エイフは部屋に知らない男がいることに目を細め、突然威圧を放った。慌てたのはクリスだ。急いで止めた。ちなみに、ダリルは固まったままだった。



 多少、行き違いはあったものの、クリスの説明を聞いてエイフは威圧を収めた。そして、今日の成果を教えてくれた。


「クリスをハメた女と子供だが、スラムの奴だった。誘拐犯を率いていたのはオリーってチンピラだ」

「「オリー!」」


 クリスとダリルが同時に叫ぶのは仕方のないことだった。




 この日、迷宮都市ガレルでは大捕物が繰り広げられたそうだ。

 エイフはもちろん治安維持隊も、更には地下迷宮の氾濫を押さえたニホン組が参加しての大々的な大捕物だったらしい。

 これまで何の進展もなかったものが一気に解決できてしまった。

 そういうところもニホン組の良さなのだろう。

 ただし、かなりメチャクチャだったらしいが。


「いやぁ。あいつら、やっぱり、ぶっ壊れてる。魔物相手だけかと思ってたが、人間相手でも容赦がねえ。クリスが関わりたくないっていうのも分かるよ」

「だよね!」

「おい、それ、問題ないのか? 剣豪の鬼人ラルウァが『ぶっ壊れてる』って言うなんざ、よっぽどじゃないのかよ」


 ダリルは今日、北地区にいなかったため、スラムでの大捕物を知らない。彼は微妙に青くなりながらエイフに聞いている。

 エイフは面倒くさそうに答えた。


「あんたらが住んでいる地域は大丈夫だと思うが。スラムは壊滅的だな。一応、関係ない奴には逃げるよう告げて回ったが。そもそも無断で住み着いている奴らだ。治安維持隊もまともに助けようとはしてない。子供は可哀想だから、見つけ次第養護施設へ連れて行ったぞ」

「……そうか」

「ダリル、気になるなら帰ったら? お見舞いは受け取ったし」

「すまん。それと、取り逃がした奴ら、スラムが壊滅したなら北地区に潜んでるかもしれん。もう一度、手下どもと捜してみる」

「うん」


 ダリルは北地区が心配だからと急いで帰っていった。

 エイフが「なんのことだ?」と目で問いかけてくるので、ゲイスに襲われた時に一緒だったチンピラのことを説明した。


「なるほどな。そいつら、ゲイスに話を持ちかけられて、いい誘拐話になると思ったんだな」

「オリーって親玉に連れていくつもりだったのかもね」

「なら、誘拐犯の一味じゃないか。明日は、そいつらを捜すか」


 どうやら一人も残さずに捕まえる気でいるようだ。

 急ぐのはクリスのためかもしれないが、そう遠くないうちにガレルを出るつもりだ。

 もう関わりたくない。クリスは溜息を漏らした。



 エイフは昨日までは同じ部屋のソファで休んでいたが、さすがに快復してきたクリスと同じ部屋にいるのは悪いと思ったらしく部屋を移った。

 クリスは引き続き広い部屋のままだ。女将さんたちの厚意で使わせてもらっている。それが申し訳ない気持ちもあって、早く出たいと考えていた。


「イサはわたしと一緒に行くんだよね?」

「ピッ!」

「プルピは万年筆ができるまで?」

「ウム。ソロソロ手ヲツケヨウト思ッテオル。終ワレバ、ワタシモマタ別ノ旅ニ出ルダロウ。ナニ、寂シガルデナイ。加護ヲ与エタ者ノ場所ハ分カルヨウニナッテルノデナ。イツデモ会イニ来テヤルカラナ」

「あ、はい」


 返しようがなく、クリスの返事はあっさりとしたものになった。するとプルピが腰に手を当てて、首を振った。


「……前カラ感ジテイタガ、ワタシノコトヲ敬ッテオラヌナ?」

「そんなことないよ! プルピはすごい! 大好き!」

「……ワザトラシイノウ。マ、大袈裟ニサレルノハワタシモ好カヌユエ構ワヌガ」


 プルピは大らかな精霊だが、時々細かいことを言う。

 クリスがイサをぶつけても気にしていなかったのに。……最初は突然やるなと怒ってはいたが、その後は面白がって何度かせがまれたほどだ。

 なので、どこに拗ねポイントがあるのか分からない。

 クリスは首を傾げて、笑って誤魔化すことにした。





 翌日は報奨金を受け取りに冒険者ギルドの本部へと向かった。

 誘拐犯については以前から、捕まえたら報奨金がもらえることになっていた。その分と、子供たちを助けたことで行政府からも出ることになった。治安維持隊が上に掛け合ってくれたそうだ。


 ギルドではクリスの姿が見えるやいなや、アナが走り寄ってきた。ワッツも後を追うようにやって来て、隣接するカフェへと案内してくれる。


「すぐに用意をさせるからね。ところで体は大丈夫かい?」

「はい。もう、ほとんど。お医者さんも毎日来てくれるんです」


 毎日少しずつ回復を掛けてくれるおかげで、クリスの怪我はほぼ治っている。歩けないと困るので足の裏から治してもらい、今は爪も綺麗にくっついた。

 あとは細かい切り傷ぐらいだ。それも薬草を毎日取り替えてもらっているから問題ない。


 ところで、せっかく専門家と知り合ったのだからと、クリスは薬草の話をたくさん教えてもらった。もっとも知識的には魔女様の方が断然上だった。それでも、町で必要な薬草や売れる薬草などが知れたのは有り難いことだった。


 そうした雑談を交えて、奢ってもらったリンゴジュースとパンケーキを楽しんでいると、騒ぎ声が聞こえてきた。


「げっ」

「どうしたの、アナさん」


 聞いたものの、クリスも途中で気付いた。テーブルの上でお裾分けのパンケーキを啄んでいたイサが慌てて肩に乗る。

 クリスは振り返るのが嫌なような、でも見ないといけない気がしてギルドの入り口近くに視線を向けた。


「げっ」

「クリスちゃんまで真似しなくてもいいのよ」

「だって……」

「言いたくなる気持ちは分かるわ。……本当は、あなたのお見舞いに行きたいって言ってたのよ。みんなで止めていたんだけど」


 二人の視線を受けたルカは、嬉しそうに手を振った。

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