家つくりスキルで異世界を生き延びろ【書籍化&コミカライズ】

小鳥屋エム

第一章 迷宮都市ガレル

001 プロローグ




 辺境の地を出奔して二年半。

 死ぬかと思うような過酷でつらい旅路を経て、辿り着いた先は希望の地のはずだった。

 憧れの一人暮らし。

 自分だけの家を作り、好きなものに囲まれてのんびり過ごすのだ。

 それなのに――




「……すみません、もう一度お願いします」

「ですから、新しく家を作ることは許されていません。ペルア国人の資格をお持ちではないんですよね?」

「あ、はい。でも、この迷宮都市ガレルでは誰もが自由に暮らせると聞いてきたんですが」

「あー、まあ……」


 女性は鼻で笑った。話の通じないやつが来た、と小馬鹿にしたような態度である。


「この迷宮都市は誰でも受け入れます。いろいろな方が働いていますよ。ですが、他国の人に永住権の必要な『家』づくりは許可してないんです」

「では、この国の人間になるには、どうすれば――」

「あっ、無理ですね。あなた、旅人ですよね。他国からの移住者は三代目でようやくペルア国人と認められます。その後、審査を経て正式に市民となりましたら、永住資格が得られます」

「永住資格って、だって、三代……」

「ええ。ですから、住み込みで働くなどの方法もありますが、紹介状がないと難しいですね」


 それ、どんな無理ゲー。

 ここまで来て、それはない。そう思ったけれど。


「働くことはできるんですね?」

「他国人が正式に職を得るのは難しいですよ。たとえ迷宮都市といえども、さすがに全ての人を受け入れるのは――」

「冒険者なら問題ないでしょう?」


 女性がぽかんとした顔で見る。

 ようやく彼女の表情を変えることが出来た。ずっと、人を小馬鹿にしたような態度だったのだ。


「いえ、あの。冒険者? あなた、からかってる?」

「からかってません。ていうか、今までも冒険者ギルドで仕事を受けながら旅をしてたんですから」

「はっ?」


 上から下までジロジロと観察されてしまったが、構わない。

 胸を張って堂々と答えた。


「二年以上、辺境を旅してきたんです。とりあえず、ここでも働いて路銀を貯めますよ。せっかく定住できると思ったけど、そこは諦めます」


 ふん、だ。

 呆然とする女性を睨みつけて、立ち上がった。立ち上がっても背の高さは変わらない。

 なにしろ椅子は飛び乗らないと座れないほどだった。

 高い椅子なんてクソくらえだ。


「受付さん、じゃあ、目的を変更しますので窓口を変えます」


 移住目的の列に並んで随分時間が経った。

 次に並ぶのは、冒険者として入る列だ。

 迷宮都市ガレルが「都市」と呼ばれるほど発展したのには訳がある。この都市は地下迷宮ピュリニーを抱えているのだ。

 というよりも、地下迷宮ができたことで一大都市にまでなった。

 ここは元々、海に面した肥沃な土地だったそうだ。そうしたこともあり、人気の都市の一つである。

 だからこそ、この大陸で一番良い場所だと思って旅してきた。でも永住できないのなら仕方ない。



 クリスはさっさと列を離れて目的の場所を探した。

 早くしないと、預けている愛馬ペルが寂しい思いをする。それでなくとも大勢の人が審査を受けていた。適当に作られた厩舎と呼べない小屋は満杯状態だ。

 とっとと都市の中に入るため、クリスはいつものように冒険者としての手続きを始めたのだった。








**********


完全に趣味に走ってます

現時点で二十話まで読み直し終了

そのあとは更新ゆっくりの予定




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